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第七章 人間界侵略回避

人気投票

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 メレディスや騎士の協力のおかげで、死者が出る事なく襲撃初日を終えることができた。

「けど、やっぱ結界が問題だよね」

「だな」

 やはり絡み合った強固な結界を張らないことには次回も破られる可能性は高い。

 今回は鳥型の魔物ばかりが侵入したので、混乱だけで済んだふしがある。幸か不幸か上空から全身真っ赤なリアムだけが狙われていたからだ。

 ——侵入してきた魔物の中には以前苦戦を強いられたグリフォンの姿もあった。そんな魔物達の攻撃の対象にされたリアムの前に、お父さんとマッチョが守るように立ち、メガネが弓で対抗してくれていた。

『オリヴァー、早速だけどジェラルドとエドワードの所に行ってくれる?』

『リアム、狙われてるんだよ? 早くあの魔物倒さないと』

 言った矢先に、魔物三体がリアム目掛けて猛スピードで飛んできた。

『カウンター!』

 キースの攻撃でリアムに当たる直前に三体一気に消滅した。

『みーちゃんの威力凄いな。もう一回……』

『キース、みーちゃんにわざと攻撃してもらうのは無しだよ』

『……はい』

 キースを注意していると、リアムに急かされた。

『オリヴァー、早く。聖剣に魔力込めてもらってきて』

『なんだ。そういうことか』

 納得した俺は、リアムの周りに結界を張って転移した。


 ◇


 数分後、俺は四色に光る聖剣を持ってリアムの元に戻ってきた。

『魔力は込めてもらったけど、散らばってるから一振りじゃ難しいかな』

『僕が走ったら、ほぼ一直線に固まって飛んでくるから一振りで大丈夫だよ。ただ、少し低空飛行になるから人に当たらないように気をつけて』

『え……』

 そんな加減出来そうにない。そこで俺は閃いた。

『リアム、マント貸して。俺が囮と攻撃両方するよ』

『だけど、僕だって役に……』

『十分役に立ってるよ。ここにいる民を守ったのは紛れもないリアムだよ』
 
 リアムからほぼ無理矢理マントを剥ぎ取った俺は、結界の外にいたみーちゃんを呼んだ。

 黒龍が結界内に入ってきた事で、周りから悲鳴が聞こえてきたが、俺はそれを無視してみーちゃんの背に乗った。

『お兄様』

『任せて。一撃で仕留めて……』

『アルティメット・ライトニング・ダークネス・フリーズ・ウォーターですわよ』

『ああ、あったね。そんなの』

 必殺技名を叫ぶつもりは毛頭無かったのだが、ノエルに期待の眼差しを向けられ、俺は負けた。

『言えば良いんでしょ』 

『はい!』

 みーちゃんは俺を背に乗せて上空に飛び立った。そして、まっすぐ前に進むと、真っ赤なマントにつられて鳥型の魔物が攻撃の対象をリアムから俺に変えた。

『この位置なら大丈夫かな。みーちゃん加速して』

 障害物が何もないことを確認し、みーちゃんを加速させた。すると、ほぼ直線上に魔物も付いてきた。

 付いてきたのは計算通りなのだが、なんてこった。そのまま後ろを向いて攻撃しようとしたのに、早すぎて後ろ向きに体勢を整えられない。

『みーちゃん、ストップ! ストップして反対向いて!』

『キィ!』

『えっと……アルティメット・ライトニング・ダークネス・フリーズ・ウォーター』

 思ってたのと違うが、聖剣を一振りすると四色の閃光が出て飛行タイプの魔物十二体全て消滅した——。

「まぁ、そのおかげで『リアム成り上がり計画』の方は良い感じだけどね」

 上空という見上げれば誰もが観戦出来る場所で合体必殺技を繰り出したのが正解だった。

 噂を流すまでもなく、勇者兼聖人兼女神様は黒龍までをも操り、とてつもない力で民を救った英雄となった。自らの命を懸けて囮になったリアムもまた知名度が上がった。

 そして何より皆顔が良い。一箇所に集えば、それはもうあっという間に領地の人気者だ。

「ノエル、何してるの?」

 ノエルが何やら楽し気に『正』の字を書いていた。

「皆様がどの層に人気があるのか集計している所ですわ」

「集計って……個人の人気なんてどうやって分かるの?」

 外を歩けば人が寄って来るので注目されているのは分かるが、誰がどの層に人気かなんてどうやって見分けるのだろうか。

 不思議に思っていると、ノエルが箱の中に入っている小さな紙切れを数枚取り出した。

「皆様の肖像画を領地のあらゆる場所に設置して人気投票をしていましたの」

「なるほど……って、肖像画を!?」

「御安心を。肖像画と投票用紙はアーサー様達に回収してもらいましたので」

「アーサー達にそんなこと頼んだの?」

「労働費はしっかりお支払い致しましたわ」

「そういう問題じゃ……」

 リアム成り上がり計画の為には俺達が功績を残す事が必須条件だが、人気投票は何の意味もない。しかし、俺以外はやや興味を示している。

「各地に名を残すのは覚悟の上だからな。これくらいの楽しみがあっても良いかもな。ここに線引けば良いのか?」

 ジェラルドが投票用紙を次々に開けて『正』の字に線を付け加えていく。エドワードとキースもそれに加わった。リアムもその作業を覗き込み、感心している。

「これ、中々面白いね。それぞれ支持層が分かれてて」

 そんなことをする時間があるなら少しでも今後の対策を考えたい所だが、皆の手は止まらない。

 ——数分後。

「よし、終わったぞ」

 どうせ俺が一番支持率が低いのだろうと一人遠く離れて外を眺めていたら、エドワードが言った。

「支持率は五人とも大して変わらないね。僅差だけど、オリヴァーが一番高いよ」

「え? 本当に?」

「見て下さいませ」

 ノエルに言われ、グラフ化されたそれを見ると確かに支持率は高かった。高いのだが、支持層に疑問を抱いた。

 十代から三十代の女性は、言わずもがな俺以外の四人を支持している。そこは想定内だ。なんせ、冒険を始めた頃から変わらない。ただ、年配の男女共に俺を支持しているかと思いきや、リアムに集中している。王子と知っての忖度もありそうだ。

 そして、高齢の方の支持はエドワードに、子供の支持は意外にもキースとジェラルドが勝ち取った。

「えっと……ジェラルド様は『魔法を使う姿が格好良かった』、キース様は『こんな兄ちゃん欲しい』だそうですわ」

「え、コメントまで書いて貰ったの? じゃあ、俺のもある?」 

 何故か若い男性からの支持が俺に集中しているのだ。

 俺の戦いっぷりを見て憧れを抱いた……みたいなのだと普通に嬉しい。ただ、最近の俺の周りはBLがやたらと絡んできている。そっち関連でなければ良いが。

「お兄様は『街中の女子が他の四人に夢中で腹が立つ。頑張れ』『顔が全てじゃないぞ』『好き嫌いせず食べたら大きくなれるさ』それから……」

「ノエル、もう良いよ……なんか惨めになってきた」

 同情で支持を集めただけのようだ。俺は再び窓の外をぼんやりと眺めた。

「ノエル、お前どうしてオリヴァーの『戦う姿が格好良かった』『男なのに惚れた』『ここにずっといてくれ』みたいなの読んでやらねーんだ?」

「お兄様は優しいお方なので、求められれば全て受け入れてしまいますわ。ジェラルド様も、お兄様とずっと一緒が宜しいでしょう?」
 
「それもそうだな」

 ノエルとジェラルドがそんな会話をしていることなど知らず、俺は何の為に戦っているのか、しみじみと考えた。
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