96 / 144
第六章 二人目の転生者
シナリオの続き
しおりを挟む
「ッたく、最初からこうしとけば良かったじゃん」
俺は不貞腐れながら気絶しているアーネットの手を持って、アーサーの奴隷の首輪を外した。
「あー、一気に開放感!」
首輪が外れたアーサーは、伸びをしながら首を前後左右に動かした。
「それにしてもお前ら演技上手いな。本気でやってんのかと思ったぜ」
「はは……」
——ジェラルドに押し倒され耳を舐め回されてしまった俺は、それはもう淫らな顔をしていたらしい。しかも、見た目は可愛い女の子。そんな俺の姿に、変態アーネットが食いつかない訳がなかった。
『交換しよう! 私のアーシャとその娘を交換しよう。今すぐに』
これで当初の目的は達成した。ジェラルドからも解放されると思っていた。なのに……。
『これは俺のだ。邪魔すんな』
俺のって、邪魔って……。
押し返そうにも力が全く入らない。
『ハァ……ハァ……ジェラルド……』
『ん? 何だ?』
『ジェラルド、もう駄目……みんな見てるし』
アーネットだけでなく、騎士達もねっとりとした視線を向けてくるのだ。
『刻印のせいで見られてないとこんなこと出来ないもんな。好都合だな』
『そうだね……って、違ッ……ああ……』
音を立てながらさっきよりも激しく耳を貪るように舐められ、俺の声も激しくなる。
『こんなの見せられて、我慢出来ん! お前らもだろう?』
アーネットが騎士に同意を求めると、皆が頷いた。
『よし、この男、殺しても構わん。力尽くで奪い取るぞ』
『それは流石にまずいのでは?』
『どうせ他国の貴族だ。運良くこの奴隷しか連れておらんし、道中、事故に遭ったことにでもすれば良い。私の奴隷になった暁には皆で愛でてやろう』
『『『はい!』』』
騎士達の士気が高まったのが分かった。流石にジェラルドも俺を舐め回すのはやめたようだ。だが、安堵する暇もない程に周りは緊迫状態だ。
『安心しろ。大事な妹をあんな奴の奴隷になんてさせねーからな』
妹って……妹をエロい手つきで撫で回したり、糸が引くほど耳を貪らないで頂きたい。
そこは後で注意するにして、騎士達の剣がジェラルドに振り下ろされた。
『ジェラルド!』
俺は咄嗟に結界を張った。ジェラルドも同様のことをしていたようだ。黄色と白の光に包まれた。
結界によって剣は弾かれた。何故か、弾く威力が強すぎて騎士達も一斉に吹き飛び、背後にいたアーネットを巻き込みながら壁に叩きつけられていた——。
これは全くもって演技ではない。いや、途中までは演技だったのだ。なのに、ジェラルドが……。
結界をまじまじと眺めているジェラルドは、先程の行動を何とも思っていないのか、平常だ。
「ジェラルド、そんなに結界見て何してんの?」
「これ見てみろ」
ジェラルドに言われて結界を見ると、色が薄いので分かりづらいが、光のベールに雪の結晶の模様がついている。まるでオシャレなカーテンだ。
「何でこんな事になってるんだろ。雪の結晶ってジェラルドのでしょ?」
「多分な。もしかして、あれかな」
「あれって?」
「アイリス先生が『互いに互いを想って作った結界は強固に絡み合い、更なる強さを発揮すると思うの』って言ってただろ。結界張っただけなのに、あいつら勝手に吹っ飛んじまったし」
「あり得るかも」
アーサーもうんうんと頷いた。
「お前ら、めっちゃ絡み合ってたもんな。見てる方が興奮しちまったぜ」
確かに、物理的にも絡み合っていた。思い出しただけで赤面してしまう。
「オリヴァー、帰ったらもう一回やってみるか」
「え、もう一回!?」
俺はすかさず耳を手で隠した。
「結界、同じようになるのか試してみよーぜ」
「あ、結界ね」
耳に当てていた手を離した。
それにしても、ジェラルドが普通過ぎる。あれは俺の見た幻だったのだろうか。
◇
その日の晩、アーサーが奴隷生活から無事解放されたことを祝って小さな宴が開かれた。
「アーサーはこれからどうするの?」
アーネットから逃げる為に続けていた冒険だが、奴隷の首輪が外れた今となっては冒険をする必要はないのだ。
「とりあえず『リアム成り上がり計画』のサクラでもしてやるよ」
「サクラ?」
「おれらそんなに強くないけど、避難誘導くらいなら出来ると思うんだ。避難させながらお前らの勇姿ばら撒いて歩いてやるよ」
「それは名案ですわね」
「だろ? モブはモブらしく陰に徹するぜ」
陰に徹する必要はないが、避難誘導をしてくれるなら助かる。
「それより、お兄様! 聞きましたわよ」
「え、もう耳に入ってるの?」
ジェラルドとの恥ずかしいあれこれ。アーサーに聞いたのだろう。
「結界が上手くいきそうなのでしょう?」
「ああ、そっちね」
「そっち……とは? あ、もしやこちらのシナリオの方でしょうか?」
ノエルがコマ送りで描かれた漫画を見せてきた。
「これ……」
「ジェラルド様も初めてのことで、あまり上手く出来なかったと嘆いておられましたわ」
ジェラルドは全て演技だったようだ。
「何で俺に教えてくれなかったの? シナリオの続きがあるなんて」
「ジェラルド様に聞かれましたの——」
◇
アーネットの元に訪れる数時間前。
『妹は兄貴に何をされたら喜ぶんだ? ノエルはオリヴァーに何をしてもらいたい?』
そこでノエルは漫画を描き始めた。数分後、出来上がったものをジェラルドに見せた。
『こういうことをして頂きたいですわ。本来ならば口付けが良いのですが、みーちゃんがいるので出来ませんからね。耳が宜しいかと』
ジェラルドは顔を赤くさせながら聞いた。
『兄妹でこんなこと……本当に喜ぶのか? 逆に嫌われるんじゃ……』
『そんなことありませんわ! わたくしはとても嬉しいです。世の妹は皆、お兄様を慕っております故』
『じゃあ、オリヴァーに聞いて……』
『そうですわ! 今回の作戦の続きとしてお兄様に内緒でコレを実行するのは如何でしょう? サプライズって良いですわよね』
ジェラルドは何かを決意したように頷いた——。
「それって、ノエルが俺とジェラルドにして欲しいことだよね? ノエルが俺にして欲しいことではなくて」
「勿論ですわ」
繋がった。ジェラルドが何故あのような行動に至ったのか。話が噛み合っているようで噛み合っていない、いつものすれ違いによるものだったようだ。
俺は不貞腐れながら気絶しているアーネットの手を持って、アーサーの奴隷の首輪を外した。
「あー、一気に開放感!」
首輪が外れたアーサーは、伸びをしながら首を前後左右に動かした。
「それにしてもお前ら演技上手いな。本気でやってんのかと思ったぜ」
「はは……」
——ジェラルドに押し倒され耳を舐め回されてしまった俺は、それはもう淫らな顔をしていたらしい。しかも、見た目は可愛い女の子。そんな俺の姿に、変態アーネットが食いつかない訳がなかった。
『交換しよう! 私のアーシャとその娘を交換しよう。今すぐに』
これで当初の目的は達成した。ジェラルドからも解放されると思っていた。なのに……。
『これは俺のだ。邪魔すんな』
俺のって、邪魔って……。
押し返そうにも力が全く入らない。
『ハァ……ハァ……ジェラルド……』
『ん? 何だ?』
『ジェラルド、もう駄目……みんな見てるし』
アーネットだけでなく、騎士達もねっとりとした視線を向けてくるのだ。
『刻印のせいで見られてないとこんなこと出来ないもんな。好都合だな』
『そうだね……って、違ッ……ああ……』
音を立てながらさっきよりも激しく耳を貪るように舐められ、俺の声も激しくなる。
『こんなの見せられて、我慢出来ん! お前らもだろう?』
アーネットが騎士に同意を求めると、皆が頷いた。
『よし、この男、殺しても構わん。力尽くで奪い取るぞ』
『それは流石にまずいのでは?』
『どうせ他国の貴族だ。運良くこの奴隷しか連れておらんし、道中、事故に遭ったことにでもすれば良い。私の奴隷になった暁には皆で愛でてやろう』
『『『はい!』』』
騎士達の士気が高まったのが分かった。流石にジェラルドも俺を舐め回すのはやめたようだ。だが、安堵する暇もない程に周りは緊迫状態だ。
『安心しろ。大事な妹をあんな奴の奴隷になんてさせねーからな』
妹って……妹をエロい手つきで撫で回したり、糸が引くほど耳を貪らないで頂きたい。
そこは後で注意するにして、騎士達の剣がジェラルドに振り下ろされた。
『ジェラルド!』
俺は咄嗟に結界を張った。ジェラルドも同様のことをしていたようだ。黄色と白の光に包まれた。
結界によって剣は弾かれた。何故か、弾く威力が強すぎて騎士達も一斉に吹き飛び、背後にいたアーネットを巻き込みながら壁に叩きつけられていた——。
これは全くもって演技ではない。いや、途中までは演技だったのだ。なのに、ジェラルドが……。
結界をまじまじと眺めているジェラルドは、先程の行動を何とも思っていないのか、平常だ。
「ジェラルド、そんなに結界見て何してんの?」
「これ見てみろ」
ジェラルドに言われて結界を見ると、色が薄いので分かりづらいが、光のベールに雪の結晶の模様がついている。まるでオシャレなカーテンだ。
「何でこんな事になってるんだろ。雪の結晶ってジェラルドのでしょ?」
「多分な。もしかして、あれかな」
「あれって?」
「アイリス先生が『互いに互いを想って作った結界は強固に絡み合い、更なる強さを発揮すると思うの』って言ってただろ。結界張っただけなのに、あいつら勝手に吹っ飛んじまったし」
「あり得るかも」
アーサーもうんうんと頷いた。
「お前ら、めっちゃ絡み合ってたもんな。見てる方が興奮しちまったぜ」
確かに、物理的にも絡み合っていた。思い出しただけで赤面してしまう。
「オリヴァー、帰ったらもう一回やってみるか」
「え、もう一回!?」
俺はすかさず耳を手で隠した。
「結界、同じようになるのか試してみよーぜ」
「あ、結界ね」
耳に当てていた手を離した。
それにしても、ジェラルドが普通過ぎる。あれは俺の見た幻だったのだろうか。
◇
その日の晩、アーサーが奴隷生活から無事解放されたことを祝って小さな宴が開かれた。
「アーサーはこれからどうするの?」
アーネットから逃げる為に続けていた冒険だが、奴隷の首輪が外れた今となっては冒険をする必要はないのだ。
「とりあえず『リアム成り上がり計画』のサクラでもしてやるよ」
「サクラ?」
「おれらそんなに強くないけど、避難誘導くらいなら出来ると思うんだ。避難させながらお前らの勇姿ばら撒いて歩いてやるよ」
「それは名案ですわね」
「だろ? モブはモブらしく陰に徹するぜ」
陰に徹する必要はないが、避難誘導をしてくれるなら助かる。
「それより、お兄様! 聞きましたわよ」
「え、もう耳に入ってるの?」
ジェラルドとの恥ずかしいあれこれ。アーサーに聞いたのだろう。
「結界が上手くいきそうなのでしょう?」
「ああ、そっちね」
「そっち……とは? あ、もしやこちらのシナリオの方でしょうか?」
ノエルがコマ送りで描かれた漫画を見せてきた。
「これ……」
「ジェラルド様も初めてのことで、あまり上手く出来なかったと嘆いておられましたわ」
ジェラルドは全て演技だったようだ。
「何で俺に教えてくれなかったの? シナリオの続きがあるなんて」
「ジェラルド様に聞かれましたの——」
◇
アーネットの元に訪れる数時間前。
『妹は兄貴に何をされたら喜ぶんだ? ノエルはオリヴァーに何をしてもらいたい?』
そこでノエルは漫画を描き始めた。数分後、出来上がったものをジェラルドに見せた。
『こういうことをして頂きたいですわ。本来ならば口付けが良いのですが、みーちゃんがいるので出来ませんからね。耳が宜しいかと』
ジェラルドは顔を赤くさせながら聞いた。
『兄妹でこんなこと……本当に喜ぶのか? 逆に嫌われるんじゃ……』
『そんなことありませんわ! わたくしはとても嬉しいです。世の妹は皆、お兄様を慕っております故』
『じゃあ、オリヴァーに聞いて……』
『そうですわ! 今回の作戦の続きとしてお兄様に内緒でコレを実行するのは如何でしょう? サプライズって良いですわよね』
ジェラルドは何かを決意したように頷いた——。
「それって、ノエルが俺とジェラルドにして欲しいことだよね? ノエルが俺にして欲しいことではなくて」
「勿論ですわ」
繋がった。ジェラルドが何故あのような行動に至ったのか。話が噛み合っているようで噛み合っていない、いつものすれ違いによるものだったようだ。
68
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-
mao
BL
力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。
無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?
天才、秀才、凡人、そして無能。
強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?
※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。
のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる