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第六章 二人目の転生者

シナリオの続き

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「ッたく、最初からこうしとけば良かったじゃん」

 俺は不貞腐れながら気絶しているアーネットの手を持って、アーサーの奴隷の首輪を外した。

「あー、一気に開放感!」

 首輪が外れたアーサーは、伸びをしながら首を前後左右に動かした。

「それにしてもお前ら演技上手いな。本気でやってんのかと思ったぜ」

「はは……」

 ——ジェラルドに押し倒され耳を舐め回されてしまった俺は、それはもう淫らな顔をしていたらしい。しかも、見た目は可愛い女の子。そんな俺の姿に、変態アーネットが食いつかない訳がなかった。

『交換しよう! 私のアーシャとその娘を交換しよう。今すぐに』

 これで当初の目的は達成した。ジェラルドからも解放されると思っていた。なのに……。

『これは俺のだ。邪魔すんな』

 俺のって、邪魔って……。

 押し返そうにも力が全く入らない。

『ハァ……ハァ……ジェラルド……』

『ん? 何だ?』

『ジェラルド、もう駄目……みんな見てるし』

 アーネットだけでなく、騎士達もねっとりとした視線を向けてくるのだ。

『刻印のせいで見られてないとこんなこと出来ないもんな。好都合だな』

『そうだね……って、違ッ……ああ……』

 音を立てながらさっきよりも激しく耳を貪るように舐められ、俺の声も激しくなる。

『こんなの見せられて、我慢出来ん! お前らもだろう?』

 アーネットが騎士に同意を求めると、皆が頷いた。

『よし、この男、殺しても構わん。力尽くで奪い取るぞ』

『それは流石にまずいのでは?』

『どうせ他国の貴族だ。運良くこの奴隷しか連れておらんし、道中、事故に遭ったことにでもすれば良い。私の奴隷になった暁には皆で愛でてやろう』

『『『はい!』』』

 騎士達の士気が高まったのが分かった。流石にジェラルドも俺を舐め回すのはやめたようだ。だが、安堵する暇もない程に周りは緊迫状態だ。

『安心しろ。大事な妹をあんな奴の奴隷になんてさせねーからな』

 妹って……妹をエロい手つきで撫で回したり、糸が引くほど耳を貪らないで頂きたい。

 そこは後で注意するにして、騎士達の剣がジェラルドに振り下ろされた。

『ジェラルド!』

 俺は咄嗟に結界を張った。ジェラルドも同様のことをしていたようだ。黄色と白の光に包まれた。

 結界によって剣は弾かれた。何故か、弾く威力が強すぎて騎士達も一斉に吹き飛び、背後にいたアーネットを巻き込みながら壁に叩きつけられていた——。

 これは全くもって演技ではない。いや、途中までは演技だったのだ。なのに、ジェラルドが……。

 結界をまじまじと眺めているジェラルドは、先程の行動を何とも思っていないのか、平常だ。

「ジェラルド、そんなに結界見て何してんの?」

「これ見てみろ」

 ジェラルドに言われて結界を見ると、色が薄いので分かりづらいが、光のベールに雪の結晶の模様がついている。まるでオシャレなカーテンだ。

「何でこんな事になってるんだろ。雪の結晶ってジェラルドのでしょ?」

「多分な。もしかして、あれかな」

「あれって?」

「アイリス先生が『互いに互いを想って作った結界は強固に絡み合い、更なる強さを発揮すると思うの』って言ってただろ。結界張っただけなのに、あいつら勝手に吹っ飛んじまったし」

「あり得るかも」

 アーサーもうんうんと頷いた。

「お前ら、めっちゃ絡み合ってたもんな。見てる方が興奮しちまったぜ」

 確かに、物理的にも絡み合っていた。思い出しただけで赤面してしまう。

「オリヴァー、帰ったらもう一回やってみるか」

「え、もう一回!?」

 俺はすかさず耳を手で隠した。

「結界、同じようになるのか試してみよーぜ」

「あ、結界ね」

 耳に当てていた手を離した。

 それにしても、ジェラルドが普通過ぎる。あれは俺の見た幻だったのだろうか。


 ◇


 その日の晩、アーサーが奴隷生活から無事解放されたことを祝って小さな宴が開かれた。

「アーサーはこれからどうするの?」

 アーネットから逃げる為に続けていた冒険だが、奴隷の首輪が外れた今となっては冒険をする必要はないのだ。

「とりあえず『リアム成り上がり計画』のサクラでもしてやるよ」

「サクラ?」

「おれらそんなに強くないけど、避難誘導くらいなら出来ると思うんだ。避難させながらお前らの勇姿ばら撒いて歩いてやるよ」

「それは名案ですわね」

「だろ? モブはモブらしく陰に徹するぜ」

 陰に徹する必要はないが、避難誘導をしてくれるなら助かる。

「それより、お兄様! 聞きましたわよ」

「え、もう耳に入ってるの?」

 ジェラルドとの恥ずかしいあれこれ。アーサーに聞いたのだろう。

「結界が上手くいきそうなのでしょう?」

「ああ、そっちね」

「そっち……とは? あ、もしやこちらのシナリオの方でしょうか?」

 ノエルがコマ送りで描かれた漫画を見せてきた。

「これ……」

「ジェラルド様も初めてのことで、あまり上手く出来なかったと嘆いておられましたわ」

 ジェラルドは全て演技だったようだ。

「何で俺に教えてくれなかったの? シナリオの続きがあるなんて」

「ジェラルド様に聞かれましたの——」


 ◇


 アーネットの元に訪れる数時間前。

『妹は兄貴に何をされたら喜ぶんだ? ノエルはオリヴァーに何をしてもらいたい?』

 そこでノエルは漫画を描き始めた。数分後、出来上がったものをジェラルドに見せた。

『こういうことをして頂きたいですわ。本来ならば口付けが良いのですが、みーちゃんがいるので出来ませんからね。耳が宜しいかと』

 ジェラルドは顔を赤くさせながら聞いた。

『兄妹でこんなこと……本当に喜ぶのか? 逆に嫌われるんじゃ……』

『そんなことありませんわ! わたくしはとても嬉しいです。世の妹は皆、お兄様を慕っております故』

『じゃあ、オリヴァーに聞いて……』

『そうですわ! 今回の作戦の続きとしてお兄様に内緒でコレを実行するのは如何でしょう? サプライズって良いですわよね』

 ジェラルドは何かを決意したように頷いた——。

「それって、ノエルが俺とジェラルドにして欲しいことだよね? ノエルが俺にして欲しいことではなくて」

「勿論ですわ」

 繋がった。ジェラルドが何故あのような行動に至ったのか。話が噛み合っているようで噛み合っていない、いつものすれ違いによるものだったようだ。
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