上 下
16 / 144
第二章 冒険の始まり

センチメンタル

しおりを挟む
「お兄様、何だか禁断の恋をしているようですわね」

「こういう時は、小さい頃に戻ったようですわね。だろ」

 結局、俺がノエルと同じ部屋で寝ることになった。なので、今はノエルと二人同じベッドの上だ。

 自動的にジェラルドとリアム、エドワードの三人が同じ部屋に。シングルベッドに男三人が寝ている姿は想像したくないが、ノエルはしっかり妄想を膨らませているようだ。

「お兄様を取り合う三人が一緒に寝るとどういう展開になるのかしら。明日が楽しみですわね」

「どうしてこんな子に育っちゃったんだ……」

 まずい、心の声が漏れてしまった。

「お兄様」

 ノエルが寂しそうな顔をしている。俺は決してノエルの成長を否定したい訳ではない。BLという変わった趣味を受け入れられないだけだ。

「ごめん。別にノエルが……」

「これはお兄様のせいではありませんわよ。前世のわたくしがBL好き、腐女子だっただけで、前世の記憶を取り戻さなければ普通の女子ですわ」

「ノエル」

 俺を励まそうとしているのだろうが、逆に不安が増してしまった。もうじき十二歳になる子が、まだ五歳の頃に始めたごっこ遊びを継続しているのだから。

「なので、お兄様。わたくしのことは妹であって妹でない。別の人間だと思って下さって結構ですわ。では、おやすみなさいませ」


 ◇


 三時間後。

「眠れない」

 隣ではノエルが気持ちよさそうに眠っている。その寝顔を見ながら、ふと思った。

 本当にノエルが転生者だったなら。

 ノエルが転生者で、さっきノエルが言っていたように妹ではなく別の人間だとするならば、今俺は誰と寝ているのだろうか。

 妹と寝ていると思うから何の抵抗もなく同じ布団の中に入ることもできる。手を繋いだりハグだって沢山してきた。しかし、これが妹ではなく別の誰かだと思ったら……。

 ダメだ。考えたらダメだ。ノエルは妹。ただの変わり者の妹。だって顔は似てないけれど、髪は同じピンクだし、ノエルが産まれる時だって俺はそばで見ていた……らしい。当時は二歳だったので覚えていないが、歴とした妹だ。

「おにぃ……様……」

「ノエル? ごめん、起こしちゃったかな」

 ノエルの顔を覗き込むと、すやすやと眠っていた。寝言だったようだ。布団をかけ直してやると、またノエルの口が小さく動いた。

「おにぃ様……だいすき」

 勘違いするな俺。これは妹。別人格の人間ではない。これは妹だ。今までだって大好きなんて言葉は互いに何度も言い合った。ただの兄妹愛で他の何物でもない。しかも今は寝言だ。ノエルの意思とは無関係。

 自問自答しながら俺はノエルが起きないように布団から出て部屋を出た。

「ノエルが変なこと言うから、変に意識してしまう」

 部屋から出たのは良いものの行くあてはない。仲間の部屋に行こうか悩んだが、夜中に起こしても悪いので廊下の端に座った。

 暫くするとやっと睡魔が押し寄せてきた。座ったまま眠りにつこうとすれば扉がキキィっと開く音が聞こえた。

「オリヴァー? こんな所で何してるの?」

「リアムか。眠れなくて」

「すごく眠そうだよ?」

 俺は既に船を漕ぎ始めている。

「リアムはどうしたの?」

「何だか嬉しくて眠れないんだ」

「嬉しい?」

 リアムも俺の横にストンと腰を下ろした。

「うん。外の世界なんて見れないと思ってたから。それにここにいる皆は僕のこと偏見の目でみないし」

「そっか……そう思ってくれるなら勇者も頑張れそうだ」

「でもさ」

 リアムの表情は儚げなものに変わった。

「僕って魔法も使えないし、剣も扱えない。腕力もないし正直みんなの足手纏いでしかないんだよね」

「そんなこと……」

「そんなことあるんだよ。だからさ、もし危険な局面にぶち当たった時は僕を最優先に切り捨ててね」

 リアムは本気で自分が犠牲に、死んでも良いとさえ思っている。そんなリアムに何と声をかけるのが正解なのか分からない。分からないなりに口を開いた。

「夜中ってさ、センチメンタルになるよね。何でかな」

「夜は副交感神経が優位になってるからね。不安が強くなるんだよ。反対に昼間は交感神経が優位になってるから心のバランスがとりやすい」

 さすがリアムだ。そんな教科書の模範解答が返ってくるとは思わなかった。

「じゃあさ、リアムは夜に一人になっちゃダメだよ」

 俺はいつかノエルにされたように右手の小指を出した。リアムがキョトンとした顔をしたので、リアムの左手の小指に自身の指を絡めた。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます、指切った」

「何それ」

「約束破ったら針千本飲まなきゃいけないんだって」

「何その恐ろしい拷問」

「だよね……あー、もう無理。眠たい」

 俺はリアムの肩に寄りかかって眠りについた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao
BL
 力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。  無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?  天才、秀才、凡人、そして無能。  強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?  ※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。   のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

処理中です...