上 下
5 / 144
第一章 幼少期

いらない情報

しおりを挟む
 時は流れ、季節は冬へと移り変わった。

 本日はノエル六歳の誕生日。この国では十歳を過ぎれば大々的にパーティーを開くが、それまでは家族だけで誕生日を祝うのが慣わしだ。

 俺と両親は口々に祝いの言葉を並べた。

「おめでとう、ノエル」

「もう六歳か。早いな」

「おめでとう。言葉遣いも多少変ではありますが、よしと致しましょう」

 母にも褒められ、満面の笑みのノエル。

「歯を出して笑わない!」

 そしてすぐに怒られる。可哀想ではあるが母もノエルに立派な淑女になってもらいたいのだろう。

 怒られたばかりだというのに、ノエルはケーキを見ながらはしゃぎ出した。

「わぁ。ケーキ大きい! そのまま食べても宜しいですか? 一度で良いからやってみたかったのですわ」

「駄目に決まっているでしょう。ノエルのは一番小さく切り分けて頂戴」

「えー、わたくしの誕生日なのに」

 口を尖らせながら不貞腐れているノエルに父は自身に切り分けられたケーキを差し出した。

「これも食べなさい」

「お父様大好き!」

「あなた、甘やかしすぎですよ」

「はーい」

 父も母に度々怒られているが気にした素振りもない。ちなみに、ノエルと父は顔がそっくりだ。ピンクの髪にやや垂れ目で、歳を重ねているからか色気がすごい。

 そして母は銀髪で顔立ちも整っており、見目麗しい。昔から男性に言い寄られていたのだとか。

 俺のピンクの髪は父親譲りだが、顔はどちらにも似ていない。先日八歳になったばかりだが、幼い顔のままだ。いつかシュッと切れ長な目になったり、鼻筋が通ったりするのだろうか。楽しみだ。

「ノエル、父上もピンクの髪だよ?」 

 遠回しに父が主人公、若しくは父同様に俺も脇役だと伝えてみると、ノエルが俺と父の顔を交互に見た。

「ですが、お父様もわたくしと同じで光魔法の使い手ではありませんもの。やはり、お兄様ですわ」

「あ、そう」

 ノエルのごっこ遊びが中々終わらないので、一度勇者を目指すのはやめたいと直球で言ったこともある。しかし、ノエルに至極落ち込まれて一日口を聞いてくれなくなった。

 結局、翌日にはノエルに謝罪して再び表面上は勇者を目指して特訓中——。

「二人とも何の話だい?」

 俺とノエルの会話を聞いて不思議に思った父が聞いてきた。

「あー、えっと……」

 転生者云々は両親に話していない。何と応えようか悩んでいると、ノエルが代わりに応えた。

「お兄様は素晴らしいというお話ですわ」

「そうね、オリヴァーは優秀ね」

 何故かこういう返しは上手いノエル。もっと他で発揮すれば母に怒られないのにとつくづく思う。

 それでも家族仲は悪くないのでノエルの誕生日パーティーは終始賑わっていた。


 ◇


 パーティーが終わると、ノエルの部屋に呼ばれた。部屋の中に入れば、机の上が資料で散乱していた。勉強を頑張っているんだなと感心しているとノエルが一冊のノートを持ってきた。

「この国について調べたのですが、良い情報がありますわよ」

「良い情報?」

 ノートを一頁ずつ捲っていくと、国の歴史や現国王、王太子について等事細かにこの国のことが書き記してあった。

「もう少し先ですわ」

 ノエルがノートを二頁進めると、赤で大きく丸が付けられていた。

「これは……」

「国王陛下の許可さえあれば同性同士の結婚が認められるそうなのです」

 一番いらない情報だった。

「これでお兄様が気にしていたこともクリアですわ」

「そうだね……」

 俺とジェラルドは恋愛関係ではないと何度も説明しているのだが、ノエルは俺の照れ隠しだと思って分かってもらえなかった。なので俺はノエルに言ったのだ。

『同性同士じゃ結婚できないから、俺はジェラルド諦めるよ』

 それを言ってからというもの、ノエルの口からBLという単語は出てこなかった。だから安心していたのに、まさかこんなことを調べていたとは。

「いや、でも国王陛下の許可なんて下りないよ」

「わたくしにお任せ下さいませ。今度第二王子の誕生日パーティーがあるのですが、そこで王子様と親しくなれば良いのですわ! そうすれば自ずと国王陛下ともお近づきになれますわ」

「計画的だね……」

 妹のごっこ遊びに付き合ってあげたい気持ちはある。しかし、流石に男同士の恋愛までは付き合いきれない。相手の気持ちもあるだろうし。

 『わたし、お兄様と結婚する!』と言っていた四歳のノエルに戻ってくれないだろうか……。

「ノエルは俺と結婚したいんじゃなかったの?」

「兄妹で結婚できるわけないじゃないですか」

 何故だろう。無性に苛々してきた。転生者や勇者、BL等非現実的なことばかり言っている妹に至極真っ当なことを言われてしまった。しかも真顔で。

 そりゃ俺だって兄妹で結婚できないことくらい知っている。だけど、男同士で結婚するくらいなら妹と結婚したい。俺は間違ってるのだろうか。

「二週間後のパーティーが楽しみですわね」 
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao
BL
 力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。  無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?  天才、秀才、凡人、そして無能。  強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?  ※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。   のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...