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第五章 人類滅亡一歩手前
幻術
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一方、フィオナは今、クライヴが捕まっているであろう屋敷の中に足を踏み入れた。
「本当にこんな所にいるのかしら」
中は薄暗く、灯りもない。薄汚れた窓から少しだけ光が差している。廊下は埃まみれで蜘蛛の巣が所々にはってある。
フィオナが部屋の一室の扉を開けると、音がキキィと不気味に響き渡る。
「外と違って、中には魔物はいなさそうね……キャッ!」
魔物がいないと安堵したのも束の間、天井からパタパタと何か飛んできたので、フィオナは咄嗟に屈んだ。恐る恐る上を見てみると、コウモリが天井にぶら下がっていた。
「驚かせないで下さいませ」
フィオナがコウモリに向かって文句を言っていると、再び飛びかかってきそうだったので、急いで部屋を出た。
「この部屋数、全部見ないといけないのかしら」
パッと見えるだけでも食堂等も含めて二十部屋は優に超えている。しかも、外から見た感じ三階くらいまでありそうだ。
フィオナが次の扉に手をかけた瞬間、フィオナの肩をポンと誰かが叩いた。思わずフィオナが悲鳴をあげながらぺちぺちと何かを叩いた。
「キャー! 誰ですの!? あっちへ行って下さいませ」
「フィオナ、俺だ。やめろ、痛い」
フィオナが叩いていたのはアレンだった。声をかけてもフィオナはまだ気付いていないようで、一人騒いでいるフィオナの口をアレンが手で塞いだ。
「しー、静かにしないとどこに敵が潜んでいるか分からないんだから」
フィオナが大人しくなったのを確認してからアレンは手を離した。その瞬間、フィオナが小声で話し出した。
「あ、アレン様ご無事でしたのね。ルイやフィンは一緒ではないのですか? 道中、魔物と戦っていたはずなのですが」
「いや、見ていない。通った道が違うのかもしれないな」
「そうですか……」
フィオナが悲しげな表情をするので、アレンはフィオナの頭を優しく撫でながら言った。
「あの二人は大丈夫だろ。すぐに来るさ」
「そうですわね。手遅れになる前にお義兄様を探しましょう」
フィオナは前を向き、アレンと共に一部屋ずつ確認していった。探し始めて数十分くらい経った頃、フィオナがアレンに言った。
「本当にここにいるのかしら」
「さっきの男はそう言っていたが……だが、俺も歩いていて感じたが、何かがおかしい」
アレンは周囲を見渡しながら考えた。そして一つの仮説に辿り着く。
「これは幻術かもしれない」
「幻術?」
「先程から俺たちは色々なところを歩いたが、人が歩いた形跡が一切残っていない」
フィオナも周囲を見渡す。先程触ったドアノブを見ると、誰も触っていないかのように再び埃を被っている。アレンが続けて言った。
「きっとこの屋敷に足を踏み入れた段階で発動したのだろう。まるで屋敷の中にいるような錯覚に陥る。いや、実際屋敷の中にいるのだろうが、少し次元が違う所にいると思うのが正しいのかもしれない」
フィオナは怪訝な顔でアレンに聞いた。
「そのようなことが出来るのですか? 初めて聞きましたわ」
「普通は出来ない。だが、王族しか入ることの出来ない禁書庫の中でそれを見たことがある」
「では、早くこの屋敷から出ましょう。一回出れば……」
アレンは首を横に振って、フィオナに言った。
「一度幻術にかかったら抜け出せない。おそらく出口の扉を開いても屋敷の中に戻される。一生出ることの出来ない迷宮みたいなものだ」
フィオナの顔がみるみる青くなっていく。
「まさか一生アレン様と二人きり? こんな場所でもお義兄様となら幸せな日々が過ごせると言うものですが、アレン様とだなんて……」
フィオナが落胆していると、アレンも同じことを考えていたようで、一人呟いている。
「俺だってクララとなら喜んで幻術に引っかかるさ。そして生涯誰にも邪魔されずに二人きりで死んでいく……最高のエンディングだ」
フィオナがハッとしてアレンに聞いた。
「お義兄様は幻術に引っかかっていないのかしら。もしいるのならアレン様がいても問題ないですわ」
「確かにな。三人で幻術に引っかかる手もあるのか。よし、あいつもどうにかして呼び寄せよう」
「でも、そんな方法はありますの?」
フィオナがアレンに聞くと、少し悩んだ末にアレンが言った。
「エリクが言っていた。『愛の力は偉大だ』と。この世界は何だかんだ愛の力で成り立っているらしい」
「よく分かりませんが、お義兄様の事を想えばどうにかなるのかしら」
「そうだな。一応幻術だから魔力も必要だろう。魔力を最大限に引き出しながらやってみよう」
「分かりましたわ」
フィオナとアレンはクライヴの事を想いながら魔力を最大限に引き出した。フィオナの青色の魔力とアレンの黒色の魔力が合わさり交わった。
すると、目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。フィオナとアレンの視線の先にはクライヴが現れた。しかし、現れたのは首元にナイフを突きつけられて身動きがとれなくなっているクライヴだ。
フィオナとアレンは状況を瞬時に理解し、最大限に引き出していた魔力を男めがけて同時に放った。
「本当にこんな所にいるのかしら」
中は薄暗く、灯りもない。薄汚れた窓から少しだけ光が差している。廊下は埃まみれで蜘蛛の巣が所々にはってある。
フィオナが部屋の一室の扉を開けると、音がキキィと不気味に響き渡る。
「外と違って、中には魔物はいなさそうね……キャッ!」
魔物がいないと安堵したのも束の間、天井からパタパタと何か飛んできたので、フィオナは咄嗟に屈んだ。恐る恐る上を見てみると、コウモリが天井にぶら下がっていた。
「驚かせないで下さいませ」
フィオナがコウモリに向かって文句を言っていると、再び飛びかかってきそうだったので、急いで部屋を出た。
「この部屋数、全部見ないといけないのかしら」
パッと見えるだけでも食堂等も含めて二十部屋は優に超えている。しかも、外から見た感じ三階くらいまでありそうだ。
フィオナが次の扉に手をかけた瞬間、フィオナの肩をポンと誰かが叩いた。思わずフィオナが悲鳴をあげながらぺちぺちと何かを叩いた。
「キャー! 誰ですの!? あっちへ行って下さいませ」
「フィオナ、俺だ。やめろ、痛い」
フィオナが叩いていたのはアレンだった。声をかけてもフィオナはまだ気付いていないようで、一人騒いでいるフィオナの口をアレンが手で塞いだ。
「しー、静かにしないとどこに敵が潜んでいるか分からないんだから」
フィオナが大人しくなったのを確認してからアレンは手を離した。その瞬間、フィオナが小声で話し出した。
「あ、アレン様ご無事でしたのね。ルイやフィンは一緒ではないのですか? 道中、魔物と戦っていたはずなのですが」
「いや、見ていない。通った道が違うのかもしれないな」
「そうですか……」
フィオナが悲しげな表情をするので、アレンはフィオナの頭を優しく撫でながら言った。
「あの二人は大丈夫だろ。すぐに来るさ」
「そうですわね。手遅れになる前にお義兄様を探しましょう」
フィオナは前を向き、アレンと共に一部屋ずつ確認していった。探し始めて数十分くらい経った頃、フィオナがアレンに言った。
「本当にここにいるのかしら」
「さっきの男はそう言っていたが……だが、俺も歩いていて感じたが、何かがおかしい」
アレンは周囲を見渡しながら考えた。そして一つの仮説に辿り着く。
「これは幻術かもしれない」
「幻術?」
「先程から俺たちは色々なところを歩いたが、人が歩いた形跡が一切残っていない」
フィオナも周囲を見渡す。先程触ったドアノブを見ると、誰も触っていないかのように再び埃を被っている。アレンが続けて言った。
「きっとこの屋敷に足を踏み入れた段階で発動したのだろう。まるで屋敷の中にいるような錯覚に陥る。いや、実際屋敷の中にいるのだろうが、少し次元が違う所にいると思うのが正しいのかもしれない」
フィオナは怪訝な顔でアレンに聞いた。
「そのようなことが出来るのですか? 初めて聞きましたわ」
「普通は出来ない。だが、王族しか入ることの出来ない禁書庫の中でそれを見たことがある」
「では、早くこの屋敷から出ましょう。一回出れば……」
アレンは首を横に振って、フィオナに言った。
「一度幻術にかかったら抜け出せない。おそらく出口の扉を開いても屋敷の中に戻される。一生出ることの出来ない迷宮みたいなものだ」
フィオナの顔がみるみる青くなっていく。
「まさか一生アレン様と二人きり? こんな場所でもお義兄様となら幸せな日々が過ごせると言うものですが、アレン様とだなんて……」
フィオナが落胆していると、アレンも同じことを考えていたようで、一人呟いている。
「俺だってクララとなら喜んで幻術に引っかかるさ。そして生涯誰にも邪魔されずに二人きりで死んでいく……最高のエンディングだ」
フィオナがハッとしてアレンに聞いた。
「お義兄様は幻術に引っかかっていないのかしら。もしいるのならアレン様がいても問題ないですわ」
「確かにな。三人で幻術に引っかかる手もあるのか。よし、あいつもどうにかして呼び寄せよう」
「でも、そんな方法はありますの?」
フィオナがアレンに聞くと、少し悩んだ末にアレンが言った。
「エリクが言っていた。『愛の力は偉大だ』と。この世界は何だかんだ愛の力で成り立っているらしい」
「よく分かりませんが、お義兄様の事を想えばどうにかなるのかしら」
「そうだな。一応幻術だから魔力も必要だろう。魔力を最大限に引き出しながらやってみよう」
「分かりましたわ」
フィオナとアレンはクライヴの事を想いながら魔力を最大限に引き出した。フィオナの青色の魔力とアレンの黒色の魔力が合わさり交わった。
すると、目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。フィオナとアレンの視線の先にはクライヴが現れた。しかし、現れたのは首元にナイフを突きつけられて身動きがとれなくなっているクライヴだ。
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