上 下
2 / 4

その2

しおりを挟む
キリアンと私の両親は学園時代からの親友で、小さい頃は親に連れられよくお互いの家に行き来をしていた。

黒髪黒目の美少年だったキリアンは、まずその容姿をもってして私を魅了した。

でも幼き頃のキリアンは、表情筋が全く動かない子で、笑うことも怒ることも泣くこともなかった。

最初は嫌われているのか不安になったけど
キリアンは表情こそないものの、それはそれは優しかった。

美少年に優しくされれば幼き自分なんてイチコロである。

私はキリアンに2度、恋に落とされたのだ。


「キリアンめ...」


恨みがましくもう一度その名を呟く。
長年の恋心、どうしてくれよう。

あんなに美青年で心が優しい男性を一番最初に好きになってしまったのだ。
今後他の男性に恋なんてできるのだろうか。
いや、そもそもキリアンなんて高嶺の花だったんだ。その事実に今気づくなんて、自分はなんて滑稽なんだ。

事実に気づいてまたじんわり視界が緩む。
今度は目から水分がこぼれ落ちそう。

今日は放課後買い物に出る予定だったけど
家に帰って引きこもったほうがいいかもしれない。


「いや、街で新しい出会いを見つけるのもいいかもしれない。この際新しい恋でもして...いやそう簡単には恋に落ちれないわよ、誰に恋してたと思ってるのよ」

ぶつぶつと声に出して歩いていると、不意に自分に影がさした。

「?」

不思議に思って上を向くと、幾分黒いオーラを出した噂のキリアンが目の前に居た。

「びっくりしたわ、歩行の邪魔よ」

「前を見て歩け。危ないだろう。」

はぁ、とため息を吐くその姿も麗しい。
もう一生目の前に現れないでほしい。恋心が再熱しちゃうでしょう、ほんとにもう。

「何を考えてた」

じっとこちらを見つめながら、なおも不機嫌オーラを放っている。
どうしたの、さっきはクラスメイトに今日は機嫌がいいらしいって聞いたのに。いや聞こえてきたのに。

「キリアンに関係ないわ。それよりも....いや、なんでもない」

恋の相談なんてキリアンにはできない。
傷が抉れる。
そんなことより今日の予定について文句を言おうとして、それもやめた。
忘れてたなんて聞いたら、それはそれで傷が抉れる。
そんなことになったら目から洪水が出る。
ついでに鼻からも出る。
そんな姿をまだ恋心が残っている想い人に見られるなんて負のスパイラルすぎるわ。


「......新しい恋がどうのって聞こえたが」

バッとキリアンを見る
なんてこと!聞こえてる!

「空耳よ!」

「そんなわけない。」

ム、と眉間に皺を寄せて小さく呟く。

「今日街で出会いを探そうとしてたのか、隣に俺がいるのに」

「へあ?」

「それは絶対許されない。」

「今日は聖女様と街に行くんでしょう?まるで私と一緒に行ってくれるかのように......」

「?、その約束だろう?」


あれ?勘違い?
私は今日、一緒に行く約束をすっぽかされるのかと悲嘆に暮れていたのに?

「聖女様は?」

「聖女様とプライベートでどこかに行くことはない」

クエスチョンマークが頭いっぱいに広がる
え?聖女様とはいい感じなのに、デートする気はないの?
それはなんというか、その恋は発展するの?してほしくはないけども。

「それよりロゼ」

「?」

「話をすり替えるな、今日は俺と出かけるだろう。新しい恋ってなんだ」

いつのまにか手首を掴まれて、逃すまいと圧をかけてくる

「...失恋したから、新しい恋を探そうと、ひぃっ!」

圧が強過ぎて声もそぞろに呟くと、先ほどまでの黒いオーラがさらに強まる
怖過ぎて思わず声が漏れてしまった。

「失恋?」

掴まれていた手首の力が強まる
地味に痛い。

「詳しく聞かせろ」

「それは無理!」

「ダメだ、言うまで離さないからな」

ずずい、と綺麗な顔が近づく
やめて、そんな綺麗な顔で近づいてこないで、全部吐いちゃいそう

「ロゼ...」

スッと手首を掴まれたまま、耳元で囁かれる

「教えてくれ」

滑らかな声が脳に直接響いて、胸がギュッと熱くなる
あぁ、キリアンにこんなふうに頼まれると、私は...

「ぅぁ、キリアン」

多分顔は真っ赤だろう
キリアンを見つめると、先ほどよりも眉間の皺がぐんと深まった

そのまま空き教室に連れられ、
遠くの方で授業が始まる始業ベルが鳴っているのが聞こえた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます

佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」 いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。 第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。 ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。 だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。 それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。   私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて―― ========= お姉様のスピンオフ始めました。 「体よく国を追い出された悪女はなぜか隣国を立て直すことになった」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482   ※無断転載・複写はお断りいたします。

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

幼なじみの親が離婚したことや元婚約者がこぞって勘違いしていようとも、私にはそんなことより譲れないものが1つだけあったりします

珠宮さくら
恋愛
最近、色々とあったシュリティ・バッタチャルジーは何事もなかったように話しかけてくる幼なじみとその兄に面倒をかけられながら、一番手にしたかったもののために奮闘し続けた。 シュリティがほしかったものを幼なじみがもっていて、ずっと羨ましくて仕方がなかったことに気づいている者はわずかしかいなかった。

処理中です...