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転生前、教師としての竜崎紫央⑦
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「竜崎先生がピンチなので来てしまいました」
近くまで来たのでついでに寄ってみました、と言わんばかりの気軽さで紅虎は紫央へ言ってのける。
あまりの危機感のなさに──いや、もしかしたら紅虎は何かしらの策があってこのような振る舞いなのかもしれないが──紫央は、その場で凍りついてしまう。
「だからって紅虎先生まで一緒に危険な橋を渡らなくてもいいじゃないですか!」
姫川には聞こえないように、最小限の声量で紅虎を咎める。
「でも、竜崎先生が視線でSOSを出してたので、だったら助けに行かなくちゃと思いまして」
悪びれもなくにこりと微笑んだ紅虎に、紫央は卒倒しそうになった。
「は? 俺がいつ、あなたにSOSを?」
「熱い視線を寄せてくれたじゃないですか」
誰にでも受けの良い美貌を、紅虎は嬉しそうに緩める。
たしかにSOSを投げてしまった自覚はある。
だからといって、熱い視線のつもりはなかった。
「違うんですか? じゃあ、あの熱視線は愛の告白フラグだったんですか? まさか両想い? 嬉しいなあ」
「はあ?」
勝手に勘違いし、ひとり盛り上がる紅虎が最早なにを言っているのか紫央には理解できなかった。
すると、左隣からぴしゃりと名前を呼ばれる。
当然の流れだと思った。
「竜崎先生!」
振り返らなくとも、姫川の怒りが最高潮に達したのがわかってしまう。
「は、はいっ」
情けないことに紫央は姫川のほうを向くことができなかった。
──紅虎先生……助けに来たどころか、余計なことしかしてないじゃないか。一体この先、どう切り抜ければいいんだよ!? 俺のことは放っておいて、何とか二人で決着つけてくれよ。
まるで前門の虎、後門の狼状態だった。
二人に挟まれた紫央は、熊に遭遇したときのように死んだフリをしてやり過ごそうかと考える。
けれど、フェンス越しに飛ぶ他の教師たちからの期待により、それは絶対に叶わないことで、やはり自力でどうにかしなければならないのだと意識してしまう。
とりあえず、紅虎のその余裕ある顔を瓶底メガネの下から全力で睨めつけてやる。
だが、大して威力はないみたいだ。
ニコニコと微笑んだままでいる。
悔しいので、もう一度紅虎を睨んでやった。
「やっぱり二人は付き合っているんですか? 何も知らない僕をからかって楽しかったですか?」
「だから紅虎先生とは同僚という以外何の関係もないし、だいたい何が悲しくて自分より大きな男に迫らなくちゃならないんだ」
ヤケになった紫央は冷静さを欠いて、あろうことか生徒である姫川に反論してしまう。
「……は?」
これに関して先に反応したのは紅虎のほうだった。
たちまち唯ならぬ怒気を全身から発して、王子様然とした空気が邪悪なものへと変化していく。
──げ、なんなんだよ……。
その威圧感に、紫央を介していたはずの姫川は恐怖で今にもその場にへたりこみそうだった。
「姫川、大丈夫か!」
反射的に紫央は手を伸ばし姫川の背を支える。
途端、それまでにはなかった突風が紫央たちを襲う。
小柄な姫川の身体はいとも簡単に翻弄され、あっという間に足元が掬われてしまう。
「あ!」
姫川が声を上げるのとほぼ同時、その身体は空へ放り出されていた。
近くまで来たのでついでに寄ってみました、と言わんばかりの気軽さで紅虎は紫央へ言ってのける。
あまりの危機感のなさに──いや、もしかしたら紅虎は何かしらの策があってこのような振る舞いなのかもしれないが──紫央は、その場で凍りついてしまう。
「だからって紅虎先生まで一緒に危険な橋を渡らなくてもいいじゃないですか!」
姫川には聞こえないように、最小限の声量で紅虎を咎める。
「でも、竜崎先生が視線でSOSを出してたので、だったら助けに行かなくちゃと思いまして」
悪びれもなくにこりと微笑んだ紅虎に、紫央は卒倒しそうになった。
「は? 俺がいつ、あなたにSOSを?」
「熱い視線を寄せてくれたじゃないですか」
誰にでも受けの良い美貌を、紅虎は嬉しそうに緩める。
たしかにSOSを投げてしまった自覚はある。
だからといって、熱い視線のつもりはなかった。
「違うんですか? じゃあ、あの熱視線は愛の告白フラグだったんですか? まさか両想い? 嬉しいなあ」
「はあ?」
勝手に勘違いし、ひとり盛り上がる紅虎が最早なにを言っているのか紫央には理解できなかった。
すると、左隣からぴしゃりと名前を呼ばれる。
当然の流れだと思った。
「竜崎先生!」
振り返らなくとも、姫川の怒りが最高潮に達したのがわかってしまう。
「は、はいっ」
情けないことに紫央は姫川のほうを向くことができなかった。
──紅虎先生……助けに来たどころか、余計なことしかしてないじゃないか。一体この先、どう切り抜ければいいんだよ!? 俺のことは放っておいて、何とか二人で決着つけてくれよ。
まるで前門の虎、後門の狼状態だった。
二人に挟まれた紫央は、熊に遭遇したときのように死んだフリをしてやり過ごそうかと考える。
けれど、フェンス越しに飛ぶ他の教師たちからの期待により、それは絶対に叶わないことで、やはり自力でどうにかしなければならないのだと意識してしまう。
とりあえず、紅虎のその余裕ある顔を瓶底メガネの下から全力で睨めつけてやる。
だが、大して威力はないみたいだ。
ニコニコと微笑んだままでいる。
悔しいので、もう一度紅虎を睨んでやった。
「やっぱり二人は付き合っているんですか? 何も知らない僕をからかって楽しかったですか?」
「だから紅虎先生とは同僚という以外何の関係もないし、だいたい何が悲しくて自分より大きな男に迫らなくちゃならないんだ」
ヤケになった紫央は冷静さを欠いて、あろうことか生徒である姫川に反論してしまう。
「……は?」
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──げ、なんなんだよ……。
その威圧感に、紫央を介していたはずの姫川は恐怖で今にもその場にへたりこみそうだった。
「姫川、大丈夫か!」
反射的に紫央は手を伸ばし姫川の背を支える。
途端、それまでにはなかった突風が紫央たちを襲う。
小柄な姫川の身体はいとも簡単に翻弄され、あっという間に足元が掬われてしまう。
「あ!」
姫川が声を上げるのとほぼ同時、その身体は空へ放り出されていた。
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