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第一章「sinful relations」
第一話「signal red」
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その瞬間、はっと目が合った。
栗色の大きな瞳が瞬きをしていた。
足をがくんと躓かせバランスを崩す体が、スローモーション
のようにゆっくりと流れている。
思わず駆け出す。
宙を舞い始めた体を目で追いながら、
階段を登る。
支えようと腕を伸ばすが、間に合うわけが無い。
ただ一緒に落ちていくしかなかった。
驚くほど細い体に巻き込まれ、
縺れ合うように階下へと。
ふわりと羽根のような感触の女の子を
抱きかかえるように受け止める。
自分が下にいる体勢だがさほど重くはない。
柔らかくて心地よい体をきつく抱きしめる。
階段を滑り落ちたが互いに、幸い怪我などは無かったようだ。
その証拠に彼女は痛みに顔を歪めていない。
さすがに気を失っているようだが。
「……? 」
気が付いたのか、彼女が腕の中で身じろぎを始めた。
状況がつかめていないのだろうか。
抱きしめる腕に力を込めた。
彼女は抱きかかえられた様な体勢で床に倒れている格好だ。
その瞬間、体を強張らせるのが分かった。
「ごめんなさい……」
申し訳なさそうに謝っている。
「支えてもらってありがとうございます。
お怪我ありませんか」
「ううっ」
僅かに呻いてみせる。
特に痛みなど無かったのだが。
「……胸が痛い」
ちょうど心臓の部分に手を当てて言ってみる。
階下で見つけた瞬間、囚われていた。
澄んだ栗色の瞳と黒い艶髪。
「う……本当にごめんなさい」
また申し訳なさそうな様子で謝る彼女。
そんなに謝らなくてもいいんじゃないか。
そろりと目を開けると、こちらへと頭を動かそうとしているのが分かった。
横目に飛び込んできたのは困り果てた表情。
見知らぬ相手に助けてもらった上に怪我をさせたかも
しれないという不安に、瞳を潤ませている。
少し悪戯が過ぎたかな。
かすかな罪悪感が胸を覆うが、口の端に浮かぶ笑みは消せなかった。
「君こそ大丈夫か? 」
妖しく微笑み、腕の中にいる彼女をぎゅっと抱いた。
温もりが伝わってくる。
「ええもう大丈夫です」
無理矢理、俺の体を剥がし立ち上がろうとする
彼女を強く抱きとめる。
「……え……っ」
「送っていこうか? 」
「……バスで帰りますから」
倒れこんだままの姿勢で、彼女は答える。
「気にしなくていい」
「……じゃあ」
「お茶でも飲んでいきますか? 」
彼女は微笑んでいた。
「ええ」
お茶だけですめばいいが……。
意味深な笑みを浮かべ、後ろを歩き始めた。
小さな部屋の中に静寂が満ちている。
どこからか香るポプリとベッドサイドの
花の匂いが、鼻をくすぐり、脳内を刺激した。
あどけなく微笑む少女と、お茶を飲み会話を交わす。
穏やかすぎる時間……ずっと続けばいいのに。
心にも無いことを思う。
「歳、いくつ? 」
「次の誕生日で20歳になります」
若いと思っていたが、まだ10代だったとは。
それでも、彼女に女を感じていた。
「俺は今26。今年で27だ」
クスと苦笑い。
たやすく見知らぬ男を部屋に招きいれるなど無恥極まりない。
まだ何も知らないんだろうな。
「あ、そういえば同じ会社の方なんですよね?
だとしたら先輩ですね。」
「いや、仕事であそこに行っただけで会社は別だ」
「そうなんですか」
彼女はさり気なく紅茶のお替わりを薦める。
あと少しくらいこんな時間を楽しむのもいいだろう。
「時間大丈夫ですか? お引止めして申し訳ないです」
「ああ……時間は大丈夫だ。明日は日曜だろう」
「それじゃあもう少しお話付き合って下さると嬉しいんですが。
勿論ご迷惑じゃなければですけど。
独りなので寂しくて。
友達は近くに住んでないし、休みも一人だし、
こんな機会滅多に無いですもの。
それと、お酒なくてごめんなさい。まだ未成年なので。
あ、お腹空いてたら言って下さいね。
私は一度家に戻ってから、会社に忘れ物を取りに行ったので、
食べてるんですが」
幾分早口でまくし立てる彼女に苦笑いする。
無邪気そのものだ。
「折角だが空いてないからいい。ありがとう」
何かを渇望してはいるけれど……。
「ちょっと待ってて下さいね。冷蔵庫にクッキー入ってた
と思うので取ってきます」
テーブルから立った彼女にひらひらと手をふる。
その後姿を見送る振りをして、後を追う。
後ろから背中を抱きしめた。
彼女の肩口に顔を埋め、耳元で囁く。
「もっとじっくり話さないか? 」
吐息がかかるほどに近づいていた。
体をびくんとさせている。
伝わってくる呼吸と、心臓の音。
彼女の胸は早鐘を打っていた。
「もっと君のことが知りたいな」
「あ、いいですよ。何でも聞いてください」
なんて可愛いのか。
意地悪をして困らせたくなった俺に罪は無いだろう。
彼女が悪い。
「え!? 」
びくっと体を強張らせた彼女をするりと抱き上げた。
答えを探す時間など与えず。
警戒されている。
理解できる感情の揺れだろう。
そのまま横抱きにして部屋へと連れて行く。
白いシーツのベッドの上に降ろす。
女性が一人で使う分にはジャストサイズのシングルベッドなので、
二人だと、明らかに手狭だ。俺の体格と彼女の体格も大分違う。
逆に考えれば、より密着感が味わえるという利点があるけれど。
「……いいか? 」
彼女は暫し、逡巡した後、
「……いいわ」
自分が発した言葉の意味が掴めなかった。
何を聞きたかったのかは、のちのちになって分かるのだろうか。
その時には既に取り返しがつかなくなっていることくらいは分かりきっていたが。
一つだけ言えるのなら、抵抗して欲しいということか。
冷静な部分が理性として残っていることに内心安堵するも、
それがあまりにも消えやすい物である事は、確かで。
彼女は意味が分かった上で、イエスと答えたのだと勝手に自己解決した。
震える体をそっと横たえていく。
見開かれた栗色の瞳が一瞬俺を見抜く。
その鋭さがあまりにも鮮烈過ぎて瞼を焼かれる。
両腕で頭を包み込んで、髪を撫で、小さく口づけをする。
彼女を寝台に縫い付けるように、覆い被さった。
組み敷いた体。
彼女は抵抗する気などないのか、ただこちらを見つめているだけだ。
耳朶を甘噛みすると、甘い吐息が漏れる。
「ん……」
無意識に出た声だが、これは気持ちを高ぶらせる起爆剤だ。
首筋にキスを落としながらゆっくりと衣服の留め具をを外す。
やがて闇の中に白い肌が浮かび上がった。
光に透けるほど白い……。
月明かりに照らされた白い体が映し出される。
彼女の唇に己のそれを重ねる。
自然と閉じられた瞳。
何度も口づけを繰り返す。
互いの息が行き交う。
舌を差し入れ、絡め、吸い尽くす。
蕩けるような表情で、口づけを返してくる。
長い時間口づけだけを繰り返していた。
彼女は首に腕を回し、潤んだ瞳で俺を見上げている。
高鳴る胸の音が部屋に響く。
外れたピアスの痕が痛々しい耳に舌を這わせ、舐め上げた。
息を吹きかけると、一瞬体が跳ねる。
「……っ……ん」
耳朶を噛む間も指は肌を下降する。
頬を伝い、唇をなぞり、髪の感触を味わい、
鎖骨を指の先でそっと線を引くように愛撫した。
ささやか愛撫を繰り返す度に彼女は喘ぐ。
声にならない声で乱れてしまう。
もうどうなっても構わない。
刹那的な感情が生まれる。
衣服を脱ぎ捨て下着だけの姿になった。
彼女は、ただシーツを握り締めている。
今までの無邪気で汚れのない彼女の
別の顔が暴かれた。
『女』の顔を曝け出している。
一時の甘い夢とは知らぬままに絡め取られた。
陶酔した表情を浮かべている彼女は綺麗で。
背中に口づけ、指を滑らせると、
声を上げて啼き始めた。
「は……あ……っ……ん……っ」
止むことの無い愛撫に絶えず喘ぐ。
クラリと意識が霞んでいくようだった。
首筋を吸い上げ、点々と赤い華を散らせていく。
白い体に刻まれる赤は眩しいほど鮮やかに目に映る。
そして辿りついた敏感な場所。
唇でついばむように触れると、体が反る。
「う……あ……っん」
段々と甘く高くなる声に思わず酔う。
両の指で頂を弾き、胸を揉む。
撫でるように、時にはだんだんと強く。
片方の胸を口に含みながら、
片方の胸を鷲掴むように揉みしだく。
「は……あ……んっ! 」
狂おしい熱に包まれて、体が温度を上げる。
最初の戸惑いから、処女だとすぐに分かったが、
それにしては、感度が良好だった。
軽く、舞い上がってしまうくらい。
「綺麗だ」
真実、思ったことを口にする。 淫らな姿を見せている彼女は本気で綺麗だと思った。
肌に口づけ、舌で吸う。
指を胸から腹部に移動させ、
つつくように触れる。
「あ……っ……っ」
口角を指でなぞり問いかけた。
「本当にいいんだな……」
最後の最後で問いかけたのは、自分への戒めで
あったのかもしれない。
何も意味はなかったが。
彼女の硬かった体は、いつの間にか柔らかくなっていたからだ。
俺は両足を開かせ、自らの腰を
その間に割り込ませた。
驚いたのか、一瞬体を震わせるが、すぐにそれも止む。
一緒に踊ろうか。
官能に狂い上りつめよう。
さあ手を引いてやる。
知らず笑みが浮かんだ。
頭の側に腕をつき、より見下ろす体勢になると、
ベッドがぎしぎしと激しい音を立てて悲鳴を上げた。
熱っぽい瞳で俺を見る彼女の髪を撫で、口づけた。
それが始まりの合図。
大きく広げられた足。
その間にある秘所に、指を一本差し入れると、
「や……や、め……」
突然の異物感に脅えた。
だが止めることはしない。
更に入れる指の本数を増やす。
「……っ」
指で突き、出し入れをする。
速度を早め、絶え間なく何度も。
痛みに引き裂かれ、苦しそうな表情が、
快楽を感じているそれへと染まってきた。
指を抜くと、強く主張している己の昂ぶりを枷から解放した。
財布の中に、運よく入っていた避妊具を纏わせる。
昂ぶりを彼女の入り口付近に押しつければ鋭い啼き声が上がった。
俺も用意がいいというか、寧ろあったのを覚えていたから事に及んだわけだが。
両腕を掴み、握り締め、腰を進める。
開かれた体の中に少しづつ侵入していく。
熱が入り込む。
「……キャッ!? 」
今までにない激しい衝撃に襲われ、彼女は一瞬、顔を歪めた。
そんな表情などすぐに消してやる。
頼りない腕を背中に回させ、一気に貫いた。
「あああああああっ!! 」
一際高い声が上がる。
彼女の様子を見ながら、腰の動きを変えていく。
幾度となく出入りを繰り返す。
ベッドは揺れ続け、波音が聞こえている。
漂い始めた女の色香。
動きを強めるほどに陶酔した表情になり、
やがて、背中に爪をつき立てた。
整えられた綺麗な爪が、背中に傷をつける。
「……くっ」
締め付けられ、身動きが取れなくなる。
堰き立てられるように、奥底まで己を突き立てた。
「……はあああああん!! 」
甘い声でよがる。
自然と彼女の瞳からは、涙が零れていた。
どうして女は繋がった瞬間こんな綺麗な顔をするのか。
初めて体験したからだろうか。
より眩しく目に映るのは。
意識はしてないだろうが、そういう顔をされたら、
男がどうなるのか知ってるのか?
刺激されて、疼きだすんだからな。
お前が責任取らなければ許されないことだ。
彼女は否を唱えるかの如く、首を横に振っている。
恍惚に酔いしれた表情のまま、瞳を閉じた。
腰を抱え、より深く交わる為に己を押し込む。
絡められた両足が、まとわりついて、
俺自身を暴走させる元となる。
突き上げるのを止められない。
ベッドが軋み、ぎしぎしと鳴り続けた。
俺は共に堕ちた女に愛しさを感じていた。
溢れる激情がこの身を支配する。
突き上げ、体の隅々に口づけ、両の手で白い胸を揉み包み込む。
その度に腰が揺れ、背中は反り返り続ける。
ぐらりと重力に逆らって。
沈み込もうとする体を抱きかかえ、唇を重ねる。
腰を彼女の中へと……。
激しい行為に、汗が弾ける。
汗で肌に貼りついた髪が妙に艶かしかった。
どれだけ長い間彼女と繋がっていただろうか。
それすらも分からなくなっていた。
あまりにも心地よくて無我夢中に抱いていたから。
薄膜越しに、熱を開放して、終わらせる。
その瞬間、脱力して、華奢な体に覆いかぶさった。
開放感に包まれて、どうしようもなく気持がよかった。
ぐったりとした体をくねらせ、眠っている彼女を
抱き寄せ、髪を撫で、
自分の腕の上に頭を乗せた。
体が触れ、また奥底の熱が呼び起こされそうになるも、
何とかそれをこらえ、柔らかな感触を楽しむに留める。
深く口づけながら、首筋から胸にかけて撫でる。
少女から女という生き物に変わり、
これからどんなに、美しくなるのだろう。
「はあ……はあ……っ」
新たな喘ぎ声が紡がれた。
気持ち良さそうな表情を隠さない。
陶酔しきっているようだ。
俺は微かに瞼を開けた瞳に、そっと呟く。
「名前言ってなかったな」
告げずにいようと思っていたが……、
重い気持ちが膨らんで堪えられそうになかった。
「ん……」
聞こえているのか知らないが、彼女から声が漏れた。
「俺は青だ」
「……せい」
微かな声が名を呼ぶ。
「私は……沙矢」
「沙矢か。よく似合ってるな」
敢えて、姓をつけて名乗らず下の名前だけ。
俺に続いて彼女もちゃんと、名前だけ答えた。
頭は悪くなさそうだと思った。
「もう会うこともないだろうが……気をつけろよ」
彼女は少し笑いながら、こくりと頷いた。
それから一緒に眠りに落ち、目覚めたのは夜が明けた頃。
衣服のポケットから煙草を取り出し、吸う。
紫煙をくゆらせながら、彼女の頭を抱く。
いつも吸っている味なのに何故だか普段より苦く感じた。
その唇を彼女の唇に重ねる。
別れのキスはついばむだけの軽い口づけ。
じゃあな。
心中で呟いて、寝台から脱け出た。
素早く、着ていた物を纏い、部屋から出る。
乱れたシーツに眠る女をちらと一度だけ振り返って。
栗色の大きな瞳が瞬きをしていた。
足をがくんと躓かせバランスを崩す体が、スローモーション
のようにゆっくりと流れている。
思わず駆け出す。
宙を舞い始めた体を目で追いながら、
階段を登る。
支えようと腕を伸ばすが、間に合うわけが無い。
ただ一緒に落ちていくしかなかった。
驚くほど細い体に巻き込まれ、
縺れ合うように階下へと。
ふわりと羽根のような感触の女の子を
抱きかかえるように受け止める。
自分が下にいる体勢だがさほど重くはない。
柔らかくて心地よい体をきつく抱きしめる。
階段を滑り落ちたが互いに、幸い怪我などは無かったようだ。
その証拠に彼女は痛みに顔を歪めていない。
さすがに気を失っているようだが。
「……? 」
気が付いたのか、彼女が腕の中で身じろぎを始めた。
状況がつかめていないのだろうか。
抱きしめる腕に力を込めた。
彼女は抱きかかえられた様な体勢で床に倒れている格好だ。
その瞬間、体を強張らせるのが分かった。
「ごめんなさい……」
申し訳なさそうに謝っている。
「支えてもらってありがとうございます。
お怪我ありませんか」
「ううっ」
僅かに呻いてみせる。
特に痛みなど無かったのだが。
「……胸が痛い」
ちょうど心臓の部分に手を当てて言ってみる。
階下で見つけた瞬間、囚われていた。
澄んだ栗色の瞳と黒い艶髪。
「う……本当にごめんなさい」
また申し訳なさそうな様子で謝る彼女。
そんなに謝らなくてもいいんじゃないか。
そろりと目を開けると、こちらへと頭を動かそうとしているのが分かった。
横目に飛び込んできたのは困り果てた表情。
見知らぬ相手に助けてもらった上に怪我をさせたかも
しれないという不安に、瞳を潤ませている。
少し悪戯が過ぎたかな。
かすかな罪悪感が胸を覆うが、口の端に浮かぶ笑みは消せなかった。
「君こそ大丈夫か? 」
妖しく微笑み、腕の中にいる彼女をぎゅっと抱いた。
温もりが伝わってくる。
「ええもう大丈夫です」
無理矢理、俺の体を剥がし立ち上がろうとする
彼女を強く抱きとめる。
「……え……っ」
「送っていこうか? 」
「……バスで帰りますから」
倒れこんだままの姿勢で、彼女は答える。
「気にしなくていい」
「……じゃあ」
「お茶でも飲んでいきますか? 」
彼女は微笑んでいた。
「ええ」
お茶だけですめばいいが……。
意味深な笑みを浮かべ、後ろを歩き始めた。
小さな部屋の中に静寂が満ちている。
どこからか香るポプリとベッドサイドの
花の匂いが、鼻をくすぐり、脳内を刺激した。
あどけなく微笑む少女と、お茶を飲み会話を交わす。
穏やかすぎる時間……ずっと続けばいいのに。
心にも無いことを思う。
「歳、いくつ? 」
「次の誕生日で20歳になります」
若いと思っていたが、まだ10代だったとは。
それでも、彼女に女を感じていた。
「俺は今26。今年で27だ」
クスと苦笑い。
たやすく見知らぬ男を部屋に招きいれるなど無恥極まりない。
まだ何も知らないんだろうな。
「あ、そういえば同じ会社の方なんですよね?
だとしたら先輩ですね。」
「いや、仕事であそこに行っただけで会社は別だ」
「そうなんですか」
彼女はさり気なく紅茶のお替わりを薦める。
あと少しくらいこんな時間を楽しむのもいいだろう。
「時間大丈夫ですか? お引止めして申し訳ないです」
「ああ……時間は大丈夫だ。明日は日曜だろう」
「それじゃあもう少しお話付き合って下さると嬉しいんですが。
勿論ご迷惑じゃなければですけど。
独りなので寂しくて。
友達は近くに住んでないし、休みも一人だし、
こんな機会滅多に無いですもの。
それと、お酒なくてごめんなさい。まだ未成年なので。
あ、お腹空いてたら言って下さいね。
私は一度家に戻ってから、会社に忘れ物を取りに行ったので、
食べてるんですが」
幾分早口でまくし立てる彼女に苦笑いする。
無邪気そのものだ。
「折角だが空いてないからいい。ありがとう」
何かを渇望してはいるけれど……。
「ちょっと待ってて下さいね。冷蔵庫にクッキー入ってた
と思うので取ってきます」
テーブルから立った彼女にひらひらと手をふる。
その後姿を見送る振りをして、後を追う。
後ろから背中を抱きしめた。
彼女の肩口に顔を埋め、耳元で囁く。
「もっとじっくり話さないか? 」
吐息がかかるほどに近づいていた。
体をびくんとさせている。
伝わってくる呼吸と、心臓の音。
彼女の胸は早鐘を打っていた。
「もっと君のことが知りたいな」
「あ、いいですよ。何でも聞いてください」
なんて可愛いのか。
意地悪をして困らせたくなった俺に罪は無いだろう。
彼女が悪い。
「え!? 」
びくっと体を強張らせた彼女をするりと抱き上げた。
答えを探す時間など与えず。
警戒されている。
理解できる感情の揺れだろう。
そのまま横抱きにして部屋へと連れて行く。
白いシーツのベッドの上に降ろす。
女性が一人で使う分にはジャストサイズのシングルベッドなので、
二人だと、明らかに手狭だ。俺の体格と彼女の体格も大分違う。
逆に考えれば、より密着感が味わえるという利点があるけれど。
「……いいか? 」
彼女は暫し、逡巡した後、
「……いいわ」
自分が発した言葉の意味が掴めなかった。
何を聞きたかったのかは、のちのちになって分かるのだろうか。
その時には既に取り返しがつかなくなっていることくらいは分かりきっていたが。
一つだけ言えるのなら、抵抗して欲しいということか。
冷静な部分が理性として残っていることに内心安堵するも、
それがあまりにも消えやすい物である事は、確かで。
彼女は意味が分かった上で、イエスと答えたのだと勝手に自己解決した。
震える体をそっと横たえていく。
見開かれた栗色の瞳が一瞬俺を見抜く。
その鋭さがあまりにも鮮烈過ぎて瞼を焼かれる。
両腕で頭を包み込んで、髪を撫で、小さく口づけをする。
彼女を寝台に縫い付けるように、覆い被さった。
組み敷いた体。
彼女は抵抗する気などないのか、ただこちらを見つめているだけだ。
耳朶を甘噛みすると、甘い吐息が漏れる。
「ん……」
無意識に出た声だが、これは気持ちを高ぶらせる起爆剤だ。
首筋にキスを落としながらゆっくりと衣服の留め具をを外す。
やがて闇の中に白い肌が浮かび上がった。
光に透けるほど白い……。
月明かりに照らされた白い体が映し出される。
彼女の唇に己のそれを重ねる。
自然と閉じられた瞳。
何度も口づけを繰り返す。
互いの息が行き交う。
舌を差し入れ、絡め、吸い尽くす。
蕩けるような表情で、口づけを返してくる。
長い時間口づけだけを繰り返していた。
彼女は首に腕を回し、潤んだ瞳で俺を見上げている。
高鳴る胸の音が部屋に響く。
外れたピアスの痕が痛々しい耳に舌を這わせ、舐め上げた。
息を吹きかけると、一瞬体が跳ねる。
「……っ……ん」
耳朶を噛む間も指は肌を下降する。
頬を伝い、唇をなぞり、髪の感触を味わい、
鎖骨を指の先でそっと線を引くように愛撫した。
ささやか愛撫を繰り返す度に彼女は喘ぐ。
声にならない声で乱れてしまう。
もうどうなっても構わない。
刹那的な感情が生まれる。
衣服を脱ぎ捨て下着だけの姿になった。
彼女は、ただシーツを握り締めている。
今までの無邪気で汚れのない彼女の
別の顔が暴かれた。
『女』の顔を曝け出している。
一時の甘い夢とは知らぬままに絡め取られた。
陶酔した表情を浮かべている彼女は綺麗で。
背中に口づけ、指を滑らせると、
声を上げて啼き始めた。
「は……あ……っ……ん……っ」
止むことの無い愛撫に絶えず喘ぐ。
クラリと意識が霞んでいくようだった。
首筋を吸い上げ、点々と赤い華を散らせていく。
白い体に刻まれる赤は眩しいほど鮮やかに目に映る。
そして辿りついた敏感な場所。
唇でついばむように触れると、体が反る。
「う……あ……っん」
段々と甘く高くなる声に思わず酔う。
両の指で頂を弾き、胸を揉む。
撫でるように、時にはだんだんと強く。
片方の胸を口に含みながら、
片方の胸を鷲掴むように揉みしだく。
「は……あ……んっ! 」
狂おしい熱に包まれて、体が温度を上げる。
最初の戸惑いから、処女だとすぐに分かったが、
それにしては、感度が良好だった。
軽く、舞い上がってしまうくらい。
「綺麗だ」
真実、思ったことを口にする。 淫らな姿を見せている彼女は本気で綺麗だと思った。
肌に口づけ、舌で吸う。
指を胸から腹部に移動させ、
つつくように触れる。
「あ……っ……っ」
口角を指でなぞり問いかけた。
「本当にいいんだな……」
最後の最後で問いかけたのは、自分への戒めで
あったのかもしれない。
何も意味はなかったが。
彼女の硬かった体は、いつの間にか柔らかくなっていたからだ。
俺は両足を開かせ、自らの腰を
その間に割り込ませた。
驚いたのか、一瞬体を震わせるが、すぐにそれも止む。
一緒に踊ろうか。
官能に狂い上りつめよう。
さあ手を引いてやる。
知らず笑みが浮かんだ。
頭の側に腕をつき、より見下ろす体勢になると、
ベッドがぎしぎしと激しい音を立てて悲鳴を上げた。
熱っぽい瞳で俺を見る彼女の髪を撫で、口づけた。
それが始まりの合図。
大きく広げられた足。
その間にある秘所に、指を一本差し入れると、
「や……や、め……」
突然の異物感に脅えた。
だが止めることはしない。
更に入れる指の本数を増やす。
「……っ」
指で突き、出し入れをする。
速度を早め、絶え間なく何度も。
痛みに引き裂かれ、苦しそうな表情が、
快楽を感じているそれへと染まってきた。
指を抜くと、強く主張している己の昂ぶりを枷から解放した。
財布の中に、運よく入っていた避妊具を纏わせる。
昂ぶりを彼女の入り口付近に押しつければ鋭い啼き声が上がった。
俺も用意がいいというか、寧ろあったのを覚えていたから事に及んだわけだが。
両腕を掴み、握り締め、腰を進める。
開かれた体の中に少しづつ侵入していく。
熱が入り込む。
「……キャッ!? 」
今までにない激しい衝撃に襲われ、彼女は一瞬、顔を歪めた。
そんな表情などすぐに消してやる。
頼りない腕を背中に回させ、一気に貫いた。
「あああああああっ!! 」
一際高い声が上がる。
彼女の様子を見ながら、腰の動きを変えていく。
幾度となく出入りを繰り返す。
ベッドは揺れ続け、波音が聞こえている。
漂い始めた女の色香。
動きを強めるほどに陶酔した表情になり、
やがて、背中に爪をつき立てた。
整えられた綺麗な爪が、背中に傷をつける。
「……くっ」
締め付けられ、身動きが取れなくなる。
堰き立てられるように、奥底まで己を突き立てた。
「……はあああああん!! 」
甘い声でよがる。
自然と彼女の瞳からは、涙が零れていた。
どうして女は繋がった瞬間こんな綺麗な顔をするのか。
初めて体験したからだろうか。
より眩しく目に映るのは。
意識はしてないだろうが、そういう顔をされたら、
男がどうなるのか知ってるのか?
刺激されて、疼きだすんだからな。
お前が責任取らなければ許されないことだ。
彼女は否を唱えるかの如く、首を横に振っている。
恍惚に酔いしれた表情のまま、瞳を閉じた。
腰を抱え、より深く交わる為に己を押し込む。
絡められた両足が、まとわりついて、
俺自身を暴走させる元となる。
突き上げるのを止められない。
ベッドが軋み、ぎしぎしと鳴り続けた。
俺は共に堕ちた女に愛しさを感じていた。
溢れる激情がこの身を支配する。
突き上げ、体の隅々に口づけ、両の手で白い胸を揉み包み込む。
その度に腰が揺れ、背中は反り返り続ける。
ぐらりと重力に逆らって。
沈み込もうとする体を抱きかかえ、唇を重ねる。
腰を彼女の中へと……。
激しい行為に、汗が弾ける。
汗で肌に貼りついた髪が妙に艶かしかった。
どれだけ長い間彼女と繋がっていただろうか。
それすらも分からなくなっていた。
あまりにも心地よくて無我夢中に抱いていたから。
薄膜越しに、熱を開放して、終わらせる。
その瞬間、脱力して、華奢な体に覆いかぶさった。
開放感に包まれて、どうしようもなく気持がよかった。
ぐったりとした体をくねらせ、眠っている彼女を
抱き寄せ、髪を撫で、
自分の腕の上に頭を乗せた。
体が触れ、また奥底の熱が呼び起こされそうになるも、
何とかそれをこらえ、柔らかな感触を楽しむに留める。
深く口づけながら、首筋から胸にかけて撫でる。
少女から女という生き物に変わり、
これからどんなに、美しくなるのだろう。
「はあ……はあ……っ」
新たな喘ぎ声が紡がれた。
気持ち良さそうな表情を隠さない。
陶酔しきっているようだ。
俺は微かに瞼を開けた瞳に、そっと呟く。
「名前言ってなかったな」
告げずにいようと思っていたが……、
重い気持ちが膨らんで堪えられそうになかった。
「ん……」
聞こえているのか知らないが、彼女から声が漏れた。
「俺は青だ」
「……せい」
微かな声が名を呼ぶ。
「私は……沙矢」
「沙矢か。よく似合ってるな」
敢えて、姓をつけて名乗らず下の名前だけ。
俺に続いて彼女もちゃんと、名前だけ答えた。
頭は悪くなさそうだと思った。
「もう会うこともないだろうが……気をつけろよ」
彼女は少し笑いながら、こくりと頷いた。
それから一緒に眠りに落ち、目覚めたのは夜が明けた頃。
衣服のポケットから煙草を取り出し、吸う。
紫煙をくゆらせながら、彼女の頭を抱く。
いつも吸っている味なのに何故だか普段より苦く感じた。
その唇を彼女の唇に重ねる。
別れのキスはついばむだけの軽い口づけ。
じゃあな。
心中で呟いて、寝台から脱け出た。
素早く、着ていた物を纏い、部屋から出る。
乱れたシーツに眠る女をちらと一度だけ振り返って。
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