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実地訓練−治安維持活動:編入3日目

治安維持活動③

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「だからね、何か困ってたら、いつでも教えてね。頼りにならないかもしれないけど、でも、私、

 ——累くんのこと好きだからさ」



「え……あ、ありがとう……」

 ニイナの突然の告白に面食らった累。

 一体どんな流れになれば、敵を背後にした緊迫感あるこの状況で、こんな会話になるのだろうか。
 いや、嬉しいものは嬉しいが……なんて浮ついた気分に浸ったのも束の間、ニイナの表情がどんどん暗くなっていく。

 あ、そういう系の話じゃなかったですか……。
 あーびっくりしたー……と内心胸を撫で下ろしたのは許してクダサイ。

「その……綺麗な目の事とか、色々、累くんが言えない事、いっぱいあるかもしれないけど、でも……黙っていなくならないでね」

 そう告げるニイナの長い睫毛は、滲んだ涙で濡れて束になり、瞬く度にキラキラと光を反射している。

 累は、話が急降下すぎて、どうしたら良いのか分からず、困惑気味に頷いた。

「大丈夫だよ。編入したばっかりだし……」
「ほんと? 約束だよ?」

 覗き込むように密着してくるニイナは、累の返事を聞いても、寂しそうな雰囲気のままだ。
 累に気の利いた言葉なんて思い浮かぶはずもなく、ストレートに理由を聞いてみる。

「えっと、ニイナこそ、突然どうしたの……?」
「ぁ……そっか、知らないよね……。あの、ね、友達がね……、ドロップアウトしちゃったみたい」
「え……っ!?」

 予想外の言葉に、思わず大きな声が漏れそうになり、慌てて口をつぐんだ。

「ドロップアウト……?」
「うん……。柚ちゃん、昨日から来てなくてね……、今日の朝、ドロップアウトが確定したの。……全然そんな雰囲気無かったから、本当にショックで……」

 そんなことがあったのなら、落ち込んでいるのも納得できる。いや、それならそれで、もっとわかりやすく最初からこの話を振ってくれたら驚かなかったんですけど……なんて。

 肩を落とすニイナの背中を、慰める意味合いで軽く撫でると、ひとつ、大きく息を吐いた彼女が、力なく笑った。

「私も柚ちゃんも、小さい頃、ノクスロスに襲われたことがあってね……ふふっ、まぁ良くある話なんだけど、助けに来てくれた魔法士様に憧れてたんだ。すっごいカッコ良かったの。あんな風になりたい、って、お互いに話してて……だからドロップアウトするなんて、まだ全然信じられないっていうか……」
「…………」
「何か困ってたなら、言ってくれたら良かったのに、って。……でも言えないから、黙って行っちゃったのかな……」
「え、黙って、って……もしかして……」

「うん。退学手続きとかはしてないみたい。部屋が空っぽで、訓練にも来ないから、今日付けで『除名処分』だって。——ヘルベルトみたいだね」

 最後にポツリと呟いたニイナの言葉に、不審感が増す。
 ヘルベルトは、置き手紙だけで行方をくらまし、ニイナの友達は、荷物ごと姿を消してしまった。
 過酷な魔法学校とはいえ、こんなに簡単に生徒が脱走してしまうのは、少し変じゃないだろうか。それに、編入前に立ち寄った町でも、同じような噂を耳にした。……ということは、少なくともおかしい、と周囲が感じるほどの状況なのだ。

 本当に、本人の意思での行動なのか、調べる必要があるだろう。
 学校側が困難ならば、累が主導して。

 冷静にそこまでを考えた累は、俯いた頰にさらりとかかる、ニイナの柔らかい髪を、指で梳いた。

「ニイナこそ、大丈夫?」
「えへへー、累くん優しい。……もちろん、大丈夫だよ。だって私、今は魔法士部隊の一員なんだから」

 ふわりと顔を上げたニイナは、強い意志を持って累を見つめた。
 瞳の奥に輝く、淡い魔力の炎が、呼応するように揺らめいているのがわかる。純真さが力になった、透明感のある魔力の色だ。

「次、柚ちゃんと会った時に、強くなった私を見せたいの。だから、頑張る」

 眩しい笑顔のニイナが、累に向かって小さく拳を突き出した。
 累も同じように、軽く手を握り、ニイナの拳にコツリと当てる。

「よし、じゃあこの状況、頑張ってどうにかしよう」

 頷き合う2人。

 ……まさにその時。


「——まぁ、累様! このような場でご尊顔を拝せるなんて……カナリアの愛が通じたのでしょうか?」


 高く艶めかしい少女の声が、静寂を破った。

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