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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。

晩餐①

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 一応名目上、累の歓迎会だった晩餐は、『編入おめでとう』という目出度いのか良く分からない、謎の挨拶から始まった。

 アミューズから始まり、オードブル、スープ、そしてメイン料理と、何枚もの皿が次々と出されては、四苦八苦する和久ら。
 累は、そんな2人にそれとなく声を掛けつつ、呑気に食事を堪能し、食後のコーヒーに口をつけていた。デザートのティラミスを遠慮したのは、普段、殆ど食べない胃袋が限界を訴えていたからだった。

 焙煎した豆の香りが良い上質なブレンドコーヒーに、さすが会長だなぁ、などと適当な感想を抱きながら周りを見る。
 食事の最中は、数人の使用人が入れ替わり立ち代わり、完璧な給仕をしてくれていたが、この時間になると部屋の隅に立つ1人だけになっている。それでも、決して4人だけの空間にはならないのだから、和久らにとっては雑談もし辛い空気だったろう。

 しかし2人も、ようやくこの状況に慣れてきたのか、冗談を交わしながら美味しそうにスプーンを運んでいた。ユーリカもホストとして満足そうだ。

「——そういえば……」

 話題が途切れたところで、勿体なさそうにチビチビとティラミスを食べていた和久が口を開いた。

「累はなんでウチに編入してきたんだ?」

 ……しかも答えにくいやつだ。

 唐突に注目を浴びた累は、カップから口を離す。

「あー……まぁちょっと……紺碧校に来てみたくて」
「はぁ!?」
「あ、そういう理由で転校するのって、印象悪いかな?」
「……いや、本人の自由だろうけど……お前ほんと、バカなの? 何だよその謎の行動力」

 口をあんぐり開けて、眉間にシワを寄せる和久からは、心底理解不能だと伝わってくる。

 魔法学校において、転入転出に審査や基準がないことは事実だ。入退学には審査があるものの、推薦状さえあれば編入は可能なのだ。
 それならば、一番簡潔で、深読みしようがない理由がいい。累本人にしても、紺碧領方面でフラフラしていたのは単なる気まぐれだから、あながち間違いでもないし……変にでっち上げると辻褄合わせが面倒だ。

 だが共感されにくい理由だったのか、呆れる和久を筆頭に、ユーリカとニイナも苦笑いだ。

「じゃあ、前の学校はどこだったんだ?」
「菖蒲校だよ。紫の」

 ——直前は、ね。とは心の中だけの言葉だ。

 実は累にとって、編入はもう珍しいものじゃない。何度も何度も、いろんな場所に属してきた。

「ほーん。そこはどんな感じ? 武闘派の菖蒲師団長の方針で、凄い戦闘技術の訓練してたりとか?」
「いやいや、魔法学校はだいたいどこも同じだよ。……まぁ確かに武闘派が多かったかもしれないけど……」

 記憶を思い返しながら話す。
 特別な印象が残る頃には、転出という形で、再びフラフラと地方を回る生活をしていたから、前の学校と言えど語れることは少なかった。

 それでも何とか捻り出すも、なぜか訝しげな顔になる和久。

「その菖蒲校で、どうやったらお前、本科の3年まで上がってこれたんだよ……」

 ……うーん……鋭い。

「いやいや、不正はしてないからね!?」
「戦闘訓練でどうやって不正するんだよっ! 逆に知りたいわっ!」
「…………ツッコミが手厳しい……」
「ツッコミどころしか無いからな!」
「あはははは」

 毎回毎回、律儀すぎる反応に、もう笑いしか出てこない。実はきっちりした性格なのだろうか。

 そんな和久は、女性陣がくすくすと笑いつつカトラリーを置いたのを見て、慌てて残りのティラミスに取り掛かった。甘いものが好きだなんて、見た目とのギャップが面白すぎる。

「——じゃあ峯月くん。この学校の印象はどうかしら?」

 累と同じくブラックのコーヒーに口をつけながら、そう問うてきたのはユーリカだ。返答を伺ってくるものの、その表情は自信に満ちている。会長として全力で紺碧校を率いている、という自負の表れだろうか。確かに、それだけの圧倒的な存在感があるのは間違いない。

「こんな会を開いて歓迎してくれるのに、悪い印象なんて無いですよ。会長も、よく周りを見てくれる視野の広い人だし、ニイナも和久も面倒見が良くて助かってます」
「ふふっ、百点満点の回答ね。じゃあ1つ、文句を挙げるならば?」
「ぇええ……褒めたばっかりなのに、意地が悪いな……」
「ネガティブな発言にこそ、その人の本質が表れると思っているからね」

 ニヤニヤと試すように見つめてくるユーリカに、苦笑で返す。その言葉には、累も同意せざるを得ない。

「それはそうですけど……文句ですか……。んー、強いてあげるなら……、会長は模擬訓練にあまり参加しないで良いかな、と思ったぐらいです」

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