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C 分水の峰編 後編(4)

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第1章。ほのおの人外とかぜの娘


 セプティがなにか話しかけてきている。私は、反射的に相づちをうちながら
適当な言葉を返している。皇都を出て以来、心をどこかに飛ばしているように、
みえてると思う。
同じ鉄馬車に同席している、カシノさんも猊下げいかも私に、心をくだいてくれてるのは、
感じているが、ふたりとも大人だ、私が口を開くのを待っている。

そう、私はあの時から、全力の極細ごくさい 精神感応で、あの妖精に呼びかけている。
私の友への想いは、理性の後ろに隠せるほど、小さくはない。

目の前に石でできた門プロキュライラが見えてきた。
小高い岩山の上に立つクルースの廃城周辺には、圧倒的な魔力障壁がおおっている。
この門を通過しないと、他に登り口はない。

≪出てこないの!≫

私の心は、怒りの色に染まる。次の瞬間、その門の直前の空間がゆがみ、
長身、燃えるような赤い髪、純白の肌、圧倒的な力、緋色の目、
超絶の美貌を持つ妖精が、顕現けんげんした。

「ルービス!!」 「ルービスさん!!」 ふたりの妖精の聞きなれた声が
耳に反射する。

「ふたりとも、ごめん。私が相手をする!」
私は叫びながら、鉄馬車から飛び降り、即、超高速滑空かっくうにうつる。
続いてくるものはない。

そして今、理解の範疇はんちゅうを超えた美貌の妖精の前に、
私は立った。

・・・・・・・・

 「アンタが、ルービス!?わざわざ出て来てくれて、ありがとう。
一応、礼は言っておくわ。」

この場から逃げ出せ!!!私の覚悟を裏切り、私の全身が悲鳴をあげている。

「人間、決闘でも望むか?私の魔力ちからは、ただ物を焼き尽くすだけではないぞ。」

ルービスの美しい声が、頭の中に響く。足が震え続けている。笑えるわ!
ラティスやラファイアは、いつも私に対して、本気じゃなかったわけね。

私は、勇気を振り絞って、一歩を踏み出し、
気付いたら、ルービスのいた。

ルービスは、・・・微動だにしない・・・。

「なぜだ・・!・・なぜ・・、ツーリアに・・心を与えた。
心がなければ、ツーリアは、あんなに苦しむことはなかった。」

私の声は、私の支配を離れ、私の想いを乗せ、曲がることなくルービスに届く。

「それが、私を呼び出した理由か・・・。」

ルービスの動きから、目が離せない。魅入みいられていく。

「・・・後ろに浮かぶ、かぜの超上級妖精よ。構えを解くがいい。
私は、お前の契約者に手を出さない。」

縛りが消え、振り返った。リーエが顔を蒼白にして、空中に浮かんでいる。
のばした右腕に、自分のすべての命の輝きをのせて、
ルービスと相討ちを覚悟して、対峙していた。

「リーエ!!」

心が震えて、思わず叫ぶ。

「・・・そうか・・・、・・・おまえたちは・・・。」

美しい声に撃たれ、ふたたび、わたしはルービスをにらみつける。

「フッ・・・。」

ルービスの口元がゆるむ。あれだけあった、圧が瞬くまたた間に消えていく。

「ツーリアを友として思ってくれたのね・・・。
ならば、わたしも、言わなければならない。」

「・・・ありがとう・・・。」

ルービスの姿が、通り雨が去るように、消えていく。
同時に背後に、感じ慣れた、ふたつの強大な圧が急接近してくる。

「エリース、無事!ルービスのやつ、魔力結界をはりやがって。
ポンコツの妖精に、無効化をさせたら、時間がかかったわ。」

「は~あ~。だったら、御自分でなさったら良かったじゃないですか。
ホント、口先だけの御方おかたなんですから。」

うしろを振り向く。見慣れたふたりの姿が、なんだかゆがんで見える。

「ふたりとも、ありがとう・・・。」

頬が冷たいのを感じる。私、泣いていたんだ。


第2章。ファウス女虎イルム女ぎつね


 儀礼的な挨拶の交換がやっと終わった。笑顔でいるのが、ややつらい。
交渉用の大きなテーブル、左手上座の席に、モクシ教皇猊下・カシノ教導士も、
着席なされているんだから、大公妃然とするのは、仕方ないけど。

テムス側の席には、私の左手に陛下、右手にズーホール伯爵・ラザート伯爵に
アリュス準爵、後ろに、ルービスが執事姿に変化して控えている。

対面の皇国の席だが、上手からセプティ陛下、イルム將、ルリ將、
創派のハンニ老、同じくスキ二將。後方の椅子に両妖精の契約者、
それに白光の妖精?が執、同じく事姿に変化して控えている。

私が関心があるのは、対面のイルム將のみ。
クリルの隠形の軍師、皇国の女狐めぎつね、そのふたつ名が、
正当な評価であることを願うわ。

じゃなければ、テムス大公国は単独では長くはもたない、
クリル・ミカル両大公国の狭間はざまで崩壊する。
それは、避けなければならない。最悪、皇国・猊下あなたたちを利用してもね。

「イルム殿、わが大公国に、願いがあると?」

陛下の声が、私の心を会議に戻す。

「はい。テムス大公国に、そう御手をわずらわさないでできることとは、
思いますが。」

ん、イルム將が話をふってきた。
私は、これ以上ないというような笑顔を浮かべる。

「陛下!」

「ファウス妃、イルム將の話の途中だが!」

「イルム將様、ごめんなさいね。私はあなたと知恵比べがしたいの。」

まわりがざわつく、仕方ないわね。

「妃殿下、知恵比べとは?」

「せっかく、皆様にお集まりいただいたのに、雰囲気が固いわ。
だから、お遊びに。ね?」

イルム將の表情が動いた。

「わかりました。で、やり方はどのような方法を?」

「私たちも、皇国にある仕掛けをお頼みしたいわ。今すぐのことじゃないけど。
だから、私とイルム將様の間で、紙にお願いと答えを書いて、同時に見せ合うのは
どうかしら?」

どうする、乗ってこれる?失望はさせないで!

「いいでしょう。このような遊びも両国の潤滑じゅんかつ材として必要でしょう。」

いい笑顔ね、では勝負といきましょう。

「だったら、私がお二人の書いたものを、お預かりして、読み上げましょう。」

えっ、教皇猊下げいかも、このような遊びがお好きなのかしら?

「教皇猊下げいか、ありがとうございます。御手数ですが、
よろしくお願いいたします。」

私の口からスラスラと、言葉が躍って出てくる!

☆☆☆☆

 「イルム將殿、妃の遊戯を許して欲しい。」

アウレス4世大公から、声がかかる。

「いえ、に変われば、それは素晴らしいことかと。」

皇国側の依頼事を書きながら、考える。
【今すぐではない】とすれば、天災・疫病・飢饉ききんではないわね。
対外拡張?今のテムスは、4世陛下には、野心はない。
内政?反大公派の元貴族の策動?で、あれば今、クルースには来ていないわね。
だとしたら?

だが、教皇猊下げいかの前で公表してもいいのか。
この疑問でさえ、私の軽重けいちょうを計るもの。やはり、並みの才幹ではない。

愚か者は、愚か者として手堅い答えを書くわ。

書いた紙を折りたたんで、教皇猊下げいかにおわたしする。

「では、おふた方とも、よろしいですかな。」

・・・・・・・・

「では、読み上げる。まずはイルム將の依頼だが、鉄荷馬車隊と空の金貨箱。」

「ファウス妃の読みは、鉄荷馬車隊と金貨箱に石ころ。」

周りから、ため息が起こる。ファウス妃は変わらぬ笑顔か。

「次は、逆にイルム將の読みから読み上げようかのう。」

先ほど同じように、カシノ教導士が二つの紙を開いて、伏せてモクシ教皇に。

「鷹翼の陣の要の位置と初動。」

ファウス妃の笑顔は変わらない。ルリが凡庸ぼんような答えに驚いている。
日頃は、実戦に陣形なしと、公言してたからね。

「ファウス妃殿!これでよろしいのかの?白紙じゃが!」

思わず自分の顔が赤くなったのを感じる。

『白紙!?その手もあるのか。私の敗けね。』

この場が、ざわめいている。
隠形の軍師とか言われて、浮ついていたのか、は。
そう思いながらも、なぜか爽快そうかい感がある。

「あら、ごめんなさい。間違えて白紙のほうを、お渡ししたかしら。
こちらが、記載された分です。」

『えっ!』

執事姿のルービスが、それを受け取り、うやうやしく、猊下の手元に
運んでいくのを、ただ、見守る。

「では、あらためて。鷹翼の陣の初手変化、要の位置。」

ホーッとため息がれたのが聞こえる。この場の緊張が弛緩しかんしていく。

「イルム様、ほんとうに、ごめんなさいね。よく、幼なじみであるアリュスからも
『ぬけてる。』と、注意されるんだけど。」

「妃よ、私は、そなたのそんな姿はしらんぞ。」

「陛下の前では、いいところだけ、お見せするようにしてますから。」

皆の緊張が完全にゆるんだわ。完敗だ。完全にこの場の空気を支配された。
やはりファウス妃は、美貌のみの人ではない。

テムス大公国に手を出してくるなら、火傷ルービスの魔力だけではすみませんよという
警告の意味もあるわね。

素直にかぶとを脱ぎ、手を取り合うことにしよう。
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