レンタルゴースト

朝飛

文字の大きさ
上 下
14 / 15

ghost 13

しおりを挟む
「芥川、待った!……ちょ、やめ」
「だめだ、もう待てない」
「待て、まだお前に言わなきゃいけない……っん」
 玄関に入るなり、キスの雨を降らせてくる芥川に押し倒されながら、木村はここに来るまでの状況を整理しようとした。

 あの後、奈落の底からいつの間にか地上に戻っていた木村と芥川は、羽山から二人まとめて抱きつかれた。二人がいなくなってどうにか後を追いかけようとしたが、あっという間に閉じてしまったらしい。同じ穴は開けられないから、二人が自分たちで出てくれることを祈るしかなかったという。

 そんな羽山に状況を説明して礼を言うと、芥川は木村の手をむんずと掴んで、自分の家に来いと言った。そして羽山をほったらかして、連行されるようにして芥川の住むマンションに連れ込まれたのだ。

 なんでも、今は引き取ってくれたという親戚に頭を下げて、一人暮らしをさせてもらっているらしいのだが、それにしては贅沢な広さだった。
 そして芥川が、玄関を閉めもせずにがっついてきたのだったが、いくらなんでもここはやめて欲しかった。

「ちょ、待て。中に、んっ……」
 木村の抵抗も空しく、荒々しい口付けをしながら衣服を剥ぎ取ろうとしてくる。その手を叩いて睨むと、ようやく芥川は止まってくれた。
「俺はここでもいい」
「俺が嫌なんだよ。せめて鍵を閉めろよ」

 まるで芥川の方が我が儘を聞いてやっているというように、深いため息をついて玄関の鍵を閉めに動く。その背中に、木村は衝動的に抱き付いた。芥川がぴくりと肩を震わせる。

「木村?」
「芥川、俺、お前が好きかもしれない」
 伝えた途端に、芥川の体温が上がったように思った。芥川は勢いよく振り返ると、木村と真正面から顔を合わせる。
  怖いほど真剣な表情だった。
「『かもしれない』じゃ、だめだ」
「え?」
「そんな中途半端な気持ちのお前を抱けない」
「……っ、そ、んなの」
 急に目の前が暗くなったように思った。これでは、木村は抱いて欲しくて堪らないみたいだ。
 木村が言葉をなくしていると、芥川は木村から顔を背けて、部屋の奥へ向かってしまう。
「待てよ」
  靴を脱ぐ時間も煩わしく、素早く後をつけて、追い縋るようにしがみついた。恥もプライドも捨てる他ない。
「湊音《みなと》、抱いて欲しい。お前じゃなきゃだめだ。お前以外にはこんなこと言えない」
「……」
「湊音……っ」


 反応を返さない芥川に、焦りと不安が募る。こんな言い方ではだめなんだろうか。ひたひたと迫る絶望に浸かっていこうとした時だった。芥川の肩が揺れていることに気付く。

「お前、何笑ってんだよ」
「ごめん、どうしても言って欲しくてな。嬉しいよ、初の名前呼び」
「……このっ……」
 パンチでも食らわせようと掴みかかると、逆に手を取られた。そして、至近距離で囁いてくる。
「昴、好きだ。ずっと、好きだった」
  誤魔化しようがないほどに、顔が火照るのを感じた。そのまま唇を寄せてこようとする芥川を制して、これだけは言わないといけないと思って告げる。
「……俺、お前が嘘をついていたこと、ちょっとは根に持っているんだ」
「それは、本当に悪い。友人としても最低だよな」
「違うんだ。俺は、湊音が一人で抱えていたことに気が付かなかった自分が許せないんだ。根に持っているのは、お前に対してじゃない。自分に対してだ」
「昴……」

「それに、俺はお前の力になりたかった。友人としてももちろんあったけれど、誰よりも大切な存在を守りたかった。お前の気持ちを知っても、気持ち悪いとか全然思わなかった。動揺とかしたけど、それよりも今は、心臓が騒がしくて仕方ないんだ」

「昴……っ」
 感極まったように芥川が木村を抱き寄せて、一生離れられないほどに強く強く抱き締める。それでも、ずっとそうしていたら何も出来ない。

 二人はもう言葉もなく、もつれ合いながら寝室へ向かった。廊下に点々と衣服が脱ぎ捨てられていく。
 キスの合間に息をつく間も惜しいと木村が思うと、それを肯定し、さらにその先を求めるように貪られる。

 汗ばんだ肌を重ね合わせて、一つ一つ確かめ合うようにお互いに印を刻んだ。どちらがどちらかを一方的に翻弄するというよりも、時には一方が抱く側に回り、その次にはもう片方が抱く側に回っているような感じだった。

 ただ、肝心の挿入に至っては、芥川に主導権を譲る。それには初めから異論はなかった。

「ローションか、オイルか何かある?」
  すっかり赤く潤んだ胸元を、飽きもせずに懸命に弄っていた芥川が顔を上げる。そろそろ下も触って欲しいと思っての台詞だったが、芥川はぴんと来ていない顔つきをした。
「だから、後ろだよ」
 そこまで言わせるな、と対して力もない目で睨むと、芥川はようやく合点がいったのか、頷いた。
「ああ、それか」
「何だよ、そんなことみたいな言い方。俺は女みたいに濡らせないからな」
「それはそうだ。だが、必要ない」
「はっ?……え、ちょっと」

 戸惑う木村を置いてきぼりにして、芥川はいきなり下のブツを握った。触れられていなかったというのに関わらず、他の場所への前戯ですっかり反応していたそれを、いきなりだ。

「……っん……」
 そして上下にしわを伸ばすようにあやされて、張り詰めて射精感が込み上げたところで、今度は唐突に離れていく。物足りなさで文句を言いたくなったところで、芥川の頭が下腹の下へ移動した。
「……っ!」
 驚く間もなく、芥川は木村のそれを口に含んでいる。連動して屹立が反り返ったが、暴れるそれを口をすぼませて捕らえると、生温い舌先も器用に使いながら舐め尽くされた。

 食べられてしまう、と咄嗟に思った。そう思うほど、旨そうに芥川は勃起した木村の分身をすすった。そして堪え性のないそれが嬉し涙を流すと、それも丁寧に舐め取りながら、射精する寸前までそうしていた。

 かと思うと、次は舌先を出して白い液体を指先に絡み付かせて、後ろの孔を慎重に解していく。なるほど、確かに「必要ない」わけだと頭の片隅で妙に冷静に納得して、少しも羞恥心を感じていない自分を知る。

 羞恥心や初めてのことに対する恐怖など感じるはずもなく、その時間も惜しい。ただ芥川が欲しかった。

「もう、いい」
 芥川が三本くらい指を増やして、まだ懲りずに馴らそうとしていたところで、木村はしびれを切らして先を促した。
「……っあ、……っく……」
 初めは先の方がおそるおそる孔をつついた。「入るぞ。大丈夫か」と言うように、少しずつ木村の反応を確かめながら、入り口を押し広げて侵入してくる。圧迫され、息を詰まらせながら、木村はゆっくりと息を吐き出した。

 いつの間にか閉じてしまっていた目を開き、芥川を見ると、無言で訊かれているのを察した。「動いていいか」という芥川の声が聞こえた気がして頷いて見せると、ストロークが始まる。

 それが奥を擦るとあまりの快感に目が眩み、一度目は訳が分からないうちに射精した。締め付けて刺激したせいか、芥川も中で膨張したが、射精には至らない。

「何我慢しているんだよ」
「早漏だと思われたくなくてな」
「思わねえよ、てかそれなら俺は既に早漏決定じゃないかよ」
 セックスの最中だというのに、軽く緊張感のないやり取りをして、それでも冷めない熱を持て余し、互いにぶつけ合った。何度目か分からない射精の後、芥川は木村の中に入ったままで体勢を入れ替える。木村が芥川の上にもたれかかるようなかたちになった。
 すると、芥川が声帯を震わせて呟いた。
「昴は気付いていた?」
「……うん」
「俺、レンタルゴーストはあまり嫌いではないかもしれない」
 芥川の言葉に喜びの表現を示すように、窓も開けていないカーテンが揺らめいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【常識改変】2-1の肉オナホくん【頭悪い系エロ】

松任 来(まっとう らい)
BL
悠馬はさながら男子校の肉オナホ。今日も朝から悠馬の身体を求めてクラスメイトが押し寄せてくる。 IQ3で書いたんでIQ3で読んでください。文章力とかそういうのはどこかに消えました。 こういうほのぼのレイプとか現実改変もの大好きです・・・。でもやはり実際書くとなると難しい ピクシブファンボックスで限定公開していたものです。続編もファンボックスにあります。https://lf081128.fanbox.cc/manage/posts/2986278 ※現在三話目まで投稿していますが、どれも来月中に一般公開で無料で読めるようになります。ただし四話目(来月上旬投稿予定)は未来永劫有料公開限定の予定です。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

あの、元大臣……申し訳ありませんが、証拠が無ければ、こちらに入っていただきます

蓮實長治
SF
次の選挙の為に、選挙管理委員会に提出する書類を集めようとしていたマ○ナ○バー推進担当大臣。 しかし、身元を証明する為の書類に関して、とんでもない連絡が……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

妖精のいたずら

朝山みどり
恋愛
この国の妖精はいたずら好きだ。たまに誰かの頭の上にその人の心の声や妖精のつっこみを文章で出す。 それがどんなに失礼でもどんなに不敬でも罪に問われることはない。

幼馴染✕マネージャー✕ディレクタ✕コンサルタント=恋人(だといいな!)

朝明りん
BL
フェンシング部の男子高校生と、幼馴染の優等生男子高校生のお話。  * 高校1年生の堂谷彩人(どうやさいと)と佐久間成(さくませい)は保育園時代からの幼馴染みである。 昔からスポーツの才能に秀でる彩人は、優等生で策略家の成に勧められて中学からフェンシング競技を始めた。長年に渡る成の専属マネージャー兼ディレクタ兼コンサルタントの如ききめ細やかなサポートで強豪校・創礎学園のトップ選手となった彩人だが、思春期と第二次性徴を迎えると、否が応とも互いの想いに対する認識にはズレが生じてしまうのだった。相手は『そうではない』と知っているから、秘めた想いを明かすことは一生ない。 と、思っていたのだが。 他、フェンシング競技を通した男子高校生たちの群像劇も。 ☆はラブ要素あり。 ★は18禁描写あり。 * * * * *  フェンシング用語は各話末に解説していますが、分からなくても全然問題ありません。筆者も全然分かりません。 初めて書くBLなので、いろいろ勉強したいです。感想や批評などなど何でもぜひとも送ってください! 当作品を読んでくださって本当に本当にありがとうございます。     ≪朝明りん≫

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

処理中です...