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ghost 13
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「芥川、待った!……ちょ、やめ」
「だめだ、もう待てない」
「待て、まだお前に言わなきゃいけない……っん」
玄関に入るなり、キスの雨を降らせてくる芥川に押し倒されながら、木村はここに来るまでの状況を整理しようとした。
あの後、奈落の底からいつの間にか地上に戻っていた木村と芥川は、羽山から二人まとめて抱きつかれた。二人がいなくなってどうにか後を追いかけようとしたが、あっという間に閉じてしまったらしい。同じ穴は開けられないから、二人が自分たちで出てくれることを祈るしかなかったという。
そんな羽山に状況を説明して礼を言うと、芥川は木村の手をむんずと掴んで、自分の家に来いと言った。そして羽山をほったらかして、連行されるようにして芥川の住むマンションに連れ込まれたのだ。
なんでも、今は引き取ってくれたという親戚に頭を下げて、一人暮らしをさせてもらっているらしいのだが、それにしては贅沢な広さだった。
そして芥川が、玄関を閉めもせずにがっついてきたのだったが、いくらなんでもここはやめて欲しかった。
「ちょ、待て。中に、んっ……」
木村の抵抗も空しく、荒々しい口付けをしながら衣服を剥ぎ取ろうとしてくる。その手を叩いて睨むと、ようやく芥川は止まってくれた。
「俺はここでもいい」
「俺が嫌なんだよ。せめて鍵を閉めろよ」
まるで芥川の方が我が儘を聞いてやっているというように、深いため息をついて玄関の鍵を閉めに動く。その背中に、木村は衝動的に抱き付いた。芥川がぴくりと肩を震わせる。
「木村?」
「芥川、俺、お前が好きかもしれない」
伝えた途端に、芥川の体温が上がったように思った。芥川は勢いよく振り返ると、木村と真正面から顔を合わせる。
怖いほど真剣な表情だった。
「『かもしれない』じゃ、だめだ」
「え?」
「そんな中途半端な気持ちのお前を抱けない」
「……っ、そ、んなの」
急に目の前が暗くなったように思った。これでは、木村は抱いて欲しくて堪らないみたいだ。
木村が言葉をなくしていると、芥川は木村から顔を背けて、部屋の奥へ向かってしまう。
「待てよ」
靴を脱ぐ時間も煩わしく、素早く後をつけて、追い縋るようにしがみついた。恥もプライドも捨てる他ない。
「湊音《みなと》、抱いて欲しい。お前じゃなきゃだめだ。お前以外にはこんなこと言えない」
「……」
「湊音……っ」
反応を返さない芥川に、焦りと不安が募る。こんな言い方ではだめなんだろうか。ひたひたと迫る絶望に浸かっていこうとした時だった。芥川の肩が揺れていることに気付く。
「お前、何笑ってんだよ」
「ごめん、どうしても言って欲しくてな。嬉しいよ、初の名前呼び」
「……このっ……」
パンチでも食らわせようと掴みかかると、逆に手を取られた。そして、至近距離で囁いてくる。
「昴、好きだ。ずっと、好きだった」
誤魔化しようがないほどに、顔が火照るのを感じた。そのまま唇を寄せてこようとする芥川を制して、これだけは言わないといけないと思って告げる。
「……俺、お前が嘘をついていたこと、ちょっとは根に持っているんだ」
「それは、本当に悪い。友人としても最低だよな」
「違うんだ。俺は、湊音が一人で抱えていたことに気が付かなかった自分が許せないんだ。根に持っているのは、お前に対してじゃない。自分に対してだ」
「昴……」
「それに、俺はお前の力になりたかった。友人としてももちろんあったけれど、誰よりも大切な存在を守りたかった。お前の気持ちを知っても、気持ち悪いとか全然思わなかった。動揺とかしたけど、それよりも今は、心臓が騒がしくて仕方ないんだ」
「昴……っ」
感極まったように芥川が木村を抱き寄せて、一生離れられないほどに強く強く抱き締める。それでも、ずっとそうしていたら何も出来ない。
二人はもう言葉もなく、もつれ合いながら寝室へ向かった。廊下に点々と衣服が脱ぎ捨てられていく。
キスの合間に息をつく間も惜しいと木村が思うと、それを肯定し、さらにその先を求めるように貪られる。
汗ばんだ肌を重ね合わせて、一つ一つ確かめ合うようにお互いに印を刻んだ。どちらがどちらかを一方的に翻弄するというよりも、時には一方が抱く側に回り、その次にはもう片方が抱く側に回っているような感じだった。
ただ、肝心の挿入に至っては、芥川に主導権を譲る。それには初めから異論はなかった。
「ローションか、オイルか何かある?」
すっかり赤く潤んだ胸元を、飽きもせずに懸命に弄っていた芥川が顔を上げる。そろそろ下も触って欲しいと思っての台詞だったが、芥川はぴんと来ていない顔つきをした。
「だから、後ろだよ」
そこまで言わせるな、と対して力もない目で睨むと、芥川はようやく合点がいったのか、頷いた。
「ああ、それか」
「何だよ、そんなことみたいな言い方。俺は女みたいに濡らせないからな」
「それはそうだ。だが、必要ない」
「はっ?……え、ちょっと」
戸惑う木村を置いてきぼりにして、芥川はいきなり下のブツを握った。触れられていなかったというのに関わらず、他の場所への前戯ですっかり反応していたそれを、いきなりだ。
「……っん……」
そして上下にしわを伸ばすようにあやされて、張り詰めて射精感が込み上げたところで、今度は唐突に離れていく。物足りなさで文句を言いたくなったところで、芥川の頭が下腹の下へ移動した。
「……っ!」
驚く間もなく、芥川は木村のそれを口に含んでいる。連動して屹立が反り返ったが、暴れるそれを口をすぼませて捕らえると、生温い舌先も器用に使いながら舐め尽くされた。
食べられてしまう、と咄嗟に思った。そう思うほど、旨そうに芥川は勃起した木村の分身をすすった。そして堪え性のないそれが嬉し涙を流すと、それも丁寧に舐め取りながら、射精する寸前までそうしていた。
かと思うと、次は舌先を出して白い液体を指先に絡み付かせて、後ろの孔を慎重に解していく。なるほど、確かに「必要ない」わけだと頭の片隅で妙に冷静に納得して、少しも羞恥心を感じていない自分を知る。
羞恥心や初めてのことに対する恐怖など感じるはずもなく、その時間も惜しい。ただ芥川が欲しかった。
「もう、いい」
芥川が三本くらい指を増やして、まだ懲りずに馴らそうとしていたところで、木村はしびれを切らして先を促した。
「……っあ、……っく……」
初めは先の方がおそるおそる孔をつついた。「入るぞ。大丈夫か」と言うように、少しずつ木村の反応を確かめながら、入り口を押し広げて侵入してくる。圧迫され、息を詰まらせながら、木村はゆっくりと息を吐き出した。
いつの間にか閉じてしまっていた目を開き、芥川を見ると、無言で訊かれているのを察した。「動いていいか」という芥川の声が聞こえた気がして頷いて見せると、ストロークが始まる。
それが奥を擦るとあまりの快感に目が眩み、一度目は訳が分からないうちに射精した。締め付けて刺激したせいか、芥川も中で膨張したが、射精には至らない。
「何我慢しているんだよ」
「早漏だと思われたくなくてな」
「思わねえよ、てかそれなら俺は既に早漏決定じゃないかよ」
セックスの最中だというのに、軽く緊張感のないやり取りをして、それでも冷めない熱を持て余し、互いにぶつけ合った。何度目か分からない射精の後、芥川は木村の中に入ったままで体勢を入れ替える。木村が芥川の上にもたれかかるようなかたちになった。
すると、芥川が声帯を震わせて呟いた。
「昴は気付いていた?」
「……うん」
「俺、レンタルゴーストはあまり嫌いではないかもしれない」
芥川の言葉に喜びの表現を示すように、窓も開けていないカーテンが揺らめいた。
「だめだ、もう待てない」
「待て、まだお前に言わなきゃいけない……っん」
玄関に入るなり、キスの雨を降らせてくる芥川に押し倒されながら、木村はここに来るまでの状況を整理しようとした。
あの後、奈落の底からいつの間にか地上に戻っていた木村と芥川は、羽山から二人まとめて抱きつかれた。二人がいなくなってどうにか後を追いかけようとしたが、あっという間に閉じてしまったらしい。同じ穴は開けられないから、二人が自分たちで出てくれることを祈るしかなかったという。
そんな羽山に状況を説明して礼を言うと、芥川は木村の手をむんずと掴んで、自分の家に来いと言った。そして羽山をほったらかして、連行されるようにして芥川の住むマンションに連れ込まれたのだ。
なんでも、今は引き取ってくれたという親戚に頭を下げて、一人暮らしをさせてもらっているらしいのだが、それにしては贅沢な広さだった。
そして芥川が、玄関を閉めもせずにがっついてきたのだったが、いくらなんでもここはやめて欲しかった。
「ちょ、待て。中に、んっ……」
木村の抵抗も空しく、荒々しい口付けをしながら衣服を剥ぎ取ろうとしてくる。その手を叩いて睨むと、ようやく芥川は止まってくれた。
「俺はここでもいい」
「俺が嫌なんだよ。せめて鍵を閉めろよ」
まるで芥川の方が我が儘を聞いてやっているというように、深いため息をついて玄関の鍵を閉めに動く。その背中に、木村は衝動的に抱き付いた。芥川がぴくりと肩を震わせる。
「木村?」
「芥川、俺、お前が好きかもしれない」
伝えた途端に、芥川の体温が上がったように思った。芥川は勢いよく振り返ると、木村と真正面から顔を合わせる。
怖いほど真剣な表情だった。
「『かもしれない』じゃ、だめだ」
「え?」
「そんな中途半端な気持ちのお前を抱けない」
「……っ、そ、んなの」
急に目の前が暗くなったように思った。これでは、木村は抱いて欲しくて堪らないみたいだ。
木村が言葉をなくしていると、芥川は木村から顔を背けて、部屋の奥へ向かってしまう。
「待てよ」
靴を脱ぐ時間も煩わしく、素早く後をつけて、追い縋るようにしがみついた。恥もプライドも捨てる他ない。
「湊音《みなと》、抱いて欲しい。お前じゃなきゃだめだ。お前以外にはこんなこと言えない」
「……」
「湊音……っ」
反応を返さない芥川に、焦りと不安が募る。こんな言い方ではだめなんだろうか。ひたひたと迫る絶望に浸かっていこうとした時だった。芥川の肩が揺れていることに気付く。
「お前、何笑ってんだよ」
「ごめん、どうしても言って欲しくてな。嬉しいよ、初の名前呼び」
「……このっ……」
パンチでも食らわせようと掴みかかると、逆に手を取られた。そして、至近距離で囁いてくる。
「昴、好きだ。ずっと、好きだった」
誤魔化しようがないほどに、顔が火照るのを感じた。そのまま唇を寄せてこようとする芥川を制して、これだけは言わないといけないと思って告げる。
「……俺、お前が嘘をついていたこと、ちょっとは根に持っているんだ」
「それは、本当に悪い。友人としても最低だよな」
「違うんだ。俺は、湊音が一人で抱えていたことに気が付かなかった自分が許せないんだ。根に持っているのは、お前に対してじゃない。自分に対してだ」
「昴……」
「それに、俺はお前の力になりたかった。友人としてももちろんあったけれど、誰よりも大切な存在を守りたかった。お前の気持ちを知っても、気持ち悪いとか全然思わなかった。動揺とかしたけど、それよりも今は、心臓が騒がしくて仕方ないんだ」
「昴……っ」
感極まったように芥川が木村を抱き寄せて、一生離れられないほどに強く強く抱き締める。それでも、ずっとそうしていたら何も出来ない。
二人はもう言葉もなく、もつれ合いながら寝室へ向かった。廊下に点々と衣服が脱ぎ捨てられていく。
キスの合間に息をつく間も惜しいと木村が思うと、それを肯定し、さらにその先を求めるように貪られる。
汗ばんだ肌を重ね合わせて、一つ一つ確かめ合うようにお互いに印を刻んだ。どちらがどちらかを一方的に翻弄するというよりも、時には一方が抱く側に回り、その次にはもう片方が抱く側に回っているような感じだった。
ただ、肝心の挿入に至っては、芥川に主導権を譲る。それには初めから異論はなかった。
「ローションか、オイルか何かある?」
すっかり赤く潤んだ胸元を、飽きもせずに懸命に弄っていた芥川が顔を上げる。そろそろ下も触って欲しいと思っての台詞だったが、芥川はぴんと来ていない顔つきをした。
「だから、後ろだよ」
そこまで言わせるな、と対して力もない目で睨むと、芥川はようやく合点がいったのか、頷いた。
「ああ、それか」
「何だよ、そんなことみたいな言い方。俺は女みたいに濡らせないからな」
「それはそうだ。だが、必要ない」
「はっ?……え、ちょっと」
戸惑う木村を置いてきぼりにして、芥川はいきなり下のブツを握った。触れられていなかったというのに関わらず、他の場所への前戯ですっかり反応していたそれを、いきなりだ。
「……っん……」
そして上下にしわを伸ばすようにあやされて、張り詰めて射精感が込み上げたところで、今度は唐突に離れていく。物足りなさで文句を言いたくなったところで、芥川の頭が下腹の下へ移動した。
「……っ!」
驚く間もなく、芥川は木村のそれを口に含んでいる。連動して屹立が反り返ったが、暴れるそれを口をすぼませて捕らえると、生温い舌先も器用に使いながら舐め尽くされた。
食べられてしまう、と咄嗟に思った。そう思うほど、旨そうに芥川は勃起した木村の分身をすすった。そして堪え性のないそれが嬉し涙を流すと、それも丁寧に舐め取りながら、射精する寸前までそうしていた。
かと思うと、次は舌先を出して白い液体を指先に絡み付かせて、後ろの孔を慎重に解していく。なるほど、確かに「必要ない」わけだと頭の片隅で妙に冷静に納得して、少しも羞恥心を感じていない自分を知る。
羞恥心や初めてのことに対する恐怖など感じるはずもなく、その時間も惜しい。ただ芥川が欲しかった。
「もう、いい」
芥川が三本くらい指を増やして、まだ懲りずに馴らそうとしていたところで、木村はしびれを切らして先を促した。
「……っあ、……っく……」
初めは先の方がおそるおそる孔をつついた。「入るぞ。大丈夫か」と言うように、少しずつ木村の反応を確かめながら、入り口を押し広げて侵入してくる。圧迫され、息を詰まらせながら、木村はゆっくりと息を吐き出した。
いつの間にか閉じてしまっていた目を開き、芥川を見ると、無言で訊かれているのを察した。「動いていいか」という芥川の声が聞こえた気がして頷いて見せると、ストロークが始まる。
それが奥を擦るとあまりの快感に目が眩み、一度目は訳が分からないうちに射精した。締め付けて刺激したせいか、芥川も中で膨張したが、射精には至らない。
「何我慢しているんだよ」
「早漏だと思われたくなくてな」
「思わねえよ、てかそれなら俺は既に早漏決定じゃないかよ」
セックスの最中だというのに、軽く緊張感のないやり取りをして、それでも冷めない熱を持て余し、互いにぶつけ合った。何度目か分からない射精の後、芥川は木村の中に入ったままで体勢を入れ替える。木村が芥川の上にもたれかかるようなかたちになった。
すると、芥川が声帯を震わせて呟いた。
「昴は気付いていた?」
「……うん」
「俺、レンタルゴーストはあまり嫌いではないかもしれない」
芥川の言葉に喜びの表現を示すように、窓も開けていないカーテンが揺らめいた。
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