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最終章
174,決戦 Part,3
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当初の予定は不意打ちからの火力特化構成による即死を狙うものだった。
しかしこれには様々な条件をクリアする必要性があった。
まず不意打ちを行うのだから相手に気づかれてはならない。
火力特化構成の破壊力上味方を巻き込まないようにしなければいけない。
相手に気づかれないようにしなければならない以上こちらの動向を悟らせてはいけない。
しかし迷宮というものは基本的に最下層にむけて収束するように出来ている。
つまり最下層で待ち構えられると不意打ちは難しい。
だからこそ迷宮の核となる大魔石の魔力を狙っているわけではないのなら不意打ち対策だろうと思っていた。
黒い炎で死体も残さず燃やしつくせるのにグレーさんを燃やし尽くさなかったのは恐らくオレ達へのメッセージだろう。
オークロードを捕らえたあの場にはグレーさんとオレ達がいたわけだしな。
まぁつまりは復讐だろう。
最下層で待ち構えていると思っていたオークロードが150階層で不意打ちを仕掛けてきたのには正直本当に驚いた。
おかげで犠牲者まで出してしまったわけだし。
まさかこの階層で不意打ちを行ってくるとはさすがに予想だにしなかった。
フロアボスといっても1匹しか存在しないわけではない。
最下層のガーディアンは迷宮の構造上1匹しかいないはずだが、フロアボスはそうではないはずだ。
フロアボスを突破しなければ次の階層へいけないのだから同時に同じ階層に侵入した場合人海戦術によるごり押しが通ってしまう。
その対策なのだろう。ボス部屋はたくさん用意され、その数だけフロアボスがいる。
鬼刃のようにずっと誰も訪れず、時間をたっぷりかけて強化される例もあるくらいだ。
そんな無数にいるフロアボスの部屋で不意打ちを仕掛けるなんて出来るわけが無いと思っていた。
しかし現実は違った。やつは150階層のフロアボスの部屋で不意打ちを仕掛けてきた。
もしかしたらこの階層のボス部屋は一箇所しかないのかもしれない。
しかしオレ達はそんなことを知らなかったし、経験上フロアボスの部屋は複数存在すると思っていた。
オークロードは一体どうやってそんな情報を知りえたのか。謎は多い。
逆に不意打ちを仕掛けられた事によってこちらから不意打ちをするのはもう無理だろう。
トレーゼ迷宮の事もフロアボスの部屋で不意打ちを成功させたように熟知していると思った方がいい。
もし取り逃がしたら不意打ちなどできないような場所に逃げるに決まっている。
逆に迷宮内でまた不意打ちを仕掛けて今度こそ確実に殺りにくるだろう。
しかし不意打ちだけが手ではない。
不意を打つのは確実性を高めるためだ。
火力特化構成が異常な破壊力を有しているとはいえ、相手を確実に殺す事ができるのかどうかは、それはもちろん相手による。
今回大災害級という名前からして危険な相手だから念には念を入れてそう考えていた。
まぁ希望的観測も大いに含んでいたことは否めない。
不意打ちなんてこちらが有利な状況でなければ早々できるものではないからね。
火力特化構成の弱点は破壊力がありすぎる事、特化しているために他のステータスがおざなりになる事だ。
つまりは誰かが足止めする必要があり、また巻き込まれないようにしなければいけない。
今回は足止めするだけならメンバーは揃っている。
緊急脱出手段もあるのでなんとかなるだろう。
【というわけでこのままではジリ貧ですので、勝負をかけます】
【任されましたわ! わたりんがあのとんでもない攻撃を仕掛けるまできっちりと縫い付けてみせますわ!
腕がなりますわね!】
【この化け物を一撃で倒せるならばそれにこしたことはないが……本当にやれるのか?】
【兄様、ワタリさんならできます。信じてください】
前衛陣には足止めをしてもらう以上話を通しておく必要がある。
後衛陣にはアルがいるので不測の事態にでも陥らなければ問題ないだろう。
今尚戦闘が続いているので手早く説明したが、あの破壊力を実際に目にしている2人はすぐに納得したが見ていないグレーさんは半信半疑だ。
だがレーネさんのフォローにより、納得はしていないが了承してくれた。
というか現状ではジリ貧が見えているので選択肢は多くないのだ。当然の結果ともいえる。
紫幻装身の更新をして人形を新しくしてから作戦は決行された。
今まで以上の動きでオークロードの行動を阻害し始めたドリルさんにレーネさんとグレーさんが追従する。
今までレーネさんを優先してきた動きからレーネさんを含む3人での徹底的な行動阻害行為への変化にオークロードも対応が間に合っていない。
これならいけそうか?
すでに構成の変更は終了している。あとはぶち込むだけだ。
紫の雷で構成された巨大な槌を腰溜めに構える。
突然紫電の大槌を構えたオレにびっくりしている後衛陣には構わずオークロードを見据える。
何も言わなかったけど別にいいよね。
こっちはアルがいるからなんとでもしてくれるもの。
「わ、わたりん!? 何かやるのじゃな!? 妾は信じておるぞ!」
「え? あーはい、アルの後ろに逃げててください。すごいの行きます」
なんか応援されたが適当に応えておいた。
エリア姫はオレに過剰な期待をしていると思う。
まぁ即死さえしなければどんな怪我でも治せるし、実際に死にかけたグレーさんやエリア姫本人を治している。
これくらいの期待は仕方ないのかもしれない。
むしろ余計なことするなと言われるよりはいいだろう。具体的な説明してないし。
……具体的ではないけれど今簡単に言ったし、これでよし!
エリア姫への対応中も目を逸らさずいつでも仕掛けられるようにオークロードを見ていたがなかなかいいタイミングがない。
前衛と人形による行動阻害はうまく機能しているのだが、ここぞというタイミングがなかなかこないのだ。
こればかりは相手の動きもあるので狙い通りのタイミングを作り出すのは難しい。
特にあのオークロードは自身の防御力を活かしつつ、黒い炎で必殺を狙えるのだから勇者の装備を纏った2人とランクSと物理攻撃無効の6体の人形を同時に相手にしているのになかなか隙を見せない。
……仕方ない。ちょっときついが人形をオレが動かすか。
6体の紫電の人形は自立行動が出来るほど優秀な戦闘思考を搭載しているがオレが動かす事も出来る。
しかし1体ずつなら別に問題ないが、それが6体となるとちょっと難しい。
だが1体をオレが動かしたところで大した効果は見込めない。やるなら全部を1度に一気にやらなければだめだ。
紫電の大槌を通して6体の人形とリンクする。
視界が7つに増え、処理しなければならない情報が飛躍的に増大する。
脳を揺さぶられるような情報量に不必要な部分を全てカットし、なんとか動かせるようになった瞬間1体ずつわずかな時間差を作り、特攻させた。
紫電で構成された人形は肉体そのものが凶器だ。
触れれば痺れ、焼かれる。
しかも痛みも恐怖も感じる事はない人形だ。
1度に6体とはいえ、今までの動きとまったく違う行動を取られれば一瞬でも十分な隙が出来る。
しかも紫電の人形による自爆特攻ならばさらなる行動阻害を狙える。
狙い通りに次々に人形がオークロードに取り付くことに成功し、残った魔力を全開で放出させ紫電を撒き散らす。
前衛3人が即座に撤退行動を開始したのを確認し、転移する。
視界が切り替わった瞬間、高速で打ち出された紫電の大槌は空気の壁諸共破壊し亜音速を超えた速度で飛来する。
紫電の大槌は紫電部分が魔力で構成されているため魔法攻撃と変わらない上に物理攻撃の特性も持っている。
オークロードが霧になって逃げようとすれば逆に致命的なダメージの上乗せが待っている。
しかし高い防御力を誇る肉体も火力特化構成と重々陣による凄まじい重量を上乗せした攻撃力の前ではただの紙だ。
最早逃げる術は……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
直撃を確信した瞬間、視界が切り替わった。
予想外の出来事に思考が凍りつきかけるが強引に思考を元に戻して回転させる。
目の前にいたはずのオークロードは居らず、代わりに見えるのは壁。
……いやこれは床!? くそ! 止まらん!
紫電の大槌はすでに亜音速を超える速度で打ち出されていて止める事は不可能だ。
そしてそれ以上に強烈な殺気が背後で巻き起こった。
同時に紫電の大槌が消滅し、柄だけに戻ったために床に叩きつける部分がなくなり空を切った。
しかし空を切っただけでも凄まじい破壊力を発揮し、迷宮の床に大きな傷跡を作り出す。
空を切り、勢いのついた体をそのまま回転させ背後の殺気に対応する。
相手はわかっている。
視界が反転して見えた姿はやはりオークロード。
赤黒い肌に金色の髪。
凝縮された闇のような暗く昏い炎。
「ああああああああぁあぁぁぁぁっ!」
魔道具無効化のスキルですでにオレの装備は使い物にならない。
だが火力特化構成は魔道具ではない。
純粋なステータスだ。
空気の壁を打ち抜き亜音速に到達した拳が黒い炎を打ち抜きオークロード目掛けて迫り、紙一重でかわされた。
しかし代償は大きい。
紙一重ということは直撃していないだけにしかすぎない。
火力特化構成で全力で振り切られた拳は直撃しなくても周囲に牙を剥く。
結果――。
オークロードは凄まじい速度で弾き飛ばされ、オレの腕は内部から崩壊した。
脳を焼く痛みを根性で堪える。
この痛みはすでに経験している。経験済みな痛みは耐えられる。
痛みを紛らわすためと八つ当たりのために崩壊寸前の迷宮の床を着地と同時に踏み抜き、弾き飛ばしたオークロードに視線を向けた。
直後かなり遠くから何かが激突する音が響き、迷宮を揺らす。
視線を向けた先はかなり広大な空間の後に壁があった。
どうやらあそこまでオークロードは弾き飛ばされて壁に激突したようだ。
時間がない。現状を把握して対策を。
すでに周りにオレとオークロードしかいないことはわかっている。
構成を戻している時間はない。
準備していたスタミナ回復ポーションの出番だ。
王族の不文律を使い、残していた魔法スキル――初級魔法:体力回復を全開で行使する。
内側からはじけ飛ぶ寸前のぼろぼろの腕が瞬時に元に戻り、呼応して襤褸切れに成り下がった黒狼のドレスグローブが魔力を吸収して急速にその姿を修復していく。
しかし黒狼のドレスグローブが完全に修復される前にスタミナが危険域になり、王族の不文律が自動解除された。
すぐさまスタミナ回復ポーションを連続使用して全開まで持っていき備える。
遠くで巨大な瓦礫が凄まじい音を響かせて壁や床に激突して砕けている。
やはり直撃ではないので死ななかったようだ。
かなりの距離があるというのに膨れ上がった殺気と、膨大な量となった黒い炎がここまでその深く昏く凍てつく熱量を伝えてくる。
どうやら本当の戦いはここからのようだ。
しかしこれには様々な条件をクリアする必要性があった。
まず不意打ちを行うのだから相手に気づかれてはならない。
火力特化構成の破壊力上味方を巻き込まないようにしなければいけない。
相手に気づかれないようにしなければならない以上こちらの動向を悟らせてはいけない。
しかし迷宮というものは基本的に最下層にむけて収束するように出来ている。
つまり最下層で待ち構えられると不意打ちは難しい。
だからこそ迷宮の核となる大魔石の魔力を狙っているわけではないのなら不意打ち対策だろうと思っていた。
黒い炎で死体も残さず燃やしつくせるのにグレーさんを燃やし尽くさなかったのは恐らくオレ達へのメッセージだろう。
オークロードを捕らえたあの場にはグレーさんとオレ達がいたわけだしな。
まぁつまりは復讐だろう。
最下層で待ち構えていると思っていたオークロードが150階層で不意打ちを仕掛けてきたのには正直本当に驚いた。
おかげで犠牲者まで出してしまったわけだし。
まさかこの階層で不意打ちを行ってくるとはさすがに予想だにしなかった。
フロアボスといっても1匹しか存在しないわけではない。
最下層のガーディアンは迷宮の構造上1匹しかいないはずだが、フロアボスはそうではないはずだ。
フロアボスを突破しなければ次の階層へいけないのだから同時に同じ階層に侵入した場合人海戦術によるごり押しが通ってしまう。
その対策なのだろう。ボス部屋はたくさん用意され、その数だけフロアボスがいる。
鬼刃のようにずっと誰も訪れず、時間をたっぷりかけて強化される例もあるくらいだ。
そんな無数にいるフロアボスの部屋で不意打ちを仕掛けるなんて出来るわけが無いと思っていた。
しかし現実は違った。やつは150階層のフロアボスの部屋で不意打ちを仕掛けてきた。
もしかしたらこの階層のボス部屋は一箇所しかないのかもしれない。
しかしオレ達はそんなことを知らなかったし、経験上フロアボスの部屋は複数存在すると思っていた。
オークロードは一体どうやってそんな情報を知りえたのか。謎は多い。
逆に不意打ちを仕掛けられた事によってこちらから不意打ちをするのはもう無理だろう。
トレーゼ迷宮の事もフロアボスの部屋で不意打ちを成功させたように熟知していると思った方がいい。
もし取り逃がしたら不意打ちなどできないような場所に逃げるに決まっている。
逆に迷宮内でまた不意打ちを仕掛けて今度こそ確実に殺りにくるだろう。
しかし不意打ちだけが手ではない。
不意を打つのは確実性を高めるためだ。
火力特化構成が異常な破壊力を有しているとはいえ、相手を確実に殺す事ができるのかどうかは、それはもちろん相手による。
今回大災害級という名前からして危険な相手だから念には念を入れてそう考えていた。
まぁ希望的観測も大いに含んでいたことは否めない。
不意打ちなんてこちらが有利な状況でなければ早々できるものではないからね。
火力特化構成の弱点は破壊力がありすぎる事、特化しているために他のステータスがおざなりになる事だ。
つまりは誰かが足止めする必要があり、また巻き込まれないようにしなければいけない。
今回は足止めするだけならメンバーは揃っている。
緊急脱出手段もあるのでなんとかなるだろう。
【というわけでこのままではジリ貧ですので、勝負をかけます】
【任されましたわ! わたりんがあのとんでもない攻撃を仕掛けるまできっちりと縫い付けてみせますわ!
腕がなりますわね!】
【この化け物を一撃で倒せるならばそれにこしたことはないが……本当にやれるのか?】
【兄様、ワタリさんならできます。信じてください】
前衛陣には足止めをしてもらう以上話を通しておく必要がある。
後衛陣にはアルがいるので不測の事態にでも陥らなければ問題ないだろう。
今尚戦闘が続いているので手早く説明したが、あの破壊力を実際に目にしている2人はすぐに納得したが見ていないグレーさんは半信半疑だ。
だがレーネさんのフォローにより、納得はしていないが了承してくれた。
というか現状ではジリ貧が見えているので選択肢は多くないのだ。当然の結果ともいえる。
紫幻装身の更新をして人形を新しくしてから作戦は決行された。
今まで以上の動きでオークロードの行動を阻害し始めたドリルさんにレーネさんとグレーさんが追従する。
今までレーネさんを優先してきた動きからレーネさんを含む3人での徹底的な行動阻害行為への変化にオークロードも対応が間に合っていない。
これならいけそうか?
すでに構成の変更は終了している。あとはぶち込むだけだ。
紫の雷で構成された巨大な槌を腰溜めに構える。
突然紫電の大槌を構えたオレにびっくりしている後衛陣には構わずオークロードを見据える。
何も言わなかったけど別にいいよね。
こっちはアルがいるからなんとでもしてくれるもの。
「わ、わたりん!? 何かやるのじゃな!? 妾は信じておるぞ!」
「え? あーはい、アルの後ろに逃げててください。すごいの行きます」
なんか応援されたが適当に応えておいた。
エリア姫はオレに過剰な期待をしていると思う。
まぁ即死さえしなければどんな怪我でも治せるし、実際に死にかけたグレーさんやエリア姫本人を治している。
これくらいの期待は仕方ないのかもしれない。
むしろ余計なことするなと言われるよりはいいだろう。具体的な説明してないし。
……具体的ではないけれど今簡単に言ったし、これでよし!
エリア姫への対応中も目を逸らさずいつでも仕掛けられるようにオークロードを見ていたがなかなかいいタイミングがない。
前衛と人形による行動阻害はうまく機能しているのだが、ここぞというタイミングがなかなかこないのだ。
こればかりは相手の動きもあるので狙い通りのタイミングを作り出すのは難しい。
特にあのオークロードは自身の防御力を活かしつつ、黒い炎で必殺を狙えるのだから勇者の装備を纏った2人とランクSと物理攻撃無効の6体の人形を同時に相手にしているのになかなか隙を見せない。
……仕方ない。ちょっときついが人形をオレが動かすか。
6体の紫電の人形は自立行動が出来るほど優秀な戦闘思考を搭載しているがオレが動かす事も出来る。
しかし1体ずつなら別に問題ないが、それが6体となるとちょっと難しい。
だが1体をオレが動かしたところで大した効果は見込めない。やるなら全部を1度に一気にやらなければだめだ。
紫電の大槌を通して6体の人形とリンクする。
視界が7つに増え、処理しなければならない情報が飛躍的に増大する。
脳を揺さぶられるような情報量に不必要な部分を全てカットし、なんとか動かせるようになった瞬間1体ずつわずかな時間差を作り、特攻させた。
紫電で構成された人形は肉体そのものが凶器だ。
触れれば痺れ、焼かれる。
しかも痛みも恐怖も感じる事はない人形だ。
1度に6体とはいえ、今までの動きとまったく違う行動を取られれば一瞬でも十分な隙が出来る。
しかも紫電の人形による自爆特攻ならばさらなる行動阻害を狙える。
狙い通りに次々に人形がオークロードに取り付くことに成功し、残った魔力を全開で放出させ紫電を撒き散らす。
前衛3人が即座に撤退行動を開始したのを確認し、転移する。
視界が切り替わった瞬間、高速で打ち出された紫電の大槌は空気の壁諸共破壊し亜音速を超えた速度で飛来する。
紫電の大槌は紫電部分が魔力で構成されているため魔法攻撃と変わらない上に物理攻撃の特性も持っている。
オークロードが霧になって逃げようとすれば逆に致命的なダメージの上乗せが待っている。
しかし高い防御力を誇る肉体も火力特化構成と重々陣による凄まじい重量を上乗せした攻撃力の前ではただの紙だ。
最早逃げる術は……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
直撃を確信した瞬間、視界が切り替わった。
予想外の出来事に思考が凍りつきかけるが強引に思考を元に戻して回転させる。
目の前にいたはずのオークロードは居らず、代わりに見えるのは壁。
……いやこれは床!? くそ! 止まらん!
紫電の大槌はすでに亜音速を超える速度で打ち出されていて止める事は不可能だ。
そしてそれ以上に強烈な殺気が背後で巻き起こった。
同時に紫電の大槌が消滅し、柄だけに戻ったために床に叩きつける部分がなくなり空を切った。
しかし空を切っただけでも凄まじい破壊力を発揮し、迷宮の床に大きな傷跡を作り出す。
空を切り、勢いのついた体をそのまま回転させ背後の殺気に対応する。
相手はわかっている。
視界が反転して見えた姿はやはりオークロード。
赤黒い肌に金色の髪。
凝縮された闇のような暗く昏い炎。
「ああああああああぁあぁぁぁぁっ!」
魔道具無効化のスキルですでにオレの装備は使い物にならない。
だが火力特化構成は魔道具ではない。
純粋なステータスだ。
空気の壁を打ち抜き亜音速に到達した拳が黒い炎を打ち抜きオークロード目掛けて迫り、紙一重でかわされた。
しかし代償は大きい。
紙一重ということは直撃していないだけにしかすぎない。
火力特化構成で全力で振り切られた拳は直撃しなくても周囲に牙を剥く。
結果――。
オークロードは凄まじい速度で弾き飛ばされ、オレの腕は内部から崩壊した。
脳を焼く痛みを根性で堪える。
この痛みはすでに経験している。経験済みな痛みは耐えられる。
痛みを紛らわすためと八つ当たりのために崩壊寸前の迷宮の床を着地と同時に踏み抜き、弾き飛ばしたオークロードに視線を向けた。
直後かなり遠くから何かが激突する音が響き、迷宮を揺らす。
視線を向けた先はかなり広大な空間の後に壁があった。
どうやらあそこまでオークロードは弾き飛ばされて壁に激突したようだ。
時間がない。現状を把握して対策を。
すでに周りにオレとオークロードしかいないことはわかっている。
構成を戻している時間はない。
準備していたスタミナ回復ポーションの出番だ。
王族の不文律を使い、残していた魔法スキル――初級魔法:体力回復を全開で行使する。
内側からはじけ飛ぶ寸前のぼろぼろの腕が瞬時に元に戻り、呼応して襤褸切れに成り下がった黒狼のドレスグローブが魔力を吸収して急速にその姿を修復していく。
しかし黒狼のドレスグローブが完全に修復される前にスタミナが危険域になり、王族の不文律が自動解除された。
すぐさまスタミナ回復ポーションを連続使用して全開まで持っていき備える。
遠くで巨大な瓦礫が凄まじい音を響かせて壁や床に激突して砕けている。
やはり直撃ではないので死ななかったようだ。
かなりの距離があるというのに膨れ上がった殺気と、膨大な量となった黒い炎がここまでその深く昏く凍てつく熱量を伝えてくる。
どうやら本当の戦いはここからのようだ。
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