幼女と執事が異世界で

天界

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第5章

95,日常

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 屋敷に戻ってくると老執事――エンタッシュが出迎えてくれた。
 彼はずっとここで待っていたのだろうか、と思わせるようなタイミングの出迎えにちょっとびっくりしてしまった。
 でも考えてみればアルも同じことをやりそうだ。そもそもいつも一緒だから出迎えるということをされたことがないけど。


「お帰りなさいませお嬢様方。入浴と着替えのご用意は出来ております」

「ありがとう、エンタッシュ。
 軽く入ってからネーシャの迎え行こうか」

【はい!】

「畏まりました」


 エンタッシュはこの大きな屋敷を1人で統括管理しているだけあり、執事としてのレベルも相当高い。
 アルとはまた別のタイプの執事だ。
 アルはオレという存在の為に特化したタイプだとすると、この老執事は執事というよりはどちらかというと屋敷の管理に特化したといった感じだろうか。


 最近は迷宮に潜って屋敷に帰還してネーシャを迎えに行ってまた屋敷に戻ってきて、エリザベートさんが来るのを待ってから筋トレやお風呂や食事を摂ってから海鳥亭に帰るということを繰り返している。
 どうにもこの屋敷で寝るのは落ち着かない。
 特にネーシャが落ち着かない。1度屋敷で寝てみたりはしたのだが、ネーシャが一睡も出来ずに目の下に隈を作っていた。
 でもこの屋敷の訓練施設やお風呂は非常に有用だ。特にお風呂がいい。

 プールのように巨大で毎回ネーシャは泳いでしまうほどの大きさなのでゆったりできるし、何より今までアルの浄化頼りだったので肩まで浸かれるお風呂には全然入れていなかったのも大きい。
 でもアルに体を拭いてもらうという行為はなぜか今も続いている。
 海鳥亭に帰ってきて寝る前に、と言った感じだ。別に疚しいことは何もない。ほんとだよ?


「わーたーりーちゃーん、ただいまぁー!」

「お帰りなさい、エリザベートさん」

「ぉかえりなさぃ……エリザベートさん」


 お風呂に行こうとしたところにちょうどよくエリザベートさんも合流してきたので女性陣3人で軽く入りに行くことにした。
 エリザベートさんはこの屋敷でも海鳥亭同様に顔パス。ノックなど存在しないといった感じで突撃してくる。
 普通は大問題だろうが海鳥亭でも同じことをしていたのでもうすっかり慣れてしまった。
 エリザベートさんの憎めない性格とパワフルな根性がなければ成立しない行動だろうけど。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 アルの浄化があるのでほとんど汚れてないし、ネーシャのお迎えもあり本当に軽く入っただけでお風呂を出ると用意されている服に着替える。
 豪勢な屋敷にいるからといって服まで豪華になると思ったら大間違いだ。
 元々小市民なオレ達は着替えもいつもと変わりない。
 この屋敷では逆に浮いてしまうかもしない小市民的服装ではあるが屋敷の主人はオレなのだから何も問題ない。
 屋敷の維持管理の為の人員も全員奴隷だし、特に問題もない。


 結局のところ財産と共に引き継いだ奴隷の人達はそのままだ。
 屋敷の維持管理に必要な人材が多すぎた。
 屋敷や財産を売り払ってもよかったのだが、そもそも売り払う先の伝が無いし売り払う物が物だけにすぐには無理だ。
 そうなると維持管理に必要な人材が必須で今まで維持管理していた人達のノウハウもあるし、物が高額なだけに解放したら即強奪されてしまう可能性が高すぎる。
 そういった理由などから奴隷は解放することが出来ず、結局そのままとなっている。
 いつかこの膨大な財産をどうにかしたら解放してあげたいとは思っている。


 元屋敷の主である顎――リオネットはギルドマスターというか冒険者ギルドでの買い取りとなり、ランクSの冒険者という点も加味され、白金貨単位での支払いとなった。
 金額は白金貨で28枚――2800万ラード。
 普通の奴隷が金貨10枚――10万ラードくらいだと考えると単純計算280倍だ。さすがランクSと言わざるを得ない。
 だがリオネットは基本的に育成した奴隷とPTを組んで高額な魔道具で身を固めて、帰還用の魔道具を駆使して迷宮を攻略し、ランクSになった。
 だが今回リオネット自身についた額だけで2800万ラード。
 当然高額な魔道具の装備やPTを組んでいた奴隷はこれに含まれない。帰還用の魔道具はオレが使っているので貸し出しも不可だ。

 世界に根を張る冒険者ギルドと言えど白金貨単位の買い物をこれ以上は出来ないそうだが、リオネットだけでは今までのような迷宮攻略は当然出来ない。
 なのでPTを組んでいた奴隷と装備は貸し出しということで決着がついた。
 ただ帰還用魔道具――リリンの羽根は無理なので今まで通りには行かないだろうけど。

 ちなみに奴隷と装備の貸し出しに関して奴隷の怪我や死亡した際の賠償、装備の破損紛失時の保証なんかも手厚くしてもらった。
 でも今までかなり強気な態度だったギルドマスターがリオネットの買取の際に土下座して値引きを頼み込んできた時は正直かなり引いた。

 なんでも冒険者ギルドの幹部の人達にリオネットの買取だけは承諾させたが、それ以外は難しかったらしい。
 なので冒険者ギルドラッシュ支部で他を賄わなければならなくなってしまったのだ。
 これでは白金貨単位の金額になる装備や奴隷を買い取りできるわけがない。

 でもそこで割り込んできたのがエリザベートさんとアル。
 彼女達はまさに今までの鬱憤を晴らすべく阿吽の呼吸のレベルでの連携を見せ、的確にギルドマスターと冒険者ギルドラッシュ支部の財政状況を把握してコントロールし、ぎりぎりの値段をたたき出した。
 主にギルドマスターの財布に大打撃を与える形で。

 そんなわけで保証に関して手厚くなった形で決着がついた。

 リオネット達は今までのような攻略は出来ないので新たに高ランクのリーダーを立てて迷宮攻略をしているらしい。
 どこの迷宮かは詳しくは知らないが、エンタッシュの方に詳細が行っているらしいので聞けばわかるだろう。興味ないけど。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 みんなで用意されていた馬車に乗り込みランカスター家にネーシャを迎えに行く。
 遠距離通信用魔道具で迎えに行く事はすでに知らせてあるので今頃帰る準備をしているのだろう。
 今日は修行を延長するということもないらしい。
 ネーシャの鍛冶修行の成果は目に見えてわかるほどの上達を見せている。なので迎えに行ってもユユさんの興が乗ったりしていると延長して遅くなることもしばしば。
 2人共実に楽しそうにやっているので、そういう時は特に邪魔をすることもなくランカスター家のリビングでトトさん達とお喋りしながら待っている。

 ちなみにトトさんに特注してもらったお風呂用の大きな桶は結局の所アイテムボックスの肥やしと化している。
 いつか使うときが来るだろう。たぶん。

 ランカスター家の前に着いた馬車は最初に乗った豪華で巨大な馬車ではなく、6人乗りの中型の箱馬車でそれほど邪魔にはならない。
 まぁそれでもそれなりの幅を取るため1度ランカスター家で下ろしてもらい、馬車だけは近場の駐車場ならぬ、駐馬車場で待機してもらう。
 御者はエンタッシュではないが、簡易信号を送れる魔道具を所持しているので呼べばすぐに来てくれる。

 簡易信号を送れる魔道具は本当に簡単な信号しか送れないが予めモールス信号のように決めておけば十分活用できる。
 念話のようにPTを組む必要もないし、遠距離通信魔道具のようにレア度も高くない。富裕層の間では普通に使われている魔道具の一種だ。
 でも冒険者が簡易通信のために使うにはちょっと高い。そんな微妙な魔道具。


「おかえりなさいませ、お嬢様!」

「ただいま、ネーシャ。でも逆だよ~」

「はい! ただいまです、お嬢様!」

「おかえり~……。なんか違う気もするけどまぁいいか」


 綺麗なカーテシーと元気な声で迎えてくれるネーシャ。
 ランカスター家がもうネーシャにとっては自分の家みたいな感じになっているからそんなに違和感がないのが面白い。
 ネーシャにとって自分の家みたいな感じならオレ達にとっても同じようなものだ。
 実際勝手知ったるランカスター家。リビングでオレ達がお喋りしている光景は日常の一コマみたいな感じで扱われている。

 今日はそんなに長くお喋りすることもなく、といっても30分くらいはアルの淹れてくれた美味しい蛍光色の紅茶っぽいものを飲みながらネーシャの様子を聞いたり、オレ達の迷宮攻略を話したりしてからお暇した。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 屋敷に戻ってくるとさっそく訓練施設でみんなで筋トレを開始。
 施設にある器具を使い始めるエリザベートさんとレーネさんだが、ステータスリセットしているオレには器具を使うのはかなりきつい。
 なので訓練施設でもいつもと変わらない筋トレをする。
 普段の身体能力と筋トレ中の身体能力に歴然の差があるのは一目瞭然なのだが、エリザベートさんもレーネさんもその辺には突っ込まないでくれている。
 幼女の見た目で高い戦闘能力と治癒能力を持っている時点で普通ではないのだから色々と気を使ってくれているのだ。
 というか多分その辺を突っ込んだら、こんな不思議な力を持っているオレ達は姿を消してしまい、もう一緒にはいられなくなってしまうとでも思っているのだろう。
 訳ありな冒険者というのは定番ではあるがそこそこいる。
 その訳あり冒険者がその訳を突っ込まれれば姿を消すのは珍しくないのだ。

 実際神様に貰った力です、なんて事実をありのままに言っても頭の心配をされるだけなのでありがたかったりする。

 筋トレを終えてお風呂に直行してのんびりとし、アルの作ってくれる美味しくも中毒性抜群の夕食を堪能してから海鳥亭へと帰ってくる。
 ここ最近海鳥亭のマスターの料理を食べていない。
 でもアルの作ってくれる食事がおいしすぎるのがいけないんだ。マスターごめんよ。

 屋敷と比べると狭くてなんとも落ち着く海鳥亭の3階でアルに隅々まで綺麗にしてもらってからベッドに入る。
 決して柔らかいとはいえないベッドだけど、屋敷の柔らかすぎて沈んでしまうベッドよりはずっと寝心地がいい。
 ネーシャも海鳥亭なら熟睡できるし、オレも屋敷よりはこっちの方が気が楽だ。貧乏性と思われるだろうが仕方ない。
 いきなりあんな屋敷貰っても困るというものだ。


 アルに隅々まで綺麗にしてもらってちょっと気だるくなった体にいつものベッドが優しく眠気を運んでくる。
 明日は迷宮のガーディアンを倒して初心者迷宮卒業だ。
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