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第3章
52,vs岩食いペンギン
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岩食いペンギンはペンギンのシルエットのような丸みを帯びた短足の鳥とはとてもじゃないが思えなかった。
ごつごつした岩のような物が無数に生え、丸みはまったくなく歪に個体毎にその形が違っている。
羽の部分にあたる2本の腕は鋭利な刃物のように見える。
石切り場に積み上げられているたくさんの石材をくちばしではなく鰐のような巨大な口を大きく開け噛み砕く様はとてもじゃないがペンギンではない。
てっきり可愛いペンギンが小さな石をちょこちょこ食べている程度だと思っていたため面食らってしまった。
それでも気づかれないように石切り場まで延びている街道ではなく近場まで続く林道の木に身を隠していたため気づかれることはなかったのが幸いだ。
「あ、アル……。あれは何……? オレの知ってるペンギンじゃないよ、アレ」
「ワタリ様、アレが岩食いペンギンと呼ばれる魔物にございます」
「お、お嬢様……?」
「……まじかよ……」
最近はネーシャの前でも言葉遣いを丁寧にするように心がけていたがつい元に戻ってしまうほどのインパクトだ。
個体差により大きさが多少違うが、大きいものならオレの2倍以上ある。小さいやつでもそれに近いくらいはある。
よく考えなくてもギルドに討伐の前に調査が依頼されるような魔物なのだから、それなりの魔物である可能性が十分あったのだが生前のペンギンの可愛い記憶にすっかり失念していた。
エリザベートさんがその恐ろしさを何度も語るわけだ。あの時はペンギンをイメージしていただけに全然怖くなかったが、実物を見てしまうと酷すぎる。
アレはペンギンじゃない。決してペンギンじゃない。鰐となんかごっつい岩が合体した怪獣だ。
しかも数が結構多い。石切り場全体を見通せるわけではないが目視できる範囲で12匹。
気配察知Lv1の範囲は約50m。その範囲内で確認できるのは全て目視できる距離にいるようだ。
林道の中には目視でも気配察知でも確認できない。
「アル、石切り場の方以外にアレはいるかな?」
「答えは否。目視できる範囲には見当たりません」
「あ、あたしもそう思います」
「じゃぁ今見えるだけで12匹だね。最初は全部討伐するつもりだったけど……」
「お、お嬢様ぁ……。死んじゃいますよぉ……」
オレが前方を、アルとネーシャが――主にアルがだが後方を確認しながら状況を確認する。
ネーシャはすっかり涙目だ。アイテムボックスから出した盾に縋りつくように震えてしまっている。
一旦ネーシャを近場の村に置いてきた方がいいだろうか。
少し悩んでいると涙目で震えていたネーシャだったが唇を噛んで覚悟を決めたようにアルと一緒に警戒するように周りを確認し出した。
大丈夫っぽいな。
危なくなったら即効でとんずらしよう。
「よし。じゃあまず1匹だけ殺ってみる。2人は警戒を怠らないで見つかったらすぐ念話で知らせて。速攻で逃げるから」
「畏まりました」
「お、お嬢様。ファイトです!」
アルはいつも通りの完璧な礼をし、ネーシャは涙目ながらも気丈に胸の前で拳を握り送り出してくれる。
石切り場にはたくさんの石材が積んであり、死角はかなり豊富だ。
一先ず岩食いペンギンが居ない石材の山の裏手に転移し、1匹だけ釣れないか探ってみることにした。
視界が瞬時に切り替わり予定通りの地点に転移すると、安全を確認し岩食いペンギンを観察し始める。
アル達は予定通り少し後退しかなり距離を取っている。あれなら発見されても接近までに大分時間が稼げる。こちらに念話で報告して複数転移するのも余裕だろう。
石材の山の影から見える範囲では12匹から16匹に数が増えた怪獣達がガリガリと食事中だ。
全員が食事に夢中になっているようで結構ばらばらに散っている。
その中の1匹が一際大きく積みあがった石材の影になる位置に頭を突っ込んでいる。
問題は鳴き声なんかをあげたらすぐに他のやつらに気づかれるという点。
ゲームと違ってある程度離れていたら1匹だけ誘い出せるなんてのは幻想だな。
やるなら即死が理想だが、あのごつごつした岩を纏っているので防御力もかなりありそうだ。
なるべくなら接近戦はしたくないので、試しも兼ねているのでまずは遠距離から魔法で一撃入れてみることにする。
ネーシャを引き取ってからの1週間で魔法の練習はかなり行っている。
イメージは螺旋状の槍。
回転させて貫通力を増し、螺旋の溝を描くことにより更に強化する。
イメージが確定しMPが抜けた瞬間には高速回転した氷の槍が凄まじいスピードで射出される。
狙いはごつごつと生えている岩と岩の隙間の茶色の毛の部分だ。
寸分違わず目標に突き刺さった氷の槍はその強化された貫通力を遺憾なく発揮し、刺さった瞬間には反対側につき抜けそのまま石材の山すら貫通し、しばらく進んで何かに激突した。
どうやら石材を切り出している岩場に突き刺さったようだが、それでも回転がとまっていなかったようで岩盤を削るような凄まじい音が響きその音で食事中の怪獣が一斉にそちらの方に集まっていく。
おかげで崩れかけの石材の山と氷の槍に貫かれた岩食いペンギンには気づかなかった。
だがちょっと威力高すぎるだろう、これ。貫通力をあげるために工夫したとはいえ予想外の高威力に唖然としてしまったが威力を下げるなら小さくすればいいかな、と思い直す。
魔法はイメージが物を言う技術なので直感に近いイメージは結構大事だ。
貫かれた岩食いペンギンには大きな穴が空いていてぐったりと石材に体を預けるようにしている。
見た感じだと絶命しているようにも見えるが油断することなく近づき、解体が使える距離になったら念じてみる。
穴が空いた岩食いペンギンの巨体が一瞬で消え、石材の山にでかい羽が片方だけ残った。
石材の山が崩れそうなので急いで回収し、鑑定は後回しにする。まだまだいっぱい残っているのだから。
だが一撃で倒せることもわかった。見た目に反して大して強くないのだろうかとも一瞬だけ思ったが、エリザベートさんが色々と教えてくれたのも大きいと考え直した。
やはりというか魔物相手だと生物を殺めた罪悪感のようなものはまったく沸いてこない。気づかないうちに脳内物質が垂れ流しなのだろうか。だが程よく緊張はしているが高揚感や興奮はない。むしろ驚くほどに冷静だ。
相手の怪獣としか思えない容姿なんかもあるのだろう。明らかにモンスターモンスターしているし。
回収を終える頃には激しい音もしなくなり、残りの岩食いペンギン達が集まっている様はどこからどうみても岩の塊だ。
試しに毛の部分を狙っては見たがどうやらあの岩はそれほど堅いわけではないようで、氷の槍に貫かれた衝撃で簡単に壊れていた。
氷の槍に威力がありすぎたのだろうが、エリザベートさんの話を思い出したのでそれ以外の理由にも思い至った。
まぁそれはいいとして、ほぼ一撃で倒せることはわかった。
先ほどの氷の槍のMP消費はそこそこだが、少し小さくすれば5,6本なら同時に射出できる。
残っている15匹も全弾命中させることが出来れば3回で終わる計算だ。
3回撃ってもMPはぎりぎり残るが2回目でMPを補給するべきだろう。念には念を、だ。
固まっている怪獣の塊に狙いを定め、貫通力を考慮してなるべく一気に倒せるように位置を調整し5本の氷の槍を一気に射出する。
射出の際の音はほとんどない。
少し小振りながら、そのスピードと回転力は先ほどとほとんど変わらない凄まじい物だ。
怪獣の塊との距離は100m以上離れていたが射出から接触まで1秒もかからなかった。
怪獣に接触すると同時に岩と肉を削りその背後にある壁に激突する凄まじい音。
その音が聞こえた瞬間には第2陣が飛来する。
予定通りに月陽の首飾りでMPを回復し、やっと事態を把握したのか動き出した3体に向かって3本の氷の槍を射出し絶命させた。
岩食いペンギンの背後――オレから見たら正面の岩場を削りまくった氷の槍以外は動く物がないように見える。
念のため死んだ振りを考慮し、中範囲に広げた炎を岩食いペンギン全体を包むように使用する。
さっきのように1匹だけなら近寄って解体でいいが、今回は数が多い。
火力は抑えて範囲を広げて効果時間を延ばしただけの炎だが、死んでいなければ微動だにしないのは難しいだろう。
エリザベートさんの話によれば弱点は氷だが、炎に耐性があるわけではないらしい。なのでじっと耐えることもないだろう。
1分ほど燃やし続けてみたが動く気配はなかった。
岩場を削っていた氷の槍もすでに消失し、炎も消える。
後に残ったのは多少焦げた怪獣達の無残な穴の空いた死体のみだった。
死体にダメージを与えすぎると消えるらしいが、この程度なら大丈夫なようだ。
その辺も考慮に入れて火力を低くしたのもよかったのかもしれない。
【アル、終わったっぽい。そっちから岩食いペンギンは確認できる?】
【さすが我が主。このアル、感服致しました。
答えは否。こちらから岩食いペンギンは確認できません】
【さすがお嬢様です! すごいです! すごすぎです! あんな化け物みたいな怖いの倒しちゃうなんてすごすぎです!
あ、あたしにも岩食いペンギンは見えません!】
【オッケー。じゃあこっちに呼ぶよー】
【畏まりました】
【は、はい! いつでも大丈夫です!】
複数転移で岩食いペンギンの残骸から少し距離を取ったところに転移する。もちろん周りを確認してからだ。
「じゃあアル。解体と回収しようか。ネーシャは無理しないでいいよ、結構ぐろいし」
「畏まりました」
「だ、大丈夫です! あたしもやれます!」
「そう? でも無理しないでね。じゃあアルは一先ず全部解体して、ネーシャは素材を回収してここに集めておいて」
「畏まりました」
「はい!」
2人に指示を出しつつアイテムボックスから大き目の布を取り出して敷き、桶を取り出して魔法で水を入れておく。
解体すれば地面に落ちるのでその時につく汚れなんかを水で拭ってもらうためだ。
2人が作業している間に残りがいないか確認する。
状態異常系の回復スキルを外し、気配察知をLv2にあげると50mだった気配察知の範囲が一気に倍の100m近くまで拡大する。
石切り場と岩場は結構な広さがあるので100mでは全然足りないがないよりはマシだろう。
出来ればLv3まで強化しておきたいが戦闘系スキルで外せるものが少ないのでこれで我慢だ。
一通り見て回り、岩食いペンギンの残党がいないことを確認するとアルを思い浮かべて単独転移する。
「お疲れ様にございます、ワタリ様」
「お疲れ様です、お嬢様!」
「うん、2人もご苦労様。一通り見てきたけど他にはいないっぽいかな。全部倒しちゃったから巣も探せないし、もう帰ろうか?」
「畏まりました」
「はい!」
2人が汚れを落としまとめておいた素材はかなり大き目の肉の塊が10個近くと鋭い羽が5枚と岩が3つと内臓のような物が1つだった。
肉と羽はそのまんまで、岩は体表についてた岩だった。
内臓のようなものはどうやらレアアイテムのようで薬になるらしい。
かなりの数を倒したのにオレのBaseLvは上がらなかった。
でもアルとネーシャはなんとBaseLvが3になったそうだ。
一気に2つも上がるとかどういうことだ。
オレは必要経験値が普通の人と比べて多いのだろうか……。
チート持ちだから仕方ないとは思うがちょっと悲しい。
しかもかなり距離をあけていたのに2人にもちゃんと経験値が入っているというのも謎だ。どのくらい離れていたら無効になるんだろうか。
暇があったら実験したいところだ。でもこういう情報ならエリザベートさんが詳しそうだから覚えていたら聞いてみよう。
まだまだ中天にもなっていない2つの太陽が悠然とその存在を主張する青空を見上げて、小さく溜め息を吐いて歩き出した。
ごつごつした岩のような物が無数に生え、丸みはまったくなく歪に個体毎にその形が違っている。
羽の部分にあたる2本の腕は鋭利な刃物のように見える。
石切り場に積み上げられているたくさんの石材をくちばしではなく鰐のような巨大な口を大きく開け噛み砕く様はとてもじゃないがペンギンではない。
てっきり可愛いペンギンが小さな石をちょこちょこ食べている程度だと思っていたため面食らってしまった。
それでも気づかれないように石切り場まで延びている街道ではなく近場まで続く林道の木に身を隠していたため気づかれることはなかったのが幸いだ。
「あ、アル……。あれは何……? オレの知ってるペンギンじゃないよ、アレ」
「ワタリ様、アレが岩食いペンギンと呼ばれる魔物にございます」
「お、お嬢様……?」
「……まじかよ……」
最近はネーシャの前でも言葉遣いを丁寧にするように心がけていたがつい元に戻ってしまうほどのインパクトだ。
個体差により大きさが多少違うが、大きいものならオレの2倍以上ある。小さいやつでもそれに近いくらいはある。
よく考えなくてもギルドに討伐の前に調査が依頼されるような魔物なのだから、それなりの魔物である可能性が十分あったのだが生前のペンギンの可愛い記憶にすっかり失念していた。
エリザベートさんがその恐ろしさを何度も語るわけだ。あの時はペンギンをイメージしていただけに全然怖くなかったが、実物を見てしまうと酷すぎる。
アレはペンギンじゃない。決してペンギンじゃない。鰐となんかごっつい岩が合体した怪獣だ。
しかも数が結構多い。石切り場全体を見通せるわけではないが目視できる範囲で12匹。
気配察知Lv1の範囲は約50m。その範囲内で確認できるのは全て目視できる距離にいるようだ。
林道の中には目視でも気配察知でも確認できない。
「アル、石切り場の方以外にアレはいるかな?」
「答えは否。目視できる範囲には見当たりません」
「あ、あたしもそう思います」
「じゃぁ今見えるだけで12匹だね。最初は全部討伐するつもりだったけど……」
「お、お嬢様ぁ……。死んじゃいますよぉ……」
オレが前方を、アルとネーシャが――主にアルがだが後方を確認しながら状況を確認する。
ネーシャはすっかり涙目だ。アイテムボックスから出した盾に縋りつくように震えてしまっている。
一旦ネーシャを近場の村に置いてきた方がいいだろうか。
少し悩んでいると涙目で震えていたネーシャだったが唇を噛んで覚悟を決めたようにアルと一緒に警戒するように周りを確認し出した。
大丈夫っぽいな。
危なくなったら即効でとんずらしよう。
「よし。じゃあまず1匹だけ殺ってみる。2人は警戒を怠らないで見つかったらすぐ念話で知らせて。速攻で逃げるから」
「畏まりました」
「お、お嬢様。ファイトです!」
アルはいつも通りの完璧な礼をし、ネーシャは涙目ながらも気丈に胸の前で拳を握り送り出してくれる。
石切り場にはたくさんの石材が積んであり、死角はかなり豊富だ。
一先ず岩食いペンギンが居ない石材の山の裏手に転移し、1匹だけ釣れないか探ってみることにした。
視界が瞬時に切り替わり予定通りの地点に転移すると、安全を確認し岩食いペンギンを観察し始める。
アル達は予定通り少し後退しかなり距離を取っている。あれなら発見されても接近までに大分時間が稼げる。こちらに念話で報告して複数転移するのも余裕だろう。
石材の山の影から見える範囲では12匹から16匹に数が増えた怪獣達がガリガリと食事中だ。
全員が食事に夢中になっているようで結構ばらばらに散っている。
その中の1匹が一際大きく積みあがった石材の影になる位置に頭を突っ込んでいる。
問題は鳴き声なんかをあげたらすぐに他のやつらに気づかれるという点。
ゲームと違ってある程度離れていたら1匹だけ誘い出せるなんてのは幻想だな。
やるなら即死が理想だが、あのごつごつした岩を纏っているので防御力もかなりありそうだ。
なるべくなら接近戦はしたくないので、試しも兼ねているのでまずは遠距離から魔法で一撃入れてみることにする。
ネーシャを引き取ってからの1週間で魔法の練習はかなり行っている。
イメージは螺旋状の槍。
回転させて貫通力を増し、螺旋の溝を描くことにより更に強化する。
イメージが確定しMPが抜けた瞬間には高速回転した氷の槍が凄まじいスピードで射出される。
狙いはごつごつと生えている岩と岩の隙間の茶色の毛の部分だ。
寸分違わず目標に突き刺さった氷の槍はその強化された貫通力を遺憾なく発揮し、刺さった瞬間には反対側につき抜けそのまま石材の山すら貫通し、しばらく進んで何かに激突した。
どうやら石材を切り出している岩場に突き刺さったようだが、それでも回転がとまっていなかったようで岩盤を削るような凄まじい音が響きその音で食事中の怪獣が一斉にそちらの方に集まっていく。
おかげで崩れかけの石材の山と氷の槍に貫かれた岩食いペンギンには気づかなかった。
だがちょっと威力高すぎるだろう、これ。貫通力をあげるために工夫したとはいえ予想外の高威力に唖然としてしまったが威力を下げるなら小さくすればいいかな、と思い直す。
魔法はイメージが物を言う技術なので直感に近いイメージは結構大事だ。
貫かれた岩食いペンギンには大きな穴が空いていてぐったりと石材に体を預けるようにしている。
見た感じだと絶命しているようにも見えるが油断することなく近づき、解体が使える距離になったら念じてみる。
穴が空いた岩食いペンギンの巨体が一瞬で消え、石材の山にでかい羽が片方だけ残った。
石材の山が崩れそうなので急いで回収し、鑑定は後回しにする。まだまだいっぱい残っているのだから。
だが一撃で倒せることもわかった。見た目に反して大して強くないのだろうかとも一瞬だけ思ったが、エリザベートさんが色々と教えてくれたのも大きいと考え直した。
やはりというか魔物相手だと生物を殺めた罪悪感のようなものはまったく沸いてこない。気づかないうちに脳内物質が垂れ流しなのだろうか。だが程よく緊張はしているが高揚感や興奮はない。むしろ驚くほどに冷静だ。
相手の怪獣としか思えない容姿なんかもあるのだろう。明らかにモンスターモンスターしているし。
回収を終える頃には激しい音もしなくなり、残りの岩食いペンギン達が集まっている様はどこからどうみても岩の塊だ。
試しに毛の部分を狙っては見たがどうやらあの岩はそれほど堅いわけではないようで、氷の槍に貫かれた衝撃で簡単に壊れていた。
氷の槍に威力がありすぎたのだろうが、エリザベートさんの話を思い出したのでそれ以外の理由にも思い至った。
まぁそれはいいとして、ほぼ一撃で倒せることはわかった。
先ほどの氷の槍のMP消費はそこそこだが、少し小さくすれば5,6本なら同時に射出できる。
残っている15匹も全弾命中させることが出来れば3回で終わる計算だ。
3回撃ってもMPはぎりぎり残るが2回目でMPを補給するべきだろう。念には念を、だ。
固まっている怪獣の塊に狙いを定め、貫通力を考慮してなるべく一気に倒せるように位置を調整し5本の氷の槍を一気に射出する。
射出の際の音はほとんどない。
少し小振りながら、そのスピードと回転力は先ほどとほとんど変わらない凄まじい物だ。
怪獣の塊との距離は100m以上離れていたが射出から接触まで1秒もかからなかった。
怪獣に接触すると同時に岩と肉を削りその背後にある壁に激突する凄まじい音。
その音が聞こえた瞬間には第2陣が飛来する。
予定通りに月陽の首飾りでMPを回復し、やっと事態を把握したのか動き出した3体に向かって3本の氷の槍を射出し絶命させた。
岩食いペンギンの背後――オレから見たら正面の岩場を削りまくった氷の槍以外は動く物がないように見える。
念のため死んだ振りを考慮し、中範囲に広げた炎を岩食いペンギン全体を包むように使用する。
さっきのように1匹だけなら近寄って解体でいいが、今回は数が多い。
火力は抑えて範囲を広げて効果時間を延ばしただけの炎だが、死んでいなければ微動だにしないのは難しいだろう。
エリザベートさんの話によれば弱点は氷だが、炎に耐性があるわけではないらしい。なのでじっと耐えることもないだろう。
1分ほど燃やし続けてみたが動く気配はなかった。
岩場を削っていた氷の槍もすでに消失し、炎も消える。
後に残ったのは多少焦げた怪獣達の無残な穴の空いた死体のみだった。
死体にダメージを与えすぎると消えるらしいが、この程度なら大丈夫なようだ。
その辺も考慮に入れて火力を低くしたのもよかったのかもしれない。
【アル、終わったっぽい。そっちから岩食いペンギンは確認できる?】
【さすが我が主。このアル、感服致しました。
答えは否。こちらから岩食いペンギンは確認できません】
【さすがお嬢様です! すごいです! すごすぎです! あんな化け物みたいな怖いの倒しちゃうなんてすごすぎです!
あ、あたしにも岩食いペンギンは見えません!】
【オッケー。じゃあこっちに呼ぶよー】
【畏まりました】
【は、はい! いつでも大丈夫です!】
複数転移で岩食いペンギンの残骸から少し距離を取ったところに転移する。もちろん周りを確認してからだ。
「じゃあアル。解体と回収しようか。ネーシャは無理しないでいいよ、結構ぐろいし」
「畏まりました」
「だ、大丈夫です! あたしもやれます!」
「そう? でも無理しないでね。じゃあアルは一先ず全部解体して、ネーシャは素材を回収してここに集めておいて」
「畏まりました」
「はい!」
2人に指示を出しつつアイテムボックスから大き目の布を取り出して敷き、桶を取り出して魔法で水を入れておく。
解体すれば地面に落ちるのでその時につく汚れなんかを水で拭ってもらうためだ。
2人が作業している間に残りがいないか確認する。
状態異常系の回復スキルを外し、気配察知をLv2にあげると50mだった気配察知の範囲が一気に倍の100m近くまで拡大する。
石切り場と岩場は結構な広さがあるので100mでは全然足りないがないよりはマシだろう。
出来ればLv3まで強化しておきたいが戦闘系スキルで外せるものが少ないのでこれで我慢だ。
一通り見て回り、岩食いペンギンの残党がいないことを確認するとアルを思い浮かべて単独転移する。
「お疲れ様にございます、ワタリ様」
「お疲れ様です、お嬢様!」
「うん、2人もご苦労様。一通り見てきたけど他にはいないっぽいかな。全部倒しちゃったから巣も探せないし、もう帰ろうか?」
「畏まりました」
「はい!」
2人が汚れを落としまとめておいた素材はかなり大き目の肉の塊が10個近くと鋭い羽が5枚と岩が3つと内臓のような物が1つだった。
肉と羽はそのまんまで、岩は体表についてた岩だった。
内臓のようなものはどうやらレアアイテムのようで薬になるらしい。
かなりの数を倒したのにオレのBaseLvは上がらなかった。
でもアルとネーシャはなんとBaseLvが3になったそうだ。
一気に2つも上がるとかどういうことだ。
オレは必要経験値が普通の人と比べて多いのだろうか……。
チート持ちだから仕方ないとは思うがちょっと悲しい。
しかもかなり距離をあけていたのに2人にもちゃんと経験値が入っているというのも謎だ。どのくらい離れていたら無効になるんだろうか。
暇があったら実験したいところだ。でもこういう情報ならエリザベートさんが詳しそうだから覚えていたら聞いてみよう。
まだまだ中天にもなっていない2つの太陽が悠然とその存在を主張する青空を見上げて、小さく溜め息を吐いて歩き出した。
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