2 / 44
002,下僕第一号
しおりを挟む召喚された場所は、八畳ほどのワンルームの小さなテーブルの上だった。
なぜか拳を天井に突き上げた姿勢だったので、ちょっと恥ずかしかったが、オレ以外は誰もいなかったので気にしてはいけない。
家具はテーブルのほかには、幼女の体には大きめのベッド。
ふかふかだし、掛け布団もふわふわだ。
枕は少し固めだが、これくらいのほうがいい。
フローリングの床の上にはいくつかのクッションが乗った足の短いソファー。
幼女の体にはちょうどいい。
備え付けのクローゼットの中には予備のローブが一着とワンピースが数着。
収納の中にはリボンがワンポイントでついた靴下が数足と、女児ぱんつの群れ。
どうやら柄は豊富なようだ。いいぞもっとやれ。
テーブルの上には、先程動画やステータスを見れたタブレットはあるが、スマホやテレビ、パソコンなどはないようだ。
タブレットにはブラウザもなければワンセグの機能もなさそうだ。
まあ、ここは地球ではない異世界だから仕方ないが。
文明が発展していたころはあったのかもしれないが、すでに魔物によって滅亡寸前まで追い込まれているのだから、そんなものが現在も生き残っているとは思えない。
あっても古代遺跡とか、遺物とかそんなレベルのものになっているのだろうか。
大きな窓からは太陽の光がほどよく入ってくるが、あれは疑似太陽だそうだ。
窓から出ることができる庭は、ほどほどに広いが空と同じ色をした壁に囲まれている。
安全に戦闘訓練やSkillの試し打ちなどができる空間として用意されているものだそうだ。
この部屋自体が特殊な空間にあるらしいので、ありなのだろう。
窓とは反対側に扉があり、そこを抜けると小さなキッチンだ。
幼女用の持ち運びできる台が置いてあるのがポイント高いな。
食器もきちんと揃えてあり、冷蔵庫には数日分の食材が色々と入っている。
これらは消費しても翌日には自動で補充されるのでやりたい放題できる。
今日はステーキを焼いてご飯に乗っけてやろう。
キッチンの奥にはトイレへと続くドアと、洗濯機が置かれた洗面所、その奥がお風呂だ。
洗濯機はドラム式乾燥機もついているので楽でいい。
お風呂がトイレ別なのもいいな。湯船も大きいし。
トイレットペーパーやシャンプーリンス、その他洗剤や石鹸なども翌日には自動補充されるのでこちらもやりたい放題だ。
まあ、体は幼女でも中身は大人なのでそんなことはしないが。
用意されているタオルなど様々な小物は補充対象外のようなので、迷宮内に持ち込むときには気をつけるようにしよう。
残るは玄関扉だが、これは少し特殊だ。
この部屋が特殊な空間にあるので、玄関扉からは様々なところに直通で行けるようになっている。
例えば、迷宮。
オレたちが呼ばれた目的は迷宮の駆除なのだから、玄関から一歩出たら職場というありがたい仕様なのだ。
ほかにも迷宮以外の外の世界――ガイドブックにもそう記載されている――にも出ることができる。
迷宮駆除に飽きたら外の世界を冒険してもいいということらしい。自由だな。
さて、これで一通りみてまわったが、使えそうなものはほとんどなかった。
せいぜい、包丁やフライパン、鍋の蓋程度だろうか?
あと、鍋を頭にかぶるのもいいかもしれない。
ただ、見た目がひどいことになるが。
下僕もなしに幼女が迷宮へ行っても死ぬ未来しか見えない。
まずは外の世界で下僕を使役しなければいけないのだ。
戦闘能力がほぼないのだから、見た目を気にしている場合ではない。
鍋を被ってその上からフードを被り、左手にフライパン。右手に包丁を装備して用意を整える。
玄関にはタッチパネルが設置されており、いくつか選べるようになっている。
現在選べるのは、外の世界と最低ランクのランク1迷宮がいくつか。
何足か用意されている子ども用ブーツを履いて、外の世界をタッチして今のオレのサイズに合うように設置されている覗き穴から外を確認する。
どうやら外は草原のようで、見える範囲には何もいない。
慎重にドアを開け、確認するもやはり何もいない。
草の短いが、草原はどこまでも広がっていそうなほど広い。
地球だったら駆け出してゴロゴロ転がりたくなるが、ここでそんなことをするのは自殺行為だ。
今のオレでは弱い魔物でも簡単に殺される自信がある。
迷宮にいる魔物よりは、外のほうが弱い場合が多いそうだが、それでもタブレットにあった情報をみるに最弱の魔物でも子どもが勝てる相手ではない。
慎重に周辺の調査をして、使役できそうなものがあったら持ってきたゴミ袋に確保して安全地帯の部屋に戻ることにしよう。
おっかなびっくり玄関のドアを潜ると、ドアは自動的に閉まり消えてしまう。
そして、手の中には銀色の鍵。
この鍵をあの部屋に入ることを考えながら空中に差し込むと、部屋の玄関ドアを出現させることができる魔法の鍵なのだ。
魔物が出たら速攻逃げ込めるようにイメトレだけはしておこう。
抜き足差し、キョロキョロしながら草原を進むことしばし、魔物がでてきそうな気配一向にない。
だからといって警戒を怠ることはないが、まばらに生える木の根本に何かあるのがみえた。
慎重に近寄ってみると、なんと人骨らしき骨が散乱しているではないか。
これは非常にラッキーである。
オレのClassは、死霊術師。
故に使役するのは死霊、つまりはアンデッドイコール骨なのだ!
しかもSkill名にあるように、使役できるのは下級下僕。
いきなり強いアンデッドは無理。
骨は強いか? いいや、弱い!
スケルトンというアンデッドが魔物にはいるが、地球のサブカルチャーでは大抵雑魚扱いだ。
それはこちらの世界でも変わりなく、あまり強くない部類に入る。
最弱ではないみたいだけどね。
つまりはこれこそが探していたもの――使役対象なのだ!
いそいそと木に近づき、散乱している骨をゴミ袋に詰めていく。
気持ち悪いとか、怖いとか、呪われそうとか、そんなことを考えている暇はない。
急いで集めて部屋にとっとと帰るのだ。
今はまだ魔物に遭遇していないが、この世界は外に出て二十分も歩けば魔物に出会うようなところ。
のんびりしていたら幼女なんてひとたまりもない。
しかし、骨をゴミ袋に詰めていて思ったのだが、草むらの中にも散乱している量を見ると人間ひとり分だけではなさそうだ。
実際、頭骨が人間のものと犬っぽいのが見つかっている。
Guruuuuuuu!
「ふぉ!?」
木の根本に落ちていた骨と、近くの草むらにもあった骨をだいぶ回収したところで、ついに魔物らしき唸り声を聞いてしまった。
驚いて声をあげてしまったのもまずかった。
骨拾いを中断して顔をあげると、数匹の狼のような魔物がこちらを完全に補足してしまっていたのだから。
「かかかか鍵!」
ぷにぷにの美味しそうな幼女めがけて、一斉に走り出す狼の群れ。
捻るとすぐさま手の中に出現する銀色の鍵は、落としてもすぐ回収できる超便利な逸品だ。
部屋と強く念じながら空中に鍵を差し込めば、一瞬にしてドアが出現する。
外開きのドアにもどかしさを感じながらも、必要な分だけ開けてゴミ袋を投げ入れて、無事安全地帯に入ることに成功した。
こういうとき、小さな幼女の体は楽でいい。
「あはは! やったぜ! 作戦完了! はぁー!」
部屋に無事戻れたことで、今更になってドッと汗が吹き出してきたが、それ以上に興奮がおさまらない。
アバターとはいえ、感覚は本物。
地球で平和に生きてきたのだから、狼の群れに襲われそうになるなんて経験は当然、初めてだ。
今まで自分としては冷静に行動していたつもりだったが、やはりどこか現実感がなかったのだろう。
だが、こうして命の危機を経験して、はっきりと実感することができた。
ここは現実だ。異世界だが、現実だ。
魔物は怖いし、痛いのは嫌だ。
しかし、それ以上に楽しい!
おそらくはこれこそが、世界救済システムがオレを選んだ要因なのだろう。
命の危機を経ても懲りていない。
それどころか、次はもっとうまくやる。今回手に入れた下僕候補たちを使って、あの狼どもを逆に狩ってやる。
そんなことを思ってしまっているのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋の中で骨を広げるのはさすがに抵抗があったので、鍋ヘルメットや包丁なんかの装備をシンクに放ると、庭に出る。
こういうとき、庭って便利だな。
ゴミ袋をひっくり返し、拾ってきた骨が山になる。
それなりに重かったゴミ袋なので、結構な量になったな。
不気味この上ないが、そんなことよりもオレの手足となって働いてくれる下僕が手に入るのだと思えば、自然と笑ってしまうのは仕方がないよね。
褐色幼女が真っ白な骨の山の前で笑っている光景は、他人がみたらどう思うだろう。
まあ見てるやつなんて誰もいないがな!
「下級下僕使役!」
Skillの行使方法は、使いたいSkillを明確な意思の元、声に出すか、念じるか。
最初は声に出したほうがよいと、ガイドブックに書いてあったのでそうした。間違っても失敗なんてしたくないしね。
Skill――下級下僕使役は確かに発動した。
発動したと明確に理解した瞬間には、自分の体の中から何かが抜けていく感覚を味わう。
そして、骨の山の上に真っ黒な魔法陣が出現して、骨を吸い取り始めた。
瞬く間に骨を吸い取った魔法陣は、今度は下から上へとどんどん上がっていく。
魔法陣が動いたあとには、直立する骨がゆっくりと見え始め、最終的に完全な人体模型が完成した。
骨と骨の間を繋いでいるのは軟骨などではなく、黒い靄のようなもののようだ。
これが、スケルトン。
下僕第一号だ!
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
テンプレを無視する異世界生活
ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。
そんな彼が勇者召喚により異世界へ。
だが、翔には何のスキルもなかった。
翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。
これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である..........
hotランキング2位にランクイン
人気ランキング3位にランクイン
ファンタジーで2位にランクイン
※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。
※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
楽しくて異世界☆ワタシのチート生活は本と共に強くなる☆そんな私はモンスターと一緒に養蜂場をやってます。
夏カボチャ
ファンタジー
世界は私を『最小の召喚師』と呼ぶ。
神から脅し取った最初の能力は三つ!
・全種の言葉《オールコンタクト》
・全ての職を極めし者《マスタージョブ》
・全ての道を知る者《オールマップ》
『私は嘘はついてない!』禁忌の古代召喚の言葉を口にしたその日……目の前に現れた使い魔と共にやりたいように楽しく異世界ライフをおくるそんな話。
失恋旅行にいった日に、天使に自殺に見せ掛けて殺された事実に大激怒する主人公は後に上司の巨乳の神アララからチートゲットからの異世界満喫ライフを楽しむ事を考える。
いざ異世界へ!! 私はいい子ちゃんも! 真っ直ぐな人柄も捨ててやる! と決め始まる異世界転生。新たな家族はシスコン兄と優しいチャラパパと優しくて怖いママ。
使い魔もやりたい放題の気ままな異世界ファンタジー。
世界に争いがあるなら、争うやつを皆やっつけるまでよ! 私の異世界ライフに水を指す奴はまとめてポイッなんだから!
小説家になろうでも出してます!
惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。
貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった
竹桜
ファンタジー
林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。
死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。
貧乏男爵四男に。
転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。
そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの…
乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。
乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い!
原作小説?1巻しか読んでない!
暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。
だったら我が道を行くしかないじゃない?
両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。
本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。
※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました)
※残虐シーンは控えめの描写です
※カクヨム、小説家になろうでも公開中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる