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002,下僕第一号

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 召喚された場所は、八畳ほどのワンルームの小さなテーブルの上だった。
 なぜか拳を天井に突き上げた姿勢だったので、ちょっと恥ずかしかったが、オレ以外は誰もいなかったので気にしてはいけない。

 家具はテーブルのほかには、幼女の体には大きめのベッド。
 ふかふかだし、掛け布団もふわふわだ。
 枕は少し固めだが、これくらいのほうがいい。
 フローリングの床の上にはいくつかのクッションが乗った足の短いソファー。
 幼女の体にはちょうどいい。

 備え付けのクローゼットの中には予備のローブが一着とワンピースが数着。
 収納の中にはリボンがワンポイントでついた靴下が数足と、女児ぱんつの群れ。
 どうやら柄は豊富なようだ。いいぞもっとやれ。

 テーブルの上には、先程動画やステータスを見れたタブレットはあるが、スマホやテレビ、パソコンなどはないようだ。
 タブレットにはブラウザもなければワンセグの機能もなさそうだ。
 まあ、ここは地球ではない異世界だから仕方ないが。

 文明が発展していたころはあったのかもしれないが、すでに魔物によって滅亡寸前まで追い込まれているのだから、そんなものが現在も生き残っているとは思えない。
 あっても古代遺跡とか、遺物とかそんなレベルのものになっているのだろうか。

 大きな窓からは太陽の光がほどよく入ってくるが、あれは疑似太陽だそうだ。
 窓から出ることができる庭は、ほどほどに広いが空と同じ色をした壁に囲まれている。
 安全に戦闘訓練やSkillの試し打ちなどができる空間として用意されているものだそうだ。
 この部屋自体が特殊な空間にあるらしいので、ありなのだろう。

 窓とは反対側に扉があり、そこを抜けると小さなキッチンだ。
 幼女用の持ち運びできる台が置いてあるのがポイント高いな。
 食器もきちんと揃えてあり、冷蔵庫には数日分の食材が色々と入っている。
 これらは消費しても翌日には自動で補充されるのでやりたい放題できる。
 今日はステーキを焼いてご飯に乗っけてやろう。

 キッチンの奥にはトイレへと続くドアと、洗濯機が置かれた洗面所、その奥がお風呂だ。
 洗濯機はドラム式乾燥機もついているので楽でいい。
 お風呂がトイレ別なのもいいな。湯船も大きいし。
 トイレットペーパーやシャンプーリンス、その他洗剤や石鹸なども翌日には自動補充されるのでこちらもやりたい放題だ。
 まあ、体は幼女でも中身は大人なのでそんなことはしないが。

 用意されているタオルなど様々な小物は補充対象外のようなので、迷宮内に持ち込むときには気をつけるようにしよう。

 残るは玄関扉だが、これは少し特殊だ。
 この部屋が特殊な空間にあるので、玄関扉からは様々なところに直通で行けるようになっている。
 例えば、迷宮。
 オレたちが呼ばれた目的は迷宮の駆除なのだから、玄関から一歩出たら職場というありがたい仕様なのだ。
 ほかにも迷宮以外の外の世界――ガイドブックにもそう記載されている――にも出ることができる。
 迷宮駆除に飽きたら外の世界を冒険してもいいということらしい。自由だな。

 さて、これで一通りみてまわったが、使えそうなものはほとんどなかった。
 せいぜい、包丁やフライパン、鍋の蓋程度だろうか?
 あと、鍋を頭にかぶるのもいいかもしれない。
 ただ、見た目がひどいことになるが。

 下僕もなしに幼女が迷宮へ行っても死ぬ未来しか見えない。
 まずは外の世界で下僕を使役しなければいけないのだ。
 戦闘能力がほぼないのだから、見た目を気にしている場合ではない。
 鍋を被ってその上からフードを被り、左手にフライパン。右手に包丁を装備して用意を整える。

 玄関にはタッチパネルが設置されており、いくつか選べるようになっている。
 現在選べるのは、外の世界と最低ランクのランク1迷宮がいくつか。
 何足か用意されている子ども用ブーツを履いて、外の世界をタッチして今のオレのサイズに合うように設置されている覗き穴から外を確認する。

 どうやら外は草原のようで、見える範囲には何もいない。
 慎重にドアを開け、確認するもやはり何もいない。
 草の短いが、草原はどこまでも広がっていそうなほど広い。
 地球だったら駆け出してゴロゴロ転がりたくなるが、ここでそんなことをするのは自殺行為だ。
 今のオレでは弱い魔物でも簡単に殺される自信がある。

 迷宮にいる魔物よりは、外のほうが弱い場合が多いそうだが、それでもタブレットにあった情報をみるに最弱の魔物でも子どもが勝てる相手ではない。
 慎重に周辺の調査をして、使役できそうなものがあったら持ってきたゴミ袋に確保して安全地帯の部屋に戻ることにしよう。

 おっかなびっくり玄関のドアを潜ると、ドアは自動的に閉まり消えてしまう。
 そして、手の中には銀色の鍵。
 この鍵をあの部屋に入ることを考えながら空中に差し込むと、部屋の玄関ドアを出現させることができる魔法の鍵なのだ。
 魔物が出たら速攻逃げ込めるようにイメトレだけはしておこう。

 抜き足差し、キョロキョロしながら草原を進むことしばし、魔物がでてきそうな気配一向にない。
 だからといって警戒を怠ることはないが、まばらに生える木の根本に何かあるのがみえた。
 慎重に近寄ってみると、なんと人骨らしき骨が散乱しているではないか。
 これは非常にラッキーである。
 オレのClassは、死霊術師。
 故に使役するのは死霊、つまりはアンデッドイコール骨なのだ!
 しかもSkill名にあるように、使役できるのは下級下僕。
 いきなり強いアンデッドは無理。
 骨は強いか? いいや、弱い!

 スケルトンというアンデッドが魔物にはいるが、地球のサブカルチャーでは大抵雑魚扱いだ。
 それはこちらの世界でも変わりなく、あまり強くない部類に入る。
 最弱ではないみたいだけどね。

 つまりはこれこそが探していたもの――使役対象なのだ!
 いそいそと木に近づき、散乱している骨をゴミ袋に詰めていく。
 気持ち悪いとか、怖いとか、呪われそうとか、そんなことを考えている暇はない。
 急いで集めて部屋にとっとと帰るのだ。
 今はまだ魔物に遭遇していないが、この世界は外に出て二十分も歩けば魔物に出会うようなところ。
 のんびりしていたら幼女なんてひとたまりもない。

 しかし、骨をゴミ袋に詰めていて思ったのだが、草むらの中にも散乱している量を見ると人間ひとり分だけではなさそうだ。
 実際、頭骨が人間のものと犬っぽいのが見つかっている。

 Guruuuuuuu!

「ふぉ!?」

 木の根本に落ちていた骨と、近くの草むらにもあった骨をだいぶ回収したところで、ついに魔物らしき唸り声を聞いてしまった。
 驚いて声をあげてしまったのもまずかった。
 骨拾いを中断して顔をあげると、数匹の狼のような魔物がこちらを完全に補足してしまっていたのだから。

「かかかか鍵!」

 ぷにぷにの美味しそうな幼女めがけて、一斉に走り出す狼の群れ。
 捻るとすぐさま手の中に出現する銀色の鍵は、落としてもすぐ回収できる超便利な逸品だ。
 部屋と強く念じながら空中に鍵を差し込めば、一瞬にしてドアが出現する。
 外開きのドアにもどかしさを感じながらも、必要な分だけ開けてゴミ袋を投げ入れて、無事安全地帯に入ることに成功した。
 こういうとき、小さな幼女の体は楽でいい。

「あはは! やったぜ! 作戦完了! はぁー!」

 部屋に無事戻れたことで、今更になってドッと汗が吹き出してきたが、それ以上に興奮がおさまらない。
 アバターとはいえ、感覚は本物。
 地球で平和に生きてきたのだから、狼の群れに襲われそうになるなんて経験は当然、初めてだ。

 今まで自分としては冷静に行動していたつもりだったが、やはりどこか現実感がなかったのだろう。
 だが、こうして命の危機を経験して、はっきりと実感することができた。
 ここは現実だ。異世界だが、現実だ。
 魔物は怖いし、痛いのは嫌だ。
 しかし、それ以上に楽しい!

 おそらくはこれこそが、世界救済システムがオレを選んだ要因なのだろう。
 命の危機を経ても懲りていない。
 それどころか、次はもっとうまくやる。今回手に入れた下僕候補たちを使って、あの狼どもを逆に狩ってやる。

 そんなことを思ってしまっているのだから。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 部屋の中で骨を広げるのはさすがに抵抗があったので、鍋ヘルメットや包丁なんかの装備をシンクに放ると、庭に出る。
 こういうとき、庭って便利だな。

 ゴミ袋をひっくり返し、拾ってきた骨が山になる。
 それなりに重かったゴミ袋なので、結構な量になったな。
 不気味この上ないが、そんなことよりもオレの手足となって働いてくれる下僕が手に入るのだと思えば、自然と笑ってしまうのは仕方がないよね。

 褐色幼女が真っ白な骨の山の前で笑っている光景は、他人がみたらどう思うだろう。
 まあ見てるやつなんて誰もいないがな!

「下級下僕使役!」

 Skillの行使方法は、使いたいSkillを明確な意思の元、声に出すか、念じるか。
 最初は声に出したほうがよいと、ガイドブックに書いてあったのでそうした。間違っても失敗なんてしたくないしね。

 Skill――下級下僕使役は確かに発動した。
 発動したと明確に理解した瞬間には、自分の体の中から何かが抜けていく感覚を味わう。
 そして、骨の山の上に真っ黒な魔法陣が出現して、骨を吸い取り始めた。
 瞬く間に骨を吸い取った魔法陣は、今度は下から上へとどんどん上がっていく。
 魔法陣が動いたあとには、直立する骨がゆっくりと見え始め、最終的に完全な人体模型が完成した。
 骨と骨の間を繋いでいるのは軟骨などではなく、黒い靄のようなもののようだ。
 これが、スケルトン。
 下僕第一号だ!

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