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040,超巨大火球
しおりを挟む「うっひゃー……」
「うきゅうぅ~……」
紅に沈みかける時間で止まったままの空間を豪快な火球の一撃が揺らす。
ここは、夕暮れの花園第十一階層。
いつものように、フロアの中心付近に集まっている魔物がこちらをガン見していたところへ先制攻撃を行ったのだが、その一撃がとんでもないものだった。
規格外なほど巨大なフレイムリンクスであるイリーの火球攻撃は、敵であったときでも凄まじいものだった。
だが、下級下僕使役で使役された状態では、魔法の威力は一段階も二段階も上がる。
新入りたちの戦力測定のためにも、全力での攻撃を命じたのだが、イリーが行った全力攻撃は直径十メートルにも及ぶほどの超巨大火球による一撃。
輻射熱で燃え尽きてしまいそうなレベルの高温も、魔法によって生み出された火球では心配することはなかったが、敵にとってはそうではなかったようだ。
火球が爆発する前に、周囲に放射される高温で一瞬で燃え上がっていた魔物がいたからわかる。
まあ、そのあとの大爆発に比べれば些細なものだったような気もするけど。
迷宮は、姉神によって作られた神の創造物。
滅多なことでは壊れないし、壊そうとして壊せるものではない。
ただ、それでも一定以上の衝撃や破壊力は、分散して逃がす必要があるようで、特大火球によって齎された破壊のエネルギーは振動となり、周囲へ拡散された。
クマ耳の魔法ローブのおかげで、オレへのダメージはなかったものの、側に立っていたリーンは爆風でフロアの壁まで吹き飛ばされてしまったし、ほかのみんなも石壁や風壁、それぞれの耐ショック姿勢でやり過ごしていた。
期せずして新しいローブの防御力を確認できたわけだけど、リーン大丈夫?
「……び、びっくりしましたぁ~……」
フロアの壁際でひっくり返っていた彼女は、頭を擦りながら起き上がったが、ここから壁まで十メートルはある。
そこまで転がっていくほどの余波ってどんだけだよ。
このエリアにいた魔物は当然先程の一撃で全滅しており、魔石に関しても飛び散ってしまっている。
とはいえ、ほとんどが壁まで吹き飛んだので、集めるのには苦労しないだろう。
「とりあえず、イリー。今のはオレの命令あるまで封印ね」
「なー」
正真正銘の全力全開の一撃だったこともあり、イリーの魔力は半分程度まで消費してしまったようだ。
彼女にも教えた魔力残量の申告方法でちゃんと教えてくれている。
毎回使うには消費が多すぎるし、威力が完全に過剰だ。
放つ前まではこちらに影響はないようだけど、放った後の爆風は影響があった。
おそらく、爆心地に味方がいたら容赦なく巻き込まれるだろう。
威力も威力なので、使い所が難しい一撃だ。
ただ、当分出番はないだろう。
ここぞというときに使えるように訓練だけはしておきたいところだが。
小さい方のフレイムリンクスの攻撃力は、イリーほどではないが、やはり火力過剰気味だった。
ただ、それでも十分な強さを誇っているので、イリーともどもありがたい戦力アップだ。
アーマーリンクスは、自由意思持ち三頭による連携攻撃がかなり強いことがわかった。
アーマーリンクスは普段は単独での狩りをするそうだが、フレイムリンクスなどの上位種に率いられると群れでの強さを遺憾なく発揮する。
その連携力でもって五十以上にも及ぶ魔物を、たった三頭で十分足らずで殲滅することができるほどだ。
一フロアを任せたところこれだけの結果を出せたことは、正直すごいと思う。
ただ、ルトたちはこの半分くらいの時間で殲滅できるので、総合的な戦力としてはまだまだだ。
比較対象として適切ではないので、どうかと思うけど。
結果的に、新入り組は思った以上の強さをみせ、十分な戦力であることがわかった。
おかげで、迷宮探索は順調以上に進んでいる。
これまでかかっていた殲滅時間もまた短くなり、時間辺りの収支も増加だ。
まあ、そもそもがあまり殲滅に時間はかかっていなかったので、大幅な増加ではないけど。
それでも強くなったことが実感できるのは嬉しいものだ。
あと、オレだけではなく、リーンたちの防具も揃えておこう。
味方の攻撃の余波で怪我をしていたら意味ないからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街で情報収集をさせているリウルの報告によると、グンドたち鋼要塞の生き残りが冒険者ギルドに帰還すると大騒ぎになったそうだ。
そりゃあそうだ。
実質的な最高ランクである魔法銀証級が壊滅し、逃げ帰ってきたわけだし。
ただ、大騒ぎにはなったが、パニックにはなっていない。
グンドたちの報告により、鋼要塞は壊滅したが、偶然居合わせたものたちと協力してフレイムリンクスたちは岩山から追い払われたことがわかっているからだ。
ただ、もちろんそれとは別に調査は行われる。
壊滅しましたが、敵は追い払いました、はい終わり。
などというわけがないからだ。
その日のうちに調査隊が結成され、岩山の調査が行われた。
グンドたちは一部の装備を失ってはいるものの、追加徴収された魔力によって怪我や損傷はすべて回復している。
見た目でも無傷だとすぐわかるレベルだ。
ただ、それでも調査隊に同行させるようなことは冒険者ギルドもしなかった。
命からがら逃げ帰ってきたものに、すぐに取って返して調査してこい、などとは口が裂けても言えないだろう。
特に彼らは魔法銀証級という得難い人員なのだから。
それでなくとも、六人中四人も失っているのだ。
まあ、調査依頼とはいえ魔法銀証級にやらせるには、相応の報酬が必要になるということもあるだろうが。
壊滅したとはいえ、追い払ったとグンドたちが報告しているので、調査に魔法銀証級を出すほどではないというのもあったのだ。
そして、当初の予定通り、鋼要塞を解散することをギルド側に伝え、今後の予定も報告してきたそうだ。
仕えるべき主をみつけた、と。
協力してフレイムリンクスを追い払ったものたちを率いる人物。
つまりオレのことだ。
ギルド職員と護衛の冒険者が待機していた馬車に出会っているオレたちなので、隠してもしょうがない。
グンドたちと一緒に帰ってきた職員と冒険者たちからも、オレたちのことは伝わっていたので、すぐにその話題で持ち切りになったそうだ。
調べれば、滞在している宿もすぐ特定されるだろう。
フレイムリンクス戦に関しては、オレたちの戦力についてぼかしつつも、ギルド側が納得できる報告をグンドがしたそうなので問題はない。
冒険者ギルドがオレたちに何かを強制できることはないはずだ。
せいぜいが、グンドたちの報告の裏をとるための事情聴取といったところなので、先手を打ってリウルがグンドたちとは時間をずらしてギルドに行って報告を済ませている。
オレたちの情報についても聞かれたそうだが、それに答える必要性はまったくない。
なので、一切答えてはいない。
もしかしたら冒険者ギルドから接触があるかもしれないが、リウルとリーンはともかく、オレたちは冒険者じゃない。
面倒なことになったらマクドガルからもらった短剣の出番だ。
だが、オレに仕えることになったとはいえ、グンドとキールは冒険者をやめたわけではない。
冒険者でありながら、同時に貴族などへ仕えているものも結構いるそうなので、接触があっても挨拶程度だそうだ。
まずはギルドとしても顔を売っておきたい、というところだ。
何しろ、魔法銀証級の冒険者が仕える相手なのだしね。
なので、文句を言われたり、グンドとキールを返せ、なんて言われることはまずありえない。
先んじて必要そうな報告も済ませたわけだし。
ただ、それでも調査結果や鋼要塞の解散など、その日のうちに終わるものでもないそうだ。
予定通りに、二、三日はかかる見込みなので、グンドとキールが合流するまでに少し時間が必要だ。
仕えるべき主ができたとはいっても、やはり勧誘などはあったそうで、穏便に済ませるためにも少々の時間はいるのだそうだ。
幸いなことに、貴族からの勧誘はその日のうちにはなかったそうだ。
ただ、合流までに声がかかる可能性は高いそうで、リウルにマクドガルの短剣を持たせてグンドたちに合流させてある。
一先ずはそれで大丈夫だろう。
懸念される伯爵以上の貴族の接触だが、冒険者ギルドにもグンドたちが問い合わせた結果、やはりこの近辺には滞在していないようなので心配ないとのことだ。
手のものが接触することはあっても、慣例に倣えば強引な引き止めなどはできないので、とっとと逃げればいい。
それで相手が抗議してくるようなら、冒険者ギルドに訴えればいい。
魔法銀証級ともなれば、冒険者ギルドも全力で守ってくれる。
いくら封建社会全盛期のこの国でも、一騎当千級の戦力とされる魔法銀証級を抱える組織を敵に回すのは難しい。
組織には組織。
個人で立ち向かうべき相手ではないのだ。
グンドたちの件はこれで問題なさそうなので、あとはのんびり迷宮探索をしつつ待っているだけだ。
魔法の防具購入のためにもがっつり資金を貯めなければいけないのだから、ちょうどいいといえばちょうどいい。
とりあえず、十一階層のフロアをすべて殲滅するのを目標としておこう。
これまで通りなら、あと五十フロアくらいだろう。
……頑張れば終わるかな? いや火力が向上したとはいえ、ちょっとむずかしいかな?
ま、まあ、いけるところまで頑張ろう。
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