33 / 44
033,ドユラスの街
しおりを挟む数日の間、午前中は移動し、午後に迷宮探索をするいつもの日々を送る。
数日かけて八階層と九階層の掃討を終え、十階層に足を踏み入れることができた。
九階層で新たに追加された魔物は、一階層にもいたツタ人の大型版の巨大ツタ人だ。
こちらは大きくなった分盾役として最前衛に配置されていたのだが、オレたちに近づく前に後続に追い越されるというなんともいえない存在だった。
耐久度的には確かにでかい分硬いのだが、リウル以外は特に問題にもならない。
結局殲滅速度も変わらず、でかい分魔法のいい的だった。
十階層はボス部屋なので、出てきたのは巨木としか表現できない魔物だった。
某なんでも吸い込む丸いピンクに出てくるボスみたいなやつだ。
なんとこいつ、魔法で攻撃してきた。
驚いたけど、ディエゴが的確に石壁でガードしてくれるので被害はまったくなく、ブラックオウルがリウルたちを殺したときに連発していた風大砲を連打してあっさり倒してしまった。
一発ごとに太い幹がボロボロにへし折れていくのは、見ていてなんとも悲しい光景だった。
そして、現在は十一階層を探索中だ。
ここでの新しい魔物は、花妖精という、頭に花が咲いている可愛らしい妖精だ。
大きさも手のひらサイズだが、草魔法を使ってくる。
大きさ的に物理攻撃ではないとは思っていたが、やっぱり魔法主体だ。
草魔法は攻撃力は高くなく、どちらかといえば妨害系の魔法のようだ。
草で編んだトラップや蔦を絡めて動きを封じようとしてくる。
ここでもリウルが若干苦戦しているが、ほかは気にもしないで殲滅してくれている。
妨害魔法といっても、本当に大したことがないのでルトたちには無意味なのだ。
あっさり引きちぎったりかわしたりしてしまうのだからね。
リウルだって苦戦とは表現したけど、完全に動きを封じられるというほどでもないし、うざそうにしていた程度だ。
まだまだこの程度なら問題ない。
それと、九階層あたりから、一階層に出てくるツタ人や触手花がまったくでてこなくなった。
元々八階層でも一匹二匹くらいだったので、階層が深まると低階層の魔物は出現しなくなるようだ。
魔石の単価も低いので、こちらとしてはありがたいが。
今日までに稼いだ額は、約二百万円くらいになる。
毎日の食費や雑費を差し引くと正確には、1,870,800円だ。
四日程度でこの額なのだから、本当に美味しい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午前中の迷宮探索を終えて、午後の移動を開始する。
とはいっても、もう禁忌も読み終わっているし、外の景色も飽きた。
なので、がっつり稼いだ資金を使って電子書籍を購入してタブレットで読んでいる。
異世界で異世界もののラノベが読めるのは、なんとも不思議な気分だ。
いや、現代で現代ものの小説も普通に読んでいたし、それを考えれば普通のことかな?
ちなみに、リーンには希望する書籍を購入して渡してある。
ふたりとも揺れる馬車で静かに本を読んでいるが、特に酔ったりしない。
まあ、リーンはアンデットだし、オレは車酔いには強いからね。
狼に揺られるのと馬車程度の速度ではまったく違うのだ。
ただ、その馬車の速度が突然遅くなればさすがに気づく。
急停止とかではないので、徐々に遅くなっていった感じだが、それでもやっぱり気づくのだ。
ちょうど電子書籍もきりのいい場面だったのもあるが。
どうしたのかな、と思ったところで、馬車の速度が通常時に戻ったので道が悪かったりしたのだろう。
たまに、速度を落とさないと危ないような道があるのが、外の世界の道路状況だ。
雨なんか降ったらぬかるみがひどいときなんてのもあったからね。
「主様。先程商人が噂をしていたのを聞きまして、主様のお耳にいれたほうがよいかと」
「ん? ああ、だから速度落としたのね。それで?」
どうやら、道が悪かったわけではなく、商人たちの会話を聞くためにあえて速度を落としたようだ。
うちの馬車とほかの馬車では、使われている技術に差があって出せる速度が全然違うからね。
普通に走っていたら簡単に追い越して会話なんて聞いてる暇がない。
「はい、それがどうやら近くの山でフレイムリンクスの目撃情報があったようなのです」
「フレイムリンクス?」
「森の死神ほどではないですが、強力な魔物です。炎を自在に操り、強い個体は配下のアーマーリンクスを率いるため、討伐難度は森の死神以上とされている魔物です」
「ほほぅ。炎か。火魔法っぽいね。いいね、すごくいい!」
うちでは、切り株お化けのディエゴが土魔法。ブラックオウルが風魔法を使える。
魔法はまだこの二種類だけなので、ぜひともほかの属性の魔法もほしい。
全属性揃えて、どんな敵にも対応できるようにしておきたいからね。
そうと決まれば話は早い。
迷宮都市へは急いでいるといえば急いでいるようなそうでないような、微妙な感じなので、ちょっとくらいの寄り道は大した問題ではない。
「じゃあ、さっきの商人たちに話を聞く?」
「いえ、次の街で情報を集めたほうがよいかと」
「オッケー。そうしようか」
「かしこまりました」
リウルの情報収集能力はオレたちの中でも随一だ。
というか、ルトたちでは情報収集できないし、リーンはオレのお世話がある。
オレはもちろんそんなのやりたくないので論外としても、リウルのそれは評価に値するものだ。
彼に任せておけば、必要な情報はしっかり集めてきてくれるだろう。
その間に、今回は普通に宿にでも泊まってみるか。
領主の館には泊まったけど、普通の街の普通の宿にはまだ泊まったことがない。
さすがに安宿のような安全性も、清潔度も期待できない宿に泊まる気はないので、それなりの宿だ。
外の世界のお金に関しては、マッシールの街でリウルが情報収集した際に、残しておいた魔石を売却して得ているし、ミリニスル嬢の護衛と救出の謝礼でそこそこもらっているので問題ない。
リウルにも必要な分はもたせているし、基本的にはリーンが管理している。
彼女はオレのお世話役なんだから、支払い関係も彼女が率先してやってくれるそうだ。
むしろ、それもお世話役の仕事だそうな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日が落ちる前には、次の街であるドユラスの街についた。
マッシールの街に比べて少々規模は小さいが、それでも今まで通り過ぎてきた村よりは確実に大きく、石壁で囲ってあるので安全性も高そうだ。
日が落ちると門は閉まってしまうが、まだ時間に余裕があるため、中に入るのにそれなりに並んでいたので少し時間がかかった。
これが貴族と一緒だと並ばなくていいのだから、貴族特権がちょっと羨ましくなる。
まあ、それに伴う義務のほうが面倒くさいわけだからどっちかっていわれたらいらない、と答えるけど。
一応まだ日が落ちる前だが、宿を確保しておかないといけないので、門番に聞いた中堅どころの宿へ向かう。
厩舎がしっかりしており、ポチや狼、馬たちが預けられる宿なので、安宿なんかに比べてかなり高くなっているが、部屋もその分広めで綺麗らしい。
実際に、到着してチェックインしてみると、十二畳ほどの広さの部屋で掃除もしっかりされており、ベッドも比較的柔らかい。
調度品に関しては最低限だが、宿としてみれば十分だろう。
ちなみに、部屋は二部屋借りて、オレとリーンとルトとポチ、リウルとディエゴたちで別れている。
男と女での部屋割りだね。
ディエゴたち、切り株お化けは老人にみえるから厩舎というわけにはいかない。
狼とブラックオウルは馬と一緒に厩舎だが、ポチだけはオレたちについてきた。
部屋にあげても問題ないというので、そのまま連れてきたが、これも安宿などではだめなのだそうだ。
動物を飼っているのは珍しいという話なので、その辺は仕方ないだろう。
「主様、それでは情報収集に向かいたいと思います」
「うん。いってらっしゃい。任せたよ」
「はい!」
リウルが一番活躍できる場面なので、彼の張り切り様は最高潮だ。
意気揚々と出掛けるリウルを見送り、空中に鍵をさしてオレたちの部屋へ続くドアを開く。
宿のベッドはそれなりに柔らかいが、部屋で寝た方が絶対にいい。
それに、お風呂もないし、灯りもランタンなので割と暗い。
部屋にいけば普通に照明があるし、お風呂もベッドもある。
この宿で寝る意味はないのだ。
ちなみに、素泊まり限定なので、食事は別でとる必要がある。
すぐ近くに食事処がいくつかあるようだが、資金に余裕があり、高級食材を使えるのでリーンに作ってもらったほうが絶対美味しいから外に食べに行くつもりはない。
「それじゃ、戻ろっか」
「はい! ソラ様」
ルトたちも遊びたいので、不思議な踊りを踊っているし、部屋割りしたはずのディエゴもいつの間にかいて踊りに参加している。
まあ、あってないような部屋割りだから別にいいんだけど。
一応とっておいた隣の部屋には、自由意思のない切り株お化けがポツンと待機しているのかな。
それを思うとちょっと物悲しい感じがするが、そんなことを思う意思もないだろうし、別にいいか。
部屋へのドアは開けたままにしておくのは不用心なので閉めてしまうので、リウルが戻ったら宿の部屋で寝ることになる。
まあ、睡眠の必要がない彼なのだけど、皆が寝静まった夜では情報収集もできないから仕方ないよね。
さて、今日の夕飯は何かな?
最近リーンの料理の腕が格段に良くなってきているので、とても楽しみだ。
高級食材や各種調味料なんかも惜しげもなく使っているのもあるが、それでもリーンが料理本をたくさん読んで腕をあげているおかげだろう。
これが外の世界で食事をしたいと思わない要因でもあるんだけど。
だって、絶対リーンが作った料理の方が美味しいし!
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
女体化してしまった俺と親友の恋
無名
恋愛
斉藤玲(さいとうれい)は、ある日トイレで用を足していたら、大量の血尿を出して気絶した。すぐに病院に運ばれたところ、最近はやりの病「TS病」だと判明した。玲は、徐々に女化していくことになり、これからの人生をどう生きるか模索し始めた。そんな中、玲の親友、宮藤武尊(くどうたける)は女になっていく玲を意識し始め!?
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
転生してもノージョブでした!!
山本桐生
ファンタジー
八名信夫40歳、職歴無し実家暮らしの無職は運命により死去。
そして運命により異世界へと転生するのであった……新たな可愛い女の子の姿を得て。
ちなみに前世は無職だった為、転生後の目標は就職。
群青の空の下で(修正版)
花影
ファンタジー
その大陸は冬の到来と共に霧に覆われ、何処からともなく現れる妖魔が襲ってくる。唯一の対抗手段として大いなる母神より力を与えられている竜騎士によって人々は守られていた。
その大陸の北の端、タランテラ皇国の第3皇子エドワルドは娘の誕生と引き換えに妻を喪い、その悲しみを引きずったまま皇都から遠く離れたロベリアに赴任した。
それから5年経った冬の終わりに彼は記憶を失った女性を助けた。処遇に困った彼は、フォルビア大公でもある大叔母グロリアに彼女を預ける。彼女の元には娘も預けられており、時折様子を見に行くと約束させられる。
最初は義務感から通っていたが、グロリアによってフロリエと仮の名を与えられた彼女の心身の美しさに次第に惹かれていく。いくつかの困難を乗り越えていくうちに互いに想い合うようになっていくが、身分の違いが立ちはだかっていた。そんな2人をグロリアが後押しし、困難の果てにようやく結ばれる。
しかし、平和な時は長く続かず、やがて欲にかられた男達によって内乱が引き起こされる。それは大陸全土を巻きこむ動乱へと発展していく。
小説家になろうとカクヨムでも公開中。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる