上 下
20 / 44

020,夕暮れの花園

しおりを挟む


 リーンの料理の腕は弓より確かだと判明した。
 これからは、身の回りの世話や料理はリーンに頑張ってもらおう。
 頑張れ、リウル。
 何か役に立てないと灰になっちゃうぞ!

「では、夕暮れの花園へしゅっぱーつ!」

 ブラックオウルやリーンたちを使役した翌日。
 リーンたちから外の世界の情報をある程度聞き取りできたので、本日から迷宮駆除を再開することにした。
 迷宮都市へは、もう少し装備やお金を集めてからにする。
 とはいっても、リーンたちが死んだ場所から徒歩で何週間もかかってしまうほど遠いので、ある程度移動して距離を稼いでおかないといけないけど。
 なので、午前中は迷宮駆除をして、午後は移動にあてることにした。

 さて、夕暮れの花園は、ネズミの王国と違い、ランク2の迷宮だ。
 ランクが上がるということは、それだけ難易度が上がることを意味する。
 魔物の強さや、迷宮自体の厄介さが上昇するが、その分お金になる魔石を落とすことになる。
 つまりは、装備や食材を購入しやすくなるということだ。
 特に色々な食材を購入できるのは大きい。
 何せ、料理ができる人がいるからね!
 いや、オレもできないことはないよ。でも面倒くさいし、待ってるだけで料理がでてくるなんて最高じゃない?

 そんなわけで、やってきましたランク2の迷宮、夕暮れの花園。
 いつもどおりにドアを少し開けてルトがまず先行する。
 そのあとに続き、一匹だけになった狼と、その背中に乗ったブラックオウルが突入する。
 続いてディエゴとリウルが入り、最後はオレと護衛のポチとリーンだ。
 だが、ルトが突入するのと同時に聞こえ始める戦闘音がなかったことから、ちょっと不思議に思っていた。

「あ、そういうことか」

 迷宮内に入ってみれば、戦闘音がしなかった理由は一目瞭然だった。
 ネズミの王国では、ドアから入ると通路に出て、そこには大量のネズミたちが待ち受けていたが、夕暮れの花園では違ったのだ。
 ドアを抜けた場所は、夕焼け空に彩られ、巨大な草木で壁が構成された体育館二個分はありそうな大きなフロアとなっており、ドアの入り口はその端の方に出ていた。
 魔物はフロアの中央部に固まっており、大量にいることには変わりないが、こちらを凝視しているだけで近寄ってこない。
 ルトたちは、迷宮に入った直後の露払い要員でもある。
 でも、襲ってこないなら全員が揃うまで待ったほうがいいに決まっている。

 フロアの中央部にいる魔物は、ツタが絡まって人型を形成しているツタ人や、巨大な花から根っこの触手がうねうね出ている触手花の二種類のようだ。
 ただ、その数は大量だ。

 大量なんだけど……。

「律儀に待ってくれてるなら、まあこうなるよね」

 ディエゴの石の剣山がツタ人と触手花を地面から串刺しにする。
 その範囲はかなりの広さを誇り、それだけでほとんどの魔物を一掃してしまったが、全部ではない。
 しかし、次にブラックオウルが放った魔法により、残っていた魔物が全て吹き飛んだ。
 見事なまでの瞬殺だ。

 ……ただ、問題があるとすれば――

「リーン、リウルー。仕事だよー。吹っ飛んだ魔石かき集めてー」
「「はい!」」

 ディエゴの剣山で死んだ魔物が残した魔石が、ブラックオウルの魔法で一緒にぶっ飛んでしまったことだろうか。
 消滅する前に吹っ飛んだ魔物も多いので、結構広い範囲に魔石が散らばってしまっている。
 しかも、地面は芝生のように草が生えているので、小さな魔石を探しづらいときたもんだ。
 これはふたりだけに任せていたら探し終わらないだろう。

「仕方ない。みんなで魔石探すよー」

 全員にそう言うと、散らばった魔石捜索が始まった。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ブラックオウルが強いのはわかってたけど、こんな弱点があったとはねぇ」

 あれから頑張ってみんなで探した結果、かなりの量の魔石を見つけることができた。
 主に狼とポチの力が大きい。
 彼らはアンデッドや骨だけになっても嗅覚が鋭いままなので、匂いで魔石をあっさりと発見できたのだ。
 でも、魔石って同じ匂いか、もしくは特徴的な匂いでもするのだろうか?

 下級下僕使役Lv2で少しは感情が伝わるといっても、喋れるほどに融通がきくものではないので、結局よくわからなかったが。

 だが、ひとつだけいえることがある。
 こんな調子で戦闘後に魔石探しをしていては、時間ばかりかかってしまって一向に先に進めない。
 魔石の換金率はネズミの王国に比べればかなりよくなっているし、相変わらず大量にいるので、かなりの量にはなる。
 だが、それでもどんどん先に進めなければ効率は悪いのだ。

「ねえ、ディエゴ。ブラックオウルの魔法ってあれだけなの? もっと吹き飛ばさないで魔物を倒せるやつないかな? 魔石探すの面倒なんだけど」

 ディエゴにそう伝えると、枝の手をわちゃわちゃ動かして何やら一生懸命伝えようとしてくれる。
 伝わる感情としては、あるよーあるよー別なのあるよーって感じだろうか。

「ありそうなら、ちょっと使って見せてくれる?」

 わちゃわちゃしていたディエゴが可愛かったけど、今は確認の方が先だ。
 了解したと切り株を上下に振っていたディエゴが少し遠くに石壁を出現させる。
 あれが的代わりなのだろう。
 そこへ翼を広げてふわっと浮き上がったブラックオウルが魔法を放つ。

「お? おー……。あれなら吹っ飛ばないかもね」

 放たれた魔法は、今までみた衝撃波のような魔法ではなく、いうなれば風の槍といったところだろうか。
 一発で見事に石壁を貫通して穴を開けている。
 空いた穴もそれほど大きくはなく、周囲への影響も少ない。
 ただ、どうしても単発では大量の魔物に対してあまり有効打にはならない。
 それに、威力過剰なのはあまり変わっていない。
 と思っていたら――

「お? おおー。こっちのがいいね!」

 ブラックオウルが次の魔法を放つと、今度は石壁を貫通することはなかったが、石壁にかなりの数の穴が刻まれた。
 こちらは風弾とでも言うべきものだろうか。
 石壁は結構な強度があるはずなので、貫通せずともかなり抉れているだけでも十分な威力といえる。
 というか、最初からこっちを使ってくれればいいのに。
 いやでも、オレたちがブラックオウルの使う魔法をみたのは衝撃波だけだったから仕方ないか。
 命令を下しているのはディエゴだし、知らなかった可能性もある。
 まあ、魔物が吹っ飛んで魔石探しが大変になるなんて普通は思わないしね。
 でも、これでどんどん先に進めるだろう。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ドアが出現した場所から反対方向の壁際までいくと、そこには魔法陣が刻まれて、青い光を放っていた。
 どうやら、この迷宮は転移して移動するタイプのものらしい。
 迷宮は様々な特徴を有しており、ネズミの王国のような通路と部屋で構成され、階段で階層を移動していくタイプのものもあれば、今回のようなフロアがいくつもあり、移動に転移の魔法陣を使うタイプなどもある。
 ほかにもたくさんの種類があるが、今はいいだろう。

 転移の魔法陣は、一定周期で明滅を繰り返している。
 一際魔法陣が輝くタイミングがあり、そのときだけフロア間の移動が可能になる。
 明滅する時間もそこまで早くないが、一分に一度は移動が可能なので、待ち時間も少ない。
 戦闘中でもお構いなしに転移するので、基本的には魔法陣の上で戦闘などはしないほうがいい。

 当然、ネズミの王国と同様に一定以上の量になると魔物も移動を開始する。
 魔物も、移動には魔法陣を使って転移するが、転移する場所がオレたちとは違うので、魔法陣から魔物が現れて襲われるということはない。
 この辺は、勇者育成用に作られた迷宮ならではのセーフティだろう。
 魔物を倒して、魔法陣に近づいたらそこからまた魔物が現れて襲われて死ぬといったハプニングを防止をするためだと思われる。
 姉神が作ったこの迷宮は勇者を成長させるためのものであり、殺すためのものではないのだから。

 魔法陣は人数にあわせて拡縮するようで、最初は一メートルほどしかなかったが、オレたちがどんどん乗っていくと同時に広がって全員が乗れるほどにまで大きくなった。
 明滅を繰り返し、一際輝くと同時に視界は一瞬で切り替わる。

 次のフロアは十字型をしているようだが、戦闘するには十分なほど広い。
 フロアごとに形が異なるタイプのようだが、基本的には魔物はフロアの中央に陣取っているようだ。
 今回も大量のツタ人と触手花がこちらを凝視している。
 マップを確認してみると、先程のフロアとはかなり離れた位置に現在のフロアがある。
 これでは、どこから次の階層へ行けるのかまったくわからない。

「手当たり次第かな」

 そうオレが呟くのと、ディエゴの指示でブラックオウルが大量の風弾を魔物の集団に向けて発射するのが重なった。
 予想通りに、ツタ人や触手花は風弾一発で消滅している。
 確殺できるのなら問題ない。吹っ飛んでもいないしね。

 ただ、風弾だけでは全部は倒しきれていないようだ。
 でも、こちらの戦力はブラックオウルだけじゃない。
 魔力だって無尽蔵ではないのだから、毎回魔法で殲滅というわけにもいかない。
 それでも、ルトたちにかかれば残党を殲滅するのに大した時間はかからなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

女体化してしまった俺と親友の恋

無名
恋愛
斉藤玲(さいとうれい)は、ある日トイレで用を足していたら、大量の血尿を出して気絶した。すぐに病院に運ばれたところ、最近はやりの病「TS病」だと判明した。玲は、徐々に女化していくことになり、これからの人生をどう生きるか模索し始めた。そんな中、玲の親友、宮藤武尊(くどうたける)は女になっていく玲を意識し始め!?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

群青の空の下で(修正版)

花影
ファンタジー
その大陸は冬の到来と共に霧に覆われ、何処からともなく現れる妖魔が襲ってくる。唯一の対抗手段として大いなる母神より力を与えられている竜騎士によって人々は守られていた。 その大陸の北の端、タランテラ皇国の第3皇子エドワルドは娘の誕生と引き換えに妻を喪い、その悲しみを引きずったまま皇都から遠く離れたロベリアに赴任した。 それから5年経った冬の終わりに彼は記憶を失った女性を助けた。処遇に困った彼は、フォルビア大公でもある大叔母グロリアに彼女を預ける。彼女の元には娘も預けられており、時折様子を見に行くと約束させられる。 最初は義務感から通っていたが、グロリアによってフロリエと仮の名を与えられた彼女の心身の美しさに次第に惹かれていく。いくつかの困難を乗り越えていくうちに互いに想い合うようになっていくが、身分の違いが立ちはだかっていた。そんな2人をグロリアが後押しし、困難の果てにようやく結ばれる。 しかし、平和な時は長く続かず、やがて欲にかられた男達によって内乱が引き起こされる。それは大陸全土を巻きこむ動乱へと発展していく。 小説家になろうとカクヨムでも公開中。

処理中です...