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019 破砕の鐘

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 PKご一行をほぼ瞬殺し終わっても双子コンビもボクもまだまだ気は抜かない。
 あれだけPK達が騒いだのだ。他のプレイヤー達を呼び寄せる結果になるのは明白すぎる。

『兄様、すぐそこに『FP1』ですわ。この距離ですと逃げられませんわ』
『了解。2人共気は抜かないようにね』
『『はい、兄上(兄様)』』

 やはりプレイヤーを呼び寄せる結果になってしまっているようで、PKに襲われる前に迂回しようとしたパーティに発見されてしまっているようだ。
 双子コンビが臨戦態勢を取り、奇襲に備える。
 ボクもいつでも対応できるように準備を整える。

「ま、待ってください! こちらに敵意はありません!」

 しかしボク達にかけられた声は慌てているものの言葉通りに敵意はなさそうなものだった。

『ナツ、アキ、警戒態勢維持』
『『はい、兄上(兄様)』』
「戦う気がないのならゆっくり出てきてください」
「わかりました! こちらは6人です! お願いですから攻撃はしないでください!」

 森フィールドのあちこちに点在している茂みをかきわけてボクの指示通りにゆっくりと出てきたのは全員が女性の6人パーティだ。
 オープンになっているパーティ名には『破砕の鐘』とある。

 パーティを組むとパーティ名を作成することが出来、誰からもパーティ名を見ることが出来るようにオープンしておく機能が存在する。
 ボク達はパーティ名はデフォルトのままであり、クローズ状態なので他人からパーティ名を覗かれることもない。
 だが多くのプレイヤーはパーティ名をオープンしており、特にトッププレイヤーと呼ばれる最前線を攻略しているプレイヤー達のパーティ名は掲示板でもよく名前が挙がっているほど有名だ。

 『破砕の鐘』というパーティ名も掲示板でよく見ることが出来る名前であり、彼女達はトッププレイヤーの一角なのだ。

『『破砕の鐘』か。兄上、掲示板の情報が正しければPKをするような連中ではないはずです』
『ナツ、甘いですわ。兄様の美しさと凛々しさを知れば落ちない女はいませんもの。要警戒ですわ!』
『おう! いつでも止めてみせる!』

 双子が先ほどよりもずっと警戒度を上げているけれど、これは色々と仕方ない。
 双子の懸念は割りと的を射ているもので、実際にボクはストーカー被害やセクハラ被害を何度となく受けている。
 だがそれは一部の性癖を有する人間に限定されるものであり、一般人はせいぜい黄色い歓声を上げる程度だ。
 アイドルやモデルを一般人が見たときの反応といった感じで、ボクに実害を齎す人物達は行き過ぎた者達だ。
 まぁだからといって警戒しないわけじゃないけれどね。

「一応聞きますが、トッププレイヤーがどんな御用ですか?」
「はい。パーティ名はオープンしていますが名乗らせて頂きます。
 私はパーティ『破砕の鐘』のリーダーをしています、ネネネ・ネネ・ネーネです。
 失礼ですが、合法ショタさん、ですよね? あなたに直接アイテムの制作依頼をしたいのです」
「お断りします」
「もちろん報酬……ぁぅ」

 予想通りすぎる返答だったので間髪入れずに断るとネネネさんは見ていて気の毒になりそうなくらいにしょんぼりしてしまった。
 涙を流す機能が『クロノス』にあるのならきっと今の彼女の目は涙目だろう。
 そんな彼女を『破砕の鐘』のほかのメンバーは即座に慰めている辺り、断られるのは予想の範疇なのだろう。
 誰一人としてボクが断ったことに憤りや文句を言おうとはしていない。

「あ、あの……どうしてもだめでしょうか……?」
「しつこいですわよ、あなた! 兄様が駄目と言ったらカラスが黒でも白なんですのよ!」
「アキ、ちょっと使い方が違うが意味は正しい」
「うるさいですわよ、ナツ!」

 『破砕の鐘』のメンバーに慰められてちょっと元気が出たのか、ネネネさんがおずおずともう一度お願いしてくるが先ほどのPK撃退でちょっと気が高ぶっているアキは鎧袖一触。
 わかるようなわからないような言葉の使い方だったがナツもボクも意味はわかったのでよし。

 アキに怒られたネネネさんもしょんぼり具合が先ほどよりも大きくなって、また『破砕の鐘』のメンバーに慰められている。
 なんとも面白いというか、和んでしまうような光景にPKに襲われてちょっと尖っていたボクの心も、だんだん角が取れて丸くなってきているのがわかる。
 掲示板の情報では『破砕の鐘』はトッププレイヤーでもあるが、人当たりもよく他のトッププレイヤーに比べれば十分に常識的なパーティでもある。
 他のトッププレイヤーの大半は効率厨とでも呼ぶのが正しい、効率中心のプレイヤー達だ。
 ほとんどがβテスター達で構成されていたり、狩りや『スキル』Lvを上げるために血道を上げているようなプレイヤー達なのだ。
 なので効率を求めるあまりに周りにきつくあたったり、強引な手段で狩場を占拠したりなど常識に欠けるような事も割と平然と行っていたりする。
 もちろんそんなトッププレイヤーばかりではなく、『破砕の鐘』のようなまともなパーティもそれなりにいるが、やはり声の大きい存在というのは大きく目立つ。
 声が大きい彼らの発言や行動は人の注目を集めやすく、トッププレイヤーというさらに注目度を上げる肩書きもあるため、トッププレイヤーとはそういうものだというレッテルが貼られてしまうのだ。
 だがそれでも彼らの齎す情報や恩恵は大変有益であり、嫌われるだけではないというのもまた事実だ。

「2人共そこまで」
「「はい、兄上(兄様)!」」

 しょぼくれて他のメンバーに慰められていたネネネさんに追撃するなら今だ、とばかりに双子コンビが一気呵成に攻め込んでいたけれどボクの一言でピタリと収まる。
 そんな光景を見て目をぱちくりさせている『破砕の鐘』を前にボクは考えていたプランを前倒しで行ってしまうことを決意していた。






      ○●□■○●□■○●□■○●□■





「……こんな感じでよろしいでしょうか?」
「うん、いい感じですね」
「あ、あの……でも本当にいいんでしょうか? 私達としてはとてもうれしいですけど……」
「えぇ、これはボクの方からお願いしている事ですからね。よろしくお願いしますね」
「は、はい! こちらこそ!」

 前々から必要だと思っていたプランを前倒しで行うには絶好の機会と判断したボクは、一度は断った『破砕の鐘』からの依頼をちょっと違う形で受けることにした。
 そしてまず最初にネネネさんに先ほど撃退したPK達が書き込んだスレに対して仕込みをしてもらった。

 余程悔しかったのかPK達は自分達が襲われた側だと嘘をついてまでボク達がチーターだと書き込んでいた。
 しかしバグ、不正関連の報告スレには公式と非公式の2つのスレがあり、PK達が書き込んだのは非公式の方だ。
 公式の方では虚偽報告は罰則対象だ。それに匿名での書き込みは出来ないのでプレイヤー名がバレる。
 PK達は公式の方には書き込めないだろう。
 実際彼らはネネネさんがプレイヤー名を晒して書き込みを行った後は一切書き込んできていないようだ。

 匿名掲示板でプレイヤー名を晒す行為はいくつかの意味を持つ。
 特に有名であるトッププレイヤーがソレを行うということはさらに大きな意味がある。
 ネネネさんの場合、トッププレイヤーとしては常識人で通っている彼女の発言にはその評判を賭けるという意味がある。
 つまりは一定以上の信頼性があるということだ。

 ボクが知る限りでは一切不正者を出さなかった『ヴィーナス』の次の世代の遊戯用没入型仮想現実機器が『クロノス』だ。
 そのセキュリティの強固さは推して知るべし。
 だからこそ匿名で書き込まれた信頼性の薄いネタのような書き込みよりも、ネネネさんの発言の方が圧倒的に信頼性があるということだ。
 さらには同時に行われた宣伝はPK達の書き込みなんて一瞬で忘れ去られるようなインパクトがあったのは確かだろう。

「時間もありませんし、『破砕の鐘』の皆さんには警備も担当してもらう以上ボクの生産を予め見ておいてもらいましょうか」
「あー掲示板でもすごいパフォーマンスだって書かれてたよね」
「そうそう! どれくらいすごいのか楽しみだよね!」
「兄様のすごさを見られるなんてあなた達は幸運ですわよ」
「兄上のすごさはあの程度の書き込みでは表現しきれないからな。心してみるといい」
「楽しみだねぇー」

 『破砕の鐘』の依頼を受けたことでネネネさん以外のメンバーも雰囲気が大分和み、双子コンビもなんだかんだであっという間になじんでしまっている。
 双子コンビはボクのことを適度に好意的に見てくれる人物にはとても友好的だ。
 だがその逆のパターンだったり、度を越してしまうと恐ろしいほどに容赦が消えうせる怖い面も持っている。
 でもボクの言うことはちゃんと聞いてくれるのでボクがしっかりしていれば2人は大丈夫なのだ。

 警備を『破砕の鐘』に担当してもらう以上、ボクの生産光景を見て目を奪われてしまっては正直困る。共有スペースでの集団の恐怖は忘れていない。
 なので『破砕の鐘』には集まってくるプレイヤー達からボクを守ってもらわなければいけない。
 残り時間は1時間しかないけれど、それだけの時間見せれば目を奪われるという状況にはならないだろう、多分。






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 結果から言って、北の森のセーフティエリアに集まったプレイヤー達からボクは守られたし、十分な成果も得られたと思う。
 『破砕の鐘』のメンバーは全員が普段は使わない巨大な盾である重盾を装備して体を張ってバリケード役をしてくれたし、予想以上に集まったプレイヤー達の目の前で実際に生産を行い、不正などせずとも十分以上な性能のアイテムを作り出せることを実証してみせた。

 さらには『破砕の鐘』にはその時作り出した武器を『ピタ』の中央噴水前で展示モードで露店を出してもらう。
 セーフティエリアに集まった大勢のプレイヤー達は自主的に動画を撮影してアップロードしているし、双子コンビにも同様に動画を撮影してもらっている。
 『破砕の鐘』、というかネネネさんにプレイヤー名を出した状態で掲示板にスレを立ててもらい、双子コンビが撮影した動画をアップロードしてもらうことにより、もっと多くのプレイヤー達に不正をする必要性などないことを知らしめる。

 平均を大きく逸脱してしまうほどの性能のアイテムを生産できてしまった時点で必要となるだろうとは思っていた。

 何れは行う予定だったプランだし、『破砕の鐘』という比較的常識的であり、何よりもボクが信頼できそうなトッププレイヤーを巻き込めたのは色々な意味で運がいい。
 知名度を利用した拡散方法と信頼性。加えてトッププレイヤーという生贄……後ろ盾を得ることにより彼らを防波堤として機能させることができる。
 窓口は『破砕の鐘』、ということになるのだ。

 彼女達にはこれからボク製のアイテムが提供される事になるが、それ以上に面倒事も舞い込むだろう。
 どうか頑張って存分にボク達の盾となってほしい。

 頑張れ、『破砕の鐘』。

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