ラビリンス・シード

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017 構成変更、遭遇、中級

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 レンタル生産施設の個別スペースを長時間借りて行った生産も予定していたほとんどの物が終わったので、あまった時間で次の狩りの話をすることにした。

 一新した装備の慣らしもあるが前の装備よりも確実に性能は上がっているし、双子コンビも安全マージンを大きく取る必要はないと言うので狩場としては森フィールドの奥辺りになるだろうか。
 それ以上進んでも出てくるMOBの強さはほとんど変わらないのでせいぜいドロップが変わるだけだ。
 だが森フィールドを抜けるとMOBのPOP率がガクッと下がるはずなので狩場とするには向かない。
 やはり狩場は森フィールドで決まりだ。

 さて狩場が決まったら次は『スキル』だ。
 ボクやナツの『スキル』構成は今までと変えなくても問題ないが、アキはちょっと違う。
 なぜならアキには死に『スキル』となっている『スキル』があるからだ。

 それはずばり【鎧】だ。

 回避専門のアキには結局あまり恩恵がない状態になっているので思い切って切る選択をしたのだ。
 そしてその代わりに新しい『スキル』を取得するつもりだ。
 ボクの【採取】も似たよりよったりだけど、アキの場合は戦闘『スキル』なので出来る限り恩恵のあるものをメインにしておきたい。

「それでアキは何がいいの?」
「一応候補は色々ありますの。
 現状の最も火力の高い攻撃方法が背後を取っての『円月蹴り』ですわ。
 だからそれを活かす為に【初級背後攻撃術】と【初級攻撃力増加術】。これら2つの複合進化である【アサシネイト】。
 『ミスティックブルーローズ』の追加効果を活かして【闇魔法】なんかもいいかもしれないですわ」

 複合進化とは複数の『スキル』を消費して新たな『スキル』を取得する条件の厳しいタイプの進化だ。
 今回の場合は【初級背後攻撃術/Lv50】と【初級攻撃力増加術/Lv50】の両方を消費して【アサシネイト】を取得できる。
 複合進化は消費した『スキル』の特性を引き継ぐ場合が多いが、まったく新しい『スキル』に進化する場合もある。
 【アサシネイト】は背後への攻撃とクリティカルの補正の上昇率がかなり高い。それに隠密系の『アーツ』も取得できるのでバックスタブと非常に相性がいい『スキル』だ。

「なるほど。確かにバックスタブの火力を上げるのは有用だな。
 【闇魔法】でも『シャドウウェポンズ』で火力を上げられるし、他の投擲系魔法で遠距離攻撃と状態異常も狙えるか」
「でも魔法を覚えるのでしたら、補助系の『スキル』も欲しいところなんですの」
「そうだね。魔法単体ではMP管理が難しくなるし、詠唱速度なんかも長くなりがちだって話しだし」

 魔法系『スキル』は使用するのにMPが必ず必要であり、詠唱もある。
 他にも色々と魔法を補助できる『スキル』が用意されており、それらなしではどうしてもMP管理や使用タイミングが難しくなる。
 魔法をメインに据える場合は初期『スキル』構成のうち3つ4つは魔法と補助『スキル』で埋まってしまうほどだ。
 そのため物理攻撃と魔法を両立しようとするのは、枠を増加させないとなかなか厳しいものとなっている。

「だが他の『スキル』は外せないだろう?
 次の枠取得までは我慢すれば【闇魔法】の他に補助を1つ取得できるが……」
「初級系『スキル』がLv50になったら枠増加だからねぇ。ボク達ならもうすぐかな。
 どうする、アキ? ボクはアキがそうしたいならそれでもいいと思うよ?」
「はい、兄様。まずは【アサシネイト】を目指したいと思いますの。
 その後に3つ目の枠増加までゆっくりと魔法を鍛えていきたいと思っていますわ」
「うん、わかった。じゃあ取得しちゃおうか」
「はい、兄様!」

 相談も終わったのでさっそく新しい『スキル』を取得したアキの現在の『スキル』構成はこうなっている。

 ====

 【初級格闘術/Lv39】【初級加速術/Lv30】【初級回避術/Lv26】【初級予知術/Lv19】【初級探索術/Lv13】
 【攻撃/Lv1】

 控え
 【調理/Lv9】【鎧/Lv5】

 ====

 育っている『スキル』とそうでない『スキル』の差がかなり激しいがこれは戦闘方法が偏っているから仕方ない。
 【調理】もあんまり育っていないが、ボクみたいなパワーレベリングは普通はできないのだからこれが一般的な速度なのだ。
 ……いや今日の様な長時間生産施設をレンタルしても自分の生産ではなく、ボクの生産風景をキラキラした瞳で眺めている時点で一般的な速度ではないかもしれない。まぁ全然いいんだけどね。

 まだレンタル時間は多少残っていたが特に気にせず個別スペースを出て近場の石碑へ向かう。
 森フィールドの休憩所まで転移すると6人――フルパーティのプレイヤー達が休憩をしているところだった。
 休憩所にはそのパーティ以外にいなかったのもあって、『うさたんキグルミパジャマ』を全員着ていても見事に気づかれてしまった。
 『認識阻害/C+』の効果でまだボク達をボク達とは認識できていないが、確実にそこにプレイヤーが――何かしらの効果でその存在を隠していることは明白な状態で――現れたのだ。
 休憩中だったプレイヤー達は武器こそ抜かなかったものの一気に警戒態勢になってしまった。

「あー、別にPKとかではないですよ。
 これは装備の追加効果です。ボク達はもう行きますので、気にせず休憩しててください」
「……あ、あぁ……あ、ま、待ってくれ。もしかして『影隠れ』か『認識阻害』か……?」
「ご想像にお任せします。では」

 パーティのリーダーと思しき体格のいい両手剣を背負っている男性が驚きながらも聞いてきたけれど教える義理などない。なので答えは濁して早々に休憩所を立ち去る。
 追ってきたりすると面倒なので、わざとMOBの近くを何度か通っていく。
 ボク達は『認識阻害/C+』のおかげでMOBを無視することが出来るが、彼らはそうはいかないだろう。

 心配は杞憂だったようで何度かMOBの傍を通って移動を繰り返しても背後から戦闘音は聞こえてこなかった。
 どうやら追いかけてきたりはしないようだ。

 掲示板でも『認識阻害』が発生した装備なんかは登場が期待されているものの、未だに出てきてはいない。
 掲示板に報告が書かれていないだけで、ボクのように所持している場合もあるが大抵の生産プレイヤーは期待されている追加効果が発生した装備が完成した時点で書き込んでしまうものだ。生産者が書き込まなくてもそれを購入したプレイヤーが書く場合もある。
 どちらにしても現段階で掲示板に情報が上がっていない時点で、入手するのは非常に困難だと言わざるを得ない。

 穏便な交渉ならまだしも、殺してでも奪い取るという思考のプレイヤーは割と少なくない。プレイヤーにセーフティエリア以外で殺されると一定確率で『魔法の鞄』のアイテムがドロップしてしまう危険性が存在する。
 『魔法の鞄』内の大事なもの以外の全てのアイテムが対象であるため、装備しているアイテムであってもそれは例外ではないのだ。

 まぁボク達の場合は相当運が悪くなければ装備の性能差や『スキル』Lvの差で負けることはないと思う。
 だが対プレイヤー戦はまだ未経験だ。どうなるかわからないのが本音でもある。

「追ってきませんわね」
「面倒なことにならなくてよかったよ」
「後で掲示板の方もチェックしておきましょう、兄上」
「うん、そうしよう。でも今は狩りに集中だよ。
 例えPKが襲ってきても撃退できるだけの強さがあれば問題ないんだ。
 ボク達を襲っても倒せなければアイテムは奪えないんだから」
「「はい、兄上(兄様)」」






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 狩り中はPKに襲われるどころか、他のプレイヤーを見かけることすらなかった。
 休憩所からかなり離れていたし、森フィールドに進出し始めたプレイヤーもまだまだ少ないのが現状なのだろう。
 新装備の慣らしはあっという間に終わり、いつものようにハイペースで進んでいく狩りはあっという間に時間が経過してしまう。
 気がつけばすでに森フィールドで狩りを始めて4時間近くは経過しているようだ。消耗型アイテムの在庫も残り少なくなってきている。
 双子コンビに渡してある回復アイテムはまだまだ余裕があるだろうけれど、そろそろ一度補充に戻るなり狩りを切り上げるなりした方がいいだろう。

「そろそろ休憩かな」
「あ、兄上! も、もう少し! もう少しだけお願いします!」
「ぇ、どうしたの、ナツ? 珍しいね」
「そうですわよ、ナツ。兄様が休憩だと言ったら休憩ですのよ?」

 ボクの休憩という言葉にナツがものすごく焦った様子で延長を懇願してくる。
 こんなナツを見るのは久しぶりでちょっと驚いた。
 でもアキは双子だからか、ナツがどうして焦っているのかわかっているようで、その顔にはとてもいい笑顔が張り付いている。

「ぐ……! で、ですが兄上! 俺の【初級挑発術】があと1つなんです!」
「あーそうなんだ。じゃあ……」
「あ、兄様! だめですわ! きゅ、休憩ですのよね!?」
「くくく……おまえだけにいい格好はさせないぞ、アキ!」
「こ、この! ナツのくせに生意気ですわ!」

 ナツの発言でわかったが、どうやら彼の【初級挑発術】はLv49になっているようだ。
 初級系『スキル』は大体Lv50で中級へ派生進化できるようになる。さらに『スキル』枠も1つ増加するので休憩前に上げ切ってしまい、休んでいる間に色々考えたいんだろう。
 それにボクの休憩発言のちょっと前にアキも【初級格闘術】がLv50になって【中級格闘術】に派生進化したばかりだった。
 アキへの対抗心もあって珍しくナツが慌てたんだろうね。やっぱりまだまだ子供だなぁ2人共。

 キャンキャンと子犬がじゃれあいをしているような双子の様子に優しい笑みが溢れそうになる。
 やっぱりボクの双子ちゃん達は可愛い。身内贔屓とかそんなのなくてもすごく可愛い。

「はいはい、2人共そこまでー。ナツのLvが上がったら休憩にするよー」
「「はい、兄上(兄様)」」

 さっきまで楽しそうにじゃれあっていた双子コンビもボクの号令1発ですぐに狩りへと思考がシフトする。
 この辺の切り替えは他人が見たら驚くほどに素早い。ボクは慣れてるからね、今更だ。
 でもボク以外ではこうはならない。例え両親が同じ事を言ったとしてもここまで早くは双子達も切り替えられない。
 まぁそんなことはボクだけが知っていればいいことだ。
 今はさくっとナツのLvを上げてしまうことだけを考えるとしよう。

 ちなみに3分とかからずナツの【初級挑発術】はLvが上がり、見事【中級挑発術】へと派生進化した。

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