ラビリンス・シード

天界

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013 楽しい楽しい生産タイム

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「じゃあアリシーさん、よろしくお願いしますね」
「はい! 任せてください!」

 『グラフィックシード』職人のアリシーの隠れた名店で彼作の『グラフィックシード』を大量に大人買いした。
 さらにこれからオーダーメイドするための布石として、軽くお試しな感じで簡単な注文をお願いしてみたところ、アリシーは快く請け負ってくれた。

 今日のところはまだ初対面ということもあり、それほど長く話し込むこともなく軽い雑談を交わした程度で別れる。
 ボク達もこれから楽しい楽しい生産タイムだからね。
 でもフレンド登録もしたのでゲーム内コールもメールも可能だ。ログインしていれば、だけど。
 『クロノス』のIDを交換したわけではないので、『ラビリンス・シード』にログインしていなければコールは使えない。
 さすがに『クロノス』のIDはもっともっと親密にならなければ教えるわけにはいかないからね。現状では『ラビリンス・シード』専用機となっている『クロノス』といえどもね。

 軽い雑談だったとはいえ、アリシーの人となりはなんとなくわかった。
 彼は謙虚で内気な性格で、彼の作品――『グラフィックシード』を見てわかるように繊細で美しい装飾を得意としており、とても器用だ。
 だがその内気な性格が災いして大通りなどでたくさんのプレイヤー達に自分の作品を売るということにとても気後れしてしまっていたのだ。
 だからこんな通りから外れた路地で隠れるように露店を開いていたらしい。
 まぁつまりは隠れた名店ロールではなかったのだ。ぶっちゃけてしまえば、恥ずかしかっただけ。

 だが間違いなく、アリシーの『グラフィックシード』は売れる。
 『ピタ』のプレイヤー達を見ただけでもほとんどが店売りの『グラフィックシード』か、あっても多少改良した程度のそれほどクオリティの高くない『グラフィックシード』を使った装備ばかりだ。
 これから『グラフィックシード』職人は間違いなく増えてくるとはいえ、現状ではかなり希少な腕のいい職人がアリシーなのだ。
 そんな彼と現段階で顔つなぎできたのはとても幸運といっていいだろう。
 彼もずっと路地で露店を開き続ける気はないだろうし、いつかは他のプレイヤー達に知られる。
 それまでにもっと交流を深めてボク達の『グラフィックシード』を優先的に作ってくれる程度にはしておきたい。
 間違いなく人気の『グラフィックシード』職人になるだろう彼を逃す手はないのだ。

 そのためにもボクはアリシーにいくつかプレゼントを贈ろうと思っている。

「ナツ、兄様の指輪は私が最初ですわよ。今まで狩りでつけてたんですもの」
「わかってるよ……。くっ……兄上の指輪が……」
「ふふん。やっと戻ってきましたわ。私の兄様のゆ・び・わ」
「30分交代だからな! もうカウント始まってるからな!」
「負け犬が何を吼えようと気になりませんわ! おーっほっほっほ!」
「ぐぬぬ!」

 中央大広場の近くにあったレンタル生産施設で個別スペースをレンタルするとさっそく双子コンビが『器用増加/H』の効果がついたツインリング(銅)でじゃれあいを始めている。
 そんな仲のいい2人を生暖かい眼差しで眺めた後に生産を開始する。

 まず最初に作るのは双子コンビにおねだりされた装備からだ。
 初めはアキの格闘用足装備。
 アリシーの露店で選んだ『グラフィックシード』をさっそく使ってミニゲームのステージ数を積み上げていく。
 前回の生産では15ステージまでしかステージ数を増やしていなかったが、ボクにとってはまだまだ難易度的にゆるい。
 だがレンタル時間は大体2時間くらいだ。
 あまりステージ数を追加しすぎても1つの生産に時間がかかりすぎてしまう。
 本当は一気に25ステージくらいまで追加したいところだが、今回は20ステージでやめておくことにした。
 それでも20ステージだと1回で20分以上かかってしまうのだけどね。
 ちなみにシステムアシストなしのリアル志向生産でも色々工夫を凝らすとこのくらいかかる。
 『ラビリンス・シード』のリアル志向生産は現実の生産とは大きく違い、かなり時間的短縮が行われる。
 その上、『アーツ』を使えばさらに時間短縮出来、本来は1日以上かかる作業でもあっという間に完成させることが出来るのだ。
 まぁゲーム内で装備を1つ作るのに、何日もかけてはいられないよね。
 そういったゲームもあったにはあったが、著しいユーザー離れで生産が軒並み死んでいたのは記憶に新しい。
 ゲームはあくまでゲームなのだ。そこまでリアルにやりたいならゲームでやる必要なんてない。まぁ極々一部のユーザーには大受けしていたのは確かな事実ではあったけどね。

 そんなわけでガンガンステージをクリアしていく。
 さすがに終わりが近づくにつれ、難易度の上昇率が著しい。でもまだまだボクならこれくらいイケル。
 一瞬でも目を離せば大失敗に終わるだろうほどに、凄まじい速さと量で降って来るターゲットをノーミスで称賛の嵐に変えていく。
 時に緩急をつけ、時にダミーターゲットをばらまき、こちらを揺さぶってくるようになった最終ステージもノーミスでクリアするとアキの格闘用足装備が完成だ。

 ====

 ミスティックブルーローズ
 基本防御力:56
 特殊攻撃力:344
 耐久:A+
 装備枠:足

 総合品質:A+

 追加効果:
 基本値増加/A+ 耐久増加/A 特殊値増加/S- アーツ補正増加/B+ 加速補正増加/A-
 闇魔法補正増加/A 打撃耐性増加/S 闇耐性増加/B+ アーツ消費MP減少/B 追加効果増加/C+

 ====

 緻密な蒼い薔薇が膝まで覆い咲き誇る、グリーヴタイプの足装備だ。
 爪先から膝まで全てを覆うタイプの足装備なのでトゥーキックから膝蹴りまであらゆる蹴りに対応できる。
 関節などの可動部分も柔軟な動きが出来るように補強されており、邪魔にはならない。

 総合品質もAの大台に乗っているし、ちらほらとランクSが出始めている。
 20ステージでこれでは25ステージではどうなるのだろうか。時間がある時にでもぜひとも試したい。
 だが毎回毎回このステージ数をプレイするのは時間がいくらあっても足りないだろう。
 生産の時間をしっかり取ってじっくりやりたいなぁ。

 それはそうと、特殊攻撃力は足での攻撃の際に加算される攻撃力のことだ。
 単純にこないだ作った武器の1.5倍の攻撃力になっている。
 追加効果もちょっと装備の量ではない。だがこれは明らかに『追加効果増加/C+』のせいだろう。
 βテスト時にもこんな追加効果は発見されていない。
 追加効果を増加させる追加効果って……なんだか本末転倒な気がするがその効果は見ての通り絶大だ。
 恐らく狙って出せるものでは決してないだろう。今回は運がよかった。
 まぁ魔法を使っていないアキに『闇魔法補正増加/A』とか、『打撃耐性増加/S』や『闇耐性増加/B+』は回避専門だからあんまり意味がなかったりするけど。
 この辺は追加効果を選べない都合上仕方ない。もっと情報を集めて有用な追加効果を狙って出せるようにならないとね。

「……まぁ問題をあげるとすれば他の装備とこれではとてもじゃないがデザイン的にも合わないってことだな」
「その通りですわ、兄様。この透き通るような蒼の薔薇と店売り装備では月とすっぽんですわ。困りましたわね」
「アリシーに連絡を入れて蒼で統一した『グラフィックシード』を作ってもらうしかないのではないでしょうか」
「まぁそれが無難だよね。でもまだ完全オーダーメイドは時期尚早だと思うんだよなぁ。
 少しずつ依頼していった方がいいと思うんだよね」
「兄様がそう考えているのでしたら間違いありませんわ!」
「そうです、兄上! 多少デザインが合わなくても戦えるのですから問題ないですとも!」

 いつの間にか自分達の生産作業をやめてに飽きて、ボクの生産風景をキラキラした眼差しで見つめていた双子コンビにも完成した『ミスティックブルーローズ』を見てもらうとやはりボクと同じ感想だ。
 まぁ双子コンビがボクの言うことに反論するなんて事はほとんどないからいつも通りといえばいつも通りなんだけどね。

 とりあえずアキの足装備は完成だ。
 次はナツの中盾を作ろう。

 ステージ数は『ミスティックブルーローズ』と同じく20ステージ。
 レシピも違えば、装備枠もカテゴリーも違う。恐らく同じミニゲームを設定しても同じ追加効果を発生させることは不可能だろう。
 出来れば『追加効果増加』を狙いたいが、ナツの中盾とアキの足装備では求める追加効果もまったく違う。
 なのでミニゲームもアキの時とはまったく違ったものを選んだ。
 20ステージにもなると掲示板などで得た狙った追加効果を発生させる条件なんかもかなり微妙になってくる。
 あぁいうのはステージ数とミニゲームの種類、結果を合わせてやるもんだからね。
 まぁ『認識阻害/C+』の例もあるので一応欲しい追加効果が出ているミニゲームは選んだけどね。もちろんアキの時も選んでるよ。

 最終ステージに近づくにつれ、飛躍的に上昇していく難易度にも順調というか当然の結果でノーミスクリアをたたき出し、最後の20ステージ目に選んだドラム型の筐体機を持つ超メジャーな音ゲーをプレイする。
 キラキラした瞳で眺めているだろう双子コンビにもボクの腕が霞んで見えるだろうほどの速度でドラムを叩きまくっていく。
 バスドラム、フロアタム、スネア、トム、ハイハット、クラッシュシンバル、ライドシンバルのオーソドックスなドラムセットの筐体から鳴り響く強烈なサウンドエフェクトが耳朶を叩き、称賛のエフェクトと天文学的スコアへと変貌していく。
 20ステージ目の難易度から現れるダミーターゲットもやはりこちらの音ゲーでも健在だ。
 桁数がすでに3桁後半のコンボが途切れることなく、最後のロングターゲットをグラッドストーン奏法で全て叩き潰し、安定のノーミスフルスコアでナツの中盾も完成だ。

 ====

 ファレノプシスシールド
 基本防御力:258
 耐久:S+

 総合品質:A

 追加効果:
 基本値増加/S+ 耐久増加/SS 挑発補正増加/A+ 麻痺耐性増加/C+ 暗闇耐性増加/B
 毒耐性増加/A+ 混乱耐性増加/A

 ====

 さすがに『追加効果増加』は出なかったが、タンカーとしてはとても有用な追加効果がたくさんついてくれている。
 特に『挑発補正増加/A+』は最高だ。ナツの挑発はボク達を守る要でもあり、アキの火力を支える大事なファクターでもあるからね。
 それ以外にも『耐久増加/SS』が地味にすごい。SSなんてランク初めてみた。こんな序盤も序盤で見ていいランクじゃない。ほんとに地味にすごい。ついてるのは『耐久増加』だけどね!
 まぁ『耐久増加』だって有用な追加効果なのは間違いない。それだけ長く戦えるんだから。特にタンカーは盾を酷使するしね。うん、すごい。
 あとは全部状態異常の耐性増加ってのがなんかこう……有用なんだけど、ここまで揃ってるのは何かありそう。
 まぁ状態異常は他にもいっぱいある。だけど1つの装備でこれだけ状態異常に耐性がつくっていうのは素晴らしいの一言だ。
 守りの要であるタンカーには特に行動不能系の状態異常耐性が必須だからね。

「胡蝶蘭の盾、か。すごいのが出来たね、これは」
「おぉ……! やはり『グラフィックシード』のプレビューウィンドウで見るのと実際に完成した状態で見るのとでは違いますね! 素晴らしいです、兄上!」
「むぅ……。胡蝶蘭の花言葉は純粋な愛、でしたわね……。ナツの癖に生意気ですわ……」
「ふふん。アキみたいに見た目だけで選んでるわけじゃないんだよ! 兄上への愛はやはり俺の方が上だな!」
「ぐぬぬ! ですわ!」

 『ファレノプシスシールド』の見た目は名前そのままに胡蝶蘭の花が咲いている盾だ。
 ただ咲き乱れているわけでもなく、花言葉の通りに純粋の愛に相応しい一途さを現す、一輪だけだ。
 だが、真っ白な盾に大きく描かれた一輪の胡蝶蘭は美しく荘厳な雰囲気を醸し出しており、いつまで見ていても飽きない。

 双子コンビがいつものじゃれあいを始めたのをきっかけに『ファレノプシスシールド』を眺めるのをやめて、双子コンビにも性能の詳細がわかるように『鑑定証』付けを試みる。
 『鑑定証』は総合品質に応じて必要となる『スキル』Lvがあり、足りないと失敗する確率が上がっていく。
 もちろんボクの【初級物品鑑定術】は派生進化したばかりなのでしょぼい。
 だからまず総合品質AやA+のこの装備では間違いなく失敗する。
 だが失敗しても大丈夫なのだ。問題なく経験値が入ることは掲示板の検証スレで判明している。しかも総合品質が高いほど経験値の入りが大きいときている。
 ……つまりはお馴染みのパワーレベリングタイムというわけだ。

 『鑑定証』を付けるのに必要な素材――『鑑定紙』も大量に購入してあるのでガンガン行こう!






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 大量に購入してきた『鑑定紙』がなくなりかけたところで2つともなんとか成功して、『初級物品鑑定術』がLv36になった。
 パワーレベリングを始める前はLv3だったことを考えると驚異的な上昇率である。
 おかげでMPがごりごり減ってちょいちょい休憩を入れなければいけなかった。ちなみに『鑑定証』を付けるには『アーツ』――『鑑定証添付』を使わなければいけないのでMPを若干だが消費する。
 レンタル生産施設の個別スペースでは宿屋よりは低いものの、HPとMPの自然回復力が上昇するので多少はマシだった。
 だがそれでもこの減りは色々と思うところがある。
 『鑑定証』よりも先にあっちを作ってしまうべきだったか。

 そんなこんなで個別スペースのレンタル時間もあと1時間もない。
 今回は延長するつもりはないので、さっさと次のアイテムの生産に移るとしよう。
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