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009,不思議な踊り

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 翌日からオレはゴーレム使いとしての実技に挑戦し始めた。
 この世界は地球とは違った物理法則がいくつか存在する。
 その最たるものが魔法だ。

 ゴーレム使いの基本であるゴーレムの生成は、体内の魔力と呼ばれる未知のエネルギーを操作することができなければ成し得ない。
 まずはこの魔力を感じ、操作することがゴーレム使いとしての第一歩なのだ。

「むむむ……。こう……かな。いや、こっちかな……。あれれ?」
「お館さま。僭越ながら申し上げます。こう、でございます」
「こう、ですか?」
「いえ、こう、です」
「こ、こう……」

 ベテルニクス商会から派遣された庭師がせっせと仕事をしている中、オレは執事長のモリスとともに不思議な踊りを踊っている。
 エルフという人種は、魔力の扱いに長けるものが多いらしく、大抵のエルフが魔力操作をできる。
 だが、魔力操作ができても魔法を使えることとイコールではない。
 魔法は立派な技術体系として確立しており、しっかりとした知識の地盤と才能がなければ、いくら魔力操作に長けていようとも扱うことができないのだそうだ。
 モリスは簡単な魔法は使えるそうだが、それ以上となるといくら勉強してもだめだったそうだ。

 ちなみに、その簡単な魔法とやらをみせてもらったが、小さな火を指の先に灯す。小石に灯りを数秒付与する。コップ一杯分の飲水を出す。
 といった本当にちょっとした魔法だった。
 オレとしてはそれでもすごく感激したが、魔法という技術としては初歩の初歩だそうだ。
 魔法使いなんてとてもでは名乗れない。
 見習いでももう少しマシな魔法が使えるものなのだそうな。

 オレも魔法を使ってみたいが、なかなか大変そうなので余裕ができたらでいいだろう。

 モリスのいう魔力操作は、体内の血流を魔力の通り道と見立て、ゆっくりと循環させるというものだった。
 血の流れを意識するために、軽い運動から始め、まるで太極拳のような動きへと変化していく。
 ただ、太極拳なんてやったことないオレとしては、モリスの動きを真似しているはずなのに、不思議な踊りへと至ってしまっている。
 洗濯物を干しているメイドたちが、笑いを堪えているのだから確定だ。

 モリスが彼女たちを叱ろうとしたが、オレが庭でやっているのが悪いので、叱らないでもらった。
 まあ、そのまま不思議な踊りは続行してたけど。
 必死に笑いを堪えるメイドたちは、洗濯物を手早く干して逃げていった。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「足で踏んだ方がよろしいんで?」
「その方がコシが強くなるんですよ」
「コシ、ですか。やってみます」

 午前中は不思議な踊りに費やし、午後はモーリッドとうどんを作る。
 醤油はまだ捜索中だが、なくてもなんとかなるだろう。なると信じたい。
 小麦粉の種類はよくわからなかったので、色んな種類を用意してもらって作っている。
 どれか当たりがあればいいだろう。

「なかなか大変ですな」
「三十分くらい踏んでればいいはずなので、頑張ってください」
「そのあとは寝かせるんでしたか」

 生地を捏ねたり踏んだりしてモーリッドに作り方を教え、あとは任せる。
 オレはレシピを教えるだけだが、そのレシピの中にないものはどうしようもない。
 大体の味や食感などを伝え、あるものでそれに近づけるのはオレの仕事ではない。
 試行錯誤は彼の役目なのだ。

 美味しいうどんを期待しているよ、モーリッド。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 夕飯は、うどんの麺を使ったパスタモドキだった。
 うどんの麺としてはよくできたものを使ったそうだが、麺つゆが用意できなかったので苦肉の策だそうな。
 でも、味は悪くないどころかかなり美味しかった。
 パスタ代わりに十分使えるんじゃないだろうか。

 いや、パスタがあるんだからただの代用品にしかならないか。

 ……でもパスタとうどんは消化吸収などの面からみると全然違う。

 その辺を広めれば人気がでそうな気がする。
 まあ、どうやって広めるかはオレの考えることではないだろう。
 きっとミーナ嬢がうまくやってくれると信じている。

 だめならだめで、醤油が手に入ってから頑張ってもいいし。

 こうして、久々の日本食……とはちょっといえないけど、懐かしい食事を楽しめた。
 今日はよく寝れそうだ。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 数日は、午前中に不思議な踊り教室。
 午後に料理を作ったり、情報収集をしたりして過ごしていた。
 今のところミーナ嬢が満足しそうなレシピは完成していない。
 いや、天ぷらでも教えればたぶんまたテンション高く叫びそうだと思うが、なんとなくうどんチャレンジを続けている。

 料理以外で集めた情報では、市販されている魔道具のリストが大体揃った。
 魔道具は、電化製品のように非常に便利な道具だ。
 だが、魔道具の使用用途は当然それだけじゃない。

 そのために、専用のものが作られているほどだ。
 それは、もちろん、武器としての用途だ。

 魔法という技術が存在するこの世界は、魔道具の効果は基本的に魔法を模して作られている。
 兵器的運用が可能な魔法は、魔道具という兵器として確立されているのだ。
 ただし、一般の魔法使いでは武器として成り立つレベルの魔道具を作成することができない。
 専門技術として高度な魔法知識と実力、それと同時に魔道具技師として最高位の技術も要求されるからだ。

 よって、武器としての魔道具の値段はかなり高い。
 発生する効果によっても値段はピンきりだが、最低でも一般人が買える値段ではないのは確かだ。
 それに加え、許可がなければ買えない類の魔道具も存在する。
 武器として強力な効果を発揮する類などがそれだ。

 許可をとるには、各種ギルドへの根回しや様々な免許が必要になるので、一朝一夕には不可能だろう。
 ただ、そういった要素を無視できる、コネというものは確かに存在する。
 たとえば、迷宮都市で大規模な素材の買い取りをしている商会とか。

 できれば自分でなんとかするのがベストだが、どうしても必要になったら頼ってみよう。
 せめて購入資金くらいは出させてほしいが。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そして、朝方まで大雨が降った日の午後、オレはついに魔力操作をものにすることができた。
 その結果、目の前には泥の混じった人型のゴーレムが見事に直立していた。

「ちっちゃくない?」

 教科書に書かれていたゴーレムは人型でも身長三メートルを超えるものだ。
 なぜかはわからないが、どれだけ魔力操作に長けていても大きさの指定はできないらしい。
 だが、オレの目の前にいるゴーレムはどうみても十センチ程度しかない。
 三メートルには到底届かない。

 さらに、ゴーレム使いはひとりにつき一体のゴーレムしか同時に生成できない、と教科書には書かれていた。
 しかし、オレはどうやらそうでもないらしい。
 十センチのゴーレムは、今やゴーレムたち・・へと変わっている。
 ずらっと並んだその数、五体。

 とりあえず、現状ではこれが限界のようだが、教科書に書かれていた内容と大きく違っているので、どうしたものだろうか。

 五体も揃ってしまったのは、大きさをなんとかできないだろうかと試していたからだ。
 結果は十センチのまま大きくはならなかったが。

 ただ……小さくはできた。
 一体だけは一センチほどの大きさになっている。
 十センチのゴーレムの肩の上に乗っているゴーレムをみると、ゴーレムの赤ちゃんみたいで可愛らしい。
 素材が泥なので湿っているけど。

 ちなみに、動きは教科書通りにかなり遅い。
 どんなに頑張って命令しても、動きの鈍重さだけは変化させることができなかった。
 その代わり、精密な作業を苦手としているはずのゴーレムで、かなり細かいことができた。
 具体的には、十センチゴーレムの体表に美しい装飾を彫り込みことができた。
 ミリ単位の作業だったので、これを細かい作業でないといったら一体細かい作業とは何なのかという話になる。

 色々と教科書とは違った結果になったが、ひとまずオレはゴーレム使いとして一通りのことができるようになった。
 問題は、実技試験でこのゴーレムが合格なのかどうか、だ。
 ちなみに、合格するとゴーレム使いの公認免許が手に入る。
 これがあるとないとでは、雇ってもらえる場所の数が雲泥の差となる。
 こういった公認免許は、職業ギルド以外でもテストに合格することで発行される。

 まあ、合格しなくとも、免許が手に入らないだけで大した問題ではない。
 大体、十センチしかないゴーレムで重量物はとてもではないが持ち上げられないのだ。
 ゴーレム使いの雇用先は、基本的に重量物の短距離運搬業務が発生する場所だからだ。

 さて、どうしたものだろう。
 このミニゴーレムたちは一体どうしたら役に立つんだろうね?

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