上 下
18 / 34

18 銀の髪飾り

しおりを挟む
 夕食後。父に家庭教師のことを話したところ、優秀な教師をすぐに手配すると請け合ってくれた。「お前が真面目に勉強してくれるようになって嬉しいよ。せっかく魔力量が多いのに、勉強に興味がないのは勿体ないなと思ったんだ」とのこと。ちなみに父も亡くなった母も学院の成績は大変優秀だったらしい。

(やっぱり地頭は悪くないのよね、クローディアは)

 いずれモートンのお気に入りのリリアナやアレクサンダーをまとめて蹴散らすくらいに優秀な成績を取ってやろう。そんな決意をもとに自室に戻ったクローディアは、さっそく教科書を開いて予復習に精を出した。
 そしてそろそろ湯あみを済ませて休もうかという段になって、クローディアはふと思いついて侍女のサラに問いかけた。
 
「ねえサラ、明日の髪飾りのことだけど……確かお義母様からもらった銀の髪飾りがあったわよね? ほら、去年のお誕生日にもらったやつよ」
「え、お嬢様が『いらないわ!』と突き返したあの髪飾りでございますか?」
「そう、それよ。あれは結局どうなったの? もう処分してしまった?」
「一応執事のコリンさんが保管していると思いますが……お持ちしましょうか?」
「ええ、お願い」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 サラの後ろ姿がどことなく弾んでいるように見えるのは、おそらく気のせいではないだろう。
 父と再婚した義母ヘレンは同じ敷地内の別館で暮らしている。愛人ではなく正式な妻なのになぜ本館に入れないかと言えば、7年前の初顔合わせの際、クローディアが癇癪を起して大暴れしたためである。

「こんな人と一緒に暮らすなんて絶対嫌! それくらいなら私が出てくわ! その辺で野垂れ死んだ方がよっぽどマシよ!」

 結局父が折れたことで、こういう仕様となったわけだ。ちなみに再婚して3年後に生まれた妹も、同じ理由でずっと別館暮らしである。父は別館にも毎日顔を出しているようだが、夕食はいつもクローディアと共にしている。当のクローディアが徹底的に父を拒絶し、ほとんど口を利かなかったにも関わらず、だ。

(いきなり連れてきたのはアレだったけど、その後はちゃんと私に気を使ってくれていたのよね、お父様は)

 再婚当時のクローディアは8歳だ。まだまだ父を独占したい年頃だったクローディアが、いきなり現れた「母親」を受け入れられなかったのも無理はない。とはいえ今のクローディアは、義母と妹の存在を許容できなくもないのである。

「お嬢様、お待たせました!」

 サラが差し出したのは、記憶にある通りの銀細工に青い石がついている髪飾りだ。この繊細な美しさはクローディアの黒髪によく映えそうだ。

「あの方はセンスがいいのね」
「はい。私もそう思います」
「明日はこれを使うことにするわ」
「了解いたしました!」
「なにか嬉しそうね」
「いえまあ……その髪飾りはお嬢様に大変よくお似合いになると思うので。それに旦那様が喜ばれると思います」
「そうかもしれないわね」

 義母のヘレンはつつましくて大人しい人のようだし、4歳になる妹のソフィアも今が可愛い盛りだろう。今まで散々自分たちを拒絶してきたクローディアを内心どう思っているかは分からないが、父のためにももう少し良好な関係を築いていけたらいいと思う。

 そして盛りだくさんの一日を終え、クローディアは心地よい眠りについた。
しおりを挟む
感想 222

あなたにおすすめの小説

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

処理中です...