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ただいまの約束
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夏の強い日差しに照らされる中、縁側に座り風鈴の音に耳を傾けた。
日差しに照らされた体は熱を帯びて汗が止まらない。
涼しさなんて肌では微塵も感じないのだが、風鈴の音を聞くと不思議と涼しいような気がしてしまう。
目を閉じて鈴音だけを聞いていると暑さを忘れ、風鈴の音があの夏と重なり合う。
少年時代のあの夏に戻ってきたのではないかと思うほど鮮明に当時の事を思い出す。
--------------------------------------
夏休みに僕は一人で祖父母の家に遊びに来ていた。
縁側に座り、スイカを食べる僕の隣で祖父はあぐらをかきながら団扇を仰ぎ空を見ていた。
僕も釣られて空を見ると、ソフトクリームの様な入道雲が浮いていた。
祖父は入道雲を指差して
「お前、あれをソフトクリームみたいだと思っとるだろ」
と僕に言った。
祖父は僕の思った事をことごとく当ててくる。
だから当時の僕にとって祖父は何でも知っている全知全能の神のような存在だった。
祖父の言う事は何でも信じて疑わなかった。
けれど、一方的に心を読まれているのはなんだか不公平な気がして当たっていようが僕はわざと否定した。
「違うよ、綿菓子みたいだと思ってたんだ」
祖父は僕の顔を見て鼻で笑って言った。
「この負けず嫌いめ」
そう言ってまた空を見上げた。
二人とも空を眺めながら無口になる。
僕がスイカを食べる音とセミの鳴き声だけが鳴る。
しばらくして、ムワッとした風に撫でられた風鈴の音が加わった。
すると風鈴の音で何かを思い出したように祖父は言った。
「そういや、死んだばあさんが死ぬ直前に言っとたわ。
風鈴の音がチリンチリンチリンと3回続けて鳴れば私が帰ってきた合図だよ。その時は側に居るという事だから悲しむ必要はないよって」
「そうなんだ。
それで風鈴は鳴ったの?」
祖父は優しい笑顔を僕へ向け頷いた。
「毎年、ばあさんのなくなった日時になると風が吹きよるんよ。
そしてチリンチリンチリンと3回鳴らす。それが今日じゃ」
「そうなんだ」
とだけしか僕は言えなかった。
そっけない返事に祖父は少し寂しそうな顔をして言った。
「ばあさんにお前を会わせてやりたかった。
きっと可愛がっただろうに」
僕が産まれる前に祖母はもう他界していた。
だから、僕は祖母がどんな人なのかもわからないからそっけない返事しか出来なかったのだ。
「おじいちゃんも、僕の為に鳴らしてくれる?」
なんとなく聞いてみた。
すると祖父は笑いながら
「鳴らしてやる、5回鳴ればそれはわしが帰ってきた合図だ」
「わかった、約束だよ!」
「ああ、約束だ。けどまだ死ぬつもりはないから当分先程になるわ」
と笑いながら言った。
そして祖父と指切りを交わした。
するとぬるい風が吹き風鈴がチリンチリンチリンと3回鳴った。
僕は思わず風鈴を見上げた。
「おかえり」
と祖父は優しく祖母を迎え入れた。
翌年の夏、自体は急変した。
祖父は祖母の命日と同じ日に亡くなった。
大好きだった祖父を亡くし僕は泣いた。
泣いても泣いても気分が落ち着くことはなかった。
僕は祖父と座った縁側に座り、雨が降る中空を見上げた。
祖父と縁側で話した事を思い出し、また悲しくなって僕は泣いた。
次第に涙は止まったけど、僕の心は泣き続けた。
泣きたいのに涙が出ない辛さに耐えかねた僕はそのまま縁側から飛び出し雨に打たれた。
頬をつたる雨が出ない涙の代わりになり、気が紛れると思ったからだ。
けれど、ただただ虚しいだけで、どうにもならない損失感を感じていた。
僕は祖父の言葉を思い出す。
まだ、死ぬつもりはないから当分先になると言っていたはずなのに。
僕はやり場のない悲しみを吐き出した。
「まだ、死ぬつもりはないって言ったじゃないか!
たった一年で!・・・・行かないでよ・・・」
僕の言葉は雨の音でかき消され、祖父の元へは届かなかったと思う。
そして、翌年の夏。
祖父と祖母の命日に再び僕は縁側に座る。
空を見上げるとソフトクリームのような入道雲が浮いていた。
セミの鳴き声と僕が食べるスイカの音だけが鳴る。
すると風に撫でられた風鈴がチリンチリンチリンと3回鳴った。
思わず僕は風鈴を見上げ祖父の話ていたことを思い出していた。
祖母が来ているのだろうか?
けれど祖父はもう居ない。
二人はあの世で再会できなかったのだろうか?
だから祖母は祖父の為に鳴らしたのだろうか。
なんとなく切ない気持ちになってしまった気持ちを紛らわすためにスイカを頬張る。
するとまた風に揺られた風鈴が音を鳴らした。
チリンチリンチリンチリンチリンと5回鳴った。
なんだ、二人で会いに来てくれたのか。
僕は嬉しくて泣いた。
それ以来、毎年祖父母は8回鳴らす様になった。
---------------------------------------------------------
僕が目を開けると、風鈴が8回鳴った。
僕は風鈴の方へ言う。
「お帰り、おじいちゃん、おばあちゃん」
日差しに照らされた体は熱を帯びて汗が止まらない。
涼しさなんて肌では微塵も感じないのだが、風鈴の音を聞くと不思議と涼しいような気がしてしまう。
目を閉じて鈴音だけを聞いていると暑さを忘れ、風鈴の音があの夏と重なり合う。
少年時代のあの夏に戻ってきたのではないかと思うほど鮮明に当時の事を思い出す。
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夏休みに僕は一人で祖父母の家に遊びに来ていた。
縁側に座り、スイカを食べる僕の隣で祖父はあぐらをかきながら団扇を仰ぎ空を見ていた。
僕も釣られて空を見ると、ソフトクリームの様な入道雲が浮いていた。
祖父は入道雲を指差して
「お前、あれをソフトクリームみたいだと思っとるだろ」
と僕に言った。
祖父は僕の思った事をことごとく当ててくる。
だから当時の僕にとって祖父は何でも知っている全知全能の神のような存在だった。
祖父の言う事は何でも信じて疑わなかった。
けれど、一方的に心を読まれているのはなんだか不公平な気がして当たっていようが僕はわざと否定した。
「違うよ、綿菓子みたいだと思ってたんだ」
祖父は僕の顔を見て鼻で笑って言った。
「この負けず嫌いめ」
そう言ってまた空を見上げた。
二人とも空を眺めながら無口になる。
僕がスイカを食べる音とセミの鳴き声だけが鳴る。
しばらくして、ムワッとした風に撫でられた風鈴の音が加わった。
すると風鈴の音で何かを思い出したように祖父は言った。
「そういや、死んだばあさんが死ぬ直前に言っとたわ。
風鈴の音がチリンチリンチリンと3回続けて鳴れば私が帰ってきた合図だよ。その時は側に居るという事だから悲しむ必要はないよって」
「そうなんだ。
それで風鈴は鳴ったの?」
祖父は優しい笑顔を僕へ向け頷いた。
「毎年、ばあさんのなくなった日時になると風が吹きよるんよ。
そしてチリンチリンチリンと3回鳴らす。それが今日じゃ」
「そうなんだ」
とだけしか僕は言えなかった。
そっけない返事に祖父は少し寂しそうな顔をして言った。
「ばあさんにお前を会わせてやりたかった。
きっと可愛がっただろうに」
僕が産まれる前に祖母はもう他界していた。
だから、僕は祖母がどんな人なのかもわからないからそっけない返事しか出来なかったのだ。
「おじいちゃんも、僕の為に鳴らしてくれる?」
なんとなく聞いてみた。
すると祖父は笑いながら
「鳴らしてやる、5回鳴ればそれはわしが帰ってきた合図だ」
「わかった、約束だよ!」
「ああ、約束だ。けどまだ死ぬつもりはないから当分先程になるわ」
と笑いながら言った。
そして祖父と指切りを交わした。
するとぬるい風が吹き風鈴がチリンチリンチリンと3回鳴った。
僕は思わず風鈴を見上げた。
「おかえり」
と祖父は優しく祖母を迎え入れた。
翌年の夏、自体は急変した。
祖父は祖母の命日と同じ日に亡くなった。
大好きだった祖父を亡くし僕は泣いた。
泣いても泣いても気分が落ち着くことはなかった。
僕は祖父と座った縁側に座り、雨が降る中空を見上げた。
祖父と縁側で話した事を思い出し、また悲しくなって僕は泣いた。
次第に涙は止まったけど、僕の心は泣き続けた。
泣きたいのに涙が出ない辛さに耐えかねた僕はそのまま縁側から飛び出し雨に打たれた。
頬をつたる雨が出ない涙の代わりになり、気が紛れると思ったからだ。
けれど、ただただ虚しいだけで、どうにもならない損失感を感じていた。
僕は祖父の言葉を思い出す。
まだ、死ぬつもりはないから当分先になると言っていたはずなのに。
僕はやり場のない悲しみを吐き出した。
「まだ、死ぬつもりはないって言ったじゃないか!
たった一年で!・・・・行かないでよ・・・」
僕の言葉は雨の音でかき消され、祖父の元へは届かなかったと思う。
そして、翌年の夏。
祖父と祖母の命日に再び僕は縁側に座る。
空を見上げるとソフトクリームのような入道雲が浮いていた。
セミの鳴き声と僕が食べるスイカの音だけが鳴る。
すると風に撫でられた風鈴がチリンチリンチリンと3回鳴った。
思わず僕は風鈴を見上げ祖父の話ていたことを思い出していた。
祖母が来ているのだろうか?
けれど祖父はもう居ない。
二人はあの世で再会できなかったのだろうか?
だから祖母は祖父の為に鳴らしたのだろうか。
なんとなく切ない気持ちになってしまった気持ちを紛らわすためにスイカを頬張る。
するとまた風に揺られた風鈴が音を鳴らした。
チリンチリンチリンチリンチリンと5回鳴った。
なんだ、二人で会いに来てくれたのか。
僕は嬉しくて泣いた。
それ以来、毎年祖父母は8回鳴らす様になった。
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僕が目を開けると、風鈴が8回鳴った。
僕は風鈴の方へ言う。
「お帰り、おじいちゃん、おばあちゃん」
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