上 下
7 / 8

閑話・クラーラ

しおりを挟む
 私、クラーラ・バルテルは前世の記憶を持って生まれてきた。
 前世の私は地味な女子高生だった。
 アニメ、ゲーム、小説などの物語に浸るのが好きな所謂オタクだ。
 そんなオタクな私は異世界でファンタジックな世界に転生した。
 私は転生系の小説が大好きだった。
 だから、この世界も私の好きだった作品の世界の中なのかと思っていた。
 しかし、どう思い出してみてもこのような世界も登場人物も思い出せない。
 この世界は私の知っているものではなかったが、楽しくはあった。
 前世にはなかった魔法や見たこともない幻想的な景色。
 そして、なによりも私が出会えて良かったと思っているのは大好きな婚約者だ。

 彼と出会ったのは第三王子と歳が近い友人候補、婚約者候補が集められるお茶会だった。
 私は彼に一目惚れをしてしまったのだ。
 
 それはお茶会の隅でお菓子をもそもそと食べている時だった。
 両親は私を第三王子の婚約者にするような野心はなかった。
 そのために私は隅の方で友人候補や婚約者候補に囲まれている第三王子を見ているだけだった。
 すると、話しかけられたのだ。

「君は行かなくても良いのかい?」
 
 横を向くと、琥珀色に輝く瞳と目が合う。
 白銀の髪がサラサラと揺れるたびに鼓動が早くなる。
 前世を含めても初めての感覚だった。
 全身が衝撃に打たれ痺れる。
 この人と共にありたいと願ってしまうほどの衝動だった。

「い、いえ、私のような者は、王子の婚約者にはふさわしくはないので」
「そんな事はないよ。菫色の髪も、漆黒の瞳も、とても美しい。君ほど美しい人が相応しくないはずがないだろう」
「そ、そんなことは……あ、ありがとうございます」
「そうだ、自己紹介が遅れたね。僕は、フランツ・アベール。君の名を教えてもらっても良いかい?」
「は、はい。申し遅れました。クラーラ・バルテルと申します」
「その花素敵だね」
「ありがとうございます。私のお気に入りのお花なんです。」

 私はお花が好きで、今日のドレスにも生花を使っていた。
 フランツ様はお花について詳しく、たくさんお花のお話をしてくれた。
 私たち二人は候補者としてお茶会に来ていることも忘れ、お茶会が終わるまで楽しく話していた。
 時間が早く感じてしまうほどに楽しい時間。
 これで会えなくなるのは嫌だと思うほど、私はフランツ様にこの短時間で恋をした。
 フランツ様は私を最後までエスコートしてくれた。
 馬車に向かう道もたくさんお話をした。
 後ろ髪を引かれる思いで馬車に乗り込む。
 
「また会おうね、クラーラ」

 フランツ様はニコニコと私に笑いかけた。

 その翌日、アベール公爵家から使いが来て、その日のうちに私はフランツ様の婚約者となった。
 その日はいつになく気分が高揚していた。
 私は喜びのあまり、くるくると踊り回ってしまった。
 今思えば、恥ずかしくて仕方がないが、私にとって一番大切な日なのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【完結】婚約破棄の代償は

かずき りり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。 王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。 だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。 ーーーーーー 初投稿です。 よろしくお願いします! ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~

あとさん♪
恋愛
侯爵令息のオリヴァーは代わり映えのしない毎日に飽きていた。 飽和した毎日の中、鮮烈な印象を残したのはブリュンヒルデ・フォン・クルーガー伯爵令嬢。 妹の親友だと紹介された伯爵令嬢の生態を観察するうちに、自分の心がどこを向いているのかに気が付く。 彼女はいつの間にか、自分の心を掴んでいた。 彼女が欲しい! けれど今の自分では彼女に釣り合わない。 どうしよう、どうしたらいい? 今自分が為すべきことはなんだ? オリヴァーは生まれて初めて全力を尽くす決心をした。 これは、ひとりの少女に愛を乞うために、本気を出して自分の人生に向き合い始めた少年がちょっとだけマシな人間になるまでのお話。 ※シャティエル王国シリーズ、5作目。 ※シリーズ4『お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない』でちょい役だったオリヴァー視点のお話です。 ※このお話は小説家になろうにも掲載しております。

姫様の使用人

青菜にしお
恋愛
とある事情で城の執事として働きだしたアランは、小さな姫様のお世話をすることになった。日々成長していくお転婆を通り越したお姫様と、それに振り回される執事の話。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

悪役令嬢は断罪回避のためにお兄様と契約結婚をすることにしました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆ 8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。 ☆あらすじ☆  わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。  十七歳の春。  前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。  乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。  わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。  そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。  ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼  このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。  まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。  うぐぐぐぐ……。  この状況を打破するためには、どうすればいいのか。  一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。  悪役令嬢は、当て馬である。  ヒロインの恋のライバルだ。  では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!  そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。  「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。  お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。  そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。  「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」  このときわたしは、失念していたのだ。  そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼  そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきてーー

処理中です...