上 下
3 / 8

3話

しおりを挟む
 放課後には、生徒会役員としての仕事がある。
 生徒会室へ向かう途中、中庭を通りかかった時だ。
 聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 まさかと思い、物陰に隠れて確認する。
 そこには例の令嬢がいた。
 一人でベンチに座っている。
 ちらっと見えた手には本を持っていた。
 読書をしているのだろう。
 聞き覚えのない鼻歌を歌いながら、横に揺れている。

「私って絶対ヒロインだよねー? だって、このちょーぜつ可愛い容姿だし、子爵令嬢だし、魔力も光属性だし、設定も完璧! だけど、なんの乙女ゲームか分からないのよねー」

 すると、いきなり独り言を喋り出し、意味のわからないことを言い始めた。
 俺の存在には一切、気付いていないようだ。
 一体何を言っているんだ。
 全く理解できない。

「まあ、分かんなくてもいいでしょ。どうせ、私がヒロインなのよ! ていうか、逆ハーとか狙ってみたり? うわあ! 絶対、楽しいじゃん!」

 令嬢はそのまま話し続けている。
 しかし、内容が全く分からない。
 さっぱりだ。
 すると令嬢は突然立ち上がり、ガッツポーズをした。
 俺の方からは令嬢の後ろ姿しか見えないが、何やら嬉しそうだ。
 その声はとても楽しげだが、俺の心の中には黒いモヤが広がる。
 なんだか嫌な予感がした。
 急いでその場を離れ、生徒会室に急いだ。
 早く仕事を終わらせよう。
 そして、クラーラに会いに行こう。
 彼女はいつも終わるまで図書館で待っていてくれている。
 登下校は一緒の馬車だから。
 彼女の笑顔さえ見れれば、この胸の中の気持ちも落ち着くはずだ。

「あっ、遅かったね」

 生徒会室の扉を開けると声をかけられた。
 友人の一人でもある書記のテオ・グラーツだ。

「さっき、バルテル嬢が伝言を伝えにきてたよ。“今日は一緒に帰れません”だって」

 俺は目の前が真っ暗になった。
 絶望感に頭がクラクラする。
 勝手に身体が震え出す。
 なぜだ?
 いや、確かに一緒に帰る約束はしていないが。
 それでもいつも一緒だったではないか。
 だが、伝言をしてくれただけ良かったのかもしれない。

「どうしたんだい? そんなに真っ青になって」
「なんだ、フランツ。たった一回、一緒に帰るのを断られただけじゃねぇか」

 生徒会長のロルフ・メルティスと庶務のヴィリー・ドーレスが声をかけてきた。
 友人である2人の声も聞こえないくらいに俺の頭は働かなかった。

「おい、聞いてんのか!」
「大丈夫かい?」
「あ、ああ」

 その日は結局、仕事にならずに活動時間は終わった。
 俺はフラつきながら馬車まで歩き、一人で帰宅した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

処理中です...