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落し物

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カツ、カツ、カツ、カツ
先程から前を歩いている人がどうもおかしい。背はゆうに2メートルを超えており、シルクハットのような帽子をかぶり、高級そうな革靴でカツカツと音を立てながらあるいている。
その異様な佇まいからか、この世界の人間ではないように思えてしまう。
ボトッ
「ん?」
目の前の異様な人物が何やら落し物をした、本人は気づいていないようだ。
うーん、話しかけるのは少し怖いが、このまま見て見ぬ振りをするのも人としてどうかと思う。
「しゃーない、拾ってやるか」
不本意ではあるが落し物を拾ってやる。
ニュル
「うわっ!なんだこれ!?」
【それは】野球ボール程のサイズで、ニュルニュルの謎の粘液を纏っている。
それだけでは無い、色は人肌のような肌色で、ニョロニョロと動くタコの足のようなものがいくつか生えている。
「おや、私としたことが、落し物をしてしまいましたか」
異様な人物に突然話しかけられた。
「あ、あぁ、はい、どうぞ...」
見上げるほど高い位置にある顔を見ると、とても美しい顔立ちをしており、思わず見とれてしまう。
「ありがとうございます、これがないと大変なことになっていました」
声はおそらく男性だろう、だが正直いって、俺には性別が分からなかった。
「本当に助かりました、どうかお礼をさせてください」
異様な人物はポケットから同じく異様な物を取りだした、肌色のイモムシのように見えるそれは、ニョロニョロと活発に動いている。
「い、いえ、お礼なんて、俺、拾っただけですから...」
「そんなこと言わずに、ほら、全てを私に委ねて...」
異様な人物に抱擁され、体が動かなくなる、しかし決して無理やり拘束されている訳ではなく、暖かく大きな体に包まれて、頭がぼんやりとしてくる、いつまでも抱かれていたかった。
「はい、入れますね...」
ニュルり
イモムシが耳から体に入ってくるのが分かる、耳をどんどんと這っていき、耳の奥の方で感覚が消えた。
「うん、これで良し、本当にありがとうございました、またどこかで会いましょうね」
「あ...あ...」
放心する俺を置いて、異様な人物は遠くの方へ消えていった...。
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