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035◇新しい出会い(1)
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再会を約束して別れたプリムローズさんは、その日のうちにスウさんのパン工房にまでやって来た。
ただ、一人ではなく、友人の女の子と一緒に訪ねて来たらしい。
俺は早朝から騒いで眠かったので二度寝していて来訪には気付かずに、そのまま眠っていた。
起こしてくれればよかったのに――と思っても、もう遅い。
目を覚まして二階から下りた時には、幼馴染のミーヨとプリムローズさんはしっかりと再会を果たしていて、さらに色々と話をしていたらしい。
なんというか、口外しないで欲しかった俺の秘密についても、だ。
……やれやれ。
◇
「初めまして、ジンです」
俺はプリムローズさんが連れて来た、という少女に初対面の挨拶をした。
その子は、パン工房の横にある食堂で、ひとりで『赤茶』を飲んでいた。
一目見て、眠気が一気に吹き飛んだ。
「はじめまして、ジンさん」
こちらを見て、赤いくちびるを開いたその子は、『この世界』で初めて会う日本人に似た顔立ちをした美少女だった。
『この世界』には、中東から中央アジアに居そうな感じの、混血の進んだ人たちが多いので、本当に珍しい。
イヤ、モンゴロイド系の人もいることはいるけど、大体が『獣耳奴隷』だったり、職人風のおっさんだったりして、俺たちと同じ年頃の女の子は珍しかった。
てか、初めて見た。
天使の輪が浮かぶ、つややかな長い黒髪。雪のような白い肌。
切れ長でちょっとつり目。明るい茶色の虹彩。その目元に夢見るような、甘やかされた思慮のなさ――のようなものが感じられて、そのせいで、彼女は日本人の綺麗な女の子――という印象を俺にいだかせるのだった。
『この世界』では、強くしっかりとした意志を感じさせる瞳を持つ女性が多いような気がするし、前世の記憶に囚われている『俺』には全員外国人で、別人種としか思えないので、どうしても違和感を拭いきれないでいた。
今ひとつ現実感がなかったのだ。ヴァーチャルな感じというか。
けれど、この子は違う。
上手く言えないものの、日本人そっくりな子なので、なんかすごくリアルで、見ているだけでドキドキするのだ。
「失礼ですけど、お名前は?」
ぜひ知りたかったので、訊いてみる。
もしかすると、漢字の名前だったりして。
「ごめんなさい、言えません」
その子は優雅に食卓の上の茶器を取り上げ、口をつけた。
『この世界』の茶器は楕円形で、両側に「耳(取っ手)」が付いてる。それを両手で持ち上げてる。
それで、袖口の広い白い清楚なワンピースみたいな服を着ていることに気付く。
なんか、気品がある。
◇
「おはよー、ジンくん。疲れとれた?」
「こんにちは、ジン。お邪魔してるよ」
ミーヨとプリムローズさんだった。
幼馴染とはいえ、何年かぶりに会ったはずなのに、仲良さそうだ。
二人とも夏らしいシンプルな薄着だった。プリムローズさんも今朝会った時の印象とはかなり違って見える。
「ジン。聞かせてもらったよ、君の話! 私にも、『賢者の石』とやらを見せてくれないか?」
え? 賢者の石?
そんなもん、見せられるワケないだろう?
だいたい『石』じゃなくて、俺のは『玉』だそ。『賢者の玉』。
しかも、俺様の金○袋の中だぞ(笑)。体内埋込されてんだぞ。
……てか、なんで知ってる? そんな事を。
「ミーヨ」
俺はミーヨの腕を掴んで、ちょっと離れた場所に引っ張った。
「あ、ジンくん。そんなに痛くしないで。もっと優しくして!」
「誤解されるから、やめろって。みんな見てるよ」
もちろん、入れてないよ――力《ちから》は(笑)。
「お前、知らない人に俺の秘密話すな、って言ってあるだろ。彼女……プリムローズさんに話したのか?」
「プリムローズさん? プリちゃんの事だよね? うん、話したよ」
「なんでだよ?」
「プリちゃんは知らない人じゃないもの、幼馴染で友だちなんだから、訊かれれば答えるけど……」
なにか悪いことした? みたいに首を傾げる。
じっと俺を見る透明感のある明るい緑色の瞳が、宝石のペリドットのようで可愛い。
可愛いので、キツく当たれない。
ま、しょうがないか、で許してしまういつものパターンだ。やれやれ。
「彼女、俺と同じで前世の人格が……」
「ジンくん。前にそういう話したよね。一度死んで生き返った人は前世の記憶をはっきり思い出す――って、あれプリちゃんの事だった。プリちゃん、逆子で産まれて、ほとんど死んだみたいだったんだって!」
ミーヨは興奮して、まくしたてた。
そこに、近づいて来たプリムローズさんが言葉をつないだ。
「『癒し手』に瀕死のところを蘇生させてもらったらしい。それで、いわゆる『物心がつく』頃には、自分は『前世の記憶』を持っていると自覚があったよ。それで、そのまま二度目の子供時代を過ごしたよ。君たちとね」
「プリムローズさんは……」
「いや、『前世』の事は話したくない。聞かないでくれ。それよりも君、あの子を見て、びっくりしてたね」
離れて座っている、黒髪の子のことだろう。
「まるっきり――――な感じだったので」
俺が言葉を濁すと、きちんと察してくれた。
「だろうね。そういう血筋らしいよ。しかし彼女の父親は、狼の耳をつけた『戦闘奴隷』だった。……どう思う?」
「獣耳奴隷? 前世の罪で、なんか『印』がついて生まれてくるっていう……アレですか?」
『この世界』の奴隷制度については、まだよく理解出来てない。
なので、コメントしづらいな。
黒髪の子は、猫耳も犬耳もつけてない。つけてたら、可愛いだろうけど。
つまり、奴隷ではないはずだけど……?
「『奴隷の印』ってね、お尻の青いアザだそうだよ。これでピンとこないかな?」
プリムローズさんが、挑発するように言う。
「それって、『蒙古斑』? そんな! それじゃあ、東洋系……モンゴロイドの大半は、奴隷にされちゃうじゃないですか?」
「そうだよ、バカな話だろう? 要するに作り話なんだよ。『前世の罪の印』なんて、でっちあげさ」
肩をすくめながら、吐き捨てるように言った。
「そんな事……一体誰が?」
「君は――『この世界』の『巨悪』と戦う気はあるかな?」
プリムローズさんが、俺をキツく睨んだ。
――そんな事、答えは決まっている!
「ないッス。ささやかな幸せを積み重ねて、年をとっていければいいかな、って思ってるッス。平凡でいいッス。フツーが素敵ッス」
俺は、自ら小者感を演出しながら、そう言った。
俺の本心だった。てか、みんなそうでしょ?
「……なんていうか、見事なまでに小市民ね」
「どうもッス」
ご理解いただけて、幸いッス。
「でも、君だって、いつかは『この世界』で子供を持つ事になるんじゃないの? その時に、自分の子供に『蒙古斑』がついて産まれてきたら、どうするの? ささやかな幸せなんて、簡単に奪われてしまうのよ?」
真剣な表情で、諭すように言われた。
「…………」
なるほど。理解はした。
子供が出来るような事も、思いっきりしてる(笑)。
自分の子供が『獣耳奴隷』なんて……そりゃ、誰だって、嫌、だろうな……。
「まあ、いいわ。今の話は忘れずに覚えておいて。君もきっと、関わるようになるでしょうから」
プリムローズさんは断言するけれど……話題を逸らそう。
「プリムローズさんは、第三王女様に仕えてるって話ですけど……あちらの方が、そうなんですか?」
ミーヨ情報では、第三王女とその筆頭侍女がこの街に滞在中という話だ。
筆頭侍女がプリムローズさんならば、ここに連れて来たあの子が、王女様のはずだ。
黒髪の美少女は、いまミーヨと何か話してる。
「違うわよ」
あっさりと否定された。あれ?
そして、可笑しそうに笑って、黒髪の子に言った。
「ねえ、彼。あなたのことを王女様だと思ったみたいよ」
「私がですか?」
黒髪の子は、驚いている。
先刻までは、無表情にツンと澄ましてたのに、はっきりと表情が動いた。
「とんでもないです。私は『神殿』の『巫女見習い』です」
「巫女……の見習い?」
「殿下はちょっと事情があって、『冶金の丘』では『全能神神殿』に滞在している。まあ、私たち侍女もだけど。で、彼女はそこのひと」
プリムローズさんが言った。
イヤ、それ『巫女見習い』については、何の説明にもなってないですから。
たぶん、街中でたまに見かける白くて長いローブを着て、白いヴェールを被った女性の事だと思うけど……今、彼女はそれを身に付けてはいないのだ。
「今日は『絶対に働いてはいけない日』じゃないですか。それで『神殿』もお休みになってしまいましたので、プリマ・ハンナさんから誘われて、こちらにお邪魔してるんです」
休みだから、普通の服装なのか?
てか、プリマ・ハンナさんて誰だ?
「本物の姫殿下は……私とは、まったく似てませんよ。ドロレスちゃんとは、そっくりですけど」
黒髪の美少女は、にっこり笑って、割とお茶目に言った。
「あれ? ドロレスちゃんって、あのドロレスちゃん?」
ドロレスちゃんも、王家の決まりとかで、実家から追い出された可哀相な元・王女様って話だった。
本人は、ぜんぜん気にしてない様子だったけど。
彼女とも、もう知り合いなのか?
俺が寝てるあいだに、色々あったようだな。
「そうなの?」
「うん、お父さんが同じなんだって」
ミーヨの方を見ると、疑問に答えてくれた。
そう言えば、ドロレスちゃん本人も、そう言ってたな。
すると、あの「わしゃわしゃとした癖のある金髪」の人物が、3人もいるのか?
「それと付け加えるとね。――彼女(※黒髪の美少女のことだ)の父君が、剣術の達人でね。殿下の『抜刀術』の師でもあるんだよ」
プリムローズさんが、こっそり教えてくれた。
この黒髪の子のお父さんというと、狼耳の戦闘奴隷だっていう人か?
で、『抜刀術』って、きっと「居合」の事だろうな。
「君にも会わせてあげたかったな。事情があって、ついこの前『王都』に帰ってしまったんだよ」
そっちは良く分からんけど。
とにかく、「王女様」じゃないのなら、気が楽だ。
「じゃあ、もう一度。――失礼ですけど、お名前は?」
黒髪の美少女に向かって、また訊ねてみる。
「ごめんなさい、言えません」
笑うと三日月目になるな、この子。
「てか、なんで?」
「彼女は『巫女見習い』だから、選挙の前は男性に名前を訊かれても、答えてはいけない事になってるんだよ、残念だったね、ジン」
俺ががっかりしてると、プリムローズさんが教えてくれた。
楽しそうに笑ってる。瞳が紫に変色してる。
この人の水色の瞳。何かで高揚すると、血液で紫色になるんだな。
『銀河○雄伝説』に、そんな提督がいたな……名前、なんだっけ?
イヤ、待て。そう言う事じゃなくて……『選挙』の前?
「『巫女』って、選挙で選ばれるものなんですか?」
『この世界』での『巫女』の定義そのものが分からないけれど……それは後で誰かに訊いてみよう。
「うん、選挙で選ばれた上位7人が『七人の巫女』と呼ばれて、その7人で『じゃんけん』して勝った人が『聖女』さまになるんだよ」
俺の問いかけに、なぜかミーヨが答えた。
てか、ナニソレ?
まるで、どっかのアイドルグループみたいだった。
なんというか、微妙に今さら感あるけど。
「そうなんスか?」
正気とは思えないので、いろいろ詳しそうなプリムローズさんに訊いてみる。
「『巫女選挙』が、大衆の支持による『民意』。『神前じゃんけん大会』で勝つ事が、『神の意思』と考えられているそうよ。まあ、君が何を言いたいかは解るけど、ここは別の世界なんだから、突っ込みは無しで」
「……ハイ」
そう言われてしまうと、頷くしかなかった。やれやれ。
どうせ、誰か『前世の記憶』を持った人間が、『じゃんけん』なんてものを広めたんだろうけど……広まったところで、人畜無害だろうしな。
で、21世紀の日本とは違って、「既婚の巫女」も「非処女の巫女」も「バイトの巫女」も「コスプレ巫女」も存在してなくて……選ばれし7人のみが、『巫女』という事らしい。
それで、『巫女』の上位クラスが『聖女』みたいなコトになってるけれど……完全に「別物」だと思うんだけどな。
ただ、一人ではなく、友人の女の子と一緒に訪ねて来たらしい。
俺は早朝から騒いで眠かったので二度寝していて来訪には気付かずに、そのまま眠っていた。
起こしてくれればよかったのに――と思っても、もう遅い。
目を覚まして二階から下りた時には、幼馴染のミーヨとプリムローズさんはしっかりと再会を果たしていて、さらに色々と話をしていたらしい。
なんというか、口外しないで欲しかった俺の秘密についても、だ。
……やれやれ。
◇
「初めまして、ジンです」
俺はプリムローズさんが連れて来た、という少女に初対面の挨拶をした。
その子は、パン工房の横にある食堂で、ひとりで『赤茶』を飲んでいた。
一目見て、眠気が一気に吹き飛んだ。
「はじめまして、ジンさん」
こちらを見て、赤いくちびるを開いたその子は、『この世界』で初めて会う日本人に似た顔立ちをした美少女だった。
『この世界』には、中東から中央アジアに居そうな感じの、混血の進んだ人たちが多いので、本当に珍しい。
イヤ、モンゴロイド系の人もいることはいるけど、大体が『獣耳奴隷』だったり、職人風のおっさんだったりして、俺たちと同じ年頃の女の子は珍しかった。
てか、初めて見た。
天使の輪が浮かぶ、つややかな長い黒髪。雪のような白い肌。
切れ長でちょっとつり目。明るい茶色の虹彩。その目元に夢見るような、甘やかされた思慮のなさ――のようなものが感じられて、そのせいで、彼女は日本人の綺麗な女の子――という印象を俺にいだかせるのだった。
『この世界』では、強くしっかりとした意志を感じさせる瞳を持つ女性が多いような気がするし、前世の記憶に囚われている『俺』には全員外国人で、別人種としか思えないので、どうしても違和感を拭いきれないでいた。
今ひとつ現実感がなかったのだ。ヴァーチャルな感じというか。
けれど、この子は違う。
上手く言えないものの、日本人そっくりな子なので、なんかすごくリアルで、見ているだけでドキドキするのだ。
「失礼ですけど、お名前は?」
ぜひ知りたかったので、訊いてみる。
もしかすると、漢字の名前だったりして。
「ごめんなさい、言えません」
その子は優雅に食卓の上の茶器を取り上げ、口をつけた。
『この世界』の茶器は楕円形で、両側に「耳(取っ手)」が付いてる。それを両手で持ち上げてる。
それで、袖口の広い白い清楚なワンピースみたいな服を着ていることに気付く。
なんか、気品がある。
◇
「おはよー、ジンくん。疲れとれた?」
「こんにちは、ジン。お邪魔してるよ」
ミーヨとプリムローズさんだった。
幼馴染とはいえ、何年かぶりに会ったはずなのに、仲良さそうだ。
二人とも夏らしいシンプルな薄着だった。プリムローズさんも今朝会った時の印象とはかなり違って見える。
「ジン。聞かせてもらったよ、君の話! 私にも、『賢者の石』とやらを見せてくれないか?」
え? 賢者の石?
そんなもん、見せられるワケないだろう?
だいたい『石』じゃなくて、俺のは『玉』だそ。『賢者の玉』。
しかも、俺様の金○袋の中だぞ(笑)。体内埋込されてんだぞ。
……てか、なんで知ってる? そんな事を。
「ミーヨ」
俺はミーヨの腕を掴んで、ちょっと離れた場所に引っ張った。
「あ、ジンくん。そんなに痛くしないで。もっと優しくして!」
「誤解されるから、やめろって。みんな見てるよ」
もちろん、入れてないよ――力《ちから》は(笑)。
「お前、知らない人に俺の秘密話すな、って言ってあるだろ。彼女……プリムローズさんに話したのか?」
「プリムローズさん? プリちゃんの事だよね? うん、話したよ」
「なんでだよ?」
「プリちゃんは知らない人じゃないもの、幼馴染で友だちなんだから、訊かれれば答えるけど……」
なにか悪いことした? みたいに首を傾げる。
じっと俺を見る透明感のある明るい緑色の瞳が、宝石のペリドットのようで可愛い。
可愛いので、キツく当たれない。
ま、しょうがないか、で許してしまういつものパターンだ。やれやれ。
「彼女、俺と同じで前世の人格が……」
「ジンくん。前にそういう話したよね。一度死んで生き返った人は前世の記憶をはっきり思い出す――って、あれプリちゃんの事だった。プリちゃん、逆子で産まれて、ほとんど死んだみたいだったんだって!」
ミーヨは興奮して、まくしたてた。
そこに、近づいて来たプリムローズさんが言葉をつないだ。
「『癒し手』に瀕死のところを蘇生させてもらったらしい。それで、いわゆる『物心がつく』頃には、自分は『前世の記憶』を持っていると自覚があったよ。それで、そのまま二度目の子供時代を過ごしたよ。君たちとね」
「プリムローズさんは……」
「いや、『前世』の事は話したくない。聞かないでくれ。それよりも君、あの子を見て、びっくりしてたね」
離れて座っている、黒髪の子のことだろう。
「まるっきり――――な感じだったので」
俺が言葉を濁すと、きちんと察してくれた。
「だろうね。そういう血筋らしいよ。しかし彼女の父親は、狼の耳をつけた『戦闘奴隷』だった。……どう思う?」
「獣耳奴隷? 前世の罪で、なんか『印』がついて生まれてくるっていう……アレですか?」
『この世界』の奴隷制度については、まだよく理解出来てない。
なので、コメントしづらいな。
黒髪の子は、猫耳も犬耳もつけてない。つけてたら、可愛いだろうけど。
つまり、奴隷ではないはずだけど……?
「『奴隷の印』ってね、お尻の青いアザだそうだよ。これでピンとこないかな?」
プリムローズさんが、挑発するように言う。
「それって、『蒙古斑』? そんな! それじゃあ、東洋系……モンゴロイドの大半は、奴隷にされちゃうじゃないですか?」
「そうだよ、バカな話だろう? 要するに作り話なんだよ。『前世の罪の印』なんて、でっちあげさ」
肩をすくめながら、吐き捨てるように言った。
「そんな事……一体誰が?」
「君は――『この世界』の『巨悪』と戦う気はあるかな?」
プリムローズさんが、俺をキツく睨んだ。
――そんな事、答えは決まっている!
「ないッス。ささやかな幸せを積み重ねて、年をとっていければいいかな、って思ってるッス。平凡でいいッス。フツーが素敵ッス」
俺は、自ら小者感を演出しながら、そう言った。
俺の本心だった。てか、みんなそうでしょ?
「……なんていうか、見事なまでに小市民ね」
「どうもッス」
ご理解いただけて、幸いッス。
「でも、君だって、いつかは『この世界』で子供を持つ事になるんじゃないの? その時に、自分の子供に『蒙古斑』がついて産まれてきたら、どうするの? ささやかな幸せなんて、簡単に奪われてしまうのよ?」
真剣な表情で、諭すように言われた。
「…………」
なるほど。理解はした。
子供が出来るような事も、思いっきりしてる(笑)。
自分の子供が『獣耳奴隷』なんて……そりゃ、誰だって、嫌、だろうな……。
「まあ、いいわ。今の話は忘れずに覚えておいて。君もきっと、関わるようになるでしょうから」
プリムローズさんは断言するけれど……話題を逸らそう。
「プリムローズさんは、第三王女様に仕えてるって話ですけど……あちらの方が、そうなんですか?」
ミーヨ情報では、第三王女とその筆頭侍女がこの街に滞在中という話だ。
筆頭侍女がプリムローズさんならば、ここに連れて来たあの子が、王女様のはずだ。
黒髪の美少女は、いまミーヨと何か話してる。
「違うわよ」
あっさりと否定された。あれ?
そして、可笑しそうに笑って、黒髪の子に言った。
「ねえ、彼。あなたのことを王女様だと思ったみたいよ」
「私がですか?」
黒髪の子は、驚いている。
先刻までは、無表情にツンと澄ましてたのに、はっきりと表情が動いた。
「とんでもないです。私は『神殿』の『巫女見習い』です」
「巫女……の見習い?」
「殿下はちょっと事情があって、『冶金の丘』では『全能神神殿』に滞在している。まあ、私たち侍女もだけど。で、彼女はそこのひと」
プリムローズさんが言った。
イヤ、それ『巫女見習い』については、何の説明にもなってないですから。
たぶん、街中でたまに見かける白くて長いローブを着て、白いヴェールを被った女性の事だと思うけど……今、彼女はそれを身に付けてはいないのだ。
「今日は『絶対に働いてはいけない日』じゃないですか。それで『神殿』もお休みになってしまいましたので、プリマ・ハンナさんから誘われて、こちらにお邪魔してるんです」
休みだから、普通の服装なのか?
てか、プリマ・ハンナさんて誰だ?
「本物の姫殿下は……私とは、まったく似てませんよ。ドロレスちゃんとは、そっくりですけど」
黒髪の美少女は、にっこり笑って、割とお茶目に言った。
「あれ? ドロレスちゃんって、あのドロレスちゃん?」
ドロレスちゃんも、王家の決まりとかで、実家から追い出された可哀相な元・王女様って話だった。
本人は、ぜんぜん気にしてない様子だったけど。
彼女とも、もう知り合いなのか?
俺が寝てるあいだに、色々あったようだな。
「そうなの?」
「うん、お父さんが同じなんだって」
ミーヨの方を見ると、疑問に答えてくれた。
そう言えば、ドロレスちゃん本人も、そう言ってたな。
すると、あの「わしゃわしゃとした癖のある金髪」の人物が、3人もいるのか?
「それと付け加えるとね。――彼女(※黒髪の美少女のことだ)の父君が、剣術の達人でね。殿下の『抜刀術』の師でもあるんだよ」
プリムローズさんが、こっそり教えてくれた。
この黒髪の子のお父さんというと、狼耳の戦闘奴隷だっていう人か?
で、『抜刀術』って、きっと「居合」の事だろうな。
「君にも会わせてあげたかったな。事情があって、ついこの前『王都』に帰ってしまったんだよ」
そっちは良く分からんけど。
とにかく、「王女様」じゃないのなら、気が楽だ。
「じゃあ、もう一度。――失礼ですけど、お名前は?」
黒髪の美少女に向かって、また訊ねてみる。
「ごめんなさい、言えません」
笑うと三日月目になるな、この子。
「てか、なんで?」
「彼女は『巫女見習い』だから、選挙の前は男性に名前を訊かれても、答えてはいけない事になってるんだよ、残念だったね、ジン」
俺ががっかりしてると、プリムローズさんが教えてくれた。
楽しそうに笑ってる。瞳が紫に変色してる。
この人の水色の瞳。何かで高揚すると、血液で紫色になるんだな。
『銀河○雄伝説』に、そんな提督がいたな……名前、なんだっけ?
イヤ、待て。そう言う事じゃなくて……『選挙』の前?
「『巫女』って、選挙で選ばれるものなんですか?」
『この世界』での『巫女』の定義そのものが分からないけれど……それは後で誰かに訊いてみよう。
「うん、選挙で選ばれた上位7人が『七人の巫女』と呼ばれて、その7人で『じゃんけん』して勝った人が『聖女』さまになるんだよ」
俺の問いかけに、なぜかミーヨが答えた。
てか、ナニソレ?
まるで、どっかのアイドルグループみたいだった。
なんというか、微妙に今さら感あるけど。
「そうなんスか?」
正気とは思えないので、いろいろ詳しそうなプリムローズさんに訊いてみる。
「『巫女選挙』が、大衆の支持による『民意』。『神前じゃんけん大会』で勝つ事が、『神の意思』と考えられているそうよ。まあ、君が何を言いたいかは解るけど、ここは別の世界なんだから、突っ込みは無しで」
「……ハイ」
そう言われてしまうと、頷くしかなかった。やれやれ。
どうせ、誰か『前世の記憶』を持った人間が、『じゃんけん』なんてものを広めたんだろうけど……広まったところで、人畜無害だろうしな。
で、21世紀の日本とは違って、「既婚の巫女」も「非処女の巫女」も「バイトの巫女」も「コスプレ巫女」も存在してなくて……選ばれし7人のみが、『巫女』という事らしい。
それで、『巫女』の上位クラスが『聖女』みたいなコトになってるけれど……完全に「別物」だと思うんだけどな。
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