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012◇永遠の道(6)
しおりを挟む(……どこも怪我してないな)
ぼんやりと、そう思う。
――普通であれば、よほど運が良くて全身擦傷。
イヤ、姿勢としては反り返って頭から落ちたので、頭蓋骨陥没とかで死んでもおかしくないような状況だったかもしれない。
なのに、頭はなんともなかった。
服は擦り切れてボロボロなのに、体はまったく無傷だ。
なんかのゲームの「被ダメージ時の立ち絵の差分」みたいだ……って、なんだそれ?
ところどころ、服が破れたとこが「摩擦熱」のような感じで、ほんの少し熱い気もするけど……それだけだった。
痛みらしい痛みは、ぜんぜん感じなかった。
こんなことってあり得ない――と、そこで『★不可侵の被膜☆』とかいう「女神の加護」のことを、思い出した。
(まあ、たぶんアレのせい……アレのおかげだな)
どうやら『★不可侵の被膜☆』は、俺が傷つくような、ある程度以上の衝撃――運動エネルギーを、その被膜自体の硬度に転換して吸収してしまうようなものらしかった。
貧乳だか非ニュートン流体だかに、強い衝撃を加えると一瞬で硬化する『リキッドアーマー』とか、ネットで見たことある気がするけど――あれってダイタランシー効果とかいうんじゃなかったっけ?
――まあ、コレはコレで、きっと何らかの魔法的な謎パワーだろうから参考にもならないだろうけど。
それにしても、服がボロボロで体は無傷ということは、俺の皮膚だけがそれを発動出来るということなので、もしも全裸だったら完全になんともなかったかもしれない。
でも、ギリシャ神話のアキレウスのアキレス腱やニーベルンゲンに出てくるジークフリートの肩みたいに、ぽこっと「弱点」が存在する気もする。
俺のは「ち○こ」だったら、どうしよう(笑)。
めっちゃ、カッコ悪いがな……と、そんな事を考えてると――
「ジンくぅぅぅうううん!!」
ミーヨの泣きそうな声が近づいてきた。引き返してきたらしい。
ゴロゴロダンゴムシを利用した『とんかち』は、細かい方向指示や操作なんて出来ないのに、よくUターンできたなあ。ひょっとして片側だけ「足ブレーキ」かけるのかな?
さて、どう説明しよう?
◇
「ジンくん! け、怪我はない!?」
めっちゃ心配してる。
「落ちつけ、ミーヨ。俺はどこもなんともない。ほら、全部脱ぐからその目で確かめてみてくれ」
俺は全裸になった。
説明がめんどいので、視覚的に表現してみたのだ(笑)。
……てか、こんなことを日本でやったら、すぐ捕まるだろうな。
「うええっ、ホントに? ホントになんともなかったの? あ」
ミーヨが、俺のある部位の前で固まった。
なんだろう? と思って見おろすと、理由が判明した。
転落事故の原因だった。
でも、こういうことって男の子なら、誰にでもあると思うの――
◇
「――ジンくん。わたしになにか言いたいことはある?」
ミーヨが真っ赤な顔で俺に訊ねる。
「ミーヨのおかげなんだ」
「え?」
「ミーヨが『全能神』と『全知神』に頼んでくれたんだろう? 『全知神』様から聞いたよ。ミーヨが『もうジンくんが傷ついたり、痛みを感じたりしないようにして』って言ったって。それで俺、『全知神』様から加護を貰ったんだ。それで助かった。ミーヨが俺を助けてくれたんだ。ありがとう、ミーヨ。本当にありがとう」
ただ、その「願い」には、「俺が着ている衣類の無事」は含まれてなかったんだな(笑)。
……イヤ、贅沢は言えないけれども。
「……ジンくん」
「俺、助けてもらってばかりだよな。俺も、お前を守りたい。助けたいって思ってる、だからミーヨ。そこから手を放して。ぐりぐりしないで」
金○袋握られてます。潰されそうです。
――この子、男の急所知ってます。
密着した状態からじんわりと力を加えると『★不可侵の被膜☆』は発動しないらしい。
本気で潰されそう……。
「……ねえ、ジンくん。この右側ちょっとヘンじゃない? なんか丸い石みたいな感じするよ。ひょっとして悪い病気?」
ミーヨが何気に怖いことを言う。
「それ、『全知神』様から貰った『賢者の玉(仮)』です。愛称はケンちゃんです」
「ナニソレ?」
ミーヨが俺の口癖を真似る。耳コピされてる。
「ナニソレ?」
俺もそう返す。
「もう、ふざけないで! なんで無事だったのか、ぜんぶ話して!」
ミーヨは泣きそうだった。
本気で心配してくれてるようなので、この子にはぜんぶ話してしまおう。
◇
結局、ほとんどすべてをミーヨに告白することになった。
◇
俺の排泄物を使う『錬成』の話をし終えると、
「……かっこ悪い」
心が凍りついて砕け散るような、非常に冷たいお言葉をいただいた。
――凹む。
望んで、そうなったんじゃないんだけどな。
「そうだよな。ミーヨ、俺の事キライになったよな。うん、いいんだ……もう、いいんだ」
やっと解放してもらえた俺は、父親(会ったこともないけど)譲りの『旅人のマントル』をバッと羽織ると、一人旅立つポーズを示した。
「ここで、お別れしよう?」
横目でチラチラっとミーヨを見る。
引き止めて欲しいなあ。
「……」
ミーヨは何か考え込んでいて、聞いてないみたいだ。
「さてと、じゃあ、俺は行くから……グエっ」
立ち去ろうとすると、ミーヨに『旅人のマントル』の端を掴まれ、首が締まる。
「……自分の体の中にだけ……そんなの、聞いた事ないなあ。ねえ、ジンくん。その『レンチン術』ってね」
「『錬金術』です。俺、もう行っていいですか?」
「ダメ、離さない。ねえ、ジンくん。ちょっとわたしの真似してみて」
「……? うん」
何かの実験か?
「祈願! ★点火っ☆」
キラン☆ と虹色の星が舞って、ミーヨの指先から火花が散った。
ちょっとビックリ。「点火」って言うんだから、ホントに何か燃えやすい物に着火させるだけの効力なんだろうけど……原理が不明だ。
「……お前『魔法』使えたのか?」
まさか、ミーヨまで『魔法』を使えるとはな。
「なんで驚くの? いいから、言ってみて」
ミーヨが不可解そうに言う。
この世界では、『魔法』って誰でも使えるものなのか?
よし、俺も――
「点火っ。…………うん、ムリ」
ああ、昨日の夕暮れを思い出す。なんの「手ごたえ」も無い。
「あのね、コレって『しり』へのお願いなんだって」
「『お尻』?」
俺は断然おっぱいが好き(笑)。
「ちがくて『司理』」
s○i? 俺そんなのに話しかけたりしなかったよ?
「正しくは『世界の理の司』。略して『司理』」
「……へー?」
よく、分かんないけど?
「だから、最初に『祈願』って唱えると『成就』しやすくなるんだって」
ミーヨが、ペリドットみたいな深緑色の瞳を、俺に向ける。
ところで『世界の理の司』って何なんだ?
『全知神』とか『全能神』とは別物なのか?
そんで、それって起動のための「キーワード」的な?
とりあえず……試すだけは試すか。
「じゃあ、祈願。点火っ」
し――ん。
「……使えないんだけど」
俺の願いは叶いませんでした。
泣いていいですか?
「うー……じゃあ、次。これは? 祈願! ★送風っ☆」
キラキラした虹色の星が舞い飛ぶ。何か丸いカタチの「空間の揺らぎ」みたいな物が見えた気もする。
と、そこから風が吹いて、
「きゃっ!」
ミーヨのスカートがめくれ上がり……そうになる。
もうちょいだったのに、惜しい。風力不足。
ならば俺様が!
「よし、気合入れて、魂込めてやろう! 祈願っっ。送風っっっ!!」
し――ん。
「…………」
いろんな意味で、しょんぼりだ。
「最初の『★点火☆』ってね。15歳以上なら使えるはずなんだけど――」
ミーヨが戸惑ってる。
「なんで、年齢制限があるの?」
R15? なんかエロい要素あるの?
「火をあつかうから……火遊びして火事とか起きないように、子供は禁止されてるらしいよ」
ミーヨは、口に出して言うのが辛そうだった。
苦痛を我慢するような表情だった。
「ジンくん……一度死んじゃって、生き返ってるから……今の年齢が、ヘンな風になっちゃってるんじゃないかと思ったんだけど」
死んで生き返った人間て、零歳児あつかいになるんか?
「誰でも使えるはずの『★送風☆』も出来ないなんて……。うー……この世界の言葉を、正しい発音と抑揚で話せれば『世界の理の司』を通じて『守護の星』を動かして、『魔法』は発動出来る……って、言ってたのになあ。うー……ん」
ミーヨが、悩みまくって、うんうん唸ってる。
だから、『世界のナントカ』って何?
『守護の星』? ナニソレ? 占星術?
そんで、この世界の『魔法』って、「音声認識」というか「音声入力」なのか?
人から聞いた話みたいに言ってるけど……誰がそんな事言ってたんだろ?
「ジンくんの『言葉』は間違ってないのになあ」
「……そうなん?」
てか、俺は『前世の記憶』を持って、あの麦畑の中でミーヨの『往復ちちびんた』で目覚めたわけだけど……この世界の言葉は、特に問題なく話せるんだよな。
何故かもともとの「ジンくん」が持っていた知識や記憶は抜け落ちてるのに、言語能力だけは残ってる。変な感じだ。
ま、異文化コミュニケーションなので、多少の齟齬はあるみたいだけれども。
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