上 下
3 / 3

彼女は全てを持っていった

しおりを挟む
 混乱しているセレンを置いて、会場はどんどんディアナとクリスの雰囲気に飲まれていく。

 一瞬でも他国の王子隠しキャラに見初められるパターンか?と思った自分が恥ずかしい。
 リーナにチラリと視線を向ければ彼女もそう思ったのだろう。
 今は死んだ魚のような目になっている。
 
 わかる…わかるわ!
 だってあの男、ディアナしか気にしてない─確実にシスコンだわ!

 敵ながら意見が一致した瞬間だった。

 「あ…「父上」」
 口を開こうとしたセレンを遮りアルベルトが真剣な眼差しを国王である父親に向ける。

 「何だ?」
 「私の立太子の件、保留でお願いします」
 「「「なっ」」」
 これには会場にいる者たちが驚愕する。
 「ほう?」
 それに動揺することなく国王は面白そうな顔を息子に向け、片眉を上げて先を促す。

 「今回の件、私の軽率な行動が原因です。王太子となる前に、一人の王族として民に示しがつくようにならねば…どうか挽回のチャンスを」
 
 勝手なこといってるけど、廃嫡になるとは考えなかったのかしら?
 何だか格好つけてるけどチラチラとディアナ嬢に視線を送ってたら意味ないわよ?
 何のアピールなの?

 「父上、私も!」
 「「「わ…私も!」」」
 リーナ側にいた攻略対象たちも自身の親に向かって口々に訴えだした。

 「「「私たちも一から教育しなおさせてください!」」」

 教育って…卒業式でいうこと?
 だから何のアピールなの?
 あぁ…ディアナ嬢ね

 最早は呆れなどとうに通り越している。
 
 当のディアナ本人はその視線に気づいていないようで、兄にベッタリ─いやあれはがベッタリしている。
 
 「それでディ?他国の男はどうだった?」
 その質問に会場内の男どもが反応する。

 おいおい… もうやだこの世界。

 「え?えっと…」
 言葉につまる彼女の言葉に何を期待しているのか、姿勢を正したり、咳払いをしたりと攻略対象たちも忙しい。

 いやいや絶対ないわよ貴方たち?

 今の彼らにはリーナなど頭にないのだろう。もちろんセレナのことも。
 彼女、必死に跳び跳ねたりしてアピールしているけど…無視されている。ふっ。
 
 あっ…ついには袖を引っ張ってアピ──振り払われた。何か…うん…憐れだわ。

 「それで?」
 クリスの先を促す優しい声にモジモジしながらも、ディアナは「ありえませんわ!」と満面の笑みで答える。

 !!!

 「だって婚約者がいるのに他の女性とだなんて…お兄様だったらそんなことしないでしょう?」
 「そうだね」
 「それにか弱い女性相手に暴力だなんて…お兄様ならそんなこと…」
 「……そうだね」
 
 ……あっこれ手は出さないけど、ネチネチ口で攻撃するタイプだ。セレンは、クリスの返事までの絶妙な間でそれを察する。
 しかも今の質問って確実にここにいる皆への牽制を込めてましたよね?

 それにしても…なぜ自分たちが選ばれると思ったのかしら?
 両手をついて項垂れる男どもに最早はため息を隠す気もおきない。

 「ふっ…ふはははは」
 突如笑いだした国王に会場内の視線が一気に集まる。

 「アルベルト、とりあえずお前は北の砦で一からやり直しだ。あとそこにいるお前たちも…いいな?」
 最後の問いはそれぞれの家族に向けられる。
 それに対し各当主らは、頭を下げて是の意志を表す。

 「この国の公爵令嬢である彼女に冤罪をかけたんだ。まぁ学園内のことは生徒たちで解決させるから手出し不要となっているとはいえ、流石にやりすぎだ。そこから這い上がるかはお前たち自身の努力次第だな」

 「「「はいっ!」」」




 ・
 ・
 ・


 
 え…何このいい感じにまとまりましたみたいな流れ。
 結局私は?えっ?

 被害者であるセレンの家は、加害者側に兄がいたこともあり、王の言葉に不満をいうこともない。
 こちらも兄の再教育に意識が向いている。

 リーナに視線を向ければ彼女も呆然と立ち尽くしている。
 今や彼女の周りには誰もいな─いや子爵が飛んできて激昂してる。
 そうよね…そもそも彼女が逆ハーなんて望んだからだし。
 怒られる姿をみてざまぁと思わないでもないけれど、何か違うと思うのは私だけ?


 結局断罪阻止したのは私じゃなくてディアナ嬢だし、リーナの自作自演を暴いたの…も彼女だわ。
 アルベルトたちを断罪したのは…クリス様ね。

 追放にもならなかったみたいだし、私がこれまで準備してきたものは全て無駄になったってことよね?

 なんだろ…モヤモヤする。

 確かに助けて貰ったから、それに対してはありがとうというべき…べきなんだけど、えっ…と納得出来ないのは私の問題?違うよね?

 私のこれまでの心労は?
 
 そう簡単に解決されてたまりますかーーーーっ!

 



 なんてことが言えるはずもなく、不完全燃焼のままセレンの断罪劇は幕を閉じた。


 余談だが、彼女ディアナに全てを持ってかれた者同士、リーナとは何だかんだで腐れ縁が続いている。








(完)

 
 思いつきで書きたかったので、勢いで書いてます。
 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢っぽい子に転生しました。潔く死のうとしたらなんかみんな優しくなりました。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したので自殺したら未遂になって、みんながごめんなさいしてきたお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 …ハッピーエンド??? 小説家になろう様でも投稿しています。 救われてるのか地獄に突き進んでるのかわからない方向に行くので、読後感は保証できません。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

処理中です...