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クロイド・グランドヘルム
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「これが運命というものか?」
クロイドは目の前の出来事にイライラしていた。
あの日、ジークがディアナに結婚の申し込みをし、彼女がそれを受けてから二人は逢瀬を重ねていた─がそんなことはどうでもいい。
問題はオルディナが出掛けた先で、高確率で二人と鉢合わせることだった。
(いや違うな……ジークの前にだ……ディアナがオルディナに見せびらかすために、彼女の行き先と同じ場所に出歩いてることはニールから聞いた……だから、ジークだけの場合に関してだ…あの男が一人で居るときも鉢合わせている…やはり何かしらの力が……)
「いや……」
クロイドは思い浮かんだ考えをかき消すように頭を振った。
「運命とは流れのようなもの。決まった流れがあるのなら、その流れを変えればいい」──
それから彼はニールと協力し、できる限りオルディナとあの二人が会わないようにした。
それでも限度はあるもので、油断したある日事件が起きた。
ただしそれは、オルディナにとっては最悪でも、クロイドにとっては正に転機だった。
今思えばあれが流れが変わった瞬間だろう。
大衆の面前で、ディアナからオルディナが非難されたことをニールから聞いたクロイドは胸騒ぎがした。
彼はすぐさま、「嫌な予感がする。彼女…オルディナ嬢を迎えにいってくる」と屋敷の者に伝え、部屋を準備しておくよう指示し、自分は馬車に乗り込み、彼女の家へと急いだ─・・・
◇
急いだからか、はたまた自分の方に流れが変わってきたからか(…後者の方が運命っぽいな)、クロイドが彼女の家に着くと、タイミングよくオルディナが屋敷の門をくぐって出てきた。
(よかった……)
辺りは暗くなっていたので、間に合った自分にホッとする。
(それにしてもこんな時間に出ていくなど危険すぎる…)
戸惑う彼女を馬車に乗せ、クロイドは自分の家へと戻った。
馬車が走り出して暫くすると、肩を抱き寄せていたオルディナの身体から力が抜けた。
(寝たか……)
あの家で過ごすのは神経を使うだろうに、加えてジークの件だ。
気にしていないような態度だったが、やはり堪えていたのだろう。
クロイドは眠った彼女をきつく抱き締めた。
◇
家につくと、使用人が勢揃いして出迎えた。
「おかえりなさいませ、クロイド様」
「彼女はよく眠っている。部屋へはこのまま私が運ぼう」
両手に抱えた彼女を愛しそうに見つめるこの家の主を、その場にいた者は皆、微笑ましそうに見つめていた。
執事の案内により通された部屋は、自分の部屋の隣だった。
彼は整えられたベッドの上に優しく彼女を横たえると、側に椅子を持ってきてそのまま腰かけた。
「私はこのまま彼女が目を覚ますまでここにいる。何かあったら呼んでくれ」
「わかりました」
執事は頭を下げると、そのまま部屋をあとにした。
初めてみる彼女の寝顔は、どこか無防備で、普段見せる表情とは違い可愛らしい。
(普段は凛としていて美しいのに、新たな一面だな…)
どのくらい彼女の寝顔を眺めていただろうか。
『…クロイド』
彼女を迎えに行くときに、ニールにはあの二人の動向を探るようお願いしておいた。何か進展があったのだろう。
「…私の部屋にいこう」
クロイドはオルディナがまだ目覚めないことを確認すると、ニールを連れて部屋を出た。
◇
『…あの二人男女の関係になったぞ』
一瞬、ニールの言葉に反応できなかった─が、すぐに頭で理解すると笑いが込み上げてきた。
「ふふふ……何て愚かなんだ!」
この国では婚姻前の男女が関係を持つことは別に悪いことではない。しかし、貴族の娘ともなれば話は別。
産まれた子どもが自分の子どもか確証が持てないのは困るからだ。
逆に言えば、貴族の女性に手を出そうものなら男は責任を取らなければならない。
だから、男たちは後腐れのない平民やその道のプロと関係を持つ。
「あんな偽者の香りに騙されるなんて……ふふふ」
『実はあの騒ぎの後、「このまま家に帰ったら姉が……」とか言って、ディアナはそのままあの男の家に行ったんだ…そこで問題が起きた…まぁ察するにあの香水の効果が切れかけたんだ。今までこんなに長く一緒に居たことがなかったんだろうな。怪しみ出したジークにディアナは色仕掛で誤魔化した……』
「なるほど……まぁ…あの性格を知らなければ彼女は美人だし?……私の好みではないが……疑問は出ても番だと思っている女に迫られたら抗う理由はないよね……それにしても…彼女は体の関係さえ持てば何とかなるって本気で思ったのかな?」
……それは何て浅はかなんだろうね
今後の展開が予想できたクロイドは、あれが本当は自分の番なのだと呆れたと同時に、あの日教育係の言うことをきちんと聞いていて良かったとつくづく思った。
「とりあえず……オルディナが起きたら話すことを考えよう」
『……頑張れよ』
ニールの言葉に満面の笑みで答えると、クロイドはオルディナの眠る部屋へと戻った─・・・
クロイドは目の前の出来事にイライラしていた。
あの日、ジークがディアナに結婚の申し込みをし、彼女がそれを受けてから二人は逢瀬を重ねていた─がそんなことはどうでもいい。
問題はオルディナが出掛けた先で、高確率で二人と鉢合わせることだった。
(いや違うな……ジークの前にだ……ディアナがオルディナに見せびらかすために、彼女の行き先と同じ場所に出歩いてることはニールから聞いた……だから、ジークだけの場合に関してだ…あの男が一人で居るときも鉢合わせている…やはり何かしらの力が……)
「いや……」
クロイドは思い浮かんだ考えをかき消すように頭を振った。
「運命とは流れのようなもの。決まった流れがあるのなら、その流れを変えればいい」──
それから彼はニールと協力し、できる限りオルディナとあの二人が会わないようにした。
それでも限度はあるもので、油断したある日事件が起きた。
ただしそれは、オルディナにとっては最悪でも、クロイドにとっては正に転機だった。
今思えばあれが流れが変わった瞬間だろう。
大衆の面前で、ディアナからオルディナが非難されたことをニールから聞いたクロイドは胸騒ぎがした。
彼はすぐさま、「嫌な予感がする。彼女…オルディナ嬢を迎えにいってくる」と屋敷の者に伝え、部屋を準備しておくよう指示し、自分は馬車に乗り込み、彼女の家へと急いだ─・・・
◇
急いだからか、はたまた自分の方に流れが変わってきたからか(…後者の方が運命っぽいな)、クロイドが彼女の家に着くと、タイミングよくオルディナが屋敷の門をくぐって出てきた。
(よかった……)
辺りは暗くなっていたので、間に合った自分にホッとする。
(それにしてもこんな時間に出ていくなど危険すぎる…)
戸惑う彼女を馬車に乗せ、クロイドは自分の家へと戻った。
馬車が走り出して暫くすると、肩を抱き寄せていたオルディナの身体から力が抜けた。
(寝たか……)
あの家で過ごすのは神経を使うだろうに、加えてジークの件だ。
気にしていないような態度だったが、やはり堪えていたのだろう。
クロイドは眠った彼女をきつく抱き締めた。
◇
家につくと、使用人が勢揃いして出迎えた。
「おかえりなさいませ、クロイド様」
「彼女はよく眠っている。部屋へはこのまま私が運ぼう」
両手に抱えた彼女を愛しそうに見つめるこの家の主を、その場にいた者は皆、微笑ましそうに見つめていた。
執事の案内により通された部屋は、自分の部屋の隣だった。
彼は整えられたベッドの上に優しく彼女を横たえると、側に椅子を持ってきてそのまま腰かけた。
「私はこのまま彼女が目を覚ますまでここにいる。何かあったら呼んでくれ」
「わかりました」
執事は頭を下げると、そのまま部屋をあとにした。
初めてみる彼女の寝顔は、どこか無防備で、普段見せる表情とは違い可愛らしい。
(普段は凛としていて美しいのに、新たな一面だな…)
どのくらい彼女の寝顔を眺めていただろうか。
『…クロイド』
彼女を迎えに行くときに、ニールにはあの二人の動向を探るようお願いしておいた。何か進展があったのだろう。
「…私の部屋にいこう」
クロイドはオルディナがまだ目覚めないことを確認すると、ニールを連れて部屋を出た。
◇
『…あの二人男女の関係になったぞ』
一瞬、ニールの言葉に反応できなかった─が、すぐに頭で理解すると笑いが込み上げてきた。
「ふふふ……何て愚かなんだ!」
この国では婚姻前の男女が関係を持つことは別に悪いことではない。しかし、貴族の娘ともなれば話は別。
産まれた子どもが自分の子どもか確証が持てないのは困るからだ。
逆に言えば、貴族の女性に手を出そうものなら男は責任を取らなければならない。
だから、男たちは後腐れのない平民やその道のプロと関係を持つ。
「あんな偽者の香りに騙されるなんて……ふふふ」
『実はあの騒ぎの後、「このまま家に帰ったら姉が……」とか言って、ディアナはそのままあの男の家に行ったんだ…そこで問題が起きた…まぁ察するにあの香水の効果が切れかけたんだ。今までこんなに長く一緒に居たことがなかったんだろうな。怪しみ出したジークにディアナは色仕掛で誤魔化した……』
「なるほど……まぁ…あの性格を知らなければ彼女は美人だし?……私の好みではないが……疑問は出ても番だと思っている女に迫られたら抗う理由はないよね……それにしても…彼女は体の関係さえ持てば何とかなるって本気で思ったのかな?」
……それは何て浅はかなんだろうね
今後の展開が予想できたクロイドは、あれが本当は自分の番なのだと呆れたと同時に、あの日教育係の言うことをきちんと聞いていて良かったとつくづく思った。
「とりあえず……オルディナが起きたら話すことを考えよう」
『……頑張れよ』
ニールの言葉に満面の笑みで答えると、クロイドはオルディナの眠る部屋へと戻った─・・・
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