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目の前にいるのはまたアイツだ。なぜ私の前にコイツは現れるのだろう?前回は鬱陶しいだけで何もしてこなかった──今回もそれを願いたい。
あぁそれよりも、せっかくまた記憶をもって生まれてきたのだ。彼女はどこだろう。また会えるのだろうか。早く愛しい彼女に会いたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今世は初めと同じような世界だった。
私は公爵家の長子として生まれ、日々跡継ぎとしての教育に取り組んでいた。
幸いなことに繰り返した人生の経験は忘れていなかったようで、特に苦もなく、すんなりと教育は進んでいった。
学園に入る年の6歳になる頃には全ての課程を終了し、前世の知識を活かした様々な改革を行った。もちろん変な目で見られないよう加減をしつつ。その結果、我が領土は益々繁栄した。両親は驚きながらも大変喜び、周りからは神童だなんだと騒がれた。
領民たちからも、跡継ぎが私ならば将来は安泰だと信頼を寄せられている。
本来なら、周囲の期待に押し潰されるところだろう。しかし、私には前世の記憶がある。見た目に反して、中身が成熟しているからか、その心配も必要なかった。
周囲の私に対する心配事と言えば1つ──そう…私の婚約者についてだ。
公爵という爵位持ちで、しかも跡継ぎ。領土は栄えていて、将来も安定なのは誰の目にも明らか。見目もよく、性格も悪くない。我が娘を嫁にという家が後を立たなかった。
(はぁ…私は彼女がいい。早く…早く会いたい)
トントン
「ディミトリアス様、少し宜しいでしょうか」
扉の向こうから聞こえる我が家の執事の声に、書き物をしていた手を止める。
了承の返事に、執事は扉を開け私に一礼すると、父上が呼んでいることを伝えてくれた。
(何の用だろ…来年から行く学園の事か?…もしかして私の婚約者について?…はぁ)
父は26歳という若さながら、財務大臣として城で働いている。王や周囲の貴族からの信頼も厚いのよと母は嬉しそうに言うが、私は領主としての統治力も素晴らしいと思っている。貴族平民関係なく分け隔てなく接するので、領民からもとても好かれている。何とも完璧を絵に描いたようなお人だ。
忙しくても私に対して、きちんと愛情を注いでくれる。身内贔屓で甘い部分はあるが、時には当主として、厳しく導いてくれる今世の父を、私はとても尊敬している。
父が居る執務室の前に辿り着くと、一旦一呼吸おき、扉を叩いた。
返事が聞こえたので中に入ると、父は何かの書類を読んでいた。その場に立ち止まり、彼が顔を上げるのを待つ。
「調子はどうだ?」
優しい眼差しがこちらに向けられる。
「特に変わりはありません。父上こそあまり無理をなさらないよう、たまにはゆっくり休んでください」
「ふふっ…お前はまだ6歳なのに何だか大人と話している気分になる…それを言うならお前こそ…色々やっていることは報告で聞いている。我が領の為になっていることだからありがたいとは思う…が、あまり無理をするな。この領の跡継ぎであると同時にお前は…私の大事な息子でもあるのだぞ?」
父の言葉に胸が熱くなる。
(これでも中身はいい年をした大人なのになぁ…認めてもらえるのはいくつになっても嬉しいものだ)
「ところで父上、私に用事とは何でしょう?」
「そうだった、そうだった」
父はそう言って、先程まで読んでいた書類を私に渡してきた。
《エマリア=グラディウム 6歳
ジョルジオ=グラディウム侯爵家当主 長女
来年 王立インペリル学園入学予定》
渡された書類には絵姿も入っており、それを見た瞬間気付いた。
──アイツだ‼
「父上、これは?」
驚きで一瞬反応が遅れたが、すぐに何事もなかったかのように尋ねる。
そんな私の態度に気付いたかどうかはさておき、父は先程までの優しい顔から、当主然とした顔つきになり、「エマリア=グラディウム嬢。彼女がお前の婚約者になった」と告げた。
「……何故…この方をお選びに?」
声が震えたのが自分でもわかる。
グラディウム侯爵家は、我が家の次に高い爵位で、身分的には申し分ない。
現当主のジョルジオ様は、確か父と同じ26歳だったはず。あの家は代々優秀な騎士を輩出しており、何をかくそうジョルジオ様は現騎士団長の任に就いておられる方だ。
その手腕は有名で、慕う騎士は後をたたないと聞く。
「……実はジョルジオと私は学院時代の同級生でな…特に関わったことはないのだが、当時からヤツは優秀で慕うやつも多かった。その娘ならお前の婚約者として安心出来るのではと思ってな…まぁ…調べてみたわけだ。そしたら、なんとわずか6歳で学院の必要な課程を終了していた。お前もすでに終わっているし、特に驚きはないだろうが、他にそこまで終えている子供はいない。それに騎士団に度々顔を出しては、ケガをした隊員の手当てを率先して行ったり、差し入れを持っていったりと評判も悪くない。隊員たちにもかなり可愛がられているようだ。……身分的にも人間性にも問題ない…で、誰かに先を越される前に、お前の婚約者にと彼方にお願いしたのだ。まぁ彼方は可愛い娘を嫁にやるのは嫌なようで、かなり渋ってはいたが、変な男が付くよりかは…ということで、承諾をもらえた。それはもう渋々な。それで、急だが来月お前と彼女の顔合わせを行うことになった…わかったな?」
はっきり言って、この段階では断る理由が見つからない。普通に聞けば好条件なのだ。
次期当主として喜んで受けるべきだろう。しかし、私には彼女がいる。彼女以外との結婚などあり得ない。でも彼女と出会えていない今、私には頷くしか答えがなかった。
「………わかりました」
あぁ早く彼女に会いたい…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
顔合わせ当日は、朝から憂鬱な気分だった。
しかし、私という人間の前に、公爵家の名を背負っているので、周りにそれを感じさせないよう気を付けなければ─・・・
見合いの場所は、我が家の庭だった。
彼女の好きだった花を、庭師にお願いして植えてもらった庭は、現在我が家の自慢の一つとなっている。
なぜその場所にアイツを招待せねばならんのだ!と思ったが、そこはぐっと我慢した。
「ごきげんよう。ディミトリアス=フォルトゥナ様。私はエマリア=グラディウムと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
6歳と思えぬ綺麗なお辞儀を披露する女に、形ばかりの笑みを向ける。
「こちらこそ、よろしく」
私の顔を見て頬を染める女に嘲笑する。何を勘違いしたのか、ますます赤くなる顔に面倒臭いという思いしかわかない。
少し離れた場所ではお互いの両親が並んで様子を見ていた。
仕方ない、とりあえず用意されたお茶でも飲んでそれらしく会話でもしておこう。
「彼方のテーブルにお茶の準備がしてありますので行きましょうか」
「はいっ‼」
嬉しそうに返事をする女を、席までエスコートしていると、両親たちが居る側が何やら騒がしい。
「おねぇちゃま──‼」
「クロエ!!」
目の前の女が名前を呼ぶと、小さな女の子が大人達の間を駆け抜けてきた。
─っ!!!
あぁ見つけた……彼女だ。
あぁそれよりも、せっかくまた記憶をもって生まれてきたのだ。彼女はどこだろう。また会えるのだろうか。早く愛しい彼女に会いたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今世は初めと同じような世界だった。
私は公爵家の長子として生まれ、日々跡継ぎとしての教育に取り組んでいた。
幸いなことに繰り返した人生の経験は忘れていなかったようで、特に苦もなく、すんなりと教育は進んでいった。
学園に入る年の6歳になる頃には全ての課程を終了し、前世の知識を活かした様々な改革を行った。もちろん変な目で見られないよう加減をしつつ。その結果、我が領土は益々繁栄した。両親は驚きながらも大変喜び、周りからは神童だなんだと騒がれた。
領民たちからも、跡継ぎが私ならば将来は安泰だと信頼を寄せられている。
本来なら、周囲の期待に押し潰されるところだろう。しかし、私には前世の記憶がある。見た目に反して、中身が成熟しているからか、その心配も必要なかった。
周囲の私に対する心配事と言えば1つ──そう…私の婚約者についてだ。
公爵という爵位持ちで、しかも跡継ぎ。領土は栄えていて、将来も安定なのは誰の目にも明らか。見目もよく、性格も悪くない。我が娘を嫁にという家が後を立たなかった。
(はぁ…私は彼女がいい。早く…早く会いたい)
トントン
「ディミトリアス様、少し宜しいでしょうか」
扉の向こうから聞こえる我が家の執事の声に、書き物をしていた手を止める。
了承の返事に、執事は扉を開け私に一礼すると、父上が呼んでいることを伝えてくれた。
(何の用だろ…来年から行く学園の事か?…もしかして私の婚約者について?…はぁ)
父は26歳という若さながら、財務大臣として城で働いている。王や周囲の貴族からの信頼も厚いのよと母は嬉しそうに言うが、私は領主としての統治力も素晴らしいと思っている。貴族平民関係なく分け隔てなく接するので、領民からもとても好かれている。何とも完璧を絵に描いたようなお人だ。
忙しくても私に対して、きちんと愛情を注いでくれる。身内贔屓で甘い部分はあるが、時には当主として、厳しく導いてくれる今世の父を、私はとても尊敬している。
父が居る執務室の前に辿り着くと、一旦一呼吸おき、扉を叩いた。
返事が聞こえたので中に入ると、父は何かの書類を読んでいた。その場に立ち止まり、彼が顔を上げるのを待つ。
「調子はどうだ?」
優しい眼差しがこちらに向けられる。
「特に変わりはありません。父上こそあまり無理をなさらないよう、たまにはゆっくり休んでください」
「ふふっ…お前はまだ6歳なのに何だか大人と話している気分になる…それを言うならお前こそ…色々やっていることは報告で聞いている。我が領の為になっていることだからありがたいとは思う…が、あまり無理をするな。この領の跡継ぎであると同時にお前は…私の大事な息子でもあるのだぞ?」
父の言葉に胸が熱くなる。
(これでも中身はいい年をした大人なのになぁ…認めてもらえるのはいくつになっても嬉しいものだ)
「ところで父上、私に用事とは何でしょう?」
「そうだった、そうだった」
父はそう言って、先程まで読んでいた書類を私に渡してきた。
《エマリア=グラディウム 6歳
ジョルジオ=グラディウム侯爵家当主 長女
来年 王立インペリル学園入学予定》
渡された書類には絵姿も入っており、それを見た瞬間気付いた。
──アイツだ‼
「父上、これは?」
驚きで一瞬反応が遅れたが、すぐに何事もなかったかのように尋ねる。
そんな私の態度に気付いたかどうかはさておき、父は先程までの優しい顔から、当主然とした顔つきになり、「エマリア=グラディウム嬢。彼女がお前の婚約者になった」と告げた。
「……何故…この方をお選びに?」
声が震えたのが自分でもわかる。
グラディウム侯爵家は、我が家の次に高い爵位で、身分的には申し分ない。
現当主のジョルジオ様は、確か父と同じ26歳だったはず。あの家は代々優秀な騎士を輩出しており、何をかくそうジョルジオ様は現騎士団長の任に就いておられる方だ。
その手腕は有名で、慕う騎士は後をたたないと聞く。
「……実はジョルジオと私は学院時代の同級生でな…特に関わったことはないのだが、当時からヤツは優秀で慕うやつも多かった。その娘ならお前の婚約者として安心出来るのではと思ってな…まぁ…調べてみたわけだ。そしたら、なんとわずか6歳で学院の必要な課程を終了していた。お前もすでに終わっているし、特に驚きはないだろうが、他にそこまで終えている子供はいない。それに騎士団に度々顔を出しては、ケガをした隊員の手当てを率先して行ったり、差し入れを持っていったりと評判も悪くない。隊員たちにもかなり可愛がられているようだ。……身分的にも人間性にも問題ない…で、誰かに先を越される前に、お前の婚約者にと彼方にお願いしたのだ。まぁ彼方は可愛い娘を嫁にやるのは嫌なようで、かなり渋ってはいたが、変な男が付くよりかは…ということで、承諾をもらえた。それはもう渋々な。それで、急だが来月お前と彼女の顔合わせを行うことになった…わかったな?」
はっきり言って、この段階では断る理由が見つからない。普通に聞けば好条件なのだ。
次期当主として喜んで受けるべきだろう。しかし、私には彼女がいる。彼女以外との結婚などあり得ない。でも彼女と出会えていない今、私には頷くしか答えがなかった。
「………わかりました」
あぁ早く彼女に会いたい…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
顔合わせ当日は、朝から憂鬱な気分だった。
しかし、私という人間の前に、公爵家の名を背負っているので、周りにそれを感じさせないよう気を付けなければ─・・・
見合いの場所は、我が家の庭だった。
彼女の好きだった花を、庭師にお願いして植えてもらった庭は、現在我が家の自慢の一つとなっている。
なぜその場所にアイツを招待せねばならんのだ!と思ったが、そこはぐっと我慢した。
「ごきげんよう。ディミトリアス=フォルトゥナ様。私はエマリア=グラディウムと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
6歳と思えぬ綺麗なお辞儀を披露する女に、形ばかりの笑みを向ける。
「こちらこそ、よろしく」
私の顔を見て頬を染める女に嘲笑する。何を勘違いしたのか、ますます赤くなる顔に面倒臭いという思いしかわかない。
少し離れた場所ではお互いの両親が並んで様子を見ていた。
仕方ない、とりあえず用意されたお茶でも飲んでそれらしく会話でもしておこう。
「彼方のテーブルにお茶の準備がしてありますので行きましょうか」
「はいっ‼」
嬉しそうに返事をする女を、席までエスコートしていると、両親たちが居る側が何やら騒がしい。
「おねぇちゃま──‼」
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