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2章 リリスと闇の侯爵家
81 ダミアンの手
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フォルセの街に滞在して数日が過ぎた。
なおもリリスの目撃情報はない。
そろそろレインの見間違いではないかと思えてくる。
それでも、ダミアンは諦めずに探していた。
尚、一緒に来ているレインは毎日遊び呆けている。
あらゆる酒場に顔を出しては男を拐かしているようだ。
ダミアンに問題のない範囲なら何をしてようと関係はない。
こちらに向かってくるよりはマシだとダミアンは思っていた。
レインは初日予告通りに、どこからともなくダミアンの部屋に現れた。
気づかずに静かに眠っているダミアンのベッドへ入り込んで、そのまま朝までレインはダミアンに添い寝していた。
朝を迎えた時の絶望感が分かるだろうか。
ぶるりとダミアンは思い出して身を手で擦る。
「…朝だよな?
何も見えない…ん?柔らかい?」
「ダミアン様
おはようございます」
自分の顔がレインの胸に抱かれ呼吸が出来ない。
顔から遠ざけようとすれば、柔らかな感触が手に広がる。
気づいた時のあまりのおぞましさにダミアンは震えた。
「二度とこの部屋で寝るな!」
「えーっ、我慢できない!
そんなの無理よ。
ダミアン様という抱き枕がないと、眠れないわ!」
「ふざけるのをいい加減やめてくれないか?」
リリス以外の女とベッドを共にしてしまったという事実がダミアンにはショックだった。
ひとまず、このおぞましい記憶は封印しよう。
ダミアンが怒りの形相で抗議したら渋々ながらレインは次の夜から現れなくなった。
本当に迷惑な女だ。
他の男で代用できるならそれがいい。
ここ数日のことを思い出して、ダミアンらげんなりした。
その気持ちのまま道に置いている小石を蹴り空を見上げる。
見上げた空は紫と濃紺を混ぜ合わせた色合いで無数の星と月が浮かんでいた。
蹴った石は転がり街路樹の下に止まった。
街路樹には星の形をした灯りが灯っている。
気にして見てみるとこの星の灯でフォルセの街は明るく道が照らされていると気づく。
夜に歩く人々は、この星の光の下を楽しげに歩いている。
食べ物の美味しそうな匂いにご飯時であると知らせている。
夜は人を酔わせる。
ダミアンは夜の街が聞き込みがしやすいと言うことに気づいていた。
だからこそ、こうして夜の街を歩いている。
昼間は仕事や用事のためが足を止めてくれる人が少ないが、夜は仕事終わりということもあり、気が大きくなるものだ。
聞き込みだけではなく、道行く人もダミアンは観察する。
少しでもなにか痕跡やヒントはないか、この闇夜に黒髪と赤い色彩が溶け込んでいないか気を張りながら歩いていた。
リリスのような年頃の少女を見つけては顔を確認し、落胆のため息を吐く。
この行為を繰り返していた。
日々、ハズレばかりで嫌になるがリリスを見つけるためだとダミアンは根気強く続けていた。
ダミアンはフォルセの街にしばらく滞在したこともありお店の位置や道がどこに続いているかなど分かるようになっていた。
今日は買い物客が多いエリアでリリスを探していた。
夜の露天は賑やかで、それぞれの店のライトが合わさり独特の雰囲気を漂わせている。
異国のような雰囲気にダミアンは不思議な気持ちになる。
道行く人の数は多い。
「ん?…あれは」
ふとに光り輝く夜の景色に馴染みある赤色が視界に映った。
どんなに人に埋もれていようとも、その色彩はダミアンにとって特別な物。
愛おしい色彩にダミアンはついその赤色を目で追っていた。
赤く長いマントを羽織った人物がダミアンの視界をキョロキョロと何かを探すように歩いていた。
そんな困った様子をしているのに、人々はまるで見えていないかのようにその人物を避けていた。
はて、これは不思議な出来事だとダミアンはよりそのマントを羽織った人物に興味を持った。
この人混みの中でその人物の周りだけが空間が空いている。
フードの下は男だろうか女だろうかとダミアンは観察する。
そこで、胸のあたりが熱いことにダミアンは気づいた。
赤いマントの人物を瞳で捉える度に、胸に焼け付く痛みを感じる。
ダミアンは熱源を探し、首からさげていたブラッドストーンを取り出した。
レインから貰ったブラッドストーンを手に取ると赤く熱く輝いていた。
『ブラッドストーンの呪石の効果は最愛の人を見つけること』
レインの言葉をダミアンは思い浮かべる。
呼吸が止まり、息を呑むように赤いマントの人物の顔を見た。
フードの下から覗く顔は、よく見ることが叶わない。
「…リリス?」
名を口にした瞬間に、街を突然の強風が駆け抜けた。
まるでダミアンを手助けてくれるようなタイミングだ。
『どんなに高度に隠された魔術も魔法も無効にしてくれる』
またレインが話していた言葉を思い出す。
この風もそうだというのだろうか。
最愛の人を見つけるために世界はダミアンの味方をしてくれていると思ってしまう。
風が深くかぶられたフードを持ち上げる。
ダミアンの瞳が、その瞬間を切り取ろうと瞬きを忘れる。
黒く長い髪が風に遊ばれ、赤い瞳が強い風により細られる。
ついに最愛の人リリスの姿を捉えた。
疑惑から確信へと変わった。
「ふふ、リリス。
そこにいたんだね…」
ダミアンは気づかれないように気配をけしリリスに近づいていく。
脳内では、何百回何千回とリリスの名前を呼ぶ。
もうリリスのことしか考えることの出来ない、この蕩けてしまう感情は愛そのものだ。
なおもリリスの目撃情報はない。
そろそろレインの見間違いではないかと思えてくる。
それでも、ダミアンは諦めずに探していた。
尚、一緒に来ているレインは毎日遊び呆けている。
あらゆる酒場に顔を出しては男を拐かしているようだ。
ダミアンに問題のない範囲なら何をしてようと関係はない。
こちらに向かってくるよりはマシだとダミアンは思っていた。
レインは初日予告通りに、どこからともなくダミアンの部屋に現れた。
気づかずに静かに眠っているダミアンのベッドへ入り込んで、そのまま朝までレインはダミアンに添い寝していた。
朝を迎えた時の絶望感が分かるだろうか。
ぶるりとダミアンは思い出して身を手で擦る。
「…朝だよな?
何も見えない…ん?柔らかい?」
「ダミアン様
おはようございます」
自分の顔がレインの胸に抱かれ呼吸が出来ない。
顔から遠ざけようとすれば、柔らかな感触が手に広がる。
気づいた時のあまりのおぞましさにダミアンは震えた。
「二度とこの部屋で寝るな!」
「えーっ、我慢できない!
そんなの無理よ。
ダミアン様という抱き枕がないと、眠れないわ!」
「ふざけるのをいい加減やめてくれないか?」
リリス以外の女とベッドを共にしてしまったという事実がダミアンにはショックだった。
ひとまず、このおぞましい記憶は封印しよう。
ダミアンが怒りの形相で抗議したら渋々ながらレインは次の夜から現れなくなった。
本当に迷惑な女だ。
他の男で代用できるならそれがいい。
ここ数日のことを思い出して、ダミアンらげんなりした。
その気持ちのまま道に置いている小石を蹴り空を見上げる。
見上げた空は紫と濃紺を混ぜ合わせた色合いで無数の星と月が浮かんでいた。
蹴った石は転がり街路樹の下に止まった。
街路樹には星の形をした灯りが灯っている。
気にして見てみるとこの星の灯でフォルセの街は明るく道が照らされていると気づく。
夜に歩く人々は、この星の光の下を楽しげに歩いている。
食べ物の美味しそうな匂いにご飯時であると知らせている。
夜は人を酔わせる。
ダミアンは夜の街が聞き込みがしやすいと言うことに気づいていた。
だからこそ、こうして夜の街を歩いている。
昼間は仕事や用事のためが足を止めてくれる人が少ないが、夜は仕事終わりということもあり、気が大きくなるものだ。
聞き込みだけではなく、道行く人もダミアンは観察する。
少しでもなにか痕跡やヒントはないか、この闇夜に黒髪と赤い色彩が溶け込んでいないか気を張りながら歩いていた。
リリスのような年頃の少女を見つけては顔を確認し、落胆のため息を吐く。
この行為を繰り返していた。
日々、ハズレばかりで嫌になるがリリスを見つけるためだとダミアンは根気強く続けていた。
ダミアンはフォルセの街にしばらく滞在したこともありお店の位置や道がどこに続いているかなど分かるようになっていた。
今日は買い物客が多いエリアでリリスを探していた。
夜の露天は賑やかで、それぞれの店のライトが合わさり独特の雰囲気を漂わせている。
異国のような雰囲気にダミアンは不思議な気持ちになる。
道行く人の数は多い。
「ん?…あれは」
ふとに光り輝く夜の景色に馴染みある赤色が視界に映った。
どんなに人に埋もれていようとも、その色彩はダミアンにとって特別な物。
愛おしい色彩にダミアンはついその赤色を目で追っていた。
赤く長いマントを羽織った人物がダミアンの視界をキョロキョロと何かを探すように歩いていた。
そんな困った様子をしているのに、人々はまるで見えていないかのようにその人物を避けていた。
はて、これは不思議な出来事だとダミアンはよりそのマントを羽織った人物に興味を持った。
この人混みの中でその人物の周りだけが空間が空いている。
フードの下は男だろうか女だろうかとダミアンは観察する。
そこで、胸のあたりが熱いことにダミアンは気づいた。
赤いマントの人物を瞳で捉える度に、胸に焼け付く痛みを感じる。
ダミアンは熱源を探し、首からさげていたブラッドストーンを取り出した。
レインから貰ったブラッドストーンを手に取ると赤く熱く輝いていた。
『ブラッドストーンの呪石の効果は最愛の人を見つけること』
レインの言葉をダミアンは思い浮かべる。
呼吸が止まり、息を呑むように赤いマントの人物の顔を見た。
フードの下から覗く顔は、よく見ることが叶わない。
「…リリス?」
名を口にした瞬間に、街を突然の強風が駆け抜けた。
まるでダミアンを手助けてくれるようなタイミングだ。
『どんなに高度に隠された魔術も魔法も無効にしてくれる』
またレインが話していた言葉を思い出す。
この風もそうだというのだろうか。
最愛の人を見つけるために世界はダミアンの味方をしてくれていると思ってしまう。
風が深くかぶられたフードを持ち上げる。
ダミアンの瞳が、その瞬間を切り取ろうと瞬きを忘れる。
黒く長い髪が風に遊ばれ、赤い瞳が強い風により細られる。
ついに最愛の人リリスの姿を捉えた。
疑惑から確信へと変わった。
「ふふ、リリス。
そこにいたんだね…」
ダミアンは気づかれないように気配をけしリリスに近づいていく。
脳内では、何百回何千回とリリスの名前を呼ぶ。
もうリリスのことしか考えることの出来ない、この蕩けてしまう感情は愛そのものだ。
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