想えばいつも君を見ていた

霧氷

文字の大きさ
上 下
21 / 46

班決め

しおりを挟む




長月に入っても、暑さの和らぐことは無い。

始業式を昨日終えた学校だが、すぐに授業は始まらない。

今日が金曜日で、明日からまた二連休となる。

そんな時に、授業を開始しても身に入らないというのが、考えらしい。


よって、今日は、昼食、部活無しの四時間授業。

一時間目は、夏休みに溜まった埃を落とす為の大掃除が行われた。

約一ヶ月使われていないのに、教室の隅や棚の上は、薄く埃化粧をしていた。

途中、廊下掃除の男子が、箒をバットに、雑巾をボールにして、野球をやっていたのを生活指導の先生に見つかり、
廊下に正座させられたことを除けば、特に大きな問題は無かった。


二時間目からは、ロングホームルームだ。

「えぇ、今日のホームルームは、修学旅行の班決めを行う。学級委員長、副委員長、あとを頼むぞ。」

「はい。」
「は~い。」

 学級委員長の金森恵と副委員長の佐伯曹太が前に出る。

「これから、修学旅行の班決めをします。人数は一班につき、五人か六人です。では、各自、班を作って下さい。」


俺達は、十月の中旬、古都・奈良、京都に三泊四日で、修学旅行に行くことなっている。

毎年行く場所は異なり、小等部、中等部の時と被らない場所をという配慮がある。

もちろん、高等部から来る生徒もいるので、事前アンケートは欠かせない。

俺達の学年は、小等部の時、九州に、中等部の時に、北海道にに行ったので、今回は近畿になった。

「なぁ、瞬也。修学旅行の班、一緒に組もうぜ。」

「いいよ。あと、誰を誘う?」

「女子を入れようぞっ! 高階とか一原とか加藤とか。」

晋二が並べた女子は、それぞれタイプは違えど、大人びた印象を持っている。

要するに、晋二の好みのタイプということだ。

「バカ・・・班は、男女別だよ。」

「はぁ!? 何で!?」

「姉貴から聞いたんだけど、数年前に、隣町の高校で、修学旅行の班を男女一緒にしたら、問題が起きたんだって。それから、この近隣の高校では、公立、私立問わず、男女別班なんだよ。」

「チクショ~! 俺の楽しみを奪いやがって、バカヤロー! イテッ!?・・・あっ。」

 悔しがる晋二は、一瞬机に沈んだ後、後ろを振り返り、固まった。

 見れば、担任の五十嵐先生が丸めたノートを持って立っていた。




「こら、檜山!うるさいぞ!」

「だ、だって、イガちゃん、男ばっかりのグループとか嫌だよ!」

「規則だ。」

「せっかくの共学なのに・・・。」

「・・・そうか。分かった。檜山は、俺と一緒の部屋でどうだ?」

「えっ・・・?」

「お前を野放しにしておくと、夜、女子の部屋に潜り込みそうだからな。」

「そんなー!」

「安心しろ。生活指導の三宅先生も一緒だ。」

「ちょっ、俺、死んじゃう!」

「死にたくなかったら、土沢や皆と楽しく修学旅行に行け。なっ。」

「はぁ~い。」

檜山の返事を聞くと、五十嵐先生は前に戻って行った。




「土沢、檜山。」

「ん?」

「佐伯に、金森委員長。」

やって来たのは、佐伯曹太と金森恵。

佐伯は、俺と同じ軽音楽部で部長をやっている。

金森は、誰に対しても優しい、俺達、二年F組の頼れる学級委員長だ。


「修学旅行の班、一緒に組まない?」

「俺は、いいよ。晋二、いいだろ?」

「・・・。」

机に顔を伏せていて、返事は返ってこないが、右手の親指と人差し指の先を合わせて、丸を作った。

晋二なりの肯定の証だ。

「檜山君、大丈夫?」

優しい金森委員長が、心配そうに尋ねる。

「大丈夫大丈夫。女子と組めると思ってたのを、否定されて、無常を感じてるだけだから。」

「アハハ、檜山らしいね。和楽部の部室行って、琵琶借りてこようか?」

「だったら、書道部に行って墨も借りて来ないとダメだよ。」

「じゃぁ、俺は野球部の先生ところに行って、バリカン借りて来よう。」

「…お前等…人で遊ぶなっ!」

晋二は、起き上がって、ボケる俺達にツッコミを入れた。

「檜山、そんなに俺と三宅先生と同じ部屋になりたいか?」

「うっ・・・すみません・・・。」

「アハハッ!!」


檜山と五十嵐先生のやり取りに、クラス中が笑いに包まれる。



「諸行無常って、こういうことを言うんだ…。」


「ねぇ、あと一人、どうしようか?」

「他は・・・もう皆、組んじゃってるな。」

晋二が一人、無常に浸っている間、俺達は辺りを見回していた。

「……。」

俺は、窓際の席で、周りを気にせず本を読んでいる水品を見つめた。

「なぁ、瞬也。あと一人、どうする? やっぱ、こっそりと女子入れるか?」

いつの間にか復活していた晋也は、まだ懲りていないようだ。

「お前なぁ・・・。」

「檜山君、そんなことしても、メンバー表出すからバレちゃうよ。」

「・・・神は、どこまでも俺を見捨てるんだ・・・。」

晋二は、再び机にその身を預けた。


俺は、それを見て、もう一度、一番後ろの席に視線を移し、

「俺、一人誘ってくるよ。」

と言って、水品の下に向かった。




 たいして離れているわけでは無いが、ここだけは、別空間のように、周りの声も遠くに感じられる。

聞こえるのは、ページを捲る音のみ。


「水品。」

「・・・何?」

「お前、修学旅行の班決まってるの?」

「・・・・・・決まってない。」

「じゃぁ、俺達の班に来いよ。」

「えっ・・・?」

水品の瞳が、揺れる。

「お前をいれて、丁度五人なんだ。どう?」

「・・・いいの?」

首を傾げて、俺を見上げる姿は、図書館で別れた時を思い出す。

俺は、手を伸ばそうとする衝動を唾を飲んで抑え込み、

「もちろん。」

出来るだけ笑顔で言った。

「…皆が嫌じゃ無ければ、お願いする。」

水品は、そう言って席を立った。




「おい、瞬也、水品誘ったのか?」

水品を連れて行くと、晋二は目を丸くして言った。

「あぁ。皆も、いいだろ。」

「うん。僕はいいよ。」

「俺もいいよ。」

「晋二は?」

「俺は、皆が良いなら…。」

「・・・よろしく、お願いします…。」

水品は、頭を下げて言った。

「水品君。そんなに、堅くならなくていいよ。楽しい修学旅行にしようね。」

「・・・ありがとう、金森委員長。」

「土沢。」

「何?佐伯。」

「水品が入ってくれて良かったな。」

「う、うん…。」

含みのある笑みを浮かべる佐伯に、俺は相槌をうった。

「水品…その、よろしく。」

金森委員長の傍に立つ水品に、手を差し出す。

「…うん、よろ、しく…。」

重ねられた指先は冷たかった。

蚊の鳴くような小さい声で、返答をしてくれた。

「……。」

その姿に、思わず手を引いて抱きしめてしまいそうになったが、空いている手を強く握って、耐えた。

約束だ。

気持ちはまとまっても、怖い思いをさせたんじゃ意味がない。


今は、警戒心を解かせるようにしないと…。




俺が、一人頭の中で考えていると、

「おーい、そっちの班って、何人?」

一人の訪問者がやって来た。

「五人だよ。」

「じゃぁ、俺、入れてもらっていい?組んだ班が、七人になっちゃったってさ・・・。」

「こっちは、構わないよ。」

「サンキュー。」

「あっ、山賀じゃん。」

「よぉ、檜山。邪魔するな。」

「あれ、二人って仲良かったっけ?」

「俺と山賀、同じ漫画研究部なんだ。」

「へぇ~そうなんだ。」

「描いているジャンルは違うけど、結構話すよな。」

「なっ。」

「じゃぁ、恵、山賀も入れて、うちの班は六人で決定でいいな。」

「うん。」

佐伯は、メンバー表に名前を書き入れていく。




「よろしくな、土沢。」

檜山と話していた山賀が、俺の前に来る。

このメンバーの中で、唯一俺と視線が同じ山賀は、どこか威圧感があった。

「うん、よろしく。」

それでも、俺は威圧感を振り払い、手を上げて返した。

「…。」

「っ!?」

一瞬、本当に一瞬だった。

俺の横を通り過ぎる時の山賀の口元が笑っていたのだ。

その笑みに、全身に悪寒が走った。


「よろしくな。」

山賀は、俺の後ろにいた水品の肩に手を置き、耳元で囁くように言った。

「あぁ…。」

水品は、普段より僅かに低い声で返した。

「……。」

そのやり取りが、どこか自然に見えた。


それと同時に、水品が遠くに感じ、俺は無意識のうちに唇を噛んだ。

  


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...