想えばいつも君を見ていた

霧氷

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知りたい気持ち

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二丁目と三丁目の分かれ目であるコンビニの前に来た。


「水品、明日、図書館前に開館十分前の八時五十分に集合だから、郵便局前には、八時三十分でいい?」


「八時二十分にして。」


「何で?郵便局から図書館まで、十分くらいじゃん。」


「コンビニで飲み物買いたいんだ。図書館の中だと少し高いから。」


「なるほど。分かった。じゃぁ、八時二十分で。」


「うん。遅れるようなら、メモリーで連絡して。」


「あぁ、それじゃぁ、また明日。」


「また、明日…。」


水品は、コンビニの脇を南に向かって進む。



俺は、少し経ってから、水品と同じ方向に歩き出した。


電柱に隠れながら、水品の背を追う。


二丁目と三丁目は、この道を境にしている。


つまり路地を右に入れば、三丁目。


左に入れば、二丁目ということだ。


この状況で、家の特定を諦めるわけにはいかない。


今日一日で聞きたいことがまた増えたし、水品ことは、全て知りたいのだ。


「ん?」


水品の足が止まった。


電話でも掛って来たのか?


電柱の影から様子を伺っていると、


「土沢。」


「!?」


振り返り俺の名を呼ぶ。


俺は、驚きのあまり、出ることが出来なかった。


「これ以上ついてきたら、良い点とっても、ご褒美あげないから。」

水品は、それだけ言うと、再び歩き出した。


「…水品って、後ろにも目が有るのか…?」


俺は、電柱に背を預け、空を見た。


星が雀が鳴くように光っていた。






家に帰ると、夕飯もそこそこに、机に向かった。


佐伯がくれた模擬テストに取り掛かる。


一枚目をやり終え、二枚目に移ると、ノック音がした。


「はい。」


俺が、返事をすると扉が開き、姉のチカが入ってきた。


「瞬也、お風呂入らないの?」


「俺、後でいい。」


「あら、勉強?あんたが、休みの日に勉強してるなんて、明日、雪でも降るんじゃない?」


ズカズカと俺の部屋に入りながら、からかい半分に言ってくる。


「…悪かったなぁ…。」


いつもの俺なら、もう少し何かを言い返すが、今はチカに構っている暇はない。


「で、何の勉強してるの?」


「科学。」


「……頑張って。」


チカの顔が真顔になった。


チカも、うちの高校の卒業生だ。


科学の悪夢は知っている。


いつもなら、うるさくて仕方のない姉が、俺に労いの言葉をかけて出て行く程、科学のテストは恐ろしいものなのだ。


「…お風呂、先にもらうわ。」


「うん。」


チカは部屋から、足早に出て行った。



俺は、問題に向き直り、シャーペンを走らせた。


一枚目動揺、裏面の右半分は分からず、記号のところだけを勘で書いた。


 〝ブーブー″


「ん?」


スマホが振動する。


ロック画面を開くと、メモリーにメッセージが届いていた。


チカからだ。


メッセージには、
『私が高校時代にお世話になったサイト。やってみると良いわ。』と、URL付きで乗っていた。


ノートパソコンを開き、サイトを見る。


『スタディーフォレスト』と、いかにも安直な名前のサイトだが、その問題の多さに、俺は目を見開いた。


『科学』だけでなく、様々な問題が載っているのだ。



俺は、『高校生』の『科学』をクリックする。


すると、難易度が表示された。


入門編、初級編、中級編、上級編、超上級編、スペシャル編、アルティメット編の七つである。


俺は、とりあえず、初級をクリックし、表示された説明文を読む。


一回のプレイで出される問題数は、五十問。


制限時間は一分。全て、選択問題である。



砂時計をバックに、カウントダウンが始まり、ゼロになった瞬間、第一問目が表示された。


「よっと。」


十分程して、俺は、初級編をクリアした。


一問二点のようで、点数は『82』と表示された。


「やったぁ~!!」


科学で、八十点以上を取ったのは、中等部の二年の中間まで。


それからは、階段を落ちるどんぐりのように、点数は下降していった。


久々に見た数字が嬉しく、俺は、解答解説を飛ばし、中級編に挑戦した。


中級編も『80』でクリアし、上級編へコマを進めた。



しかし、ここまでだった。


上級編になると、制限時間内に答えるのがやっとか、または、時間が来て流されてしまう。


結果は『58』と大幅に点数を下げ、超上級編になったら、もう勘で、答えを選んだ。


結果も見ることなく、閉じてしまった。



試しに、スペシャル編とアルティメット編をやってみたが、すぐに止めた。


今の俺では突破は不可能だと分かったからだ。







「ふぅ~…。」



俺は、母親の好きなドラマが終わる時間なのを見計らって、風呂に入る。


土曜日は、母が一番先に風呂に入る。


九時からの二時間ミステリーと、その後に放送される、ミッドナイトシアターを観る為だ。


そのためこの時間なら、ゆっくり風呂に入れる。



「あぁ~気持ちいい~。」


今日の入浴剤は、森の香りだ。


緑色のお湯に身体を沈め、縁に腕を交差して置く。


「…水品も今頃、風呂に入ってるかなぁ…。いや、それとも、机に向かってるか…。」


桶に入った泡を指で、壊しながら呟く。


考えるのは、やはり水品のことばかり。


「結局、山賀とのことは聞けなかったなぁ…。」


帰り道、何度も聞こうとしたが、今一歩踏み出せなかった。


「名前で呼んでるんだから、長い付き合いってことだよなぁ…。山賀は、水品が嫌がらせされたこと怒ってたし、もしかして、親戚とか…って言っても、似てない。」


親戚なら、体格的に似ている筈だ。


だが、水品は小柄で、山賀は俺と同じか少し高い。


性格だって…と思ったが、俺は山賀のことを、よく知らない。


同じクラスになったことはあるが、それも中等部の時で、部活も委員会も同じなったことは無い。


一学期の体育祭の時、行進をするのに、背の順に並んで、前後になった時に喋ったのが最初だ。



「あんまり親しくないのに、『お前、水品とどういう関係だ。』なんて、聞けないし…あっ、そう言えば晋二とは同じ部活だっけ。聞いてって…。」


俺は、湯船から上がろうとして、あることを思い出した。


「山賀、晋二の家にいるんだった…。」


そう。山賀は晋二の見張りの為に、晋二の家に泊まることになったのだ。


流石に、本人がいる場所に連絡は出来ない。



「うぅ……俺が良い点取れば、教えてくれるかな…。」


ご褒美中なら、教えてくれるかもしれない。


二人は示し合わせたように、関係を隠している。


だったら、普通に聞いても答えてはくれない。


ご褒美の中に含まれれば、水品も話してくれるかもしれない。


そして、あわよくば、


「俺も、名前で呼んで欲しい…。」


といのが本音だ。


今は妄想の中でしか呼んでもらえないが、絶対に呼んでもらいたい。


山賀が呼べて、俺が呼べないはずがない。


俺の方が一文字少ないし、言いやすいはずだ。


それに、形はどうであれ、水品と進んだ関係にあるのは、自分だけだと自負もしている。


あの夜の水品は、人が踏み荒らした雪原なんかじゃなった。


俺は、よく知っている。


だから、水品…


「名前…呼んでよ…。」


浴槽の水面が震えるぐらいの声で言った。


そうなる為には、まず『科学のテスト』という難関ステージを抜けなければならない。


全てはそこからだ。


絶対、八十五点以上を取ろう。


水品との約束。


俺は、拳を握りしめ、決意を新たに風呂を出た。






着替えを済ませると、佐伯からもらった三枚目の問題に手を付ける。


だが、


「な、何だ、これ…。」


前の二枚など比べ物にならない程、意味の分からない問題が多く、ほとんどを埋められなかった。


「……。」


俺は、項垂れながらも、もう一度上級編の問題をやってから、ベットに入った。


「おやすみ、水品。」


スマホの画面の中の水品に言う。


これも、寝る前の当たり前の行動になっている。


スマホの右上部のデジタル時計は、シンデレラタイムが終わるまで、あと一時間を切っていた。






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