想えばいつも君を見ていた

霧氷

文字の大きさ
上 下
33 / 46

模擬試験

しおりを挟む








俺達は図書館に戻って来た。


再びグループ学習室に入り、午前中と同じ席に座る。


「じゃぁ、腹ごなしに、テストをやるぞ。」


「テストっ!?」


晋二は身構える。


「兄貴二人が受けた科学のテストをコピーしてきたんだ。傾向と対策になるだろう。」


佐伯は、数種類の問題が書かれた紙をファイルから取り出す。


「うわぁ~ありがてぇ!」


テストと聞いて青くなった晋二だが、対策問題を見て喜ぶ。


相変わらず忙しい。


でも、正直俺も同じ気持ちだ。


「テストは、いつものテストに合わせて、五十分でやる。そのあと、問題用紙を回して、答え合わせ及び解説をする。」


佐伯は、問題用紙を配り、スマホのタイマー機能で、時間を設定する。


「いいか?…スタート。」


全員がシャーペンを持ったのを見た佐伯は、スマホの画面をスライドさせた。


全員、無言で問題に向き合う。


俺は、左にいる水品に目線をやると、もくもくとシャーペンを動かしている。


俺も、問題に集中することにした。



俺は、出来る問題から手をつけ、回答欄を埋めていく。


午前中、佐伯に教えてもらったのと似た問題が出たので、そこは解けたが、問題が進むにつれ、手が動かなくなる。


しかし、瞬きの数は異様に増えた。



シャーペンの音とテーブルに響く音が、音が少なくなった。


まともに、手が動いているのが、三人しかいないからだ。


しかも、俺の隣は二人とも動いているので、よく聞こえる。


晋二の方を見ると、時間が止まったように動かなかった。



 〝ピピッピー″



タイマーの音が響き、皆、シャーペンを手放した。


「うげぇ~…。」


晋二は、机に突っ伏していた。


どうやら、時間が動き出したようだ。


正直、このテスト微妙だ。


「じゃぁ、答え合わせするぞ。問題を左に回してくれ。」


「!?」


左ということは、俺の答案は水品に渡るということだ。


俺の答案を水品が採点してくれる。


それだけでも嬉しく、俺は口元が緩む。


「土沢。答案。」


「あっ、お願い。」


顔を戻しつつ、水品に答案を渡す。


「土沢、俺のを頼む。」


「う、うん…。」


渡す時、一瞬佐伯が笑ったように見えた。


俺は気まずさに、目を反らしてしまった。



「始めるぞ。正解は赤、不正解は青や緑で印をしてくれ。第一問、ア。第二問、オ…。」


採点が始まる。


正直、佐伯の答案は、赤が大半を占めていて、青ペンの出番など、殆ど無かった。


俺は、隣の水品がペンを持ち返るたびに、心の中で謝った。


「最後の記号が、ク。採点してくれ。」


俺は、佐伯の答案の右上に『94』と書いた。


数少ない青い所を数えるだけだったので、早かった。


佐伯も早く、金森委員長の答案に『96』と書いていた。



「終わったか?」


皆、頷く。


「じゃぁ、戻すぞ。恵。」


「うん。」


「佐伯、はい。」


「あぁ。」


「土沢。」


「ありがとう…うぅ…。」


水品から受け取った答案を見て、俺は喜びの束の間、顔が歪む。


答案には、『61』と書かれていたのだ。


やったことの無い問題とは言え、佐伯や金森委員長の点を見た後だと、少し凹む。


「…あっ…。」


水品の答案に『89』と書かれていたので、それが、余計に落ち込ませた。


「おぉ、期末より十点以上上がったっ!」


「マジ?」


「どれ。」


目を輝かせて喜ぶ晋二に、俺と山賀が答案を見ると、『43』と書かれていた。


「…。」


「…。」


覗き込んだ、俺と山賀は何も言えなくなった。


「…檜山、期末何点、だったんだ…?」


佐伯は、聞きづらそうに尋ねる。


「えっ?三十一点。」


「そ、そうか…。」


晋二が即答で答えるので、佐伯も頷くしか無かった。


「午前中、金森委員長が教えてくれた所に似てたから、ここ、出来たんだ。」


「うん。その問いは、全問正解だったよ。」


「やりぃ!」


晋二にとっては、凄い進歩なのだろう。


ちょっとのことでも、喜べる。


俺は、その晋二のポジティブさが羨ましかった。




その後、一枚の解説が終わると、テストと解説を繰り返した。


俺は、最後のテストで『72点』を出し、自己得点を更新した。


晋二も『50点』まで点数上げて、金森委員長を拝んでいた。




蛍の光が鳴り響く。


時計を見ると図書館の閉館時間の十分前だ。


「ここまでだね。」


「うぅ…疲れた…。」


机に伸びる晋二のライフは、ほぼゼロだろう。


俺も人のことは言えないが。


「疲れているところ悪いが、皆に宿題だ。模擬問題三枚、それぞに渡しておくから、家でやってくるといい。明日、答え合わせをする。」


佐伯は、皆に問題用紙を配る。


「ありがとう。」


「サンキュー…。」


「悪いな。」


「どうも…。」


皆、口々に礼を言った。




図書館から出ると、空は紺青、水色、柿色が混ざっていた。


しかし、暗くなっても、まだまだ暑い。


今夜も熱帯夜だろう。


街灯の下では、蛾や蚊の群れで賑わっていた。



「皆、頼みがあるんだけど。」


晋二が、皆を呼び止めた。


「何だ、晋二?」


俺が返すと、


「誰か、今夜泊めてくれっ!!それか、泊りに来てくれっ!!」


「はぁっ!?」


「えっ?」


「へっ?」


「ん?」


「…。」


晋二の叫びに、俺達全員顔を見合わせた。


「俺、このまま自分の家に一人でいたら、絶対遊ぶか寝るっ!」


「そんな自信満々に言うなよっ!」


拳を握って力説する晋二に、俺はすかさずツッコミを入れた。


「でも、檜山言う通りかもな。一人でいたら、絶対遊ぶ。」


「だろ。」


山賀が賛同するので、晋二も前に出る。


「う~ん、でも、困ったなぁ。家は妹達もいるから…。」


「俺の家も…。」


金森委員長と佐伯が困ったように顔を見合わせる。


「あれ?佐伯って、兄ちゃんがいるだけじゃ…。」


「年の離れた妹がいるんだ。兄貴達が溺愛してて、男友達を連れてくると、常に睨まれてるから、来ても勉強なんて出来ない。」


「金森委員長は行ってて?」


「恵の家とは隣同士で、勝手知ったる仲。今更なんだよ。それに、俺の妹と恵の下の妹は同じ年、年中、お互いの家を行き来してるからな。」


「泊まりに来ることもダメ?」


「いきなりは流石に失礼だよ。」


「俺も、急に許可は出ないな。」


「じゃぁ、瞬也、泊り来てっ!」


「うん。」


「それは、ダメだな。」


「えっ?」


俺が返事を返すと、佐伯が止めた。


「何で?」


「土沢が家に来たら、絶対遊ぶだろ、檜山。」


「うっ!?」


「それなら、土沢君の家に行っても、同じ結果になるだろうね。」


「確かに…。」


俺と晋二は互いの家を行き来する仲。


遠慮が少ない分、ついつい羽目を外している。


それを思うと、勉強等出来るわけが無い。


「水品と山賀は?」


「…家、外泊出来ないんだ。人を泊めるのも、ダメ…。」


水品が、申し訳なさそうに返す。


「そっかぁ…。」


晋二はうなだれる。


「じゃぁ、俺が檜山の家に行くよ。」


「本当かっ?!」


晋二が顔を上げる。


「姉ちゃんが、教習所行ってるし、親父も出張でいないからさ、碌なおかず出てこないんだ。母ちゃんも、今日は好きなドラマを一人で観たいだろうから、文句は出ないと思う。」


「よっしゃぁ~!サンキュー、山賀っ!」


晋二は山賀に抱き着き、礼を言う。


「抱き着くなよ、暑ぃだろ。つーか、檜山の家、どこなんだ?」


「俺は、八丁目。」


「八丁目か。ちょっと、遠いな。」


「山賀の家は?」


「俺ん家は、二丁目。」


「二丁目か、だったら、神社の祭り行った?俺、トイレの住人でさ…。」


「何だよ、それ。俺も今年は行ってない。親戚の結婚式で、田舎に行ってたから。」



「?!」


俺は、二人の話を聞きながら、身体が固まる。


『二丁目』『祭り』の単語に反応しないわけが無い。


あの祭りの日に、初めて水品に触れた。


手にも瞼にも、あの日の感触は残っている。


「……っ。」


水品に視線をやると、俺を睨みつけていた。


しかし、怒った顔も可愛いと思ってしまう。


俺は、もう末期だ。




「それじゃぁ、山賀君、檜山君のことお願いね。」


「あぁ。明日、俺が檜山を図書館に連れて行くよ。」


「宿題やれよ。檜山。」


「分かってるよっ!」


「じゃぁ、僕達、こっちだから。」


「じゃぁな。また、明日。」


金森委員長と佐伯は、六丁目の方角へ歩いて行った。


「瞬也、水品、明日なぁ!」


「じゃぁ。」


「おう!」


「うん。」


晋二と山賀は八丁目の方に歩いていく。


残ったのは、俺と水品だけだ。


「みず…。」


「土沢、それじゃぁ。」


俺の言葉を短い言葉で遮り、水品は早足で俺の傍から離れていく。


「えっ…ま、待ってっ!」


あまりのことに反応が遅れた俺は、水品の後を追うのだった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

処理中です...