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模擬試験
しおりを挟む俺達は図書館に戻って来た。
再びグループ学習室に入り、午前中と同じ席に座る。
「じゃぁ、腹ごなしに、テストをやるぞ。」
「テストっ!?」
晋二は身構える。
「兄貴二人が受けた科学のテストをコピーしてきたんだ。傾向と対策になるだろう。」
佐伯は、数種類の問題が書かれた紙をファイルから取り出す。
「うわぁ~ありがてぇ!」
テストと聞いて青くなった晋二だが、対策問題を見て喜ぶ。
相変わらず忙しい。
でも、正直俺も同じ気持ちだ。
「テストは、いつものテストに合わせて、五十分でやる。そのあと、問題用紙を回して、答え合わせ及び解説をする。」
佐伯は、問題用紙を配り、スマホのタイマー機能で、時間を設定する。
「いいか?…スタート。」
全員がシャーペンを持ったのを見た佐伯は、スマホの画面をスライドさせた。
全員、無言で問題に向き合う。
俺は、左にいる水品に目線をやると、もくもくとシャーペンを動かしている。
俺も、問題に集中することにした。
俺は、出来る問題から手をつけ、回答欄を埋めていく。
午前中、佐伯に教えてもらったのと似た問題が出たので、そこは解けたが、問題が進むにつれ、手が動かなくなる。
しかし、瞬きの数は異様に増えた。
シャーペンの音とテーブルに響く音が、音が少なくなった。
まともに、手が動いているのが、三人しかいないからだ。
しかも、俺の隣は二人とも動いているので、よく聞こえる。
晋二の方を見ると、時間が止まったように動かなかった。
〝ピピッピー″
タイマーの音が響き、皆、シャーペンを手放した。
「うげぇ~…。」
晋二は、机に突っ伏していた。
どうやら、時間が動き出したようだ。
正直、このテスト微妙だ。
「じゃぁ、答え合わせするぞ。問題を左に回してくれ。」
「!?」
左ということは、俺の答案は水品に渡るということだ。
俺の答案を水品が採点してくれる。
それだけでも嬉しく、俺は口元が緩む。
「土沢。答案。」
「あっ、お願い。」
顔を戻しつつ、水品に答案を渡す。
「土沢、俺のを頼む。」
「う、うん…。」
渡す時、一瞬佐伯が笑ったように見えた。
俺は気まずさに、目を反らしてしまった。
「始めるぞ。正解は赤、不正解は青や緑で印をしてくれ。第一問、ア。第二問、オ…。」
採点が始まる。
正直、佐伯の答案は、赤が大半を占めていて、青ペンの出番など、殆ど無かった。
俺は、隣の水品がペンを持ち返るたびに、心の中で謝った。
「最後の記号が、ク。採点してくれ。」
俺は、佐伯の答案の右上に『94』と書いた。
数少ない青い所を数えるだけだったので、早かった。
佐伯も早く、金森委員長の答案に『96』と書いていた。
「終わったか?」
皆、頷く。
「じゃぁ、戻すぞ。恵。」
「うん。」
「佐伯、はい。」
「あぁ。」
「土沢。」
「ありがとう…うぅ…。」
水品から受け取った答案を見て、俺は喜びの束の間、顔が歪む。
答案には、『61』と書かれていたのだ。
やったことの無い問題とは言え、佐伯や金森委員長の点を見た後だと、少し凹む。
「…あっ…。」
水品の答案に『89』と書かれていたので、それが、余計に落ち込ませた。
「おぉ、期末より十点以上上がったっ!」
「マジ?」
「どれ。」
目を輝かせて喜ぶ晋二に、俺と山賀が答案を見ると、『43』と書かれていた。
「…。」
「…。」
覗き込んだ、俺と山賀は何も言えなくなった。
「…檜山、期末何点、だったんだ…?」
佐伯は、聞きづらそうに尋ねる。
「えっ?三十一点。」
「そ、そうか…。」
晋二が即答で答えるので、佐伯も頷くしか無かった。
「午前中、金森委員長が教えてくれた所に似てたから、ここ、出来たんだ。」
「うん。その問いは、全問正解だったよ。」
「やりぃ!」
晋二にとっては、凄い進歩なのだろう。
ちょっとのことでも、喜べる。
俺は、その晋二のポジティブさが羨ましかった。
その後、一枚の解説が終わると、テストと解説を繰り返した。
俺は、最後のテストで『72点』を出し、自己得点を更新した。
晋二も『50点』まで点数上げて、金森委員長を拝んでいた。
蛍の光が鳴り響く。
時計を見ると図書館の閉館時間の十分前だ。
「ここまでだね。」
「うぅ…疲れた…。」
机に伸びる晋二のライフは、ほぼゼロだろう。
俺も人のことは言えないが。
「疲れているところ悪いが、皆に宿題だ。模擬問題三枚、それぞに渡しておくから、家でやってくるといい。明日、答え合わせをする。」
佐伯は、皆に問題用紙を配る。
「ありがとう。」
「サンキュー…。」
「悪いな。」
「どうも…。」
皆、口々に礼を言った。
図書館から出ると、空は紺青、水色、柿色が混ざっていた。
しかし、暗くなっても、まだまだ暑い。
今夜も熱帯夜だろう。
街灯の下では、蛾や蚊の群れで賑わっていた。
「皆、頼みがあるんだけど。」
晋二が、皆を呼び止めた。
「何だ、晋二?」
俺が返すと、
「誰か、今夜泊めてくれっ!!それか、泊りに来てくれっ!!」
「はぁっ!?」
「えっ?」
「へっ?」
「ん?」
「…。」
晋二の叫びに、俺達全員顔を見合わせた。
「俺、このまま自分の家に一人でいたら、絶対遊ぶか寝るっ!」
「そんな自信満々に言うなよっ!」
拳を握って力説する晋二に、俺はすかさずツッコミを入れた。
「でも、檜山言う通りかもな。一人でいたら、絶対遊ぶ。」
「だろ。」
山賀が賛同するので、晋二も前に出る。
「う~ん、でも、困ったなぁ。家は妹達もいるから…。」
「俺の家も…。」
金森委員長と佐伯が困ったように顔を見合わせる。
「あれ?佐伯って、兄ちゃんがいるだけじゃ…。」
「年の離れた妹がいるんだ。兄貴達が溺愛してて、男友達を連れてくると、常に睨まれてるから、来ても勉強なんて出来ない。」
「金森委員長は行ってて?」
「恵の家とは隣同士で、勝手知ったる仲。今更なんだよ。それに、俺の妹と恵の下の妹は同じ年、年中、お互いの家を行き来してるからな。」
「泊まりに来ることもダメ?」
「いきなりは流石に失礼だよ。」
「俺も、急に許可は出ないな。」
「じゃぁ、瞬也、泊り来てっ!」
「うん。」
「それは、ダメだな。」
「えっ?」
俺が返事を返すと、佐伯が止めた。
「何で?」
「土沢が家に来たら、絶対遊ぶだろ、檜山。」
「うっ!?」
「それなら、土沢君の家に行っても、同じ結果になるだろうね。」
「確かに…。」
俺と晋二は互いの家を行き来する仲。
遠慮が少ない分、ついつい羽目を外している。
それを思うと、勉強等出来るわけが無い。
「水品と山賀は?」
「…家、外泊出来ないんだ。人を泊めるのも、ダメ…。」
水品が、申し訳なさそうに返す。
「そっかぁ…。」
晋二はうなだれる。
「じゃぁ、俺が檜山の家に行くよ。」
「本当かっ?!」
晋二が顔を上げる。
「姉ちゃんが、教習所行ってるし、親父も出張でいないからさ、碌なおかず出てこないんだ。母ちゃんも、今日は好きなドラマを一人で観たいだろうから、文句は出ないと思う。」
「よっしゃぁ~!サンキュー、山賀っ!」
晋二は山賀に抱き着き、礼を言う。
「抱き着くなよ、暑ぃだろ。つーか、檜山の家、どこなんだ?」
「俺は、八丁目。」
「八丁目か。ちょっと、遠いな。」
「山賀の家は?」
「俺ん家は、二丁目。」
「二丁目か、だったら、神社の祭り行った?俺、トイレの住人でさ…。」
「何だよ、それ。俺も今年は行ってない。親戚の結婚式で、田舎に行ってたから。」
「?!」
俺は、二人の話を聞きながら、身体が固まる。
『二丁目』『祭り』の単語に反応しないわけが無い。
あの祭りの日に、初めて水品に触れた。
手にも瞼にも、あの日の感触は残っている。
「……っ。」
水品に視線をやると、俺を睨みつけていた。
しかし、怒った顔も可愛いと思ってしまう。
俺は、もう末期だ。
「それじゃぁ、山賀君、檜山君のことお願いね。」
「あぁ。明日、俺が檜山を図書館に連れて行くよ。」
「宿題やれよ。檜山。」
「分かってるよっ!」
「じゃぁ、僕達、こっちだから。」
「じゃぁな。また、明日。」
金森委員長と佐伯は、六丁目の方角へ歩いて行った。
「瞬也、水品、明日なぁ!」
「じゃぁ。」
「おう!」
「うん。」
晋二と山賀は八丁目の方に歩いていく。
残ったのは、俺と水品だけだ。
「みず…。」
「土沢、それじゃぁ。」
俺の言葉を短い言葉で遮り、水品は早足で俺の傍から離れていく。
「えっ…ま、待ってっ!」
あまりのことに反応が遅れた俺は、水品の後を追うのだった。
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