330 / 345
憧憬と断案 6
しおりを挟む敬吾はやや呆れたような怒ったような、訝しい横目で逸を睨んだが逸は至って平静だった。そして真面目だ。微笑んではいるが。
「──俺は」
逸の手がするりと膝に乗る。温かかった。
「敬吾さんがしたいなら、したい」
「────」
なんだそれと敬吾は言うが、俯けた顔を控えめに覗く逸の瞳がやはり真摯だ。ひねくれた顔は続けられない。
「敬吾さんが決めて」
「………なんで、」
「俺のこと欲しがってる敬吾さんを抱きたいから」
逸の手の下で、敬吾の膝が小さく跳ねた。
その言葉があまりにも、なぜだか心を叩くような衝撃を伴っていたから。
「──な、んだそれ……」
そんなことは逸にも分からなかった。
ただふと気づいたのだ、敬吾を抱かずにいても焦燥に駆られない自分に。
そして、次抱く時には乞われたいと思っていることに。
「それはしたくないってこと?」
幼児のような素朴さでそう聞く逸に、敬吾は胸のじりつく思いがした。
どうしてそんなに冷静なのだ。それに比べて自分はなんだ。操られるように挑発されている。
しかも逸にそのつもりがないことが余計に厄介だ。
全く来し方の分からない、存在すら知らなかったプライドのようなもの、それがなんだか──不用意に火にくべられた松かさのように、単純な興奮の中で醜く爆ぜている。喧しく、危なかっかしく、気まぐれに。
悔しげに唇を歪める敬吾に、逸はやはり穏やかだった。
「寝ます?」
「………………」
──する。
敬吾が小さく絞り出す。
逸は優しげな表情をそのまま固めて、軽く頭を撫でてやる。
それから少し重くなった声で「じゃあ」と言った。
──敬吾さんが、誘ってみせてね。
「──だから」
「うん?」
「なんなんだよそれ……!」
文言こそ威勢が良いが、口調は弱々しく掠れている。
未だ膝に乗ったままの逸の手が妙に熱く感じて、急き立てるようで、拒めない。
「──やっぱりやめる?」
「………っ」
結局抗えなかった。
「……るせぇ」
そうしてまたやはり口先だけで楯突いて、敬吾は逸の唇に噛み付く。
強く食み合い頭突きのように額を合わせ、敬吾は低く「脱げ」と言った。
薄く笑って逸が従う。
同じく敬吾も上を脱ぎ落とし、逸の手がジーンズのジッパーを下ろすと跪いてそこに唇で噛み付いた。
「……敬吾さん」
「うるせえ」
お前がしろと言ったんだろう、お望みどおりにしてやる。
そう言いたげな視線を放って、受け取られたかどうかなど気にもせずに、敬吾は下着越しにそこを弄り続けた。
逸の喉が何か熱いものを飲み下してから少し、立ち上がったそれを外に出し直に舐め上げる。
乱暴なほどに逸は敬吾の髪を撫で、顎を上げさせてその目を見た。
こんなに興奮しているのにいつに劣らず強気で、冷徹なほどに平静な視線。
見下げるように射抜かれるとぞくりと熱が走る。
「……敬吾さん」
「なんだよ」
「ごめんなさい。降参」
あからさまに馬鹿にするように鼻で笑って、敬吾はそれきり返事をしなかった。
逸が眉を下げて笑う。
「いつもみたいにしていい?……」
「……………」
やはり言葉はなかった。ただ熱を持った唇だけを返される。
それからは──
──なんとも、筆舌に尽くし難い有様となった。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる