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憧憬と断案 6

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敬吾はやや呆れたような怒ったような、訝しい横目で逸を睨んだが逸は至って平静だった。そして真面目だ。微笑んではいるが。

「──俺は」

逸の手がするりと膝に乗る。温かかった。

「敬吾さんがしたいなら、したい」
「────」

なんだそれと敬吾は言うが、俯けた顔を控えめに覗く逸の瞳がやはり真摯だ。ひねくれた顔は続けられない。

「敬吾さんが決めて」
「………なんで、」
「俺のこと欲しがってる敬吾さんを抱きたいから」

逸の手の下で、敬吾の膝が小さく跳ねた。
その言葉があまりにも、なぜだか心を叩くような衝撃を伴っていたから。

「──な、んだそれ……」

そんなことは逸にも分からなかった。
ただふと気づいたのだ、敬吾を抱かずにいても焦燥に駆られない自分に。
そして、次抱く時には乞われたいと思っていることに。

「それはしたくないってこと?」

幼児のような素朴さでそう聞く逸に、敬吾は胸のじりつく思いがした。
どうしてそんなに冷静なのだ。それに比べて自分はなんだ。操られるように挑発されている。
しかも逸にそのつもりがないことが余計に厄介だ。
全く来し方の分からない、存在すら知らなかったプライドのようなもの、それがなんだか──不用意に火にくべられた松かさのように、単純な興奮の中で醜く爆ぜている。喧しく、危なかっかしく、気まぐれに。

悔しげに唇を歪める敬吾に、逸はやはり穏やかだった。

「寝ます?」
「………………」

──する。

敬吾が小さく絞り出す。
逸は優しげな表情をそのまま固めて、軽く頭を撫でてやる。
それから少し重くなった声で「じゃあ」と言った。




──敬吾さんが、誘ってみせてね。




「──だから」
「うん?」
「なんなんだよそれ……!」

文言こそ威勢が良いが、口調は弱々しく掠れている。
未だ膝に乗ったままの逸の手が妙に熱く感じて、急き立てるようで、拒めない。

「──やっぱりやめる?」
「………っ」

結局抗えなかった。

「……るせぇ」


そうしてまたやはり口先だけで楯突いて、敬吾は逸の唇に噛み付く。
強く食み合い頭突きのように額を合わせ、敬吾は低く「脱げ」と言った。
薄く笑って逸が従う。
同じく敬吾も上を脱ぎ落とし、逸の手がジーンズのジッパーを下ろすと跪いてそこに唇で噛み付いた。

「……敬吾さん」
「うるせえ」

お前がしろと言ったんだろう、お望みどおりにしてやる。
そう言いたげな視線をほうって、受け取られたかどうかなど気にもせずに、敬吾は下着越しにそこをまさぐり続けた。
逸の喉が何か熱いものを飲み下してから少し、立ち上がったそれを外に出し直に舐め上げる。
乱暴なほどに逸は敬吾の髪を撫で、顎を上げさせてその目を見た。
こんなに興奮しているのにいつに劣らず強気で、冷徹なほどに平静な視線。
見下げるように射抜かれるとぞくりと熱が走る。

「……敬吾さん」
「なんだよ」
「ごめんなさい。降参」

あからさまに馬鹿にするように鼻で笑って、敬吾はそれきり返事をしなかった。
逸が眉を下げて笑う。

「いつもみたいにしていい?……」
「……………」

やはり言葉はなかった。ただ熱を持った唇だけを返される。
それからは──

──なんとも、筆舌に尽くし難い有様となった。






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