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寸志の快感 9
しおりを挟む「い……いわい」
「はい」
ゆるりと背中を包まれる距離で、ライナスのように逸のニットの胸あたりを握りながら敬吾は言葉を探していた。
「──おれ、が……意味分かんないこと言うのは……自覚してんだけどさ……」
「……? はい」
この人にもこんなことがあるのか、と思ってしまうほどまごつく敬吾を、逸は興味深く見守っている。
もはや知的好奇心を擽られるような気持ちにまでなってしまっているが、たどたどしい敬吾は基本的に可愛らしい。
子猫か何かを見るような気持ちにさえなる、が──
「──で、責めるわけでもねえから!だから何だってわけでもねえしっ──」
──やはり何が言いたいのか、分からない。
敬吾の自制心をもってしてここまで混沌としてしまっているものを、自分に分かるわけがないのだ。
身の程を知る逸は理屈の解読はさっさと諦めて、赤ん坊の意図を声や表情から拾おうとでもするように敬吾を見つめていた。
「だから──」
「敬吾さん」
「へっ」
「もしかして妬いてる?」
ぽかんと自分を見上げて、そして──
熟れたりんごやガーネットのようにつややかに赤くなる敬吾の顔を、逸は思わず両手で包む。
かわいい、愛しい、嬉しいが、少しだけ申し訳ない──
「……っあーーもう……好き、敬吾さんだいすき可愛いー……」
降るようなキスの合間に繰り返しその言葉を聞かされ、やはり耳に首にと口付けられながら抱き竦められて敬吾はまた閉口していた。
胸も気道も、ひどく苦しい。
「敬吾さん……っ、」
「うぅ、……」
深く食みあった唇から、絡んだ舌から、吐息から、腰を抱く腕から逸の胸の内が伝わるようだった。
いつも以上に愛情も欲望もだだ漏れだ、その頭の中には敬吾と、安心させる方法と、今すぐにでも抱きたい気持ち、格別に甘やかしたい気持ちしか無い。
つまるところやはり敬吾のことしか考えていないのだ、それは敬吾にも分かる。分かるのだが──
「……そういえば敬吾さん、さっき何て言おうとしてたの?……」
荒いが耽美な呼吸の合間にそう囁かれ、一時薄れていた「さっき」の気持ちがまざまざと蘇る。
「………う」
「ん……?」
逸の唇が頬を撫で、促すように優しく食んだ。
「……もういいだろ」
どうせこのこっ恥ずかしい気持ちはばれているのだ。その詳細など。
敬吾が拒んでみせても逸は何も言わず、ただ抱き締めて唇を寄せている。つまり待っているのだ。
その無言の応酬の後、逸がほんの少し腕の力を強め敬吾の耳朶に唇を這わせる。
「……説明とか言い訳とか、させて下さい」
「──………」
──低く、深く、微かに掠れていて、その声が届いたところ全てに震えが及ぶ。
そんな生意気な声を次は不安げに伏せさせて、今度は「それも嫌なくらい怒っちゃってますか」と続けた。
(くそ……)
本当に、生意気だ────
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