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あの日の報想 10

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──逸の頭が冷静ならば。
拗ねていたような敬吾の顔が許してやるとでも言いたげに、満足げに緩んだことに気づくはずだった。

無論そうはならず相も変わらず進退窮まったままの逸はもはや目を閉じている。
そうしてじわじわとその目を開き、息も切れ切れに懇願した。

「……お願い敬吾さん、いっかい抜かせて……ください」
「なんでよ」
「言うんすかそれ………っ、も、出そうなんですよ…………!」
「…………。出せばいいじゃん」
「!!? 何言っ、な、生だし」
「さっきお前濡らしもしねーで指突っ込んだくせに……」
「また話が違うでしょ…………っ」

何と言おうかまあ、沽券に関わる部分もあるのだろう。
そこは汲んでやらないこともないが、敬吾の言い分の話になればまた別だ。

「……出せって言ってんの」
「へぁ!?」
「ほら……」
「あっ!?うぁっちょっとっ、……!!」

腰を固定されたままそこを揺らされ、内部も明らかに意図的に絡みつかれてまた逸は泡を食う。

必死に耐える逸の顔が、敬吾の間近で切迫して行く。
その形相の届くところに唇を付けながら敬吾が囁く。

「ん、出せってば……」
「や、ちょっほんとにっ………」
「……我慢できんの?これ すげー……あっ、ビクビク、してるけど……、っ、」
「ちょ、敬吾さん声……………っ!」
「ん……、ほら………………」
「……………!ほんとに!……ほんとに一回待って、抜かない!抜かないですから!」
「なに…………」

つかの間敬吾が言うことを聞いてやると、濡れた音も敬吾の喘ぎも逸の呼吸も静まって逸はようやく落ち着きを取り戻した。
その間も敬吾はからかうように逸にキスをしている。


「……………あの」
「んー……?」


「………………一回イったらゲームオーバーとかそういう」
「ぶはッ」


「……」
「なんだよそれ!」
「いやっ、だって……ありそうで」
「まあなぁ……」

未だ、本当に夢だと思っている逸はそんなところにひっかかっていた。

「俺は大丈夫だと思うけどぉ?」
「うぅ……」
「あーでもお前が出したらすぐ寝そうだと思ってんなら保証はできない」
「や、それは大丈夫だと思いますけど」
「なら平気だろ」

そうは言っても──

やはりこの敬吾は好意的すぎて信用ならない。

例えそうでなかったとしても、このまさしく夢のような体験を終わらせてしまう可能性のあるものには触れたくもなかった。
この時が永遠に続いていて欲しい。

その逸の逡巡が伝わってきて、だがもう自らも堪えきれなくて──敬吾は逸の首に腕を回す。
そうしてその耳元に唇で触れた。

「大丈夫だから。お前が起きてるうちは」
「──でも……」
「分かるけど………」
「………………」

──いつまでも奥に居座られて、その熱の震えるのを感じさせられる方の身にもなって欲しい。
もう強く擦られたくて注がれたくて堪らないが、逸が如何に堪えているかが伝わってくるのも辛い。

「……な、大丈夫だから」
「…………………っ、」

耳に頬に口づけながら囁いて脚を擦り寄せても逸は応じない。

「──したいことまだいっぱいあるんだろ?ちゃんといけたら……次、それしよ」

──熱っぽい、蕩けるようなその響きが。
何もかも忘れさせる。

こんな甘い声で、吐息で、唆す代わりにご褒美をちらつかせるまるで悪魔だ。

その褒美が欲しくて言いなりになる自分は本当に、愚かで救いようがない。

そういう夢を見せる悪魔の話は確かに存在するのではなかったか──そんな、妙に冷めたことを考えながら逸は激しく腰を打ち付けていた。
敬吾の脚はとっくに解かれてそれに合わせて揺れ、同じ律動で声が上がる。

初めて聞く敬吾の喘ぎは甘く、掠れていて、麻薬のように頭の芯を痺れさせた。
何故かそれ以上聞いていたくない。

咄嗟に唇でその声を封じ、一層強く突き上げて、捩じ込むように奥へと吐き出す。
一際高く、だがくぐもった敬吾の声が口の中から体中に響く。

──これまでになく激しく熱く注がれるそれが、まるで甘い愛撫のようで──
それを更に突き上げられて、敬吾もまた昇り詰める。
鋭く突き抜けるような甘い快感に敬吾の喉が暴れた。

苦しくて気持ちが良くて、必死に逸の背中に縋る。
──その背中の痛みはそのまま敬吾の耐える苦痛、いやそのごく一部だ。
逸が唇を開放すると、苦しげな掠れた叫びのような喘ぎが溢れる。

「敬吾さん………────」
「っあ、んんっ…………んぅっ、………………!」
「敬吾さん………きれい、凄く………」
「っ……!んんっ──────」

未だ快感に翻弄される敬吾をゆるゆると穿ちながら、逸はその体に唇を落とした。その幸福感。

敬吾と肌を重ね、敬吾に誘われてその中に全て出し切って、敬吾もこんなにも激しく達している。

ああ、本当になんて良い夢だろう──また詩人のように心中にひとりごち、いっそこのまま死んでしまいたいような気分になり、実際ふわりと冥界の風のような眠気が過る。

だがそれを──逸は必死で耐えていた。








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