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TrashWorks 16
しおりを挟む「……けーごさん……」
「……………」
眠たげな逸の声が肩口を擽る。
背中から腰を抱き込む腕も弛緩していて大した力は入っていない。
鱈腹抱き合い、後始末もろくにしないまま逸はそれでも敬吾を放さずにあちこち撫でては唇を落としている。
散々な醜態を晒させられた敬吾は死にたくなるような羞恥心に神経をつつかれて、しばらく眠れそうにない。
すりすりと絡められる脚に、それでもまだ拘束する気かとやや腹立たしい気すらした。
「けーごさーん……」
「なんだよもう」
まだ何かあるのか。
腹立ち紛れに──腹が立っているのは凡そ、不本意ながら満ち満ちた充足感のせいなのだが──ぶっきらぼうに応えると逸が少し笑った気配がする。
「……おれ今……すげえ幸せ」
「…………………」
敬吾がぱちくりと瞬く。
その目元が仄かに赤らみ始めた頃、逸がまたくすくすと笑って敬吾の首元に顔を擦りつけた。
どくりと大きく鼓動が打つと、一休みしていたところに申し訳ない、などと敬吾は己の心臓に気を使ってしまう。
今日、敬吾の心臓は少し酷使されすぎた。
その元凶である逸は当然気にも留めない。
「俺しか知らない敬吾さんいっぱい見れたから……」
「………!」
──あまり思い出させないで欲しい。
ただのんびりと撫でられている肌がその頃に巻き戻されてしまう気がして──敬吾は密かに息を詰めた。
「すげーエロくて……可愛くて……さいこう……」
「うるさいよお前……」
「だいすきです……」
「うるさいって──」
「うん……」
「!」
腹を撫でていた逸の手がゆっくり後ろに回り、柔らかく、だが貪欲に指を広げて尻を揉む。
「お前なー……!」
「俺のです」
「!」
「ぜんぶ俺の」
「…………っ」
さっきまでの間延びした声はどこへやら、口調は緩いままだが掠れるほど低めた声で主張され、敬吾は言葉を失った。
──この声は半ば反則なのだ。
それで、所有権を主張されては──
「……皆用の、しっかりしてて落ち着いてるのも大好きですけど。俺だけの敬吾さんは……すげーエッチで可愛くてちょっと泣き虫……」
「、っさいって」
「あと感じやすくて、甘えん坊で……ちょっとわがままで天の邪鬼」
「無視かお前……!」
「──そういうのを」
「……?」
くらりと視界が横流れする。
その先には半身を立てた逸がいて、表情は薄く微笑んでいるがその瞳があまりに真摯で真っ直ぐで、敬吾は意味も分からず赤くなった。
「────、」
「俺はもう知ってますから。……隠さないでそういう風にしてくれると、めちゃくちゃ嬉しいです」
「………………!」
敬吾の応えは待たず、切なく笑ったままの逸の顔はゆっくりと敬吾の顔に寄せられる。
優しく唇を食まれる間に敬吾はゆっくりと目蓋を落とす──が、これもまたゆっくりと唇が離れた時、逸は微笑んだまましっかりと敬吾を見ていた。
「……………うぉっ!?」
「あはは!」
またひとつ小さくキスをし、逸はくしゃくしゃと敬吾の髪を撫でる。
「チューしてる時の顔もかわいいー」
「うるせえよ!!」
「えへへ……」
小さく笑ってまた敬吾の後ろに横たわり、逸は目の前の薄い背中を抱きしめた。
その項に唇を収めて、逸は飽かず所有欲の充足感に浸る。
そうして目を閉じて朝を迎える頃には、その満たされた器の中身が心に沁みて潤わせ、静かな余裕を生んでいた。
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