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SugarCat 4
しおりを挟む「敬吾さんー……」
「……やだって、今日は寝る!………」
──乾かしたばかりの敬吾の髪に、同じく湯上がりの逸が頬を埋めている。
腰に纏わり付く腕を敬吾は諌めるが、逸は完全に黙殺だった。
その抵抗が本気なのか形ばかりなのか、判断はもう容易なもの。
今日はきっと、半ば許してくれている。
「敬吾さん……、可愛い」
「…………っ!」
自分の手が触れたところから敬吾に熱が走るのが、目に見えるようだった。
髪から耳へ、首筋へと唇を落とすと敬吾が肩を縮める。
舌を這わせれば甘く呼吸が漏れて、調子に乗りたくもなった。
逸の頭の中のどこかで、理性の錠の壊れるような音がする。
「敬吾さん……、好きです」
「っ、やめ」
「……敬吾さんはおれのこと好き?」
恐らく赤面しているのであろう顔は見ずにおいてやり、キスをしながら促すように合間を作る。
「………敬吾さん」
なかなか唇から外に出ない言葉を誘うように吸ってやると、観念したように敬吾が顔を顰めた。
「……す、好きですけど、………」
「……………」
不満げに零されたそれに、逸は何も応えず満足げに笑う。
逸がまたその首筋に顔を埋めた頃には、敬吾は完全に諦めた顔をしていた。
「んッ、……………」
優しくシャツを脱がせ丁寧に横たえて、そっと脇腹をなぞってやると小さな声が漏れる。
その声が愛しく胸に迫って逸は深く呼吸をしながら微笑んだ。
もう付き合いは長く、何度となく──数え切れないほど──抱いているのにこの気持ちは色褪せない。
増してや飽きるなどということは毛頭なく、いつまでも鮮烈に掻き立てられて、もっと味わいたくなるのだ。
更に深く、色々な表情が見たくなる。
ベッドに腰掛けたまま天蓋のように腕を立て、ごく優しく撫でてやりながらその反応をとっくりと眺めていると敬吾が僅かに顔を顰めた。
「──あの、……明るくない、か」
「……ん?うん…………」
もう逸は没頭してしまっていて聞いていない。
うっとりと薄く微笑んだ唇は言葉を忘れているし、細まった瞳は敬吾以外の何も見ていなかった。
いかにも愛しげな視線に耐えきれず敬吾が目を伏せ手の甲を乗せて顔を半ば隠す。
それもそれで可愛らしいので、逸は子供でも見るようにふと笑ってから敬吾のスウェットに手を掛けた。
いくらか不服そうではあるものの、敬吾も素直に腰を浮かせる。
物分りの良い裸体を見下ろして、逸は嘆息を漏らした。
「……綺麗です」
「っ、……なんなんだよそれっ………」
可愛いと言われるのも未だに疑問だが、綺麗はそれよりもっと不可解だ。
前者はまだ空気感や性質の要素がないでもないが、綺麗となると完全に視覚に依存した感想だろう。
──全くもって、分からない。
いくら敬吾がそう思っても逸の口ぶりにはその疑問を差し挟む余地が存在しなかった。
敬吾がそう思っていることは逸も承知していて、そして抗議を諦めてくれていることが有難かった。
心底分かっていないらしい敬吾にどう説明すれば良いのか分からなかったから。
そして、この執心ぶりは自分でも来し方が分からなかったから。
造形として美しいと思っていることも事実だが、恐らくそれでは足りない。
それだけなら上には上がいることも当然承知しているが、それでも敬吾が一番綺麗だ。
ただ単純な感情から来るものはどう言葉を尽くしても説くことができない。敬吾にも、自分にも。
だから結局逸は口を閉じ、恥じ入って赤らむ体を目に焼き付けて、唇を落とし始めた。
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