こっち向いてください

もなか

文字の大きさ
上 下
228 / 345

SugarCat 4

しおりを挟む




「敬吾さんー……」
「……やだって、今日は寝る!………」

──乾かしたばかりの敬吾の髪に、同じく湯上がりの逸が頬を埋めている。
腰に纏わり付く腕を敬吾は諌めるが、逸は完全に黙殺だった。
その抵抗が本気なのか形ばかりなのか、判断はもう容易なもの。
今日はきっと、半ば許してくれている。

「敬吾さん……、可愛い」
「…………っ!」

自分の手が触れたところから敬吾に熱が走るのが、目に見えるようだった。
髪から耳へ、首筋へと唇を落とすと敬吾が肩を縮める。
舌を這わせれば甘く呼吸が漏れて、調子に乗りたくもなった。
逸の頭の中のどこかで、理性の錠の壊れるような音がする。

「敬吾さん……、好きです」
「っ、やめ」
「……敬吾さんはおれのこと好き?」

恐らく赤面しているのであろう顔は見ずにおいてやり、キスをしながら促すように合間を作る。

「………敬吾さん」

なかなか唇から外に出ない言葉を誘うように吸ってやると、観念したように敬吾が顔を顰めた。

「……す、好きですけど、………」
「……………」

不満げに零されたそれに、逸は何も応えず満足げに笑う。


逸がまたその首筋に顔を埋めた頃には、敬吾は完全に諦めた顔をしていた。






「んッ、……………」

優しくシャツを脱がせ丁寧に横たえて、そっと脇腹をなぞってやると小さな声が漏れる。
その声が愛しく胸に迫って逸は深く呼吸をしながら微笑んだ。

もう付き合いは長く、何度となく──数え切れないほど──抱いているのにこの気持ちは色褪せない。
増してや飽きるなどということは毛頭なく、いつまでも鮮烈に掻き立てられて、もっと味わいたくなるのだ。
更に深く、色々な表情が見たくなる。

ベッドに腰掛けたまま天蓋のように腕を立て、ごく優しく撫でてやりながらその反応をとっくりと眺めていると敬吾が僅かに顔を顰めた。

「──あの、……明るくない、か」
「……ん?うん…………」

もう逸は没頭してしまっていて聞いていない。
うっとりと薄く微笑んだ唇は言葉を忘れているし、細まった瞳は敬吾以外の何も見ていなかった。

いかにも愛しげな視線に耐えきれず敬吾が目を伏せ手の甲を乗せて顔を半ば隠す。
それもそれで可愛らしいので、逸は子供でも見るようにふと笑ってから敬吾のスウェットに手を掛けた。
いくらか不服そうではあるものの、敬吾も素直に腰を浮かせる。

物分りの良い裸体を見下ろして、逸は嘆息を漏らした。

「……綺麗です」
「っ、……なんなんだよそれっ………」

可愛いと言われるのも未だに疑問だが、綺麗はそれよりもっと不可解だ。
前者はまだ空気感や性質の要素がないでもないが、綺麗となると完全に視覚に依存した感想だろう。

──全くもって、分からない。

いくら敬吾がそう思っても逸の口ぶりにはその疑問を差し挟む余地が存在しなかった。

敬吾がそう思っていることは逸も承知していて、そして抗議を諦めてくれていることが有難かった。
心底分かっていないらしい敬吾にどう説明すれば良いのか分からなかったから。
そして、この執心ぶりは自分でも来し方が分からなかったから。
造形として美しいと思っていることも事実だが、恐らくそれでは足りない。
それだけなら上には上がいることも当然承知しているが、それでも敬吾が一番綺麗だ。
ただ単純な感情から来るものはどう言葉を尽くしても説くことができない。敬吾にも、自分にも。


だから結局逸は口を閉じ、恥じ入って赤らむ体を目に焼き付けて、唇を落とし始めた。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年プリズン

まさみ
BL
近未来の日本。 東京は二十一世紀初頭に起きた相次ぐ地震のせいで砂漠と化し、周縁には無国籍のスラムが広がっていた。 その砂漠の中心にあるのが東京少年刑務所、通称東京プリズン。 少年犯罪の増加に頭を痛めた政府が半世紀前に設立した、入ったら二度と出られないと言われる悪名高い刑務所。 それぞれの理由を抱えて劣悪な刑務所に送りこまれた少年たちの群像劇。 (SF/バイオレンス/アクション/BL18禁) (カプ傾向 寡黙包容攻め×クール強気受け 美形俺様攻め×強気意地っ張り受け) 表紙:あさを(@asawo0)様

【本編完結】鳳凰抱鳳雛 ~鳳凰は鳳雛を抱く~

銀タ篇
BL
ちょっと意地悪なスパダリ攻め×やんちゃ受け ◎愛重めの攻めと、強がりやんちゃ受けの二人が幾多の苦難を経て本当の幸せを掴み取る、なんちゃって仙侠ファンタジー。 ◎本編完結済。番外編を不定期公開中。 ひょんなことから門派を追放されてしまった若き掌門の煬鳳(ヤンフォン)はご近所門派の青年、凰黎(ホワンリィ)に助けられたことで、あれよという間にライバル同士の関係から相思相愛に発展。 しかし二人きりの甘い日々は長く続かず、少々厄介な問題を解決するために二人は旅に出ることに。 ※ルビが多いので文字数表示が増えてますがルビなしだと本編全部で67万字くらいになります。 ※短編二つ「門派を追放されたらライバルに溺愛されました。」を加筆修正して、続編を追加したものです。 ※短編段階で既に恋人同士になるので、その後は頻繁にイチャこらします。喧嘩はしません。 ※にわかのなんちゃって仙侠もどきなので、なにとぞなにとぞ笑って許してください。 ※謎と伏線は意図して残すもの以外ほぼ回収します。

黒犬と山猫!

あとみく
BL
異動してきたイケメン同期の黒井。酔い潰れた彼をタクシーに乗せようとして、僕は何かが駆けめぐるのを感じた…。人懐こく絡んでくる黒井に一喜一憂が止まらない、日記風の長編。カクヨムでも公開しています。 【あらすじ】 西新宿の高層ビルで、中堅企業に勤める営業5年目の僕(山根)。本社から異動してきた黒井は同期だが、イケメン・リア充っぽいやつで根暗な僕とは正反対。しかし、忘年会をきっかけに急接近し、僕はなぜだかあらぬ想いを抱いてしまう。何だこれ?まさか、いやいや…?…えっ、自宅に送ってもう泊まるとか大丈夫なのか自分!? その後も気持ちを隠したまま友人付き合いをするが、キスをきっかけに社内で大騒動が起こってしまい… 途中から、モヤモヤする社会人生活で、何かを成したい、どこかへ向かいたい二人の、遅咲きの青春小説?的な感じにもなっていきます!(作者の趣味全開な部分もあり、申し訳ありません!) 【設定など】 2013年冬~、リアルタイムで彼らの日々を「日記風」に書いてきたものです。当時作者が西新宿で勤めており、何日に雪が降ったとかも、そのまんま。社内の様子などリアルに描いたつもりですが、消費税がまだ低かったり、IT環境や働き方など、やや古臭く感じるかもしれません…。 なお視点は<僕>による完全一人称で、ひたすらぐるぐる思考しています。また性描写はR15にしていますが、遭遇率は数%かと…(でもないわけじゃないよ!笑)。 【追記】 長編とはいえとうとう300話もこえてしまい、初めましての方のために少々ガイド的な説明をば(尻込みしてしまうと思うので…)。 ひとまず冒頭は<忘年会>がメインイベントとなり、その後クリスマスを経て年明け、第27話まで(2章分)が、山根と黒井が出会って仲良くなるまでのお話です。読み始めてみようかなという方は、ひとまずそこまででひと段落するんだなーと思っていただければ! ちなみにその後は、温泉に行こうとしておかしなことが起きたり、会社そっちのけで本気の鬼ごっこみたいなことをしたり、決算期にはちょっと感極まった山場を迎えたりします。まだ更新中ですが、ハッピーエンド完結予定です!

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

Evergreen

和栗
BL
Black and Whiteに出てくる「春日部 涼(かすかべ りょう)」と「藤堂 和多流(とうどう わたる)」の話です。 エロは結構激しめです。 主観です。 Black and Whiteを読んでからの方が話が通じるかな、と思います。 単品でももちろん読めます。 よろしくお願いします。

処理中です...