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再襲 7
しおりを挟む「ええ…………っ、……えーーーっ!!?」
「落ち着け………」
気持ちは、分からないでもないが。
驚きと落胆がごちゃまぜになった逸の頭をぺちぺちと叩いてやり、敬吾は続いて届く桜からのメッセージを追っていた。
「いっちー、チョコバナナと苺カスタードどっちが好きかなって言ってるけど」
「……………チョコバナナで……………」
「おう」
「………………」
対桜用の、いつもの困り半分呆れ半分の顔で返信している敬吾の後ろに回り込み、逸は敬吾の腰に腕を回す。
その肩に頭を預け、いかにも残念ですと言いたげな深い深い溜め息をついた。
「…………岩井。」
「…………はぁい」
「ごめんって」
またいつものように姉の尻拭いをし、肩に乗ったままの逸の頭を撫でてやる。
その敬吾の気苦労は推して知るべしだ、加担するような真似は逸もしたくはない。
今日の幸運は無くて元々だった思うことにして、逸は今のうち満喫しようとでも言いたげに敬吾を抱きしめた。
「……お姉さん、大丈夫ですかね?もうお腹相当大きいんじゃないですか。迎えとか……」
「駅からはタクシーで来るって」
「そっか………」
すん、と嗅ぐような逸の呼吸がまだ切なげで、敬吾が目を細める。
シャツごと肌を握り込む手はまだ離してくれそうにない。
「お姉さん、何時頃来るんですか?」
「……ひ、昼頃着くって言ってるけど」
──あと2時間足らずか。
全身擦り付けるように抱き竦められ、明らかに変わった空気が熱を走らせる。
「岩──」
「敬吾さん………」
「う?」
ちゅう、と首筋を吸われる音に肩が縮んだ。
「じゃあ、お姉さん来る前に1回………」
「や、やっぱりか!!ダメに決まってんだろアホ!!!」
「1時間以上ありますよぉーー」
「そんなもん姉貴が予定通りに動くと思ってんのか!絶っっ対早く来るぞ、最悪のタイミングでだ!!」
「えーーー………っ」
後ろ手に叩かれまくり、逸は散々に凹む。
「だって今日俺ぇ……」
「分かってるよもーー!言うな!!」
力を失った逸の腕を解き、それでもまだ裾を掴まれながら敬吾はやっとのことで後ろを向いた。
眉も口元もすっかり下がった犬顔の、耳の上をわしわしと撫でてやる。
「……………」
「…………………」
「…………なんか」
「……はい」
「…………………なんか簡単なことなら、」
「まじですか!!!!」
「おいまだ何も言ってね」
「俺ちょっと出かけてきますね!!!」
「………………………おい」
敬吾の小さな釘は、逸にはどうやら刺さっていないらしかった。
「………………なんなんだよその笑顔は」
「えー?えへへ」
「何を買ってきたんだ一体!こえーんだよ!!」
「内緒ですーー」
へらへらと翁面のように笑う逸に、敬吾は肝が冷えて仕方がない。
何をどう早とちりしたものか知らないが、逸が持って帰ってきたビニール袋は中身が少しも透けなくてまるで地獄の沼のような黒である。
「お姉さんケーキ買ってきてくれるって言うからしょっぱいのも買ってきちゃいました。ブラックペッパーとー、バターガーリックのポップコーン」
「お、偉い」
まだ温かいバケットを受け取った敬吾は見事に鼻先をそらされたようだった。
敬吾の気が散っているうちに逸は袋をしまい込み、簡単にカトラリーやらカップやらと桜のための準備を始めると、そこにチャイムが鳴る。
桜だとしたら、予定よりかなり早い──が。
「ほらな」
敬吾はしたり顔で笑っていた。
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