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後藤の苦悩 6
しおりを挟む酔いつぶれたわけではないが足元の覚束ない逸を連れ帰るのに、敬吾では少々手に余った。
大した距離ではなかったがタクシーに詰め込んだ逸をまた引っ張り出し、支えてやりながら歩かせると間近になった敬吾の髪に逸の瞳が一瞬燃える。
敬吾がすかさず牽制の舌打ちをした。
と同時に、徒歩で連れて帰ってこなくて良かったと心底思う。
「岩井。怒るぞ」
「んー……」
エレベーターの壁に、竹箒でも立てるように逸を凭れさせ額を叩くと、逸は大人しくなって階数表示だけを見る。
部屋に戻れるのが嬉しいのか何なのか、エレベーターを降りてからは逸は一人で歩いた。
どうしようもなく剣呑だが一人にさせておくのも危なっかしい。
仕方なく逸を部屋に押し込んで自分も入りドアを閉めると、途端に腕が絡みついた。
──ああ、来たか。
人前でこうならなかったことは評価に値するが──。
自分の肩に乗っている逸の頭にぱふりと手を置いて撫でてやり、敬吾は小さく溜め息をついた。
「岩井。ちょっと待て」
逸がこうなるのは分かりきったことだが、それを敬吾が諌めるのもまた無論のことだ。
そしてそれを無視されるのもいつものこと──
──なのだが、敬吾は意外そうに目をぱちぱちと瞬く。
逸が素直にその腕を解いていた。
「──お、おぉ……。珍しい」
褒めてやろうかとも思ったが、それで引き金を引いてしまっては藪蛇だ。
とにかく逸をソファに座らせて水を持っていくと、逸はごく普通の酔っぱらいのように眠たげに項垂れている。
「大丈夫かー、水飲めよ」
「ん……、はい」
そう言って僅かに上げられた顔も楽しげなものではなく、あまり良くない酒を飲んだ後のような少し暗い色をしていた。
だがやはり、手渡された水を飲み干すと甘えるように敬吾に向かって腕を開く。
またため息をついて敬吾がその中に収まってやると、深い嘆息とともに腕が閉じられた。
「……敬吾さん」
「んー」
呆れたようなその短い返事が、わざとなのか本心からなのか鈍った逸の頭では分からない。
縋り付くように更に抱き竦めて髪の中に鼻先と唇を埋めると、敬吾が擽ったそうに肩を縮めて逸のシャツの裾を掴む。
「敬吾さん………」
「んー」
「………敬吾さん────」
「なんだよ、もー……」
呆れたような敬吾の溜め息が逸の首筋を擽った。
それが切なくて、逸も自分の肩を縮める。
「……あの、敬吾さんもやっぱ女の子かわいーなあとか思います?………」
「…………………ん?」
掠れて抑揚のない逸の問いかけに、敬吾はしばらく、片眉を下げて瞬きだけを繰り返していた。
「…………?なんだそりゃ?」
「……んー、なんかこう……おっぱい揉みたいとか思わないんですか」
「ぶはっ!」
懺悔でもしているような逸の口調に、敬吾は咳き込むように笑いながらその腰を叩いた。
「お前の口からそんな単語出るとは思ってなかったわ!やっぱ酔っ払ってんのか」
「んー…… ……ですかねぇ……?」
未だ懺悔風味な口調で顔を摺り寄せてくる逸に、敬吾は苦笑する。
「そもそも俺別におっぱい星人じゃねえしなあ」
「そうなんですか……」
「単純に手触り良いとは思うけど。それきっかけで好きになったりはない」
「…………………」
まともな返事をせずまた改めて抱き締め直すだけの逸に、敬吾はさすがに呆れたような顔になった。
「なんだよ、いきなり。それがどうかしたのか」
どうせまたくだらないことを考えているのだろうが。
最早抱き返すこともやめて放り出すように敬吾が言うと、逸はまたむずかるように頬を寄せる。
声も少し掠れて意識は緩そうだった。
「……んー、いや……、ちょっと思っただけです。俺そのうちぽいって捨てられるとかありそうだなって」
「………………………………………」
敬吾の目が見開かれ、その瞳がぎらりと底光りする。
「────はあ?」
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