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来ちゃった! 11
しおりを挟む「……逸ー……、」
「うん?」
逸の肩にしなだれかかっていた敬吾が体を起こす。
それでも逸の腹に添うように撓っている腰が愛しくて、逸はそこを撫でながら敬吾を見上げた。
見返す敬吾の瞳が蕩けきり熱を孕んでいて、何も言わずとも察してやる。
もう自重を支えきれない体は、逸に背中を支えられていても溶け落ちるようにベッドに流れてしまった。
「んん………」
やっとベッドに背が付くと、安心したように逸に手を伸ばす。
敬吾にはもう他に何も見えていないことが伝わってきて逸の頬は勝手に弛んだ。
その腕の中に体を沈めると腕も脚も逸に絡みつく。
さっきまでは余裕を持って熱を制御していた箍が音を立てて外れ、逸は敬吾の腰を膝の上に引き上げて深く穿った。
敬吾がその快感について行けず驚愕したような声を漏らし、逸は出来る限りにおさえながら、それでも加速していく。
敬吾の喘ぎは悲痛だが溺れきっていた。
その声で何度も名前を呼ばれ、逸も我を忘れていく。が、敬吾の懇願が聞こえなくなることはない。
尽くして甘やかして溶かしきってしまいたい、と絶えず心の芯で考えていた──。
「……………ぅ、」
目覚めてもなお、逸の腕は敬吾に巻き付いていた。
後頭部の髪を揺らす逸の吐息をぼんやりと聞きながら、敬吾はのんきに(ちょっと腹減ったな……)と考える。
考えるだに恥ずかしいが昨夜は大分長いこと抱き合っていて、しかもかなり甘く一方的な奉仕を受けた。
その逸相手に、起きるなり「腹減った」と言うのは憚られる……。
(飯くらい炊いとくか……)
敬吾は細心の注意を払い、そうっとそうっと逸の腕から抜け出そうとするが──
──この男、寝起きは悪いくせにそういうことには敏感だ。
不満げに呻きながら逸は腕を回し直す。
少しは意識もあるのか、更に強く抱き寄せながら敬吾の項に口付けている。
「ぃ……岩井ちょっとだけ離せ、米研いだら戻ってくっから」
「ん…………こめ……?」
「うん、すぐだから………!」
返事の途中でまた抱き竦められ、敬吾の息が詰まった。
わしわしと敬吾の髪に頬を寄せながら目を覚ましているらしく、逸の呻きは徐々に言葉らしくなってくる。
最後に大きく息を逃して、やはり敬吾を抱き直す。
「……おれがやりますから、そんなのー」
そうは言うものの声は掠れているしかなり眠たげだ。
「いいって。寝てろ」
「だいじょーぶです、………」
無理に体を持ち上げようとする逸を、敬吾が慌てたようにベッドへと押し戻す。
それに簡単に負け、うつらうつらしている逸に敬吾は呆れた溜め息をついた。
「そんな甘やかさなくていいっつーの。これ双子相手にやったらダメな子に育つぞー」
「んん…………?」
やはり半分眠っている逸の頭を撫でくってやると、逸がその手を掴み敬吾を引き倒す。
またその腕の中に収めてしまうと逸は不機嫌そうに閉じたままの目を顰めた。
そうして、掠れきった声を漏らす。
「……おれがいなきゃ生活できないようになっちゃえばいーんです、敬吾さんなんか………」
「──────」
やはり眠りが足りないらしい逸は、敬吾の心臓にその胸を叩かれても睫毛ひとつ動かさなかった。
それから何度か寝息を紡いだ後にふと我に返ったように目を開き、宥めるように敬吾の頭を撫でる。
「──あ、朝飯……米からリゾット作りますから。だいじょーぶですよ………」
舌っ足らずにそう言って、逸はまた眠ってしまい──
──やはりどれだけ胸を叩かれても、しばらく起きなかった。
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