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襲来、そして 15

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──3時間?下手をしたら2時間少ししか眠っていなかったらしい。
まだ深夜で通るようなこの時間に薄っすらとでも日が昇り始めていることに驚きながら敬吾は顔を擦った。

眠たいが……、それより敬吾を苛むのは眠る前消化し切れなかった熱だった。
いつもならば緩やかにでもすぐ引いていく快感が、いつまでも纏わりついて離れない。
僅かにでも眠り、目を覚ましてもなお。

薄明かりの中に、眠る逸の影を見ただけで呼吸が上がる。

「逸………」

所在なく呼びかけてももちろん逸は起きない。
薄いタオルケットの上から軽く揺すっても、身じろぎ一つしなかった。
そうしているうち逸がころりと仰向けになる。

「……………っ」

そっとタオルを除けて肌を撫でると、逸が小さく呻いた。
眠たげなその響きが心を掻き立てる。

「逸ー、……起きろよ………」

返ってくるのは平和な寝息ばかりだった。
何度となく揺すり、呼んでも。

それがどうしようもなく悲しいのが何故なのか自分でも分からない。
少しでも慰められたくて逸の頬に唇を付け、首筋へ胸へと下りて舌で這う。
落ち着くどころか鼓動が激しくなるばかりだった。
下腹部が、胸の奥が、身体の芯が軋んで切ない。

(……なんでこんな……)

──いやらしい気分なのだろう。
逸はこんなに平和に眠っているのに。


泣きたくなってしまって逸の胸に顔を伏せるが、お構いなしに体は疼いていた。










「ん……………?」


──体が重い。

夢でも見ているのだろうか、この薄い熱気と感触は見知ったものではあるのだが、寝起きには有り得ないものでもある。

やはり夢だ。
こんなこと、あるわけがない……

そう思い、逸は僅かに開いていただけの瞼を擦ってきちんと目を開いた。
そうして自分に跨っている影を見上げ、ふわふわと笑う。

「………敬吾さん、何してるの?………」

逸が優しく問いかけると影はびくりと頭を上げた。

「や………っ!」
「気持ちい?」
「あ……っごめ、………っ!」
「……?」

謝らなくてもいいのに。
慰めるように内腿を撫でてやりながら、逸は怪訝そうに目を細める。
自分の作り出した夢なのに、敬吾を落ち込ませてしまうとは。

「んーー………?」

ごしごしと両手で顔を擦り、更に訝しそうに眉根を寄せながら逸は体を起こす。
僅かずつにでも明るくなってくる室内で、影も鳥目なりに鮮明に見えるようになってきた。
逃げようと──つまりは繋がっているそこを抜こうと──している敬吾を捕まえて、よりよく見ようと顔を寄せる。
真っ赤な顔を今にも泣き出しそうに歪めて、恥ずかしそうに申し訳なさそうに俯いていた。

「……ん?ええ………? ──現実?………」
「……………!」

敬吾がまたびくりと肩を縮める。

「………えっうそ、嘘でしょ敬吾さん何して──」
「……………っ!!」
「あああごめんなさいっ、泣かないで泣かないで俺怒ってるわけじゃないですからむしろ嬉しいですから!!!」

沈み込んでしまいそうなほど深く俯いた敬吾に、逸はあわあわと弁明しながらその肩を抱き寄せた。

怒っていないのも嬉しいのも本当だが、心底驚いてはいる。

本当に、何故、この人がこんなことを?
寝ている人間のそれを、──勃っていたのかもしれないが──わざわざ勃起させて跨ったなんて。

「だって……………っおまえが昨日、はんぱなとこでやめるから…………っ」
「────へ?」
「お、……おれ起きてもからだ変で、…………っ」

手の甲で半ば隠されてはいるがぐすぐすと泣き始めてしまった敬吾が綺麗で、逸は一瞬見惚れた後努力して我に返る。
からかうべきではないと、分かってはいるのだが──

「……それで、ハメちゃったの?」
「…………!!!」

やはり子供のように、可哀想なほど手放しに歪められた表情を堪能してからまた逸は敬吾を抱き締めてやる。

「ごめ………っでも、ぅ……」
「あぁ……ごめんなさい敬吾さん、可愛い」

泣き出しそうな目元に口づけ、背徳じみた快感に陶酔するように揺らしてやると敬吾はそれでも悲痛に喘ぎ、中では逸のそれが大きくなっていった。

「んんっ、なんで……っ」
「完勃ちじゃなかったんでしょう、……待ち切れなかった?」

また不用意なことを言ってしまい逸は後悔するが、敬吾には聞こえていなかったらしい。
渇望していた熱と動きを与えられて、恥じ入るのも傷つくのも忘れ文字通り頭を下げて没頭してしまっている。

確かに昨夜をそのまま引き継いでいるように敬吾は熱に溶かされていた。

──だが。

「昨日は敬吾さん、かなり深くイッたでしょう?」
「………へ、……?」
「満足してもらえたと思ってたんだけどなあー」

わざと拗ねたような口調で逸が言うと、手放したい理性を引き寄せられて混乱したように敬吾が頭を振る。
確かに、快感は普段の比ではなかったが。

「……っわかんない、っ……なんも出なかった、し……っ」
「えっ、出なかった……?」
「ずっと、っふわふわして、」

──そうだったろうか。
そんなこと考えもしなかったから、気付かなかったのか。

「あれかなあ、ドライとか言う………」
「ん…………、」

負担を掛けてしまったかもと逸は半ば真剣に考察するが、敬吾にはもう聞こえていない。
潤んで伏せられた瞳とゆるく開かれた唇を間近に眺め、逸は生唾を飲み下す。

「……っまあ、どーーでもいいっすねそんなことは!」
「あ……っ!」


言うなり逸は、乱暴に敬吾を押し倒した。






──それにしてもやはり幸せ過ぎる。


敬吾の望むまま腰を振り、その乱れきった顔を見下ろしながら逸はにやけてしまいそうだった。

あれほど周囲には知られたくないと言っていた敬吾が寄りにも寄って桜に打ち明け、あんなに可愛く抱かれて、挙句自分の寝込みを襲うとは。

血が沸騰するような興奮と幸福感にまた何度も好きだと囁いては、敬吾が泣きそうにそれをやめてくれと懇願する。
そう言われても、言う度敬吾が啼くのだからやめられない。
本心嫌だと思って言っているわけではないだろう。

「あ………っ!!」

敬吾が仰け反り、繋いでいた手を強く握り込まれる。
がくがくと震える体は間違いなく絶頂にあるのだろうが、確かに膨張しきったそこからは何も出なかった。
指の背でそっと脇腹を撫でてやると、痛いのかと心配になるほど過敏に身体を撓らせる。が、喘いでいるからそれほど気持ちがいいということなのだろう。

激しい呼吸を繰り返しながら、敬吾は助けを求めるように横目で逸を見上げた。
意に添ってやりたいとは思うが、まだ堪能させて欲しい気もする。

「……本当に何も出ませんね、今イッたんですよね?」

敬吾はうっとりと頷いた。
あちこち弛緩と痙攣を繰り返す身体を見ていれば火を見るより明らかだが、聞いて良かったと心底思うほど耽美で美しい。
酔ってしまいそうだ。

「──そんなにいつもと違います?」

また頷く。
今度は少し、痛々しい。それもまた綺麗だ。

「……もっと、したいー……」
「…………!!!」

そんなことを言われて逸が暴走しないわけがない。

また激しく攻め立て、綺麗だの可愛いだのと言い募り、逸が次に冷静になったのはまた敬吾が達してやっと、であった。








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