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襲来、そして 3
しおりを挟む「いっちーこれもう焼けたよ!食べて食べて」
「えっ、いえいえ、敬吾さんも来てから──」
「いいのいいの」
──桜の前で逸が食事を作るわけにも行かず。
夕飯は外で取ることにし、敬吾は飲み物を──桜の分も──取りに立っていた。
桜は当然、逸に食べさせたがる。
逸としては、本当に滞在するのか、正志と仲直りをする気は全く無いのかなど、聞いておきたいこともあるのだがそんな隙もない。
桜を邪険にする気は全く無いのだが──今日あのまま敬吾を抱けていたらと思う落胆が、ちくちくと燻っていた。
そこへ敬吾が戻ってきて、少々飢餓感の見え隠れする視線を向けてしまう。
敬吾は実に上手にそれを無視した。
「……ほれ」
「ありがとー」
「あ、すいません敬吾さん、先に……」
「食え食え。姉貴の懐食いつぶしてやれ」
桜もそれに賛同し、その言葉通りにどんどん肉が追加される。
何度敬吾が正志との話に水を向けても、見事なまでに黙殺された。
さすが姉弟、なのだろうか──と逸は泣き笑いをするが、敬吾がその話を出す度に嬉しくもなってしまう。
敬吾も少しは残念だと思ってくれているのだろうか。
その逸の心中が、弛んだ口元に出てしまっていて──敬吾は少し、居た堪れない気持ちになっていた。
敬吾がトイレに立つと、「ねえねえ」と桜が逸ににじり寄った。
「はい?」
「最近どお?敬吾とっ」
「敬吾さんと………?」
桜の瞳がやたらきらきらと輝いている意味がよく分からず、逸はぱちぱちと瞬く。
桜はもどかしそうに拳を握った。
「もー!少しくらい進展してないの!!?」
「………?あーー………」
そう言えば、桜の中で自分は敬吾に片思いをしているのだった。
今更ながらに思い出して、逸は曖昧に微笑む。
「んーーーっと、そうですね、前よりは……誘ってもらえることとか増えたかなー……?」
色々と。
どうも危なっかしいので最低限嘘はつかないように言葉を選びつつ、逸はコップで唇をふさいだ。
逸の冷や汗には気付かず、桜は瞳を輝かす。
「そうなんだ!ところでいっちゃんどこ住んでるの?近所?一人暮らし?」
「一人暮らしですよ。敬吾さんと同じアパートなんです」
「………………」
珍しく桜が黙ったので向き直ると、どうも以前どこかで見たことのあるような目の色をしていた。
「………お姉さん?待って下さい偶然ですよ?俺敬吾さんと知り合う前からそこ住んでましたからね?」
「あ、そうなんだー」
それで納得したらしく、軽く瞬いた後桜は悪戯っぽく笑った。
「じゃあさ、あたしがいる間、こうやってちょこちょこ呼んであげるね!一緒に出掛けたりご飯食べたりしよう!」
「へ……………」
逸はまた、きらきらしている桜をきょとんと見返す。
「だからぁ、その間に敬吾と親交を深めましてね?」
「…………。あ、あぁーー!……」
やっと合点がいった逸が、焦って大仰に頷いた。
桜も同じく、満足げに頷く。
「ほんでもう手籠めにしてしまいなさい!」
「手籠めって!」
まさか、というように苦笑しながら、今更ながらに逸は衝撃を受けていた。
どうも、考えずとも分かるはずのことから目を背けていたようだ、つまり──
(お姉さんに呼ばれなきゃ、敬吾さんの部屋行けない………………?)
──今日は水を差されて残念でした、で終わる話ではなかった──。
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