162 / 345
アクティブ・レスト 19
しおりを挟む「うおー!敬吾くん!久しぶりだなおいーーーー」
弾けんばかりの笑顔を向けて、八幡は丸太のようなシルエットからその手を大きく振ってみせた。
敬吾は急ぐ様子もなく声の届く範囲まで近づいてから「お久しぶりです」と挨拶をし、逸は少々面食らっている。
敬吾の知り合いにこのタイプがいるとは思わなかった。
「岩井くんも久しぶり!ごめんなー全然顔出せなくて」
「いえいえ……」
逸は引き続き面食らっているが、八幡は気づく様子もなくざっかけない笑顔を向けている。
「さて何食う、やっぱ肉?俺ご馳走するから好きなの言ってー」
「えっ、いや何言ってんですか篤さん、割り勘でしょ」
「いやいや、ほんと迷惑かけちゃったからさぁ。修羅場だったんだろ?」
「それは岩井だけです、俺は2号店ほとんど噛んでないですから──」
恐縮したような敬吾に八幡は盗賊のような大味な笑顔を向け、がっはっはと笑った。
本当に「がっはっは」と言った。
そしてその太い腕で敬吾の首を抱え込み、わっしわっしと頭を撫でる。
逸はいよいよ愕然とし、敬吾はその逸を乱れた髪の合間から睨みつけた。
──こういう人なんだよ、変な反応すんな。
(こういう意味かぁ…………)
「遠慮すんなっつーの!いい若いもんが!!」
名は体を表すとはよく言ったもので、八幡はとにかく篤いのだ。情にも義理にも、開けっぴろげに篤い。
やっと解放された敬吾が少しも不快そうではないことで、逸もこの人物を好きになり始めていた。
「相変わらずですねーーー、篤さん」
「よく言われるわーーそれーー」
わざとらしく困らせた顔をぐりぐりと傾げ、八幡はまた豪快な笑顔になる。
「まあとにかく食おう!んじゃ焼肉にするぞー?近くに知り合いの店あるんだ」
そう言って八幡が案内した店では、八幡は先陣切って次々注文し、次々食べた。
これもまた、気遣いと言えば気遣いか。
「今更ですけど篤さんなんでいきなり店長に?」
「あー、ちょっと前親父が倒れてね」
「えっ!?」
「いやいや、もう全然大丈夫なんだけどね?まあでも一月くらい入院しててさ。もともと子供出来たら地元に引っ込んで子育てしたいよなーって嫁とも話してたし、ちょっと早いけどまあ潮時なのかなってことで」
「あ、結婚してたんですね。おめでとうございます」
「どうもどうも」
わざわざ箸まで置いて頭を下げ合う八幡と敬吾に、逸は米を詰まらせそうになる。
「んでたまたまこっちで店長と会って、やってみないかって言われてさ。俺接客業も好きだし」
「へえー……」
はい食って食って、などと言いつつ取皿に肉を配りながら、八幡はやはり豪快に苦笑した。
「まあーでも強行軍過ぎて皆には迷惑掛けまくっちゃったけどね!今日からガンガン働くからさー」
「いや、八幡さんがどうって話じゃなかったですから。連絡の不備だの什器がこないだのばっかで」
「ああーーあの事故な。俺もあの時、最後にどうしてもって言われて取引先に行ってたのよ。したらやっぱ地元の人ってすげーね、本降りになる前に帰れって迂回路とかも全部教えてくれた」
「あーなんかすげえ篤さんっぽい……」
「そー?」
照れくさそうに八幡が笑うと、今度はサービスですと店員がやって来た。
これもまた八幡らしい。
「あっじゃあ一緒に追加いい?」
「はいっありがとうございまーす」
「あっ待って篤さん、俺もう無理です」
「えっそう?岩井くんは?」
「すいません俺もギブです、この後動くし」
「なんだよー」
店員に軽く謝り、残りを平らげつつ逸と八幡は作業の進捗具合について話していた。
敬吾は拍子抜けしたように瞬く。
「なんだよ、あとそれだけ?そこまで頑張ったんなら余裕だろ、篤さん入るんだし」
「いや敬吾さんは仕事速いからそう言いますけどねーー?」
「いや俺は関係ないけど篤さんがさ。凄いから」
「おいやめろやめろあんま褒めるなー?特上カルビ追加しちゃうよー?」
「ほんと勘弁してください………」
敬吾が頭を下げるとまた八幡は「がっはっは」と笑った。
「まーそんな褒められちゃ頑張んないわけにもいかねーな!……よしじゃあ行きますか!」
「ですね」
店を出ると、大学へ向かう敬吾、逸と八幡とで別方向になる。
逸は八幡の車の助手席に乗り、昔の敬吾の話しなど聞きつつ、2号店へと向かった。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる