152 / 345
アクティブ・レスト 9
しおりを挟む「もしもし」
『あ、岩居さんおはようございます。笹木です、出勤前にすみません』
「おはよう、いいよどうした?」
『今ですね、事務局の人が来てサイジ?のことで聞きたいことがあるとかで』
「あー、なんて?」
『えーっとレンタルのワゴンが数厳しいかもしれないと』
「数減らせってか……、んじゃ俺今から行くから、それから連絡するって言っといてくれる?」
『えぇ!いいんですか?』
「いいよ、暇だったし」
部屋にいたところでできることがあるわけでもない。
手早く支度をし、炊飯器の予約だけして敬吾は部屋を出た。
「まぶしー……」
外に出ると、朝はもう少しぐずついていた気がするが今日は梅雨晴らしい。
暑くなりそうな空の青さが目に痛いほどだった。
数分後、同じ場所で同じ感想を逸も口にする。
「こっち晴れてんなー……」
ポケットからキーケースを取り出しながらエントランスをくぐり、箍が外れたように独りごちつつ逸は歩いた。
「あー……散歩とかしてえな、海とか公園とかー……」
「弁当持ってー……クレープとか買ってー……敬吾さん日焼けしましたねーっつって…………」
エレベーターを降り、またたらたらと歩いて鍵を差し込んだところで少し静止する。
「……いやできるわけねえわ」
正気に戻ったらしい。
そしてその正気はドアを開けた瞬間に、敬吾がいないこともなんとなく理解させた。
「あーくそ…………」
一応呼びかけてみるもやはり梨の礫になる。
湿ってはいるが明るく澄んだ空気がいやに暗い気分にさせて、ため息をつき逸は時計を見上げる。
「──あれ?」
シャワーを浴びて。
何か食べて。
支度をして。
「────あれ?」
──シャワーを浴びて。
急いで支度して。
指折り数えると──
「………………」
──恐らく、遅刻だ。
「やべ……、なにしてんだ俺、」
慌てて携帯を取り出すと、折よく篠崎からの着信。
「もしもし」
『逸くんおはよう。今日さ──』
「あ、いや待ってください、店長俺ちょっと遅れそうで……」
『そうなの?いや、ゆっくり出てきていいよって言おうと思ってたんだよ。ちょうどよかった』
「え?」
『ほら昨日で押してる仕事は結構片付いたでしょ。ケースの着までは他のスタッフの子たちとやっておくから』
「ああ──……」
たしかに篠崎の言うように、とりあえずは単純作業しかない。
目先のことだけ考えれば有り難い気遣いではあるが──
「──いや、大丈夫ですよ。ちょっと遅くなりますけど準備したらすぐ行きます」
『………そう?』
「はい。1時間くらいで行けると思います」
『そっか、……じゃあ、気を付けてね』
「はい、お疲れ様です」
敬吾のいない部屋で数時間休むよりも、その間少しでも仕事を進めて早いところ落ち着きたい。
その気持ちの方が強かった。
とりあえずは無理に急がなくていいので──
シャワーを浴びたら、これを食べることにしよう。
小鍋の蓋を開けてみて、逸は今日初めて少し微笑んだ。
「おはようございます、すみません遅くなっちゃって……」
「あ、岩井さんおはようございますー」
「えーっと俺どこ入りますかね………あれ?店長は?」
「それなんですけど、ちょっと大変なことになってて……今電話してます」
「え」
また嫌な雲行きだ。
逸が渋い顔をしたところへ、似たような表情の篠崎が戻ってくる。
「あ、店長おはようございます」
「逸くん、おはよう……やー参った」
「なんですか今度は……」
「U県で事故あったの知ってる?かなり大きい……道路が冠水と陥没で大変なことになってる」
「えっ、そうなんですか?」
「俺もさっき知ったんだけどね」
揃いも揃って浦島太郎状態である。
「で、まだ天気も荒れてるから渋滞が凄くて。配送車がそれに巻き込まれてるみたい」
「え………」
「いつ届くか目処立たないって……代替品用意できないかって言ってみたんだけど、あんだけ大きいのだと急には……っていうか今日でもかなり急いで用意してもらったやつだしね」
「…………………」
海外の俳優のように、篠崎は腕を組んだ後ゆっくりと顔を擦った。
大袈裟だが気持ちは分かる。
逸も同じように苦り切った気分だった。
「どーーーしよーーかね………俺もう、思考停止してる」
「俺もです………」
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる