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意識の彼方で 2
しおりを挟む「お前さ」
「はい」
「最近俺に好きって言えって言わねえな」
「……………はい?」
洗い終えた皿を拭きながら急に宣った敬吾を、逸は愕然として振り返った。
しかし別段恥じらっても怒ってもいない様子の敬吾はこともなげに二の句を次ぐ。
「いや今日後輩から相談されたんだよ、あんまり好きって言ってもらえないって」
「……………はあ」
「で、そういや最近お前そういうこと言わねーなって思って」
「ああ………………」
気の抜けた烏のような返事ばかりしながら逸は、そういうことかと納得していた。
ごく単純に疑問に思っているだけだろう、いつも見かける野良猫が今日はいない、程度に。
よもや愛情が減ったのかだとか物足りないだとか──そんな可愛らしいことを──思ってのことでは、全くもって、ない。
「なるほど」
「ん、それだけ」
事実この通り、別段回答がなくとも不満もないように敬吾は片付けを終えてリビングへと戻っていってしまう。
逸は笑ってしまいながら、自分もリビングに戻り敬吾の斜め横に腰掛けた。
「確かに言ってないですね」
「うん」
「だって敬吾さん、最近言ってくれますし」
「うん?」
やっとテレビから自分へと移った敬吾の顔に笑いかけて逸は続ける。
「俺の事好きって。言ってくれますよね?結構」
「え…………そう?か?」
「覚えてないです?」
「う、うん………」
少々残念そうではあるもののまだ笑ったまま、逸は「まあ素面の時はそうでもないですけど」と続ける。
ああ、酔っ払っている時かと納得しながらも敬吾は少々赤くなった。
「なんだよ、結構ぐだぐだになってんだな俺。少し酒控えるかな………」
「ん?」
「え?」
互いに瞬きながらしばし見つめ合った後、逸が斜め下に視線を逃してまた深く瞬きをする。
「──ああ、まあ酔ってる時も言わないことはないですけど」
「?」
遠回しな言い方に敬吾が首を傾げると、逸が目を合わせてまた笑った。
「してる時にめちゃめちゃ言ってますよ」
「んぁ?」
「セックスしてる時に」
「…………………」
「嘘じゃないですよ?」
そう言っていたずらっぽく笑う逸の顔が、楽しそうではあるがからかっているものではなくて、擽ったそうで──
──かえって羞恥心を煽られる。
「い………、っいやいやいやいや嘘だ!言ってねえよ!!」
「本当ですってばー、覚えてない人が何言ってんですかー」
「お、覚えてないからこそ言ったもん勝ちじゃねーかそんなの!」
「ああ」
言われてみればそうか。
しかし敬吾の反応は、本当だと分かっているからこそのもののような気がする。
その顔を近くで見るべく敬吾の隣に移動して、伸し掛かるように覗き込むと敬吾はもう茹でだこもいいところ。
「そうですね、あんだけトロトロになってたらね………敬吾さんは何も分かりませんよね」
「………………はあ!!?」
「あんななってる敬吾さんにすきーって言われたら俺だってちょっと満足しちゃいますよ」
「いや、ちょっ……待て、」
「あっじゃあ実験してみますか?俺敬吾さんにちゃんと覚えててねって言いますから」
「うるせえよ!黙れ!!」
「録音してもいいし──」
「っあーーーもーーーー!!!」
敬吾は本気で怒るがそれが子供の癇癪のようで、逸は心底楽しげに笑っていた──。
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